影武者転生異常あり!~俺は悪役令嬢の影武者なんだ…誰が何と言おうが影武者なんだ!だから脇役でいさせろや!   作:三流二式

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『chapter1 鳳凰院千歳、登場!』

「こ、小柳みみ子でしゅ! これからよろしくお願いします!」

「おいみみ公、噛んでんぞー」

「「わはは!」」

「あう……」

 

 

 

 

 ■

 

 

 

 はい! 見事自己紹介を乗り切った私は小柳みみ子です! 

 

 

 入学式も終わり、割り当てられたクラスでの最初のホームルームであいさつと自己紹介が終われば、本日はお開きである。

 

 

 各々親交を深めるために近くにいる生徒に話しかける者。足早に教室を去る者などなど。教室は早くも学生たちの社交会場と化した。

 

 

 かくいう私もお話に洒落こみたいところだが、しかし要注意人物である光黒君がホームルームが終わるや否や足早に去っていた鳳凰院さんを追って教室を飛び出していってしまったため、泣く泣く私も彼らを追うために席を立とうとした。

 

 

 しかし、2人組の女子に話しかけられてしまい出鼻をくじかれれしまった。

 

 

「ね~みみ子~これからどっかいかない?」

「そーよそーよ! 行きましょうよ女子高生的遊びにさあ!」

「あ、あはは……」

 

 

 噛み噛みの自己紹介で受け入れられるか不安だったけど、意外にも私はクラスに馴染むことができた。それどころか友達までできちゃいましたよ! 

 

 

 というのも、今話しかけられた2人の内の1人の制服にほつれを見つけ、声をかけながら手持ちの裁縫道具でパパッと直したら、何か気に入られちゃったみたいで。あれよあれよと矢継ぎ早に話は進み、いつの間にか私のスマホのお友達一覧には新たな名前が加わっていた。

 

 

「ごめん、これからやらなきゃいけない事があるから!」

「何だ付き合い悪いぞ~! みみ公!」

「そうだぞもやし~」

「誰がもやしだ誰が!」

 

 

 どいつもこいつも私の事を馬鹿にしやがってぇ~! 

 

 

「ふんだ、もう知らない!」

 

 

 肩を怒らせてその場を去る。あんな奴らなんか知るもんか。仕方ない奴だなぁみたいな感じで肩を竦める2人の事なんか知らないったら知らない! 

 

 

 ぷりぷりと怒りながら教室を出て、角を曲がり、そして誰もいない事を確認するとスマホを取り出してあるアプリを開く。

 

 

 真っ黒な背景のパスワード入力画面が現れ、そこにコードを入力すると、私達〝保健所〟のロゴであるデフォルメされた首輪のついた三つ首の犬が表示された。そしてそれが消えると、4人の要注意人物の名前が現れる。

 

 

 私は光黒君の名前をタッチする。そうすると彼の現在の位置情報とそこまでの最短経路が示された。

 

 

「えっと場所は……校庭?」

 

 

 呟きと同時に、ずんっという腹に響く音が、丁度校庭の側から響き渡った。

 

 

「わわ、なになになによ~!?」

 

 

 毒づきながらも足は校庭の方へと駆け出していた。ボスの訓練の賜物だ。もう少し手加減してくれれば私としては文句は無いのだけれども……。

 

 

 下駄箱から靴を取り出して叩きつけるように置き、踵を潰さないように履くと、私は校庭に飛び出した。

 

 

 そして私の視界の先、校庭のど真ん中で、腕を組んで仁王立ちする鳳凰院さんと、縋りつくように大剣に身を預け、息を荒げて膝をつく光黒君が、そして遠巻きでおろおろする光さんが見えた。

 

 

「うわわ、何があったんですか!?」

「貴方は……今朝のもやしさん?」

「誰がもやしだ誰が!」

 

 

 事情を聴くために近寄ったら罵られたでござる。いや覚えておくにしたってもっとましな覚え方があるでしょ! 舐めてるんですか!? 教えに従って()っちまいますよこのやろ~! 

