影武者転生異常あり!~俺は悪役令嬢の影武者なんだ…誰が何と言おうが影武者なんだ!だから脇役でいさせろや!   作:三流二式

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『幕間』⑮

 1『神代学園1-A教室』

 

 

 

 

「なあ」

「何ですか?」

 

 

 食べていた弁当を置き、暗夜は唐突に口を開いた。績は食べる手を止め、口の中のものを飲み込んでから暗夜の顔を見た。

 

 

「俺たちってさ」

「はい」

「学生だよな?」

「急に何言ってんの?」

 

 

 とみみ子。

 

 

「いやさ」

 

 

 ジト目を向けてくる績とみみ子に一瞬つまり、しかし暗夜はそのまま続けた。

 

 

「戦いが終わるまでさ、俺らめちゃめちゃ忙しかったじゃん? 学校に来る間も無かったくらいにはさ」

「「あ~……」」

 

 

 ようやく暗夜が言いたいことに合点のいった二人は得心し、虚空を見つめて過去を思い返していた。

 

 

 戦いが終わり、年が明けてからすでに二ヶ月が経過していた。最中は考える間もなく忙しく、終わった後も一心地つけぬほどの激動の時間であった。

 

 

 築き上げた人知の撤収作業の手伝いから、怪我人の搬送や治療の支援、戦後のセレモニーでのスピーチ、取材、取材、取材......。

 

 

「「……」」

 

 

 績とみみ子は同時に顔をしかめた。あの時の苦労が思い起こされ、振り払う様に頭を振った。

 

 

 二ヶ月で、荒れ果てた街並みはあらかた修復が終わっていた。無論、細かな部分はまだ修復している最中だが、全体で見ればすでに80%ほどが再生している。

 

 

 この世界は異能という超常の力があり、人々の力も我々の世界よりもはるかに優れている。故に建築技術も医療も発達しており、それに加えて光の神が聖光教の支所や傘下の企業をありったけ寄越した事により、このような急速再生を実現できたのである。

 

 

 そして、海外から来た企業をまとめ上げ、指揮を執ったのは鳳凰院コーポレーションであった。

 

 

「あのおっさんも気苦労が絶えねえな」

 

 

 暗夜が辟易した顔で言った。

 

 

「この前テレビで見たときは前に会った時よりもさらに痩せこけていましたよ」

 

 

 績は息を吐いた。

 

 

「……ていうか千歳さん、戻ってくるの遅くない?」

 

 

 みみ子は教室のドアへと顔を向けた。千歳は授業が終わったと同時に教室を出て、それっきり戻ってこなかった。

 

 

「いやあそろそろ戻ってくるんじゃね?」

「……噂に影とはこの事ですね」

 

 

 暗夜がそう言い、その直後に績は近づいてくる闇と、それによって増幅されて放たれる露骨な苛立ちを感じとり、苦笑いを浮かべた。

 

 

 同時に教室のドアが音を立てて開かれた。その奥から青空めいて鮮烈な髪をたなびかせた千歳が、おつきのメイドを引き連れて肩を怒らせて一直線に向かってきた。

 

 

「おう、どーよ戦果は?」

「どうもこうもあるか!」

「痛い!」

 

 

 暗夜を睨みつけ、おもむろにみみ子を殴りつけた千歳はどかっと椅子に座り、惣菜パン一つと菓子パン2つを机の上に放り投げた。

 

 

「あれだけ時間かかってそれだけですか」

「キッ―――!」

 

 

 千歳は何も言わず、ただ睨みつけた。績は肩を竦め、食事を再開した。

 

 

「ていうかさぁ、学校に来てまでメイド連れてくんなよ。授業中皆ずっと困惑してたじゃねぇか」

 

 

 千歳の後ろで医師のように固まって微動だにしないメイドに目を向け、暗夜は呆れ顔である。

 

 

「はん!」

 

 

 千歳は鼻で笑った。

 

 

「このような時代でお付き一人連れてきた程度で騒ぐなど、程度が知れるわ」

「暴論が過ぎる……」

「……」

 

 

 雉も鳴かずば撃たれまい。頭にたんこぶを作って机に突っ伏すみみ子を無視し、彼らはダラダラと会話に興じながら飯を食った。

 

 

 そこには戦いのたの字も無く、ごくごく平凡な学生同士の、取るに足らない会話だった。

 

 

