影武者転生異常あり!~俺は悪役令嬢の影武者なんだ…誰が何と言おうが影武者なんだ!だから脇役でいさせろや!   作:三流二式

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『企業間談合接待』②

「──―ならばその商品のサブリミナルを仕込むように放送局に掛け合おう。たしか▽▽放送がちょうどそんな事を欲しておった。僥倖である」

「ハハーッ! 大変お世話になっております閣下!」

 

 

 談合はつつがなく進行していく。

 

 

「そういえばカセマ社殿、例の新しくできる移民の支援企業の株式の公開はいつでしたかな?」

「あぁその件でしたなら滞りなく。入金していただければ直ちに発行しますよ」

「それは重畳ですな」

「移民保護法が改正されたあおりを受けて結構な金が流れてきましたからなぁ。移民の方も、くくく、それはもう沢山捕獲出来ましたとも!」

「こらこらそんな言い方失礼ですぞ。丁重に保護してあげたと、ウフフ、言って差し上げねば。故郷の地から這う這うの体で我が国へと来ていただいたのですからな!」

「自分から奴隷になりに来るとは、殊勝な心掛けですなぁ」

「「わっはっは」」

 

 

 開示されたいくつもの未公開株式にいそいそと入金する貪欲な魔物たち。

 

 

 彼等を表すのなら、暴食(グラトニー)、あるいは大ナマズ、あるいは掃除機、あるいは栓の抜かれたバスタブ。

 

 

 人は誰しも心に穴が開いている。埋めようのない深い穴が。それを埋めるために我々は何かしらを病的に求めている。女、金、あるいは権力、人々の支持。

 

 

 どうせ埋められるはずなんてないのに、しかしそれでも求めてしまうのが人の性。

 

 

 必死に追い求めていたものがいざ手に入ったとして、よくよく見れば全く意味も無い物だったなんてことはしょっちゅうで、それ等を積み重ねていくうちに、追い求めたものは自分では一生手に入らないと否が応でも悟るのだ。普通ならば。

 

 

 だが彼らは不幸にもたくさんの物が手に入れられる力を持ってしまった。当然それは人の手に余る代物で、彼らは決して手に入る筈もない何某かを延々追い求める破目になってしまった。

 

 

 権力を持つことが、必ずしも幸福だとは限らない。とりわけ分不相応な小物たちにとっては特に。そういう連中が権力を持ってしまったらもうお終いだ。

 

 

 破滅に向かう一方通行のトロッコに乗せられたようなものだ。必死にしがみついている間は何も見ている暇は無く、気が付けば奈落の底へ真っ逆さま。ご愁傷様。誰も助けちゃくれない。それどころか嬉々としてその血肉を啄みにやってくる。ハゲワシの如く。蝗のように。

 

 

 散々暴利をむさぼった豚の末路は骨までしゃぶられ、全てをしゃぶりつくされた後は造作もなく捨てられる。

 

 

 いついかなる時代、いついかなる場所でもそれは連綿と続く法則であり、俺たち人間はその法則から決して逃れられはしない。

 

 

 彼等はそれが分かっていない。いや、むしろ分かっているからこそかもしれない。

 

 

 恐らく彼等は求めているのだ。自分を破滅させてくれるものを。手を伸ばすことを止めてくれるものを。終わりを告げる福音の音を。

 

 

 だからこそ、彼らは破滅の影が視界の端にちらついているにも関わらず、止めようとはしないのだ。

 

 

「うむ、実に実りのある話であった。褒めて遣わす」

「「ハハーッ! ありがとうございます!」」

 

 

 4社の社長は鳳凰院社長へと深々と頭を下げた。

 

 

「うん。面を上げよ」

「「ハハーッ!」」

 

 

 顔を上げた4人の瞳は欲望でぎらぎらと光っていた。貪欲な瞳がチラチラとこちらに向くのをうんざりと受け止めながら、その時が来るのを待った。こんな感情の中でも笑わなきゃいけないだなんて、一体どういう拷問だ? 俺はここまでの罰を受けなければならない程カルマが穢れているとでもいうのだろうか? 

