影武者転生異常あり!~俺は悪役令嬢の影武者なんだ…誰が何と言おうが影武者なんだ!だから脇役でいさせろや! 作:三流二式
〝保健所〟本部、ボスの部屋と名付けられた小部屋の中で、俺はコーヒーの入ったマグを片手にノートパソコンとにらめっこをしていた。
パソコンのモニターには神代学園のあちこちに仕掛けられた監視カメラ(教団が秘密裏に仕掛けてるものと俺個人で仕掛けたもの)より届けられた先日の学園内の映像が銀河に瞬く星々の輝きの様についたり消えたりを繰り返していた。
こんな物を四六時中見続けるなんて狂気の沙汰だが、それでもやらなければいけないのが辛いところ。さっさとこの舞台から降りて、監視カメラとのにらめっこなんぞとは無縁の生活を送りたいものだ。
じゃなければいずれ俺は眼球疲労でこの年で老眼鏡が必要になってしまうだろう。それだけは絶対に避けねばならない。仕事に準じて体調を崩し、挙句の果てにはぽっくりイっちまう。
冗談じゃない。仕事とというものは金のためか必要に迫られたからやっているのであって、そこに自分の全てを投げ出してまで準じてやる義理などありはしない。じゃなけりゃ誰が好き好んでやりたくもない事を延々繰り返す必要がある?
もし願いが叶うというのなら、一生仕事なんぞやらなくても生きて行けるだけの金が欲しい。そして、取るに足らないコンビニバイトや土方仕事に精を出しているふりをしつつ、この世の全ての働く人間に舌を出しながら生きてゆくのだ。
「はぁ~~~……」
俺は額に手を当て、天を仰いだ。
どれだけバカみたいなことを考えたところで、結局それは夢という名の個人の脳内で繰り広げられるあまりにも意味の無い妄想でしかなく、俺たち負け犬は金持ちを恨みつらみつやりたくもない仕事にうつつを抜かしてこの世の全てを憎悪しながら生きていくしかない。
仕事とはそういうもので、生きるってことはそういう事なのだ。
と、疲れからか変な事を考えていた時、ドアが叩かれる音がした。
「どうぞ」
俺の言葉に、失礼しますと声がして、それからおっかなびっくりとドアが開かれ、スーツを着た瓶底メガネが特徴の少女、小柳みみ子および『プードル』がひょっこり顔を出し、面接試験を受けた学生の様な挙動不審な動きで室内に入ってきた。
「来ましたね」
モニターの映像を消し、ノートパソコンを閉じて、机の上に肘を乗せて両手を組みながら、おどおどするプードルに向き直った。
「先ずはお疲れさま、と言っておきましょう」
「は、ひゃい!」
構わず続ける。
「やはり初陣というだけあって、課題もいくつか見つかりました。が、それは祝勝会の時に言いましたから、態々もう一度言う必要もありませんね?」
では、と前置きもそこそこ。本題に入る。
「聞かせてもらいましょうか。学園に行き、要注意人物『
監視カメラの映像で入学式初日に何が起きたのかはある程度把握しているが、やはり現場で見てきた者の言葉からしか得られない情報もある。
「はい……!」
そうしてプードルは話し始める。物語の
■
私、小柳みみ子、16歳、いたって普通の女子高校生。ぴちぴちの新入生。しいて違う所を上げるなら、
構成員は私含めて7人。(ただボスが言うには今後増える可能性もあるとのこと)
強さとか、各々が持つ異能やら言いたいことはあるけども、私が何より言いたいのが全員が方向性の違う美形ぞろいという事だ! (おじいちゃんは除く)
まず『チワワ』! スケバン、あるいはヤンキーを地で行く茶髪の髪をセミロングに伸ばした女の人だ。特筆すべきは顔が良い。時折覗く八重歯がチャームポイントの彼女は
次『ポメラニアン』! 黒髪のショートヘアーの小柄な女性で、私と背丈はあまり変わらない。特筆すべきは顔が良い。小柄な背丈に相応しい小顔美人で、その顔にはいつも張り付けたような笑みが浮かんでいる。体型はすらっとしており、採寸の時にはそこはかとない親近感を覚え、思わずうんうんと頷いてしまった。(あまりにも露骨に頷くものだから頭をはたかれた)
3人目は『シバイヌ』! 彼女は3人の中で一番背が高く、しかし背の高さの割に物腰は低くおっとりとした性格の美人さん。特筆すべきは顔が良い。この人はもうなんていうか、エロ! エロですよ! エロ! 出るとこは出て引っ込むとこは引っ込んで! いい感じの肉付きの体は絶対抱きしめ心地が良いはずだ! 採寸の時にデッッッと絶句して凝視してしまったのはいい思い出だ。(あまりにも凝視しすぎて恥ずかしがったシバイヌに押されて壁と一体化してしまった)
4人目『レトリバー』! ダウナーギャル! 特筆すべきは顔が良い。いつも眠たげに半開きにされた瞳は凄く綺麗で、前にもっとよく見せて欲しいって言ったらタコちゃんマークⅢに追っかけ回されたのはいい思い出だ。意外と胸は小さく、ダウナーギャルは胸がデカいという幻想を抱いていた私は採寸の時に思いのほか小さな胸を見て、あれ? と小首をかしげてしまった。(露骨すぎてタコちゃんマークⅣに締め落とされた)
5! おじいちゃん!
