影武者転生異常あり!~俺は悪役令嬢の影武者なんだ…誰が何と言おうが影武者なんだ!だから脇役でいさせろや!   作:三流二式

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『幕間』⑰

 6「小柳服飾店 作業室」

 

 

 

 

「だ・か・ら! 何べんも言わすんじゃねーよォオオオオオオオオオ!!! 今これ以上は付与(エンチャント)出来ねえってんだろうが殺すぞ!」

「あはは~注文が多いね~いっぺん死ぬ~?」

「帰れ、貴様のような屑に作る服など無い」

「はぁ!? 寝言は寝て言え! お前のようなぽっと出如きが先生(グランドマスター)に服を作ってもらえるわけがないだろうが! 二度と掛けてくるな!」

 

 

 凄まじい怒号と時折発砲音が轟くここは武装警備員派遣会社ペットショップ、その中の服飾部門の本部が置かれる小柳服飾店の作業室である。

 

 

 聖光教、その他様々な企業による資金の提供により小柳服飾店は拡張され、元の数倍の広さの作業室を手に入れた。おかげで2人入るのでやっとだった作業室には、今では何人もの作業員が出入りし、服飾部門長(グランドマスター)監修の元、舞い込む仕事に奔走していた。

 

 

「うわぁああああん!」

 

 

 その喧騒の中で、一つの悲鳴が上がった。音の出所は作業室の最奥。古ぼけたミシンと作りかけの服が置いてある机に突っ伏してわんわんと泣きじゃくる少女からだった。

 

 

「納期が……納期が……!」

 

 

 瓶底眼鏡がトレードマークの小さな少女、名を小柳みみ子、またの名をプードルという。彼女こそ服飾部門の部門長(グランドマスター)にして、この店のオーナーでもあった。

 

 

「「……」」

 

 

 彼らは一旦作業の手を止め、互いに顔を見合わせた。

 

 

((()()()……))

 

 

 わんわん泣くプードルを見ながら、彼らは苦笑いを浮かべた。

 

 

 彼女がこの服飾部門の長についてからというもの、ずっと納期に追われていた。

 

 

 というのも、プードルが舞い込む仕事を一切断らず、その全てを請け負ってしまうからだ。光の神その人が喧伝したせいもあって、舞い込む仕事の量は膨大だった。

 

 

 当然彼女の身一つでどうにかなるはずもなく、服飾部門の構成員は秘密裏にプードルの依頼書を破棄、または依頼者へ()()()()()()を送っていた。

 

 

先生(マスター)

 

 

 作業台から立ち上がり、つかつかとプードルへと近寄ってくるのは痩せぎすの男、『ヒラメ』であった。

 

 

「あまり無茶せんでくださいよ。貴方はもっと選り好みして良いんです」

「そうそう」

 

 恰幅のいい男、『カレイ』が相槌を打つ。

 

 

「いけ好かない権力者共の依頼なんかバーンと蹴っちゃえ」

「連中はただステータスのためだけに貴方に服を作らせてるだけなんですからね」

 

 

 ドレッドヘアーの女『フジツボ』と、すらっとした体躯の伊達男『オコジョ』が続く。

 

 

「うぅ……そういう訳にもいかないよ」

 

 

 顔を上げたプードルはずれ落ちた瓶底眼鏡を直しながら体を起こし、体の向きを変えて部下たちへと向き直った。

 

 

「お爺ちゃんが死んじゃって、今このお店のオーナーは私になった。だからこそ、胸を張ってここのお店のオーナだって言えるようになりたいの」

「今だって十分じゃないですか」

「ぜーんぜん、ダメ!」

 

 

 プードルは両腕でバツ印を作った。

 

 

「私はお爺ちゃんの様になるつもりはないけれど、かといって大衆向けの服を大量生産するようなこともしたくない。自分でお客さんを選り好みするほど上等な人でもない。う~ん……なんて言ったらいいんだろう……」

 

 

 腕を組み、うんうん唸りながら、漠然とした頭の中の考えを絞り出すようにして口にした。

 

 

