影武者転生異常あり!~俺は悪役令嬢の影武者なんだ…誰が何と言おうが影武者なんだ!だから脇役でいさせろや!   作:三流二式

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プロローグ 『リスタート・ニュー・デイズ』エピローグ

「お客さぁ~ん。終点ですよォ~」

「ハァ──────ッ!?」

 

 

 例えるならば、深海から急速に引き上げられた深海魚、とでもいうのだろうか? 

 

 

 あまりにも急な意識の浮上のフィードバックはすさまじく、俺はしばらくのあいだ強烈な頭痛と吐き気に悶絶した。

 

 

「ダイジョブですかァ~?」

 

 

 傍らに立つ誰かのすっとぼけた声が聞こえるが、生憎とかまえるような状態ではなかった。

 

 

 視界が明滅し、目を開けていられずに堪らず瞼を閉じ、仰向け状態で脱力した。それが間違いだった。

 

 

 ただでさえ自前の瞬きでちらついていたというのに、強烈な太陽光が合わさったとなれば、その苦しみは2倍、即ち100万倍の苦痛となって俺に牙を剥いた。

 

 

「ふ、船酔い……です……」

「アララそれはそれは」

 

 

 無茶苦茶な体調の中で悪戦苦闘しながら何とか口を動かしたものの、相手にそれが伝わっているのかどうか、俺には如何とも判別しなかった。

 

 

 どれだけの時間を苦しみの中で身悶えていたのだろうか。1分か2分か。それとも全く時間経過しておらず、全て俺の脳の中を流れるパルスの速度化で行われたものなのか。

 

 

 ともかく、体感的には相当な時間が流れ去り、ようやっと俺は苦しみから解放された。

 

 

「イヤァ随分辛そうでしたねェ~」

「……えぇ、そうっすね。慣れない船旅でしたから」

 

 

 目の端から流れ落ちた涙を払いながら、かけられた声に言葉を返す。それから気合を入れ、体を起こし、改めて声の主を見た。冴えない面をした、警備員のおっさんだった。

 

 

「あぁやっぱりそうだと思った! 一人旅ですかな?」

「そんなとこっす」

 

 

 微かに残ったフィードバックの残滓を頭を振って振り払い、こめかみを叩きながらクーラーボックスからスポーツドリンクを取り出しておっさんに投げ渡す。

 

 

 おっさんは帽子に軽く触れ、頷いた。俺も頷き返し、クーラーボックスともろもろの荷物を回収すると、おっさんに手を振って、船の外へ出た。

 

 

 階段を降り、船の上からコンクリートで作られた地面に足をついた。その途端に、今はじめて重力の存在を認識したかのように体が地面に沈み込んだ。

 

 

「ッ」

 

 

 俺は辛うじて一歩踏み込むことで転倒を免れた。ズガッという音がした。

 

 

 大体立ち眩みとかで反射的に一歩踏み込んだとして、常人がコンクリートの地面を踏みしめる音なんてたかが知れている。観光客で賑わっている港ならばなおのこと気にする奴はいやしない。

 

 

 常人ならば、だ。

 

 

 俺は天を仰ぎ、それからうんざりと下を見る。無残にも陥没し、蜘蛛の巣の罅が入ったコンクリートの地面が俺を見つめ返した。それからあちこちから視線を感じた。

 

 

「~~~~~~……」

 

 

 眩暈。頭痛。

 

 

 頭を振り、帽子を深くかぶり直すと、俺は愛想笑いを浮かべたまま、そそくさと小走りで逃げ去った。

 

 

 視線を振り切り、誰も俺の事を注目していない事を確かめると、極限まで気配を消し去り、歩行の速度を上げた。

 

 

 縫うように観光客共を避け、時に信号を文字通り飛び越しながら駆け、俺は目的地のホテルへとたどり着いた。

 

 

 チェックインを済ませ、エレベーターで最上階のスイートルームへと直行し、ドアにカギを捻じ込み、押し入るように中へと入り込んだ。

 

 

 スイートルームというだけあってとんでもなく広く、賭けられた金の額を表すような豪奢な調度品や家具の数々。ガラス張りの窓は、美しい海原を一望できた。

 

 