最後! 『ボス』! この人は何というか、怖い! 怖いくらい綺麗な人! すらっとした手足! 女の私ですら羨む輝くような白い肌! 癖毛一つない流れる水のような長髪! これで男の人っていうんだから、これじゃあ女の面目丸つぶれですよ! 採寸の時にあまりの綺麗さについぺたぺたと触ってしまった私は絶対に悪くない! 悪くないったら悪くない!
そして私! 以上! これが秘密結社〝保健所〟のメンバーだ!
そして私はその秘密結社からある密命を受けていて、それは4人の要注意人物の動向をつぶさに観察し、報告する事だ。
それ以外は、いたって普通に高校生活を満喫してほしいとのこと。
……いや無理でしょ!?
気になってそれどころじゃないと思うんですけど!? ていうか私に演技力とか求められても困るっていうかどうしろと!?
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!」
「何だこのクソバカ」
隣に立っていたおじいちゃんが何か言った気がするけど、私はそれどころじゃなかった。頭を抱える。だってどうすればいいの~!
その時!
どんっという大きな音がして、それから。
「「うわぁ~!?」」
という悲鳴が空から聞こえた。うん、空?
悲鳴の出所を探して、抱えていた頭を上へと向ける。そして私は見た。着崩した他校の制服を身に纏い、様々な色に染め上げた頭髪の不良たち数名が情けない悲鳴を上げながら自然法則に乗っ取って落下してゆく光景を!
「「ぶっ!?」」
「落ちたな」
おじいちゃんが端的に呟いた。いやんでそんな冷静なの!? って言ったら。「お前が得てきた経験は、これしきの事で驚くような経験か?」と。
い、いや、まあそうだけど! そうだけどさ! それはそれ、これはこれじゃない? ここ数年あれ以上に高く、綺麗に投げ飛ばされた人たちを私は知っている。ていうか私も投げ飛ばされたし。確かに驚くには値しない光景だけど、それでもいきなりこんな光景に出くわしたら、やっぱり驚くに決まってる! 私は間違っていない!
そう考えると怒りが込み上げてきた。何を言うかこの老人は! この、言い負かしてやる!
鼻息も荒く口を開こうとして、しかしどこからともなく聞こえてきた頭の悪そうな高笑いに被せられ、私は結局何も言えないまま声のする方へ首を回す。
「だ~っはっはっは! どーだ、まいったか! これからは白昼ドードーカツアゲなんかすんじゃねーぞ!」
「「きゅう……」」
と、不良の一人を踏みつけながら現れたその少年は、びしっと指をつきつけながら啖呵を切った。
「へ~こいつか……なかなか元気のいい少年じゃないか」
「あわあわあわ」
おじいちゃんはのんきにそう呟くが、私は唐突に現れたその少年の事について頭がいっぱいだった。
短い茶髪の髪! 目つきは悪いが整った顔立ち! 思い切りはみ出たシャツ! 腰パン! そして物々しい古びた大剣!
それは、ボスから事前に聞いていた要注意人物の一人の特徴と残酷なほど一致していた。
『
「あわわ……、ど、どうしよう、おじい……っていない!?」
助言を仰ごうとは背後を振り返ったが、おじいちゃんの姿は影も形も無く、おそらく私が狼狽えている間にさっさと帰ってしまったようだ。
「は、薄情者~!」
信じらんない! 孫が狼狽えてるってわかってるのに普通どっかいなくなるって事ある!?
「だっはっは……あん? 何見てんじゃオラ―!」
「ぴえ!?」
堂々と直視しすぎたらしい。光黒君は私を見るや否やこっちにずんずんと近づいてきた!
「いや、あのう、そのう……」
「何だおめーはっきりしない奴だな。……さてはお前もこいつらにカツアゲされてたのか!?」
勝手に捲し立て、そしてなんてこったと一人納得した彼は倒れ伏す不良たちの懐をあさり、あろうことか中身を抜き取り始めたではないか!
