影武者転生異常あり!~俺は悪役令嬢の影武者なんだ…誰が何と言おうが影武者なんだ!だから脇役でいさせろや!   作:三流二式

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『幕間』⑯

 ④「事務室 休憩室」

 

 

 

 

「異議ありです!」

 

 

 武装警備員派遣会社ペットショップ、その1階の一室にある事務室の中に作られた休憩室で行われていた『第七回動物可愛い子議論』で、まず初めに異議を唱えたのは、案の定おかっぱ頭の女性『マネキネコ』であった。階級は星2警備員だ。

 

 

「はい、マネキネコ速かった」

 

 

 と、言うのは、黒縁眼鏡をかけた七三分けの男『ギンギツネ』である。

 

 

「確かにネコちゃんは可愛いですけど、やっぱりワンちゃんの方が私はずっとカワイイだと思います!」

「あんた猫派じゃないのかよ……」

 

 

 と横やりを入れたのは、ややよれたスーツを着た少年『エレファント』である。その横には当然のように『モルモット』もおり、初めて食べる人間の菓子に興味津々で、話などまるで聞いてはいなかった。

 

 

 何故事務室所属ではないエレファントがここにいるのか。というのも、もともとこの部屋は会議室であったが、事務室長(グランドマスター)シバイヌが所属となってから事務室の在り方はずいぶんと変わった。

 

 

 元々アットホーム的な雰囲気があったが、シバイヌの介入によりその傾向に拍車がかかり、会議以外でほとんど使用されていなかった会議室は、今や技術班たちによってキッチンが作られ、物の数日で休憩室へと姿を変えた。

 

 

 そこで、事務室所属の者は各々が持ち込んだ菓子や、またこの場で作った菓子やら何やらで茶を飲みながら気分をリフレッシュさせるのだ。

 

 

 そして、事務室に訪れる者もまたこの部屋を利用しており、今では書類を届けるという大義名分のもと、堂々とこの部屋でサボりる者が多発していた。

 

 

「私は犬派よ!」

「名が体を表してない!」

「あ? 何言ってんのあんた? 『名前ガチャ』で碌な名前が出ない私への当てつけ? 殺すわ」

 

 

 悲鳴を上げて身を捩るエレファントにアイアンクローをしながら邪悪な笑みを浮かべるマネキネコを見ながら、ギンギツネとその横に座る長身の女性『ハスキー』は互いに目を見合わせ、それから呆れた様な苦笑いを浮かべた。

 

 

「お待たせ~」

 

 

 その時キッチンの方からシバイヌが配膳台車に茶と茶菓子を乗せてやって来て、てきぱきと空の食器を下げ、開いた場所に持ってきた茶菓子を配膳した。

 

 

「お、来た来た」

「わあ☆」

 

 

 ギンギツネとハスキーは早速新しい茶菓子を手に取り、口に含んで恍惚と頬に手を当てた。

 

 

「あ、エレファント、来てたの?」

「ふがふが(どうも)」

 

 

 マネキネコに頬を引っ張られ、口がきけないエレファントはシバイヌへ目だけを向け、申し訳程度に頭を下げた。

 

 

「あ、マスター新しいの持ってきてくれたんですか!?」

「ぶへっ!?」

 

 

 遅れてシバイヌの到着に気が付いたマネキネコは引っ張っていたエレファントの頬から手を離し、あれやこれやと自分の皿に乗せ、むしゃむしゃ食った。

 

 

「さっきヤマネコが君の事を探してたよ? 良いの?」

「…………エレファントは旅に出たとでも言っといてください」

 

 

 シバイヌに追及され、エレファントは目を逸らした。

 

 

「そうしてあげたいのはやまやまだけど、ちょっと遅かったみたいだねぇ~」

「え?」

 

 

 エレファントが声を発したと同時に、ドアが開かれた。入ってきたのは氷の虎を従えた偉丈夫『ヤマネコ』であり、エレファントに向けて大股で近づいて来た。

 

 

