影武者転生異常あり!~俺は悪役令嬢の影武者なんだ…誰が何と言おうが影武者なんだ!だから脇役でいさせろや!   作:三流二式

173 / 175
『百聞は一見に……』③

『―――アタシはやらねーぞぉ!』

『―――作戦開始、敵対戦力を全て殲滅せよ! 我らに楯突く愚か者へ鉄槌を!』

『―――で、これが今回の宝石店の展示会場の見取り図なんだけど、このあたりにテロリストが潜伏―――』

「……」

「ギッ」

 

 

 悪夢の行進は続いた。次から次へとひっきりなしに襲い掛かって来る冒涜的な怪物に対し、パニッシャーは眉一つ動かさず淡々と弾丸を撃ち込み、深淵の住民を元来た場所へと返してゆく。

 

 

「パカッ!」

 

 

 近くで身動き一つしなかった大型犬ほどのサイズがあった二枚貝が、パニッシャーが通りがかった途端に突如として開き、奇怪な中身を飛び出させて頭を齧り取ろうとした。

 

 

 しかし、開かれた口腔内に入ってきたのは20グラムの鉄の死であった。

 

 

「アギャッ」

「ギギーッ!」

「シュシュシュ―ッ!」

 

 

 二枚貝が死んだと同時に突っ込んで来るは、異様に巨大な右ハサミとそれとは対照的に極端に小さな左ハサミを持った化物蟹と、触腕を器用に使って這いずって来た成人男性ほどの体躯を持つタコであった。

 

 

「シュシュシューッ!」

 

 

 タコから伸ばされた触腕を縫うようにかわし、懐へと入り込んだパニッシャーは銃口をぴったりとタコの眼窩へと押し当てると、そのまま捻じ込みながら引き金を引いた。

 

 

「シュポーッ!?」

「カニ―ッ!」

 

 

 内側から破裂した同胞の頭の()()をもろに浴びながら、化物蟹は目を剥き、怒りのままに自慢の右ハサミを叩きつけにいく。

 

 

 当たればたやすく人体を引き裂くであろう一撃だ。しかしパニッシャーはこれを前に臆することなく前に立つと、何と銃をホルスターへとしまったのである。

 

 

「ギッ?」

 

 

 化物蟹は訝った。だが敵が行った行為へ疑問を挟む余地など、この怪物には残されていなかった。自慢のハサミが振り上げられた姿勢から1ミリも動いていない事への疑問も同様に。

 

 

 パニッシャーはあらゆるものが静止した世界を滑るように移動し、碌に動けない化物蟹の後頭部に、握りしめた拳を無造作ともいえる動作で叩きつけた。

 

 

「ギッ―――」

 

 

 あっさりと頭部が陥没し、耐えきれずに裂け、亀裂から中身を零しながら化物蟹は何ら理解することなく絶命した。

 

 

『―――彼らがここを狙った理由は単純に資金が欲しかった事と、自分たちの組織のアピールのためだね』

『―――わあ☆すごい迷惑!』

『―――殲滅せよ! 殲滅せよ!』

「「シャーッ!」」

 

 

 死体を検める間もなく間髪入れずに突っ込んできたのは、宙空を泳ぐピラニアの魚群である。

 

 

「いい加減にしろよ……」

 

 

 仮面の奥でうんざりと顔を顰めながら、パニッシャーはサブマシンガンを手に取った。

 

 

「何かゲームの時より内部構造複雑化してないか?」

「「シャギャーッ!?」」

 

 

 引き金を引き、毎分800発の速度で弾丸が解き放たれた。これもまた火薬が増強されており、まるで大砲めいた発砲音が間断なく発せられた。

 

 

 耳を聾する音と、マズルフラッシュの明るさに閉口しながら、パニッシャーはピラニアの群れを、さながら除草機で雑草を刈り取るが如く殲滅してゆく。

 

 

 一つ銃声が鳴るたびに、三匹あまりのピラニアが死んだ。パニッシャーの正確無比な射撃によって、ピラニアの群れはたちまちのうちにむせ返る()()()()となって消え失せた。