 

 

「長々と話していて疲れたであろう。ここいらで心機一転、お主たちの男として(さが)を解き放とうではないか」

 

 

 鳳凰院社長は手を叩いた。すると会議室の入り口が開き、ぞろぞろと綺麗所のお姉ちゃんお兄ちゃんが入ってきた。どいつもこいつも娼婦や男娼になるべくして生まれたような面をしていた。

 

 

 こいつらの纏うきらびやかな衣装はその実薄汚い素性を隠すためのガワに外ならず、卑しい素性というのはどうしたってその所作や雰囲気に滲み出てくる物だ。

 

 

 それをさらに性交渉時に相手を喜ばせることに喜ぶといったどうしようもないことに生を実感しだしたら、もうたまらない。

 

 

 そいつは一生自分が男を手玉に取っていると思い込む破目になり、何れ年老いて唯一誇っていた見た目が使い物にならなくなった時に、ようやく自分が唯ありとあらゆるものを取り零していったことに気づかされるのだ。

 

 

 やけに詳しいじゃないかって? 現在進行形で自分がその役に就かされているんだぞ。自分を含めたすべてに恨みつらみを吐き捨てるのは、決して悪いことではないはずだ。

 

 

 同族嫌悪的な感情に流されるなんてのは愚の骨頂だが、俺はあいつとは違うと思い込む事くらい誰にだって許されるはずだ。

 

 

 俺はあの薄汚い娼婦どもと違う。私はあの娼婦のまねごとをする男とは違う。僕は女のふりをすれば性別を超越できると思い込んでいる男とは違う。あたしは香水をつけていれば血の匂いをごまかせると思っている思い上がりとは違う。

 

 

 真っ先に俺に手をつけたのは、果たしてカセマ社だった。他の連中も残念そうな一瞥をこっちに向けつつもちゃっかり好みの嬢の手を取っていた。

 

 

「では楽しむと良い」

 

 

 鳳凰院社長の一言で一同は会議室から出て各々個室へと入り込んでいった。

 

 

 通された個室は権力者らしい毒々しく禍々しいうす暗い蛍光ピンク色の光りに満ちた広大な部屋だった。

 

 

 中央にキングサイズのベットが重ぐるしい空気を押しのけるように我が物顔で居座っていた。明らかに後から運ばれたものであることは一目瞭然で、良く見れば壁をぶち抜いて2部屋分を強引に1部屋にしている事が見て取れた。

 

 

 ベット上には各種行為のための様々な()()がばら撒かれており、これからそれらが自分の身に振るわれるのかと、戦々恐々としていた。

 

 

 ボーっとそれらを見ていると、辛抱効かなくなったのか、鼻息を荒くさせたカセマ社長が俺の肩を掴み、ベットへと押し倒した。

 

 

「フーッ! フーッ!」

 

 

 脂ぎった顔がすぐ間近に迫る。血走った眼。獲物を前にした野獣の眼。まるでお預けを喰らった飢えた野良犬のようだ。

 

 

「いけませんわ閣下。時間はたっぷりあるのです。そんなにがっつかなくとも私は逃げはしませんよ」

 

 

 薄っぺらい男の、薄っぺらい言葉。それは空気よりも軽く、奴の耳に入るよりも早く雲散し、毒々しい空気へと溶けていった。

 

 

 鼻息荒く俺の首筋に鼻を埋めるこいつの頭を掻き砕かなかった俺を、どうか褒めて欲しい。こんな事を毎回飽きもせずに繰り返す娼婦の兄ちゃん姉ちゃんには尊敬の念を禁じ得ない。俺じゃ無理だ。こんな事を延々繰り返していたら、そのうち客の()()を握りつぶしてしまうに違いない。

 

 

 オートで炊かれた香から漂う煙はさながら蓮の池地に漂う霧さながらで、思わず煙の彼方に八百万の神々の姿を探してしまう。

 

 

 神々よ、ご照覧あれ。ここに苦行の果てにニルヴァーナへと至らんがために責め苦を受ける我の魂にどうか救いあれ。服をまくり上げ、腹に舌を這わすこの愚豚の悪魔に災いよ、来たれ。

 

 

 飽きたのか、それとも十分に満足したからかどうか知らないがカセマ社長は顔を上げた。血走った眼は潤んでいた。その先を期待するかのように。

 

 

 内心で心底呆れながら、努めて微笑みで顔を固定すると、奴の期待を煽るようにゆっくりと下着に手をかける。

 

 

 奴のごくりと唾を無音がこっちまで聞こえた。

 

 

 さてローションは何処にあったかな。いや先ずは前戯からか? しかし奴のいきり立つモノは果たして前戯なんてまどろっこしい物を受け入れるだろうか? 