 平穏。戦いに明け暮れるものほど、その単語からは遠ざかる。

 

 

 彼らは噛みしめていた。この平穏を。恐らくは()()()()()()()()()()()を。

 

 

 ちなみにみみ子が起き上がったのは休憩時間が終わり、授業が始まってから5分後の事である。

 

 

 

 

 ■

 

 

 

 

 2『武装警備員派遣会社ペットショップ 休憩室』

 

 

 

 

「だからさぁ~」

 

 

 マッサージチェアにどっかりと腰かけていたチワワが、対面に立つよれたスーツを着た赤髪の小柄な少女に語り掛けていた。

 

 

「そんなに気張ったってよォ~、力なんてすぐに付くもんじゃねェってんじゃねぇか」 

「スンマセン(あね)さん!」

 

 

 少女は腰を90度折り曲げ、深く頭を下げた。

 

 

「スンマセン、じゃねェぞコラーッ!」

「スンマセン!」

 

 

 少女は再び頭を下げる。チワワは怒鳴り、なじった。

 

 

「なに? またリス野郎(スクワール)が仕事先で何かやったの?」

「身の丈以上の訓練をやった結果さ」

 

 

 白い毛並みのウサギを抱えたウサ耳カチューシャを付けた女性『ウサギ』と、スーツを着たサルのキグルミの口の部分から顔だけを出した男『エ・テ』が、2人のやり取りを遠巻きで眺めながら話し合っていた。どちらも広報部所属の星3警備員である。

 

 

「でも姉さん、ワタシの気持ちも分かって欲しいっす!」

 

 

 顔だけを上げた少女、スクワールはその瞳に並々ならぬ執念と怒りを滲ませ、上目遣いでチワワを見た。

 

 

 彼女は教団により身内を傷つけられ、自身もまた大怪我を負わされた過去を持つ。そして、先週には仕事先に教団の残党が襲撃を仕掛けてきて、何とか騎士団の到着まで持たせたものの、被害は甚大。怪我人も多数出てしまった。

 

 

 何度も何度も現れては自分の人生を荒らすだけ荒らしてゆく不届き者達に対する憎悪と怒りは、今なお留まるところを知らずに胸の内で燻っていた。

 

 

「……それを含めてだ、この馬鹿」

「うげっ!?」

 

 

 チワワとてそのその手の悔しさは骨身に染みている。だからこそ、同じ轍を踏ませない様に、ぶん殴ってでも窘めなければならなかった。チワワはスクワールの脳天に頭蓋骨を叩き割る勢いで拳を叩きつけた。休憩室に、鈍い音が響いた。

 

 

 室内には無数の社員(ペット)たちが屯していたが、僅かに音の出所に目を向け、すぐに戻した。このような光景は幹部(グランドマスター)が所属するようになった二ヶ月で、早くも日常茶飯となっている一幕であった。今更気にかける者はいない。

 

 

 殴られたスクワールは地面に叩きつけられ、そのまま反動で数メートルほど浮き上がり、そしてまるで何事も無く両足で着地すると、頭を押さえて悶絶した。彼女は殴られたと同時に自ら倒れ込み、打撃の衝撃を和らげたのだ。でなければ、そのまま頭部は砕け、首は肩にめり込んでいただろう。

 

 

「痛でででで……!」

「けっ」

 

 

 痛みで涙目になっているスクワールを鼻で笑っていると、エ・テがスマホで通話しながら近づいて来た。

 

 

「スンマセン姉さん、お電話です」

「あ?」

 

 

 チワワはぐるりと顔を向けた。エ・テは物おじせずにスマホを差し出した。

 

 

「貴女指名の警備の依頼です」

「へえぇ」

 

 

 不機嫌そうなしかめっ面から一転して、チワワの顔には不敵な笑みが浮かんだ。差し出されたスマホを取り、耳を当てた。

 

 

「おう、代わったぜ。警備の依頼だってな?」

『おぉ、広報部長(グランドマスター)チワワ殿ですな? その通りでございます。ぜひともあなたに受けていただきたい依頼がございます』

「アタシの警備料は高いぜ?」

『勿論、承知の上でございます』

「──────?」

『──────!』

 

 

 依頼主とチワワのやり取りを、スクワールは黙って見つめていた。後ろにはエ・テとウサギが立ち、互いに目配せして、肩を竦めていた。

 

 