 

 

「見ての通りです。今朝の態度に納得のいかなかった彼が鳳凰院さんに詰め寄ったんです。売り言葉に買い言葉。ついには両者ともに手が出て、ご覧の有様です」

「そ、そうですか……」

 

 

 まあ予想は出来た事だけど、それにしたって手が速すぎませんか!? もっと話し合いで済ませようとかそういう考えは……無いんだろうなぁ。今朝のやり取りだけでも両者のそりの合わなさはほどほど痛感していた。

 

 

「こんにゃろ……まだ終わりじゃねーぞ!」

「はっ!」

 

 

 力を振り絞って立ち上がる光黒君に対し、鳳凰院さんは余裕しゃくしゃくの態度で鼻で笑った。

 

 

 力の差は歴然。勝ち目なんかないのに、それでも光黒君は古びた大剣を掲げ、突撃していった。

 

 

「はは、まだ力の差が分からんのか? 結構だ。なら何度でも跪かせてやろう」

 

 

 そういうと、鳳凰院さんはボウッと掌に黒い球体を作り出すと、光黒君に向かって発射した。

 

 

「チィまたそれか!」

「ははは、そうら避けて見ろよ!」

 

 

 光黒君は異能『破壊』から作り出された破壊球を右に左によけ続ける。遠巻きから見てるからわかる事だが、鳳凰院さんはあえて光黒君がかろうじて避けられる程度に弾速を制限していることが分かった。

 

 

「はお……」

 

 

 異能を使うものとして、私は素直にその技量に感心した。

 

 

 一発一発が絶妙に、しかしギリギリの所でかわすことができる弾速。そしてそれだけの操作をしているにも拘らずすさまじい量の弾幕。それら全てを一切損なわずにただ一個人を苛むためだけに向けられている。

 

 

 精神性はこの際無視するとして、彼女は間違いなく異能使いとして一級品だ。教団が彼女を幹部に仕立て上げるのも、なんとなくだけど納得した。

 

 

 しかし、かなり正確に発射する鳳凰院さんもそうだけど、それ等を回避し続ける光黒君も光黒君だ。

 

 

 手加減されているとはいえ身体能力と剣一本でしのぎ続けるのは並大抵のものはない。我流で鍛えたにしては、かなりの粘り強さだ。あらゆるものを問答無用で破壊する異能『破壊』の球体を弾いて傷一つつかない大剣も尋常のものではない。

 

 

 流石は()()()()()()()()()、と言った所だろうか? ボスから聞きかじった情報だけど、これだけのものを見せられれば納得しかない。

 

 

「あ!」

 

 

 と光さんが声を上げる。思考に耽っていた私はその声に我に返り、彼女の視線の先を見る。光黒君が球体の一つを避け損ね、仰け反っていた。

 

 

「ぐぉおお!?」

 

 

 途端に殺到する破壊球体。避ける間なんてない。何とか剣を掲げて防ごうとするけど、あまりの密度に大剣のガードはほとんど意味をなしていない。豪雨の中傘一本で立ち尽くすみたいに、光黒君はあっという間に包み込まれ、黒煙が晴れる頃には呻き声を上げて蹲っていた。

 

 

「光黒さん!」

「うわぁ~派手にやるなぁ……」

 

 

 あまりにも徹底的にやる物だから、光さんが慌てて光黒君へ駆け寄っていくのを尻目に私はドン引きしていた。

 

 

「平気ですか! 生きてますか! 死にますか!?」

「うぅ、うるせぇ、俺様が、こんな事で、死ぬか……」

「──────口ほどにも無かったな。()()()()()()()()()()()()()()()……」

 

 

 光さんが光の力で光黒さんを覆い、傷を回復させている傍ら、鳳凰院さんは心底失望したように言い捨てた。それからもう用は無いとばかりに踵を返す。

 

 

「待ちなさい!」

 

 

 光さんは去ろうとする鳳凰院さんをキッと睨みつけ、力強く呼びかけた。鳳凰院さんはうんざりしたように振り返る。本当に面倒くさそうだった。

 

 

「何だ? 私はお前に用はないぞ」

「私にはあります! どうしてこんな。ここまでする必要は無かったでしょう!」

「あるぞ」

 

 

 さも当然とばかりに鳳凰院さんは言った。

 

 

「そこの犬」

 

 

 と光黒君へ顎をしゃくりながら、彼女は続ける。

 

 