 

 

 そんな事を脳裏で考えている時だった。

 

 

 微かに喧騒の音が耳朶を震わせた。違和感も感じない程の微かな響きだったが、闘争に肩までどっぷりとつかった我が第六感(センス)はそれを当然の如く拾い上げ、俺に確かな違和感を抱かせるに至った。

 

 

 下着に手をかけた手を放し、耳に片手を当てて研ぎ澄ませる。カセマ社長は突然の俺の奇行に訝るように眉を顰めたが、違和感よりも欲望が勝ったようで、再びのしかかってきた。

 

 

 豚のうるさい鼻息に難儀しながら、俺はどうにか外から聞こえた微かな音を拾い上げることに成功した。

 

 

『──―包囲完──―いつで──―』

『ようやっと見せ──―尻尾──―』

『全員捕縛重点──────』

「──────閣下」

 

 

 自分でも驚くほど冷たい声が出た。あまりの冷たさに色に狂っていた豚すらも一瞬で我に返ったほどであった。

 

 

 それと同時に備え付けの黒電話型通信機が高らかに鳴り響き、俺がそれをスピーカーモードに変えるや否や、閉ざされた楽園に唸るような吠え声が轟いた。

 

 

『社長! カセマ社長! こちち○○ビル警備員です! 閣下! け、警察が! 警察が○○ビルを包囲しております!』

 

 

 報告を聞くやカセマ社長は口をぽかんと開けたまま放心し、それから慌てて立ち上がった。まるで逃げ出した魂を捕まえようとするかのように。

 

 

「閣下、私のそばに」

「えっ!? あ、あぁ」

 

 

 身支度を整えた俺は奴が何事かしでかす前に先手を打って前に出た。先程までの熱狂的な姿勢は鳴りを潜め、生贄に差し出された羊のような挙動不審気味に俺の背に縋りついた。

 

 

 外へ出ると喧々諤々とはまさにこのこと。あちこちで怒声や悲鳴が行き交っていた。

 

 

 部屋からころがるように飛び出した社長たちは血走った目で周囲を睨みまわすが、配下を引き連れた鳳凰院社長が解き放った黒い者たちがその首根っこを引っ掴んだ。そして有無を言わさぬ声音で一方的に告げた。

 

 

「おいカセマ社。此度の不祥事は全て○○社社長個人が独断で引き起こした。我々はこの場にはおらず、真相を知ったのは今日の1800だ。異論は無いな?」

 

 

 じろりと鳳凰院社長がカセマ社長を見る。カセマ社長は壊れた機械のようにぶんぶんと頭を縦に振った。

 

 

「そうか。ではわしは先に行く。貴様らはもう少ししたら地下通路から出るが良い」

 

 

 そう言い捨てると、背後に控えていた闇の者が鳳凰院社長の肩に手を置き、バツン、という音と共にその姿は一瞬にして消え去ってしまった。『ワープ』の異能である。厄介な。

 

 

 残された社長共は黒い者に首根っこを引っ掴まれ、言葉を発せない状態で互いに目を向け合いながら、視線だけで互いに罵り合っていた。

 

 

 それから連絡がきた順に地下通路へと消えてゆき、最後に残ったのは俺とカセマ社、そして黒い者の3人だけ。

 

 

 等間隔で呼び出されていたはずなのに、俺たちに限っていえばなかなか連絡が来ることが無かった。とうとう暇を持て余した黒い者が俺にちょっかいを出す始末だった。

 

 

 うんざりしながら黒い者の愛撫を黙って受け入れていると、地下通路へと続く非常階段の扉が外側から開かれた。

 

 

 俺たちは一斉にそちらへと目を向ける。そこにいたのは○○社の社長である丸々社長を引き連れた黒いローブを頭からすっぽりとかぶった()()()()()()()であった。

 

 

「ひ、ひぃ……」

「さっさと歩け。引き渡すぞ」

 

 

