影武者転生異常あり!~俺は悪役令嬢の影武者なんだ…誰が何と言おうが影武者なんだ!だから脇役でいさせろや!   作:三流二式

174 / 175
虚無の暗黒に囚われかけましたが、何とか打ち破ったので初とうこうです。


『交差』

「おい知ってるか『処刑人』の噂ってやつ」

「何だ突然藪からボーに」

 

 

 ポメラニアンへと顔を向けながら、チワワは襤褸雑巾の如き有り様の企業戦士を放り捨てた。

 

 

「ぐえっ」

 

 

 企業戦士は放物線を描いて飛び、潰れた蛙のような声を発しながら、同じように呻く企業戦士で出来た山の中へと加わった。

 

 

「はあ……」

 

 

 チワワは息を吐き、ゆっくりと周囲を見渡した。

 

 

 周りは完全に瓦礫の山。企業戦士の山。火を噴く戦車の残骸やひしゃげたヘリのローター。そこから離れて真っ二つとなったヘリが見えた。

 

 

「はあ……」

 

 

 チワワはもう一度息を吐いた。勘弁してくれとでもいうかのように。

 

 

 彼女達は現在敵対企業の襲撃を退けた後であった。

 

 

 というのも、丁度昼飯時の時に偶然外で居合わせた彼女たちは、そのまま三人でどこか適当なところで食事にしようとしていた。

 

 

 グランドマスター三人が外で、しかも部下も無しにひと塊になる事はなかなかない。一網打尽に捕獲するまたとないチャンスだった。

 

 

 一体どこからその事を察知したのか。野心に燃えるとある企業が大慌てで使える戦力をかき集め、食事を済ませて店から出てきた瞬間にそれらを叩きつけてきたのだ。

 

 

 店から出た途端戦車砲が轟かせる轟音に、彼女たちは一様に目が点となったものだった。

 

 

 間髪入れずに現れるのは、正式装備に身を包んだ企業戦士の中隊である。その奥には店を吹き飛ばした犯人と思わしき重戦車が、現れた彼女たちに再照準を合わせていた。

 

 

 更にダメ押しとばかりに遠くからヘリのローターの音が轟き、すぐ後に二機の戦闘ヘリまでもが姿を現した。

 

 

「「……」」

 

 

 これには彼女たちも思わず閉口した。

 

 

交戦開始(アタック)! グランドマスターを捕獲せよ!」

「「ウォオオオオオオオオオッ!」」

 

 

 隊長と思わしき企業戦士の号令の下、雄たけびを上げながら引き金を引いて弾丸をばら撒く企業戦士たち。

 

 

「……血気盛んなこった」

 

 

 体のあちこちに当たる5.56mmを、小石か何かのように不快げに顔を歪めながら、ポメラニアンは吐き捨てた。

 

 

「やめろやめろ! これ最近みみ子にクリーニングしてもらったばかりなんだよ! 汚れちまうだろうが!」

 

 

 チワワは瞬時に手の中に生成した地獄めいて火花を散らす駆動大剣を風車の様に回転させて弾丸を払いながら叫んだ。

 

 

「うっわあ凄い大所帯」

 

 

 イヌガミを手に取り弾丸の嵐を苦も無く防ぎながら、シバイヌは目を丸くして驚いた。

 

 

「カス共が」

 

 

 諜報部に連絡を入れ終えたポメラニアンはスマホを懐にしまい、黒い光が閃いた次の瞬間にはその両腕は武骨なガントレットに覆われていた。

 

 

「食後の余韻を覚まさせやがって。どうしてくれんだ。あぁ? 店も滅茶苦茶にしてくれやがって。アァ!」

 

 

 鋭い音を立てて爪を展開し、ポメラニアンは咥えていた爪楊枝を吐き捨てた。彼女の表情は獲物へと跳びかかる猟犬めいた凄惨なものとなっていた。

 

 

 ポメラニアンの語気はだんだんと荒いものとなっていった。怒りに呼応して黒く邪悪なものが顔のあちこちに葉脈めいて広がってゆく。チワワは呆れた。その瞳に、黒と白の光が灯った。

 

 

「ダメだこりゃ。おいシバイヌ。お前はあのカトンボ叩き落せ。アタシはこのアホのおもりせをにゃならん」

「はーい」

「グワーッ!?」

 

 

 一番槍で飛び込んできた企業戦士をイヌガミで弾き飛ばしながら、シバイヌは生返事で答えた。

 

 

「おい、殺すなよ。後で吹っ掛ける際に面倒になるからな」

「殺ッッッ!!!」

 

 

 銃撃の嵐も何のそのと飛び込んでゆくポメラニアンに再度呆れながら、丁度一機目のヘリが小型ミサイルを受けて火を噴いて落下する様を目尻に、チワワはケルベロスを振り抜いて飛来してきた砲弾を片手間に切り捨てた。

 

 

 真っ二つとなった弾丸は後方で別々の地点に着弾し、それでまた建物が倒壊し、凄まじい粉塵が舞い上がった。チワワはもう何もかもが嫌になってきた。

 

 

「なんで飯食いに来ただけでこうなるかね」

「ぎゃあっ!?」

 

 

 血気盛んに突撃してきた企業兵士に無造作に前蹴りを食らわせて昏倒させると、チワワはゆっくりと歩を進め、台風めいて暴れるポメラニアンに加わった。

 

 

 闇が覚醒し、更に強大となったポメラニアン一人でも事足りた戦闘に同じく覚醒しているチワワまでもが加わったとなれば、戦闘はすぐに終わった。

 

 

 チワワが戦車のハッチを素手でこじ開け、中の人員を殴り飛ばして気絶させて放り出して無力化した時には、ポメラニアンはあらかた片付け終えていた。

 