「まだ私の中で明確な答えは出せてないし……そうだなぁ……しいて言うなら……その考えの答えを掴むために、お客さんを選んでいない……のかな? よく分かんないや」

 

 

 まあともかく、とプードルは息を吐いた。

 

 

「ペースはちょっと落とすけど、それでも私の考えは変わらないよ。答えを出す為に、もっともっと経験を積まないといけないからね!」

 

 

 そうやって、胸を張って答えるプードルに、彼らは再び顔を見合わせ、そして思った。

 

 

(((俺)(私)(僕)が支えてあげなきゃ……))

 

 

 うんうん唸りながら作業を再開したプードルの背を見ながら、彼らは手を散り合い、固く誓い合うのであった。

 

 

 

 

 ■

 

 

 

 

 7『聖光教日本××区支部跡地 治療テント』

 

 

 

 

「ざっけんじゃねえですーっ!」

 

 

 テントの中、一人の女の絶叫が轟いた。

 

 

「うるせーな。黙って手を動かせ」

 

 

 その隣にいたスーツの上に薄汚い白衣を着た男、ニンゲンドックが吐き捨てる様に言った。

 

 

「ア゛ァ゛!?」

 

 

 女、『スズメ』は血走った目でニンゲンドックを睨みつけた。周囲にはせわしなく治療班が行き交っていたが、誰もスズメに注意はしない。巻き込まれたくないからだ。彼らは黙って、己の職務に没頭した。

 

 

「何で! 退役した! 元職場で! こき使われなきゃいけないんですかーっ!」

「それがウチと聖光教とでかわした契約の内だからな。諦めるこった」

「ケ゜ッー!!!」

 

 

 スズメは奇声を上げたが、やはり誰も注意せず、どころか目を合わせようとすらしない。

 

 

 戦いが終わった後、スズメは聖光教へと辞表を叩きつけ、晴れて自由の身となった。そしてその身柄は武装警備員派遣会社ペットショップにかっさらわれた。

 

 

 何がなんだか分からない内に、地獄のような訓練は始まった。あまりにも辛い訓練を、今までの地獄の経験を頼りに乗り越え、晴れてペットショップの医療部門に(強制的に)配属された彼女は、ごく普通の仕事(大嘘)に思いを馳せ、ほんの少しだけうきうきとしていた。

 

 

 その思いが消え去ったのは、配属されてから一週間後の事だった。

 

 

 突然彼女のスマホが震えると同時に、緊急収拾の要請がけたたましく鳴り響いた。

 

 

 実はペットショップは聖光教にケツ持ちの代償に有事の際に戦力を派遣するという契約を交わしていたのだ。何が何だか分からないままスマホの案内を頼りに歩を進め、そうして向かった先が聖光教日本××区支部であった。

 

 

 この協会はかつて千歳に吹き飛ばされた後急ピッチで再建され、今月に入ってようやく再開するという段階で、教団の残党が襲撃。シスターや神父、信徒含めて数十人の負傷者を出す大惨事となった。

 

 

 緊急収拾により駆け付けたスズメはその惨状を目の当たりにし、激昂。先の大戦でキレすぎて光の者となったスズメの戦闘能力は実際相当なもので、それが『犬小屋』でさらに磨き上げられた結果、闇の者を含めた5人の襲撃者は彼女が投擲した光の槍一本で蒸発した。

 

 

 遅れて駆け付けたニンゲンドックが目にしたのは、滅茶苦茶にキレながら迅速にテント設営を手伝うスズメの姿であった。

 

 

「畜生ォオオオオオオオオオ!!!」

「いてっ!?」

 

 

 負傷者の背中に大きな絆創膏を張り、バシンとひっぱたきながらスズメは絶叫した。ニンゲンドックはその姿を鼻で笑い、医療班の面々は嵐が過ぎ去る時を、ただひたすら祈っていた。

 

 

 

 

 ■

 

 

 

 

 8『商店街某所 ファストフード店店内席』

 

 

 

 

「で、どうです? 騎士団に所属してからは変わりありませんか?」

 

