影武者転生異常あり!~俺は悪役令嬢の影武者なんだ…誰が何と言おうが影武者なんだ!だから脇役でいさせろや!   作:三流二式

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プロローグ 『リスタート・ニュー・デイズ』⑤

「鳳凰院千歳!? なんで!? どうしてここに!? こんなの『原作』に無いぞ!?」

「……」

 

 

 咄嗟であった。あと少し。ほんの少しでも遅ければ。このジャリガキが興味関心に触ることを吐かなければ。俺はこの場にいる全員を残らず惨殺し、帰還のために駆け出していた事であろう。その確信があった。

 

 

「……」

 

 

 強い視線を感じ、そちらへと目を向けると、久留井を守るように搔き抱いた与一が、こちらをキッと睨みつけていた。まるで、子を守る親のようだ。

 

 

 ただでさえ小柄な久留井の体の半分ほどが与一に覆い隠されているため、なおさら小さく見える。それが、その様な錯覚をもたらさしめていた。

 

 

((とはいえ与一の役割の関係上、あながち間違いとは言えないんだよな))

 

 

 御奈須与一(おなすよいち)。古い剣道道場の一人娘。委員長気質な性格で、曲がったことが大嫌い。堅苦しく、不正を見つけると問いたださずにはいられないので、誰彼構わず噛みつく狂犬。当然のように疎まれているが、それと同等以上の人間に慕われているため、何とか帳尻が取れている。

 

 

 とはいえ、堅物な性格は胸に抱えたコンプレックスの裏返し。その胸の内では自分が道場の跡取りとして相応しいのかどうか酷く悩んでおり、解消されない、言葉にできない悩みは他者への攻撃性となって振るわれる。

 

 

 それが日に日に激しさを増しているという事に、本人は気付いていない。やがてそれで酷い出来事が起きる訳なのだが、まあそれは今話すような事でもない。

 

 

 こんな性格上、ド陰キャをこじらせた久留井と相性は最悪と思われるが、そこはこいつ本来の優しさが功を奏し、彼女との関係性は悪くない。というか良すぎた。互いに依存しあうくらいには。そのせいで拗れる時は見ていて殺してやりたくなるくらいには拗れるのだが、まあそれもここで話すような事じゃない。

 

 

「おまえ、だれだ……!」

 

 

 震える声を、精一杯低くし、吠えるように張り上げる与一は、その容姿の幼さも相まって、小型犬の威嚇めいていた。

 

 

 実に可愛らしい。ウチの犬どもの小さい時を思い出す。

 

 

「そ、そうだ! お前誰だ!」

「近寄って来るな!」

 

 

 便乗して誰何、するふりをして与一たちに近寄っていくクソガキに、当然のように与一は拒絶し、またぞろクソガキと与一は言い争い始めた。

 

 

「あわあわあわ!」

 

 

 久留井のような雑魚メンタルでは、その間に割って入る度胸は無く、彼女は執拗にこちらに助けを求める視線を投げて寄越すばかりで、動けない。

 

 

「はぁ……」

 

 

 ガキ共をたしなめるのは大人の役割であるとはいえ、こうも立て続けに心労が加わっていては、俺は持たない。

 

 

 見ればわかる。このクソガキと与一の相性は最悪だ。どれだけ俺が介入したところで、改善こそすれ、完全に打ち解け合うことはないだろう。

 

 

 この瞬間だけの関係ならば、適当に窘めてそれで終わりだが、よりによってカダスなのだ。

 

 

 この空間は混沌の神を押さえるためだけに存在する世界であり、その関係者に驚くほど都合よくできている。

 

 

 久留井が俺や与一を呼び寄せたのと同じように、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 与一や久留井がこんな不愉快で精神的ストレスをかけるような存在を呼び寄せるとは思えないから、ということを念頭にそのような考えに至ったのだが、このやり取りで、俺は確信した。

 

 

 つまりこのガキは蕃神の血統か、あるいは相当な混沌を内に宿している。

 

 