「調子に乗っていたようだからな。その鼻をくじいてやるのも上位者の務めであろう?」

「ッ! そんな事のために!」

「はは、そんな事でも大事な事だよ。下等な犬にとってはな。分るか? お優しい『聖女』殿」

「~~~~!!! もういいです! だったら私とも戦ってもらいます!」

「は! 血気盛んだな聖女殿! 今の貴様はまるで血に飢えた猟犬の様だぞ!」

「言っていればいいです! 私と戦って同じことを、果たして言っていられますか!?」

「ははは、逸るのは口だけか聖女殿。来てみろ。え?」

「言われなくとも!!!」

(うわ、なんだか大変な事になって来ちゃったぞ)

 

 

 光黒君を守るように仁王立ちする光さんの輪郭が、薄っすらと白い光が覆った。対する鳳凰院さんもその輪郭を黒く赤く染めると、光黒君へ放ったのとは訳が違うサイズの破壊球を作り出した。

 

 

 一触即発の空気。今にも破裂しそうなそこに挟まれる私は、今朝のように再びどうしようの大合唱に襲われていた。

 

 

(い、今なら誰も私に注意していないし、投げるか? 投げちゃいますか、全員!? それで昏倒させてうやむやに!?)

 

 

 はらはらと事の成り行きを見守っていると、校舎の方から大音声に、反射的に顔を向けた。対峙する2人も同じように顔を向けた。

 

 

「えぇいまたか貴様ら!」

「双方、矛を収めなさい」

 

 

 怒り心頭でずんずん近づいてくる生徒会長と、その副官である会長に負けず劣らずのナイスバディの『エミリー・コンバット』副会長が束ねた白髪を揺らしながら生徒会長より一歩半開けて近づいてきた。

 

 

「貴様ら全員生徒会室へ連行だ! 拒否権は無いぞ!」

 

 

 生徒会長は有無を言わさず私を含めた全員を生徒会室へ引っ張っていった。……私も!? 

 

 

「あ、あの、ま、私、ちが、違います! 私ただの野次馬で!?」

「問答無用です。大人しく来なさい」

「あうっ」

 

 

 いつの間にか私の背後へ回っていた副会長に肩を掴まれ、こちらの言い分などまるで聞かずに私も一緒に連行された。

 

 

「貴様らは入学早々──────」

 

 

 そこから永いながぁ~~~~~いお説教が始まった。登校の際の諍いを皮切りにくどくどと垂れ流される恨み言にも似たお説教。あまりにも捲し立てるものだから、私が無実であることを主張する暇すらない。

 

 

 更にその時の鳳凰院さんの尊大かつ一切非を認めない姿勢に生徒会長はますますヒートアップし、ようやく解放された時には陽が傾いていた程だった。

 

 

「は、随分とまああそこまで一人で盛り上がれるものだ」

 

 

 解放されるや否や鳳凰院さんはそう吐き捨てると、生徒会長が何か言うよりも早く足早に去って行った。

 

 

「~~~あいつはもう!」

「会長、頭を抱えるのならばせめて彼らが去ってからにしてください。生徒会の威信に傷が尽きます」

「──────はぁ、君たちももう行って良し。問題は起こすなよ」

「「……」」

 

 

 疲労困憊の私たちは返す言葉も無く、がっくりと項垂れながらぞろぞろと生徒会室から出て行った。

 

 

「……やっと終わった」

「……入学早々なんという事でしょう」

「……うぅどうして私が」

 

 

 三者三様、私達は各々愚痴を吐くと、のろのろとした足取りで学校から出て行った。

 

 

 校門を抜け、同じ通学路を、のろのろと歩く。私達の間に会話は無い。いろいろ言いたいことがあったけど、疲れすぎて、言葉が口をついて出てこないのだ。

 

 

 たくさんの言葉が胸の内の沈んでいき、わだかまり、淀んでゆく。

 

 

 重い雰囲気に耐え兼ねて、顔を上げ、空を見上げる。血のように赤く染まった空が、最後の抵抗とばかりに私たちの頭上に光の残骸を投げかけてゆく。

 

 

 これから世界は夜に入る。太陽の光が駆逐された後には、欲深いけだものたちが身をもたげ、油断ならない視線を走らせながら今日の得物を求めて奔走する、刻魔が時間が訪れる。

 

 

 早速けだものたちは獲物を見つけたようだ。

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