「エレファント、あぁ、エレファント、俺は悲しいよ」

「あわあわあわ!」

 

 

 目を閉じ、胸に手を当てて静かに語るヤマネコに、エレファントは真っ蒼になって周囲に視線を巡らせて助けを求めた。しかし、女子組は茶菓子とおしゃべりで夢中であり、唯一見ていたギンギツネは悲しそうに頭を振った。

 

 

「ウギャーッ!?」

 

 

 エレファントは哀れにも氷の虎にずるずると引きずられ、ヤマネコと共に部屋の外へと姿を消した。

 

 

 直後、ビル全体に業務放送が流れた。

 

 

『えーアルバトロスとかいうアホ、アルバトロスとかいうアホ。至急、報告書の提出をお願いします。繰り返します、アルバトロスとかいうアホ、アルバトロスとかいうアホ。至急、報告書の提出をお願いします。一時間以内に提出されないようでしたら、()()()()()()()()()()()。よろしくお願いします』

 

 

 ガチャン、と乱暴に受話器を戻す音がして、放送は終わった。そして、部屋に入ってきたのは2メートル近い身長のひょろ長い男であった。

 

 

「おーう、お疲れ『カモシカ』」

「全く嫌んなっちゃうわ!」

 

 

 空いている席にどかっと腰を下ろしたカモシカは、シバイヌに淹れられた茶が入ったティーカップを優雅に摘まみ、一口飲んだ。

 

 

「お疲れさま、カモシカ。やっぱり警備の仕事は疲れる?」

「当り前じゃないですかマスター。わたし事務員よ? それで警備もやんなくちゃいけないだなんて!」

「月に一回だけなんだからいいじゃないか」

 

 

 憤慨するカモシカに窘めるようにギンギツネは言ったが、隣のマネキネコが親の仇を見るかのように壮絶に睨みつけ、その肩を殴った。

 

 

「馬鹿! そういう時には慰めるものよ!」

「そーだよぉギンギツネ!」

「今のは良くないよギンギツネ」

「そんなんだからあんたは駄目なのよ!」

「何で私がこんなに責められにゃあならんのですか……」

 

 

 マネキネコ、ハスキー、シバイヌ、カモシカの順に責められたギンギツネはバツが悪そうに顔をしかめ、誤魔化すように一口茶を啜った。

 

 

 その後も何人か退出し、入れ替わるように誰かが入ってきては茶菓子を摘まみ、茶を飲み、語らい合った。また何人か殴り合いを始めたが、その途端に事務員が総出で両者ともに叩きのめし、室外へと叩き出した。

 

 

 そんな光景に、目くじらを立てるものはおらず、また気にする者もいなかった。この光景は、幹部(グランドマスター)が所属するようになった二ヶ月で、早くも日常茶飯となっている一幕であった。

 

 

 

 

 ■

 

 

 

 

 ⑤「ジャンク屋『J(ジャンク)B(ブロック)』」

 

 

 

 

 廃車の山、歯車やナット、ボトルの川、用途不明の機械の残骸の中心に、ジャンク屋『J(ジャンク)B(ブロック)』は威風堂々たる佇まいで聳え立っていた。看板はオイル汚れで黒ずんでおり、いかにも誇らし気である。

 

 

 その中は外の様相と例に漏れずジャンクに塗れており、足の踏み場の確保にすらも苦労する。

 

 

 店内に客は無く、いるのはツナギを着た背の高いがっしりとした体つきの男と、同じようにツナギを着た女の二人だけ。

 

 

「今日は客、来ないな」

 

 

 女、『タートル』はカウンターの上でガチャガチャとジャンクで何かを作りながら、言った。

 

 

「最近来るのはバズり目的の冷やかしや先生(マスター)への装備の作成依頼の直談判ばかり。来られても、困る」

 

 

 直立不動で入り口前に立つ男、『アルマジロ』はむっつりと言った。

 

 

「はんっ」

 

 