「え、ちょ、あの!」
「待ってろ! 今渡してやっからな……よし!」
一通り抜き取り終えると、手にいっぱいの小銭やらお札やらを持ってわたしの前に立ち、ずいっと手の中のお金を私に押し付けてきた。
「わり、俺にはどれがどれだか分かんねーから、お前、これ全部くれてやるよ!」
「え!? だ、だから私カツアゲなんてあってないよー!」
「ダイジョーブだって! 別にお前みたいな
誰がもやしだ誰が! 確かに私は君(180前後)に比べればちっこい(150)が少なくとも
鼻息も荒く口を開こうとして、しかしどこからともなく聞こえてきた凛とした声に被せられ、私は結局何も言えないまま声のする方へ首を回す。
途端に目も眩む閃光が瞬いたかと思えば、ビュンッと勢いよく何かが発射され、私のすぐ目の前を通過した。
「うおぉ!?」
ぎりぎりで反応できた光黒君は後方に大きく退き、キッと下手人を睨みつけ、怒鳴った。
「何しやがんだ、こら!」
「黙りなさい! このような
私の前に庇うように立ち塞がった流れるような金髪の美しい少女が、光黒君に一切物おじせず負けずに怒鳴り返した。
いや、てゆうか貴方もですか『
「なんだか知らんがやるってならやってやんぜ! 俺は女にも容赦しないから覚悟しろよ!」
「上等です! 不良、死すべし!」
とか何とか考えてたらいつの間にか一触即発の空気になってる!? 光黒君は大剣を高々と掲げて今にも突っ込もうとしてるし、光さんは掌に光球を浮かべていつでも発射できるようにしていた。
へぇ~あれが『聖女』の〝光〟かぁ~。『光の神』から与えられた〝光〟じゃなくて、『聖女』の血筋が受け継いできた生まれながらの〝光〟の力。……比較する対象がいないからどう違うのかよく分からないや。
……じゃなくて! ど、どうしようこの空気! い、いっそこの二人を投げ飛ばして失神させちゃう? それでうやむやにしちゃう!?
(どうすればいいの~!?)
私が頭を抱えていても事態は一向に良くならず、今まさに二人してぶつかり合おうとした、その時!
「こら、入学早々何しているんだ! 二人とも早くその物騒な物をしまいたまえ」
「「は!?」」
(今度は誰よ~!)
全く意識外の第三者の声に私達は全く同じタイミングでそちらを見た。
校門の前に、腕を組んで仁王立ちする黒髪の少女、要注意人物の一人『
「ちぇ、生徒会長サマ直々のご命令じゃあしょうがねぇな」
「……フン、命拾いしましたね」
「お前がなー」
「何ですって!?」
「おぉやるか!?」
「こらこら、やめたまえ……やめ、止めろと言っている! えぇいや・め・ろ! いいかやめろ! 睨み合うな、この……!」
(なにこれ……)
額をつけんばかりに顔を近づけて睨み合う両者を苦労して引き剥がす長谷川生徒会長を、私は遠巻きに見つめることしかできなかった。
混迷を極める事態は、さらに加速する。
「邪魔だ、退け」
「えぇい止めろというに……む?」
そこには、最後の要注意人物『鳳凰院千歳』が、まるで虫を見るみたいな目を私たちに向けていた。
「む、君は」
「天下の聖光教の上級エージェントにして神代学園現生徒会長ともあろう者が、このような所で取るに足らない新入生同士の取るに足らない諍いに直接手を下しているとは、なるほど、神代学園はよほど平和なのだろう。生徒会長が遊んでいられるほどの暇があるとはな。あっぱれだ」
「「……」」
開口一番名乗りもせずに、ボスは……じゃなかった! 鳳凰院さんは心の底からバカにするように吐き捨てた。敵意を隠そうともしない鳳凰院さんに、それまで加熱した口論を広げていた3人は冷や水を浴びせられたように押し黙った。
「はん、小さなモノ同士仲睦まじく戯れている事、まことに結構。だが邪魔だ。盛り合うなら、もっと隅っこでやってくれ。目が腐る」
「やいてめぇさっきから黙って聞いてりゃなんだこら!」
「いきなりなんだというのですか貴方は!」
「よせ新入生!」
今にも飛び掛からんばかりに詰め寄ろうとする2人を生徒会長は制した。鳳凰院さんはつまらなそうに鼻を鳴らすと、そのまま校舎の方へと堂々と歩いていった。
「ムキ~待ちやがれ!」
「あ、こら!」
「抜け駆けは許しませんよ不良!」
「不良じゃねぇ、暗夜だ! 光黒! お前こそなんだ金髪!」
「私は光績です! 髪の色で人の事を呼ぶな!」
「(怒!)」
「(怒!)」
「あぁ、もう! なんというじゃじゃ馬たちだ!」
口論しながら鳳凰院さんを追う光黒君と光さんに思わず毒づくと、遅れて生徒会長も後を追った。
「な、何だったの、今の……」
一人残され、途方に暮れた私は、4人の背中を見つめながら、ただ呆然と呟くことしかできなかった。
私の入学デビューと初任務の始まりは、そんな不穏な感じで幕を開けたのだった。