 だというのに、俺の心はちっとも揺れ動きやしなかった。寧ろ海原を視界に入れた途端、反射的に顔を顰め、舌打ちまでこぼす始末だった。

 

 

 とにかく疲れていた。荷物を投げ出し、5人は乗れそうなキングサイズベッドのど真ん中に身を投げ出す。

 

 

 まるで雪にでも身を沈めたかのように、俺の厚みの無い体はベッドへと沈んでいった。はたから見たら今の俺は、海のど真ん中でポツンと浮かんでいる難破船みたいに映るだろう。

 

 

 その感想は、きっと間違いではない。

 

 

 何故だ? おかしい。俺はここに憩うために来たというのに。どうしてこんなにも疲れているのだ? 

 

 

 おかしいぞ。これはおかしい。

 

 

 瞼を閉じる。その途端。先ほどまで繰り広げさせられていたくそったれな怪奇録がありありと思い浮かんでくる。

 

 

((()()()()()()()()()()……))

 

 

 覚えている。自分が発した不本意な言動の一言一句を。自分が行った不本意な行動の一挙手一投足の全てを。吹き飛んだ左半身の感触を。命が失われていく、あの奈落の底に足を踏み入れたかのような、ぞっとする喪失感を! 

 

 

 何が悲しくてこんなもんを覚えていなければならないのか? というか本当になんで俺があのガキ共が織りなすくそったれなナカヨシ物語の間に挟まらにゃならんのだ? というかあの黒道とかいうカスガキは一体なんだ? 

 

 

 懸念事項や不平不満を考え出すと、もう止まらなかった。栓を抜かれたシャンパンの泡のように、俺の頭の中で考えが噴出した。

 

 

 今回の事態の発生原因は? 俺や奴が存在したことによる影響は? その規模は? 俺の記憶にある物語との差異はどれほどまでに広がるのか? 『水の神』や『教祖』はこの事を知っているのか? というか奴らの企てる謀にとって『イミテーション』はどういった存在だ? ウチの犬どもは使い物になるのか? これから混沌を持つ者がちらほら表舞台に顔を出し始める。その中で特に脅威になるものは事前に取り込むか、あるいは排除する事で脅威を前もって取り除いて来た。その影響は? 

 

 

「ぐ……グググーッ!!!」

 

 

 考えれば考える程に、懸念事項が無限めいて溢れ出てくる。事態の検討をする前に、まずは最優先でやらなければならない事、後回しにできる事の分別から始めなければならない。それと並行して人員配置、各機関への根回しetc.

 

 

「~~~~~~……」

 

 

 俺は額に手を当て、ため息を思い切り吐き出した。放たれた呼気は、空気中に飛び出した瞬間に囚われ、千々になり、雲散して消えた。

 

 

 うんざりとした気分で虚空を睨み、それからもう一度溜息を吐くと、ポケットにいれたスマホを取り出して、電話を掛ける。

 

 

 相手はワンコールも待たずにすぐに出た。ボイスチェンジャーを取り出し、前置きもそこそこ、本題について話を進める。

 

 

「──────?」

「どうも、早速ですが仕事を頼みたいのです」

「──────」

「えぇ、〇▽区に住んでいる月宮久留井という少女について、どのような手段を使っても構いませんので調べて欲しいのです」

「―――。―――?」

「その通り。監視も同時にお願いしますね」

「──────」

 

 

 それから二言三言言葉を交わし、通話は切断された。

 

 

 ため息。今度は別の奴に繋ぎ、そいつには与一への監視と情報収集を命じた。

 

 

 ブツ、と音を立てて通話が切れた。

 

 

「──────」

 

 

 辛抱堪らず、俺は手足を完全に投げ出して、脱力した。その拍子に握っていたスマホが手の中からすっぽ抜けて床に落ちたが、拾う気にもならなかった。

 

 

 震える腕を難儀して動かし、目を覆った。

 

 

 俺はここに休みに来たのだ。なのに、どうして、こんなにも、疲れ果てているのだろう……。

 

 

 答えは出ない。でやしない。いつものように。

 

 

 ともかく、何であれ。

 

 

 吉田健太郎(おれ)の日々は終わりを告げ、イミテーション(おれではないおれ)との長い日々が、また再び始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 プロローグ 『リスタート・ニュー・デイズ』終わり

 

 

 

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