 そして最も注意しなければならない点は、おそらくこいつは俺と同じような──―。

 

 

((……))

 

 

 自分が特別じゃない事など端から分かり切っている。どこかでそういう存在がいるであろうことは予想できた。

 

 

 予想外だったのは、1時空の時に誰も手出しをしてこなかったこと。こんなにも考え無しで欲望に忠実で品が無いこと。それとカダスに忖度されるほどの混沌持ち(推定)だったことだ。

 

 

 閑話休題。

 

 

 ともかく落ち着かせなければ話が進まない。俺は与一と名も知らぬガキとの間に割って入り、さりげなく両者を引き離しながらとにもかくにも宥めすかした。

 

 

 両者ともに感情の赴くままにどうたらこうたら言ってきたが、根気よくやった結果、どうにか落ち着かせることに成功した。

 

 

 そのまま自己紹介の流れになり、与一、久留井、そしてクソガキ(黒道穀田(こくどうこくた)というらしい)の順で自己紹介を行った。

 

 

 そして最後に俺となったのだが、仮初の名を告げようとして、固まった。訝る視線を感じながらも、俺はどうしてもその名を告げることを拒んだ。

 

 

 というのも、完全に因果の輪廻に囚われているのは百も承知だが、最後の一線を守ろうとするちっぽけな自尊心が名を告げることを拒絶した。

 

 

 どうしたものかと思案していると、不躾かつ空気の読めない一言が、俺に止めを刺す事となった。

 

 

「分かった! あんた千歳じゃないのならイミテーションだな!」

「──────」

 

 

 どうだ、と言わんばかりのドヤ顔を披露する黒道穀田君の顔面を引き剥がす衝動を、俺は脳内を走るパルスの速度で消し去った。

 

 

「──────その様な可能性もありますね。ですがこの地で目を覚ましてからというもの記憶が曖昧でして、ここはナナシノゴンベエというのはどうでし」

「イミテーションんさんですね!」

「そうかイミテーションか」

「……」

 

 

 俺はイミテーションということになった。

 

 

 

 

 ■

 

 

 

 

 

 自己紹介を終えた俺たちは、移動することにした。俺を先頭に後ろには手をつないだ与一と久留井、殿は黒道が務める形で、俺たちは歩を進める。

 

 

「なあなあなあここっていったいどこなのかなぁ?」

「「……」」

 

 

 道中は基本的に黒道が一人捲し立てるのみで、会話というものは皆無である。これが久留井と与一の二人だけであったのならば、二人の思い出話が交わされていたものなのだが、ものの見事にぶち壊しになっていた。

 

 

((マジで空気読んで黙ってくれないかなこいつ。操作パートももうすぐ終わって、これからチュートリアル戦闘パートになるっていうのに、いらんストレス与えて変な事になったらどうすんだ。予想できない事が起こってもフォローなぞ出来んぞ……))

 

 

 そうこう言っている内に洞窟が終わりを迎え、目の前には錆びた大扉が現れた。

 

 

 ここからちょっとした謎解きアクションが挟まり、通常操作パートが終了するわけなのだが、そんな面倒事は御免被る。

 

 

「この扉は鍵がかかってるんだ! 俺、鍵の在りかがわかる様な気がするぞぉ~!」

 

 

 わざとらしく扉をゆすって開いていない事をアッピールし、自分がどれだけ役に立つか印象付けようと画策する黒道の言葉を無視し、俺は扉に手をかけた。

 

 

「いやだから開いてないって」

「……悔しいが、こいつの言う通りだぞ」

「……お姉さん?」

 

 

 ガキ共の視線を背中に受けながら、俺は扉を二度三度ゆすった。留め具がひしゃげ、耳障りな軋み音を上げながら、扉はあっさりと外れた。

 

 

「「えぇ……」」

「さあ。進みましょう」

 

 

 扉の残骸を放り捨て、振り返りながら俺はガキ共を促した。ガキ共は俺に称賛の視線を向けるばかりで、その場から動こうとしない。黒道に至っては扉とある一点(おそらく鍵がある方向)を壊れた玩具みたいに何度も見返すばかりである。