 丸々社長の悲鳴にかき消されるほどの小さいくぐもった声が聞こえる。俺は天を仰いだ。

 

 

 丸々社長の尻を蹴っ飛ばしながら小柄な黒い者は俺の前に立ち、そして言った。

 

 

「今回の事件は教団より放たれた黒い者が○○社社長を脅迫し、それによって引き起こされた事件だった。どうです?」

「…………えぇ、その通りです」

 

 

 片手で顔を覆いながら、俺は肩に手を置いて抱き寄せた状態で固まる黒い者の喉笛に手刀を突き刺した。もうどうにでもなれ、そう思いながら。

 

 

「──―ゲッ」

 

 

 掠れた声を口腔から絞り出すように発した黒い者は、びくびくと震えたのち、動かなくなった。

 

 

「「え゛ッ!?」」

 

 

 目を剥いて驚く社長2名に俺はにっこりと微笑みながら肩に手を置いて抱き寄せ、耳元にそっと囁く。

 

 

「御二方に良いお話があります。聞いていただけますね?」

 

 

 がくがくと震える2人に、俺は抱き寄せた肩を握り潰さないように努力しながら、ゆっくりと言う。

 

 

「私は前々からあなた方に目をつけていました。理由は貴方方が良くご存じのはず」

「ッ!? ま、まさか私が奴隷の数をごまかしていた事か!?」

「わ、私が本来渡すはずだった新型麻薬の試作品を横領していた事か!?」

 

 

 言って、両者は目を見合わせた。互いの眼は信じられないといったように見開かれ、それから驚愕により空白となっていた感情の穴に尋常ならざる憎悪と憤怒の感情が沸き上がった。

 

 

「その通りです。あなた方の反骨心に、教団への反抗の意志に私は目をつけていました」

「「えっ」」

 

 

 再び2人の心は一致したように同時にこちらへと目を向ける。また心に空白が空いた。その空白へ畳みかける様に言う。

 

 

「そうです。貴方方の心は教団に屈したように見えて、その実隠し切れないファイティングスピリットに燃えている。だからこそ貴方方は実行に移した。民の数をごまかして伝えた事も、新型麻薬の相場を勝手に変更したことも、全ては無意識化の反骨精神(ファイティングスピリット)によるものです」

「「──────」」

 

 

 ぺらを回す。ぺらを回し続ける。俺自身も何を言っているのかチンプンカンプンで、ならばそんな俺が言った言葉などこいつらはもっとチンプンカンプンに違いない。

 

 

 だがそんなチンプンカンプンな状況を制するのは、ぺらを回している奴の熱量である。俺は必死だった。俺のプランは全て崩壊した。だが少なくとも目標であった奴と、おまけに藁にも悪魔にもすがろうとする奴が供物のように並んでいる。

 

 

 チャンスを掴むのはいつだって死に物狂いでゴールの帯を引きちぎった者だけだ。俺はしゃにむに捲し立てる。掴むために。より暗い地獄へ。より深い深淵へ。

 

 

「私は押しかかる濁流の如き強大な闇を見てなお決してくじけぬ貴方方の金剛石の如き勇気に感服いたしました」

 

 

 胸に手を当て、目を閉じる。いかにも感じ入っていると思わせるために。

 

 

「故にこそ我々の協力者として、あなた方を選んだのです」

「し、しかし教団の手は幅広い。いくら我々が手を取り合ったとしても、勝ち目など……」

「あります」

 

 

 力強く断言する。短く、しかし迷いなく言えば、そこには力が籠る。更に迷いなく見つめてやれば、もう勝ったも同然だ。その証拠に俺の口車に乗せられた豚2匹は目を輝かせて俺の話に聞き入っていた。恐らく頭の中では教団が消えた後、陰ながら英雄を支援していたとして称賛鳴りやまぬ中で向こう千年会社の繁栄が約束された自分の姿でも夢想していることだろう。

 

 

 俺は改めて2人に手を差し出した。2人の哀れな契約者は迷いなくその手を取った。

 

 

「ありがとうございます。ようこそ、『保健所』へ」

 

 

 俺は満面の笑みを浮かべてやった。俺の後ろ、屍となった黒い者の喉笛に空いた穴から、ごぼりと音をたてて血泡が噴き出した。

 

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