 

 

『―――それにしても宝石かぁ~……結婚指輪とかあったりする?』

『―――もちろんあるよ。向こうに下見に行った際にカタログも貰ったんだ』

『―――畜生! 結局こうなるのかよ! ウサギてめぇ後で覚えとけよ!』

『や、やめてください! お願い! 止めて!』

『ウフ……ウフフ~……』

「この辺は覚えがあるぞ。……そろそろ目的地か?」

 

 

 空のマガジンを捨てて踏み砕き、新たなるマガジンをサブマシンガンに叩き込みながら、パニッシャーはヘルメットに搭載されていた()()()()()()()()()に目を通し、一人頷く。

 

 

『あァ……いケなイ……止めナきゃ」

「そ、そう! 止めて! お願い!」

『―――どれも綺麗だね……()()()はどれを貰ったら喜ぶかなぁ……リリーちゃんはどう? ボスに渡すとしたらどれ?』

『―――……実はもうあるんだ』

『―――えぇ!?』

『―――混沌を! 世に混乱を! カオスを称えるのです!』

「アビャッ―――」

「ビ―――」

「バ―――」

「ッ―――」

「! ―――」

 

 

 敵を殲滅しながら前進を続けていると、とうとう通信越しではなく生の声が聞こえるようになった。

 

 

『―――私はあの人を愛してる。たとえ私を見出してくれたのが打算から来たものだとしても、それでも、ね? そういうの、分かるでしょ?』

『―――うん。良く、分るよ』

 

 

 パニッシャーが入り込んでから一時間余りの時間が経過していた。本来ならば十分もあれば到達できるはずなのだが、敵が妨害するというのも含めて、あまりにも想定していた時間を超過しすぎている。歩いた距離で言えば数キロは下らない。

 

 

「面倒臭えな」

「アバッ」

 

 

 振り抜いた裏拳を引っ込めながら、パニッシャーはため息交じりに呟いた。遅れて、元はクラゲの頭があった魚人の首なし体が崩れ落ちた。

 

 

 それと同時に、絹を裂いたような悲鳴が聞こえた。

 

 

『―――まあまだまだ先の話だけれども、それでも、いつかはね?』

『―――私も社長にそのこと伝えてみようかなぁ~』

「おや、もう辛抱堪らんか?」

 

 

 足早に声の出所へと向かったパニッシャーが見たのは、壁際に追い詰められた女性に、今まさに覆いかぶさらんとする警備員の姿であった。

 

 

 異様ななりであった。服装は警備員服であるがその足は鱗にびっしりと覆われたものとなっており、両腕に至っては一対の触手となっていた。背後から故に顔は分らぬが、女の引きつり具合から見て、最早人の形をしていないのだろうとパニッシャーは見切りを付けた。

 

 

 しかし元より生きて返すつもりもないパニッシャーからしてみれば、顔に人の名残があろうがなかろうが、だから何だという話だが。

 

 

 パニッシャーは躊躇いなく拳銃の引き金を引いた。

 

 

 解き放たれた鉛色の弾丸は、螺旋回転しながら空気の層に穴を空け、ゆっくりと前進して、標的目がけて一直線に飛び込んでゆく。

 

 

「オマえはワタシの―――」

 

 

 口から譫言を垂れ流す、混沌に精神を支配され、どうしようもない所まで来てしまった哀れなる犠牲者の言葉が最後まで告げられる事は無かった。

 

 

 後頭部に到達した弾丸は、狂った火薬の量によって尻を蹴り飛ばされた勢いのまま頭皮を割り、あっさりと頭蓋を裂き、その中身の脳に穴を空け、衝撃で攪拌し、何ら勢いを損じることなく反対側を突き抜け、壁に穴を空けた。

 

 

「あ──────」

 

 

 女は唖然として口を開き、呆けた。その顔に血飛沫がかかった。塗りたくられた赤は、青白くなった肌に鮮烈に映えた。まるで白紙に移った炎めいて。

 

 

『―――愛するって事はさ、理屈じゃないんだよね。加奈もさっき言ったようにね。特に私のご主人様は人に誤解されやすい人だから。……彼らの言う事も、あながち間違いじゃないんだけどね。それでも、私があの人を愛する気持ちは変わらない』

『―――私だってそうだよ。どんな扱いをされたって、あの人への愛は変わらない』

「あぁ──────」

 

 

 女は口元をわななかせ、倒れ伏した狂う者の死体を穴が開かんばかりに凝視していた。それは、自分を襲っていた怪物へ向ける目では無かった。パニッシャーは眉間に皺寄せた。

 

 

((声をかけるべきか?))