 タートルは鼻で笑い、手元のジャンクへと視線を落とし、ガチャガチャと弄り始めた。アルマジロは気にせずやるべきことをやった。

 

 

 沈黙が流れる。心地の良い沈黙である。やや騒がしい音が背後から聞こえるが、素材が立てる音なのならば、彼等開発部門の人間からすれば好ましい音として耳に入って来る。

 

 しばしの間アルマジロは、タートルが立てる音に耳を澄まし、この沈黙に浸っていた。

 

 

「おぉ! スゲェ! 本物だ!」

 

 

 しかし、好ましい時間というのが破られるのは、何時だって突然だ。アルマジロは瞑っていた目を開け、前方を見た。ジャンクの山をかき分けて、無粋な輩がやって来た。

 

 

 学校帰りの学生だろうか? どこかの学生服そのままの少年が、目を輝かせて一直線に向かって来ていた。アルマジロはすかさず背後のタートルと目配せした。彼女はカウンター奥の作業室を見、それから顔を戻し、頭を振った。

 

 

先生(マスター)の興味は無し)

 

 

 頷き返し、前に向く。少年はすぐそこまでやってきていた。

 

 

「よ~しこのまま……あれ?」

 

 

 と、眼前に来てようやくアルマジロの事に気が付いたようだった。少年は小首をかしげ、しばし静止した。

 

 

 じろじろと不躾な視線に、これ幸いとばかりにアルマジロも少年の事を観察する。

 

 

(武器の類は……無し……体つきや動きから見て、武術の類もなさそうだ)

 

 

 警戒の必要は無し。そう見切りをつけたアルマジロは脇に退き、少年を迎え入れた。

 

 

「……」

 

 

 少年は最後まで訝し気にアルマジロを見やり、やがてとっことっこと中へと入っていった。

 

 

 中へ入るなり、少年はすげーすげーを連呼し、ジャンク品を触ってはくすくすと笑った。タートルはやや苛立ったように眉根を上げた。

 

 

(冷やかしか。メンドクサ)

 

 

 ちらりと見たが、いつもの冷やかしと見切りをつけた彼女はすぐに興味を失い、手元のジャンク弄りに意識を戻した。

 

 

 しかしそれも、まるで当然と言わんばかりにカウンター奥の作業室へ向けて歩を進める少年により打ち切られた。

 

 

「おいこら」

 

 

 と、タートルは手元のジャンク品『レーザー刀生成装置』よりレーザー刃を生成させ、少年の行く手を阻んだ。

 

 

「なんだよ! 俺は萌に用があるんだよ! NPCが邪魔すんな!」

「──────」

 

 

 タートルは目をしばたいた。追いついてきたアルマジロも同様である。

 

 

「あれ、これってもしかしてチュートリアル的な奴? イベントが進む前にザコで練習してくれ的な?」

「「──────」」

 

 

 アルマジロとタートルは目を見合わせた。

 

 

「そうだよな! ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!」

(なあこいつって)

(あぁ、()()()()()()()()()

 

 

 ペットショップの社員はあらかじめ社長(健太郎)より混沌持ちの傾向について話を聞かされていた。

 

 

 曰く混沌が発現、ないししかかっている者は総じて意識が混濁していたり、現実と空想の境目にいるという。

 

 

 目の前の少年もその類と見た二人は静かに意識を戦闘用に切り替えた。少年はいつの間にか距離を取っており、構えていた。

 

 

「目標は?」

 

 

 目の前の少年から目を離さず、タートルはその名にふさわしい甲羅型ボディアーマーを纏いながら言った。

 

 

先生(マスター)に気が付かれない事。そして被害なくあの小僧を追い出す事」

「ようは何時も通りね」

「いくぞー! ゲームスタート!」

 

 

 威勢の良い少年の声を聴きながら、二人はそろってため息をついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……また変なのが来た」

 

 

 奥の作業室、器械を弄っていた手を止め、萌はうんざりと言った。

 

 

 このような下らない襲撃は、今月に来て5件目であった。

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