「よし決まりだァ!」

 

 

 時間にして5分ほどであろうか。通話を切ったチワワはスマホをエ・テに投げて返し、スクワールに顔を向けて吠えるように言った。

 

 

「あ? 何ボサッとしてんだガキ。挽回の機会やるってんだ。さっさとしろ!」

「は、はい!」

 

 

 スクワールは背筋を伸ばし、両足をそろえ、ピシッと敬礼し、ずんずんと歩いて行くチワワの背を目指して小走りで駆けだした。

 

 

「いけそうかね?」

 

 

 と、エ・テがウサギへと語り掛ける。

 

 

「知らない」

 

 

 ウサギは白うさぎのブラッシングをしながら、にべなく返した。

 

 

 騒がしい者がいなくなり、再び和やかさを取り戻した休憩室は、その後やってくるヤマネコとアルバトロスによって騒がしくなるまで、来る者に憩いを提供し続けていた。

 

 

 

 

 ■

 

 

 

 

 ③『××銀行 大金庫室扉前』

 

 

 

 

 黒ローブを被った男が、金庫室に通じる長い廊下をゆっくりとした足取りで歩いていた。

 

 

 周囲には誰もおらず、仮にいようものならば、その男が内に宿す闇に怖気づき、堪らず腰を抜かしてしまうだろう。

 

 

 そうならなかったのは、男が金庫移設の情報をいち早く握り、誰もいなくなったタイミングを見計らってやってきたからである。

 

 

 男は教団の残党の闇の者であった。

 

 

 彼に味方はおらず、周りは敵ばかりである。持ち金も無く、貯金も無い彼にとって、直近で使える金が早急に必要だった。

 

 

 闇の者としての己を作り替えるには金が要る。この情報は彼にとっては渡りに船であった。元々どこかの強盗集団が手に入れた情報だった。たまたま近くにいた彼は強盗達を惨殺して情報を奪い取り、強盗達が立てていた計画をそのまま実行に移した。

 

 

 かなり入念に調べられていたようで、警備のメンバーやそれらの休憩時間、個人のプロフィールすらもが事細かに記されていた。

 

 

 そんな物はどうだっていい。とにかく金である。

 

 

 闇の者は急いていた。

 

 

 金で身分を偽装し、散っていった仲間を集め、表で我が物顔で反映する光の系統たちに復讐を果たさんがために。

 

 

 しかし。

 

 

 闇の者の歩みは、大金庫前の扉の前で止まった。扉の前に、いるはずの無い警備員がいた。

 

 

「はっ、何でバレたって顔してんな」

 

 

 声を聴いた途端、闇の者は内なる憎しみが身をもたげるのを感じた。

 

 

「保健所……! なぜ貴様がここに!」

「情報の更新が遅ぇなあ。今のウチはペットショップの警備部門長(グランドマスター)様だぜ」

「──────ッ!」

 

 

 闇の者は憎しみと怒りを押さえもせず、目の前の宿敵に向けて開放し、異能の稲妻を全身から放ち、いつでも飛びかかれる態勢である。

 

 

「闇の者、ちょいと前ならまず一対一(サシ)じゃ()り合えない相手だったが」

 

 

 闇の者の前に立つ小柄な女警備員、ポメラニアンは手甲から爪と展開しながら、両腕に力を入れた。たちまち両爪が()()()()()()、両目の緑色に発光していたターゲットマーカーが真っ黒に染まった。

 

 

「なにっ!?」

「便宜上じゃあ、ウチも闇の者にカテゴリーされるか?」

 

 

 驚愕も露な闇の者に、ポメラニアンは無造作に歩み寄りながらそんな事を言った。

 

 

「まあどうでもいいか。オラ来いよ。さっさとお前を片付けて、一休みに入りたいんでね」

 

 

 ポメラニアンは挑発的に手招きした。

 

 

「──────上等だ! 粉々にしてやる!」

 

 

 瞬時に沸騰した闇の者は挑発されるままに飛び掛った。ポメラニアンは凄惨な笑みを浮かべた。

 

 

 たちまち血生臭い殺し合いが開始されたが、見守る者は誰もいない。すでに金庫の中身はもぬけの殻であり、上の銀行も取り壊しが始まるまで、もう間もなくだった。

 

 

 それを、闇の者が知る事になるのは、脳天に鉤爪を受け、事切れる寸前の事であった。

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