 

 

 パニッシャーは逡巡したが、その選択肢を結局彼は選ばなかった。何より女の放つ異様な雰囲気は、口を挟む間を欠片なりとも与えはしなかった。

 

 

 女は震えながら手を伸ばし、もう二度と動くことが無い死体に触れた。

 

 

「あ……アぁ……」

 

 

 女は掠れた声を発しながら異形と化した警備員の体に触れ、ペタペタと触れた。やがてかすれ声は慟哭へと変わり、縋りつくように掻き抱くと、金切り声を発して叫んだ。

 

 

『―――死が二人を分かつまで、て言うじゃない? 私は死んだってあの人と離れるつもりはないよ。だって私はあの人のモノなんだから』

『―――うんうん。愛し合う二人は、何時だって一緒だもんね』

「おマえッッッ!!!」

 

 

 死体を掻き抱きながら、女は()()()()()宿()()()()()()()()()()()。そのあまりの剣幕にパニッシャーは鼻白んだ。

 

 

 だがそんな余裕も直ちに拭い去られた。女を中心に空間が波打ち、女の体がめきめきと音を立てて軋んだ。

 

 

 あっという間だった。瞬きする間もなく、女はオレンジと白色の模様が特徴の魚、クマノミをアステロイドベルトめいて纏い、また女自身もクマノミの特徴を持つ半人半魚の姿へと変化した。

 

 

「──────ッ!?」

 

 

 パニッシャーの全身が総毛だった。ほんの少し前までは女は取るに足らない非力な存在だった。しかし、今は彼をして最大限の警戒を向けざるを得ない怪物へと変化していた。

 

 

「わダしのオッドをころジだなァ!!!」

「混沌の者だと? クソったれめ!」

 

 

 パニッシャーは横へと跳んだ。次の瞬間、彼が一瞬前までいた地点が『捩じれ』た。

 

 

「チィ!」

「アァッ!」

 

 

 跳びながら、パニッシャーは躊躇なく発砲していた。弾丸を受けて女の頭が弾け跳んだが、一瞬靄がかったかと思えば、女の頭は何事もなくそこにあり、変わらず憎悪の眼差しを向けていた。パニッシャーは心底不愉快そうに舌打ちした。

 

 

「イケ!」

 

 

 女はパニッシャーに向けて指を突きつけた。たちまちクマノミの大群が殺到した。

 

 

「鬱陶しい!」

「「ウギャーッ!」」

 

 

 拳銃をホルスターへ戻し、サブマシンガンを手に取ったパニッシャーは怒りをむき出しにして吐き捨てた。

 

 

 弾丸をばら撒き、クマノミの大群を叩き落しにかかるが、その密度は先のピラニアの比ではない。パニッシャーは舌打ちし、駆け出した。

 

 

「追えエェエエ! コロせエ!」

くそっ(ファック)

 

 

 跳ね、飛び、銃身が焼け付くまで撃ちまくり、クマノミをかわし、叩き落としながら、パニッシャーは縦横に駆けまわった。

 

 

 クマノミが叩きつけられると、その地点は螺旋状にねじれていた。恐らくは女の異能であろう。耐性の無い彼では一発でも当たればお終いだ。

 

 

「調子に乗るなよ……! 遊びは終わりだ!」

 

 

 サブマシンガンを放り捨て、駆けながらアサルトライフルを取り出したパニッシャーは、反転してオプションのグレネードランチャーの引き金を引いた。

 

 

 放たれたグレネードは放物線を描いて飛び、クマノミの群れのど真ん中に突き刺さった。

 