 

 ストローから口を離したエミリーが、他面に座る軌陸へと話を振った。

 

 

「あぁ、さすがに所属したばかりだからな。基本は訓練漬けの毎日だな」

 

 

 ポテトを摘まみながら、軌陸は肩を竦めた。

 

 

「忙しい?」

 

 

 エミリーは朽ちの端を上げて、微かに笑った。

 

 

「保健所仕込みの訓練を受けたあなたからすれば、新人用の訓練はさぞ退屈なものでしょう?」

「そこなんだよ」

 

 

 軌陸はまさにその通りだと言わんばかりに破顔し、エミリーに指を指した。

 

 

「私の担当の教官もそれが分かっているらしくてな、振られるんだよ仕事を。それも教団の残党狩り。危険度の高い奴ばっかり!」

 

 

 話にもならんとばかりに背もたれに寄りかかり、軌陸は天を仰いだ。エミリーはくすくすと笑った。

 

 

「強くなることも考えものですね。これではどちらが訓練を受けさせられているのやら」

「そういうお前はどんなんだ。え? 社長秘書(グランドマスター)殿?」

「まだ見習いですよ」

 

 

 今度はエミリーが肩を竦める番だった。

 

 

「見習い?」

「はい。書類仕事をする傍ら、ハスキーからいろいろ習っています。炊事洗濯、掃除に男性がされてうれしい事とか」

「お前騙されてるぞ……」

 

 

 軌陸は呆れ顔で言ったが、言われたエミリーはムッとなり、軌陸を睨みつけた。

 

 

「騙されていません。秘書なのですから、何でもできて当然です」

「あのなぁ……」

 

 

 これはスパイ映画の役作りとは違うんだぞ、と言いかけたところで、止めた。目の前の友人は、本気で事を成そうとしていた。アトモスフィアで、それが分かった。

 

 

 ならば、部外者がどうこう言うものではない。それは無粋である。

 

 

 軌陸はため息を吐き、ハンバーガーの包装紙をびりびりと破いて食べようとして、固まった。視線はある一点に注がれたまま、動かない。

 

 

「? 何か」

 

 

 軌陸の視線を追って、エミリーも目を動かしたが、その疑問の答えはすでに目の前に立っていた。

 

 

「おぉ、軌陸。奇遇だな」

 

 

 そこにはラフな格好の千鶴がビックバーガーセットを乗せたトレーを持って立っていた。背後には同様な格好の雉花と鵠がいた。

 

 

「ね、姉さん達!? どうしてここに!?」

「どうもこうも」

「休暇なんだからどこにいたって良いでしょー?」

 

 

 いきり立つ軌陸に鵠が、それから雉花が言った。

 

 

「上級騎士専用の食堂があるが、たまにはこういう()()()()()を口にしなければ、いよいよ私たちもおかしくなってしまう」

「そういうこと」

「こっちの机くっつけよう!」

 

 

 ごとごとと空いた隣席を動かし、あれよあれよと二人は三本槍と同席する事となった。

 

 

「で、どうだね軌陸下級騎士殿?」

 

 

 千鶴は軌陸の肩に手を置き、にやりと笑った。

 

 

「ちゃんと訓練してるかーっ!?」

 

 

 その横の鵠が教官さながらに軌陸をせっついた。

 

 

「はお……」

 

 

 エミリーは是非も無しとばかりに首を振った。

 

 

「私達は先に食べてよっかぁ」

「そうですね」

 

 

 雉花に促されるまま、エミリーはハンバーガーをむしゃむしゃ食った。

 

 

「えっと、いや……大丈夫だから……」

 

 

 軌陸は食事が終わるまで、ずっと姉達にいびられるのであった。そんな中、一切手助けしてくれない親友と雉花に、軌陸は恨みがましい視線を送っていた。

 

 

 

 

 ■

 

 

 

 

 8『日本海小笠原諸島付近』

 

 

 

 

 

「ザッケンジャネーゾ!」

「主に何かあったらどないすんねん!」

「ヒイィイイイイ!」

 