 

 時間にしてみればものの十分ほどで、二百名の企業戦士が片付けられた。

 

 

 企業側からすればたまったものではないだろう。せっせとこさえた精鋭たちがそんな僅かな時間で、しかも誰も殺さず無力化されてしまうなどとは。

 

 

 これで誰かが死んでいればそれにかけて難癖を付けられた物を。この結果を見ている上役たちは歯噛みしているに違いない。……尤もペットショップの諜報部がすでに彼らの出撃命令の記録や過去数年の不正の証拠をすっぱ抜いているので、何もかもが無駄なあがきであるのだが。

 

 

「で、どうなん?」

「知る訳ねーだろ。今はじめて聞いたわ。何なんだそいつは?」

 

 

 チワワは水筒を取り出して一口飲んだ。

 

 

「詳しくは知らねぇ。ていうか情報が無ぇ。分かってるのは混沌の兆候が表れたところにそいつはやって来て、発生源をぶっ殺す事だけ」

「ふーん、強いのか?」

「奴が現れた場所をウチも見たが、ありゃ相当一方的だったな。恐らく闇の者に相当するレベルの奴が、な」

「……」

 

 

 チワワの眉がピクリと動いた。ポメラニアンは野犬めいて歯を剥き出しにして笑った。

 

 

「なになに? なんの話?」

「お前、処刑人とかいう恥ずかしい通り名を名乗ってる辻斬り犯の噂とか知ってる?」

 

 

 わらわらと寄ってきた警察ややじ馬に話を通してきた疲労困憊のシバイヌへ、チワワは手を振って労いながら聞いた。

 

 

「ん~? ううん。知らない。初耳」

「だろうな。アタシもこいつに言われるまで認識すらしてなかったぜ」

 

 

 町の一区画に甚大な被害をもたらした原因の一端たちは、何食わぬ顔で現場を去りながら会話に花を咲かせる。年頃の女がするにはあまりにも殺伐とした話を。

 

 

「殺害方法は銃殺、撲殺、切断殺、爆殺と、まあバリエーションに富んでんな。中でも爆殺された奴の遺体は酷いもんだったぜ」

「より取り見取り。選ぶ方も苦労するな」

「爆殺が酷い? 爆発が凄かったりでもしたの? イヌガミのグレネードくらいとか?」

 

 

 手渡された缶コーヒーを一飲みし、顔をわずかに顰めながらシバイヌが問う。

 

 

「そこまでじゃねえよ。ていうか火薬使った爆発じゃねえ。何なら異能ですらねえ」

「あ? なんだそりゃ?」

 

 

 とチワワ。ポメラニアンは続ける。

 

 

「奇妙な事にその遺体は()()()()爆破されたらしいんだよな」

「異能無しで」

「火薬でも無し」

 

 

 チワワとシバイヌは目を見交わした。異能でも火器での爆破でもない。それが意味する事は。

 

 

「世の中訳の分からねえことで満ちているが、それを異能の力を使わずにするっつうのは。なあ?」

「「……」」

 

 

 飲み干した無糖のコーヒー缶を握り潰し、ポメラニアンは凶暴な笑みを浮かべた。チワワとシバイヌの眉間に皺が寄った。

 

 

 異能の力の助けを無しにそういった超常的な事を成す存在を、彼女たちは一人だけ知っている。

 

 

 その者は生身で音速の壁を越え、人体を紙屑のように引き裂き、頂から神を引きずり落とした。

 

 

「……ぞっとしねえな」

 

 

 その恐ろしさを良く知るチワワは、届きはしないだろうがそれに近い事が出来るであろう処刑人に身震いした。

 

 

「敵っていう訳じゃないんだよね?」

 

 

 シバイヌは念を押すようにポメラニアンへと聞いた。ポメラニアンは肩を竦め、まだ調査中、とだけ言った。

 

 

「ウチはこのまま調査を継続するが、お前らはどうだ?」

「無茶言うな。ただでさえ例の混沌野郎どもへの対応でいっぱいいっぱいだってのに、そんなことまでやってられっか。つかそいつ率先して混沌持ち(やっ)てくれてんだろ? なら放置だ放置」

「私も~。最近忙しくて、ちょっと無理かな~」

 

 

 顔を顰めて否定するチワワに、シバイヌも同意した。

 

 

「仕事に熱意の無い奴らめ」

 

 

 というポメラニアンだが、その顔は笑みである。彼女とて分かって聞いたのだ。端から期待などしていない。

 

 

「つーかそろそろ戻ろうぜ。いい加減視線が鬱陶しくてたまらんぜ」

 

 

 遠巻きでこちらを見てくる者どもへにらみを利かせたチワワがそう提案した。

 

 

「賛成」

 

 

 シバイヌは同意し、歩き出した。

 

 

「だな」

「え!?」

 

 

 潰れた空き缶を通りがかりのナードへ押し付けながら、ポメラニアンも歩き出した。

 

 

(それにしても処刑人(パニッシャー)ねぇ……)

 

 

 肩を怒らせて周囲を威圧しながら進むポメラニアンの背を見ながら、チワワは沈思黙考する。

 

 

(ま、考えてもしょうがないか。ポメラニアン(あいつ)でもなかなか尻尾を掴めないみたいだし、アタシが遭遇することはねえだろ)

 

 

 そう結論付け、チワワはだらけた思考を仕事用に切り替えた。処刑人の話など、すぐに記憶の中へと堆積していった。

 

 

 しかし、その記憶はすぐに掘り起こされることとなる。何せ、ポメラニアンを差し置いて、彼女がいの一番に噂の影を踏み抜いてしまったのだから。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。