 

 目も眩むような閃光が放たれ、腹に響く音と共に紅蓮が閃きクマノミの群れを焼き払った。

 

 

「アぁ!?」

 

 

 女は目を剥いて叫んだ。その体に5.56ミリが立て続けに突き刺さった。べきゃべきゃと音を立てて女の体が細切れになった。

 

 

「オノレぇ!!!」

 

 

 しかしこれもまた一瞬で否定され、女は無傷で後退ったが、すでに眼前にはパニッシャーが迫っており、その手にはショットガンが握られていた。

 

 

「食らっとけ!」

「オォッ!?」

 

 

 散弾の零距離接射を受けて、女の上半身は爆発四散したが、ただちにその事実は否定された。そしてまた散弾を受けて女は爆散し、また再生し、また爆散した。

 

 

「オゴ……おゴゴ…………」

「「キィイイイイイイイイ!?」」

 

 

 主のダメージに呼応して、クマノミの群れも同じように苦悶し、身を捩じらせ、バタバタと地面に落ちて身悶えした。パニッシャーは淡々と散弾を撃ち込み、殺し、壊し続けた。

 

 

 次第に女の再生能力が弱まってきた。やがて女の体は茶褐色のミイラ体めいて萎み、萎びると、咳き込むような断末魔を上げ、とうとう動かなくなった。

 

 

『―――あの人は生きている。どこにいるかは分からないけどね』

『―――早く会えると良いね』

「……」

 

 

 息を吐き、頭を振り、鈍く痛むこめかみを叩きながらその場を去ろうとしたパニッシャーだが、通信から何やら不穏な会話が聞こえ、しばし耳を傾けた。

 

 

『―――もう二度と離すつもりはないよ。私たちのリードであの手を雁字搦めにしてね、絶対に離れられないようにするの。飼い主が飼い犬を縛る? ううん。違うよ。飼い犬こそが、飼い主を縛り付けるんだよ。それを、あの人に思い知らせてあげるんだ』

『―――愛ゆえに?』

『―――そう、愛ゆえに、ね?』

「……」

 

 

 その後も何やら二人は会話を重ねたが、次第にそれは取るに足らない雑談へと変わっていった。パニッシャーは虚空を睨みつけた。

 

 

 ……愛というものは相互理解の果てにある。ともすればだ。奴等がいくら俺というものに愛を囁いたとしても、相互に理解しあっていないので、それは成立し得ない。

 

 

 何故ならばだ。奴等が愛を向けているのは、俺こと吉田健太郎ではなく、イミテーションという仮面に過ぎないからだ。

 

 

 そして俺は吉田健太郎としての仮面(ペルソナ)を、奴らに向けることは決してない。だから互いに真に理解し合う事は無いのだ。俺を向けるつもりが端から無いのだから。

 

 

 奴等が愛しているのは俺であって俺じゃない。

 

 

 俺の一側面。イミテーションという神話なのだ。奴等はそれを崇め奉る信者であり、吉田健太郎の信者ではない。

 

 

 俺ではない。俺ではあるが、俺では無い。『私』なのだ。

 

 

「はぁ……」

 

 

 おかしい。健太郎は思った。

 

 

 これは依頼のチュートリアルであり、頭を悩ませるような事柄でも無ければ、心労がかかる様な出来事でもない。

 

 

 いかれた奴がいる。それを退治する。それで終わりのはずだろう? なのになぜこんなにも草臥れているのだろう。

 

 

 滔々と考えてみるが、答えなどではしない。……いつもの事だ。彼はさほど気にしなかった。ただ、気が滅入っているだけである。

 

 

「はぁあああ~……」

 

 

 肺から空気の塊が押し出され、長々と吐き出す。音を立てて。

 

 

 やがて処刑人は頭を振るい、去った。

 

 

 後には屍だけが残されていた。奇しくも両隣に斃れた怪物二人。死が二人を分かっても、彼らは一緒であった。彼らは永遠となった。彼女が言ったことは正しかった。愛し合う二人を分かつには、死というものは何ら障害たりえないのである。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。