 

 

 俺は表情を苦笑いに変えると黒道へと近寄り、その頭頂部にこつんと握りこぶしを当てた。

 

 

「~~~~~~!?」

 

 

 黒道は電撃に撃たれたみたいに飛び上がり、それまでの動きからは想像もできない程の機敏な動きで俺を見た。エアガンを喰らった鳩みたいな面だった。

 

 

「行きましょう」

 

 

 俺が促すと、黒道は一目散に扉の先へと走り出していった。

 

 

「「……」」

 

 

 目を見交わす久留井と与一の背を押して、俺も先へと進んだ。

 

 

「わあ……!」

 

 

 久留井は目を丸くして驚いた。そこはコンクリート製の物置小屋染みた場所だった。年代物の飛行機の模型。地球儀。抜き身のサーベル。大砲の筒。時代が飛んで軽戦車の残骸。AK47。米軍カスタムのM4カービン。それから用途不明の器具などなどが、そこかしこで積み上げられ、小山を形成していた。

 

 

「うおースゲースゲー!」

「これ……は……」

「わあわあ……」

 

 

 ガラクタの山に突っ込んであれこれ言い合っているガキ共を目尻に、俺はその中からサプレッサー付きの拳銃を懐へ入れ、M4カービンを手に取り、マガジンを取り付け、コッキングハンドルを引き、丁度的があったので、的に向けて引き金を引いた。

 

 

 火薬が爆ぜる鈍い音が轟き、的のど真ん中に穴が穿たれた。同じように引き金を絞り、二、三発ほど引き金を引き、動作に問題が無い事を確かめると、振り返ってガキ共の様子を見た。

 

 

 与一は一振りの刀を手にしていた。桜色の鞘に、刃渡り90センチ程の刀であった。銘を『夜桜』という。

 

 

 子供である与一が使うにはやや大きめではないかと思うかもしれないが、その心配はない。

 

 

 先ほどまで10歳にも満たない程度の外見をしていたのだが、今の与一はそれを振るっても問題ない程度の背丈になっていた。外見年齢は14歳ほどか? 俺が目を離していたのは精々が2分程度。しかしその間に混沌が俺と彼女達との時間軸を歪めたのだろう。驚くような事ではない。この世界は、そういう風に出来ている。

 

 

 この空間は彼女たちの精神に密接にかかわっているから、おそらくは呼び寄せられた時間軸の年齢に容姿の方が近づいたのだ。今の彼女たちの精神年齢は、見た目通り14歳ほどだろう。

 

 

 実際これはゲームのムービーでもあった場面であり、ここのシーンで彼女たちのビジュアルが中学時代のものへと変化するのだ。服装も両者ともに学生服へと変わっていた。

 

 

「あ、終わり、ましたか?」

 

 

 おずおずと、しかし先ほどに比べれば幾分かマシになった話し方で、久留井が俺にお伺いを立ててきた。その手にはお祓い棒が握られていた。

 

 

「えぇ、私の方はこれで十分です」

「そう、ですか。良かったです……」

 

 

 うへへ、と卑屈な笑みを浮かべる久留井を一瞥し、俺は与一に性懲りも無く絡みにいった黒道の方へと目を向ける。

 

 

「与一ちゃん。制服可愛いね」

「これ以上近寄ってきたらお前を切る」

 

 

 刀を抜いて威嚇する与一に絡む黒道の外見もまた、彼女と同様に14歳程度の外見に変わっていた。野暮ったい黒髪。黒い学ラン。武器はどっかから引っ張り出したのか。二振りの長剣をX状に背負っていた。

 

 

「護身道具も調達できた事ですし、そろそろ進みましょうか」

「はい……!」

 

 

 こくこくと頷く久留井に頷きかけ、俺は激しく言い合う与一と黒道を引き離し、捲し立てられる互いの言い分を流し、丸め込み、順々に部屋から追い出した。

 

 

 最後に久留井を追い出し、俺も部屋を出た。

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