 

 海原を切り裂くように進む小型船の中で、二人の女の悪罵を極める罵倒が響く。恐るべき眼光で睨まれる中、運転手は目に涙を浮かべながら黙って罵倒を受けざるを得ない。

 

 

 黒い喪服ドレスに身を包んだ二人組の女。一人は灰色の髪をサイドテールに結んで右に垂らし、目はルビーめいて赤かった。その胸は平均的である。

 

 

 もう一人は紫色の髪をサイドテールに結んで左に垂らし、群青色の瞳にうっすらと超自然的な光を宿らせ、怖ろしい。その胸は平坦であった。

 

 

「悲鳴以外に口に出せないのか!」

「オトコッテバカ!」

「ヒイィイイイイ!」

 

 

 女たちの罵倒は切りが無く、運転手の男はただ悲鳴を上げた。それでますますいきり立った女たちは、更に語気を強めるのだった。

 

 

 そのやり取りを、一人の少女が無言で見つめていた。やや遠く、パイプ椅子に座りながら眺めているのは黒いゴシックロリータ風のドレスに身を包んだ、異様な雰囲気を放つ少女であった。

 

 

「……」

 

 

 人形染みた無表情で、どこか気だるげに首をかしげながら、目の前の喧騒を漠然と見つめていた。

 

 

「──────ッ!」

「──────!?」

 

 

 従者二人がこちらを振り向き、何事か捲し立てている。少女は構うことなく目を閉じた。

 

 

 瞼を閉じた視界一杯に、闇が広がる。この世界にあって自由に操れる、数少ない自分だけの闇。

 

 

 自分が掴むはずだった静寂。世界。

 

 

((おのれ……!))

 

 

 朧げな記憶の中に浮かぶ、誰かの顔。まるで奈落の底から這い出してきたかのような、悍ましい地獄の化身。

 

 

 それを思うたびに、少女の胸中には形容しがたい感情が渦を巻く。それが怒りの感情だと知るのは、もう少々先の事だった。

 

 

 少女は目を開けた。視界に映るのは、直立不動で前に立つ従者二人。その顔面は蒼白である。

 

 

「なんだ……?」

 

 

 少女は気だるげの中、僅かな苛立ちを籠めて、言った。

 

 

「あ、あるじ、その、申し上げにくいことなのですが……」

「そ、そのう、あのう……」

「……」

 

 

 しどろもどろな物言いで具体性の欠けた報告に、少女はわずかに眉根を動かした。

 

 

「「ッ!!!」」

 

 

 従者二人はびくりと身を震わせ、同時に振り返り、ある一点を指さした。少女は指の先を目で追い、運転席の前で倒れ伏している男を視界に入れた。

 

 

「あれは、何故、倒れている?」

「えぇっと、その」

「あ、主様の気に当てられて、あの」

「死んだか。そうか」

 

 

 少女は無感情に言った。そして灰色髪の方へと指を指し、命じた。

 

 

「お前、やれ」

「え゛っ!?」

 

 

 目を白黒させた灰は助け舟を求めて紫を見た。紫も同じように目をしばたいていた。少女はすでに二人の事を見ていなかった。少女は目を閉じ、再び闇の中に沈み、物思いに耽っていた。

 

 

「ま、マニュアル! マニュアルがどこかにあるかもしれない!」

「は、はい! お姉さま! ただちに!」

 

 

 どたばたとした喧騒が遠ざかり、少女は再び己を闇の中に見出していた。

 

 

 この空間は落ち着いた。この空間だけが落ち着けた。ずっと昔は、もっともっと落ち着ける空間に身を浸していた気がする。

 

 

 遠く、朧げな記憶は、確かにそれを肯定した。

 

 

 そしてそれを奪った存在もまた、彼女の脳裏に朧な影を刻んでいた。

 

 

((この雪辱は必ずや晴らす……必ずだ……!))

 

 

 意識が黒い闇に溶けてゆく。黒く、甘い微睡みが、深い憎悪を押し流し、少女の傷ついた心を包み、呑み込んでいった。

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