影武者転生異常あり!~俺は悪役令嬢の影武者なんだ…誰が何と言おうが影武者なんだ!だから脇役でいさせろや! 作:三流二式
『本日午後2時ごろに発生した○○ビル爆破事件ですが、警察からこの事件の犯人は『教団』の黒い者が単独で行った自爆テロという事で見解は一致しており──―』
「さて」
カーラジオを切り、俺は改めて運転手へ、ポメラニアンへと説明を求めた。
「私が言いたいことは分りますか?」
「えぇ。完璧な仕事ぶりっすね。我が事ながらほれぼれします」
「……」
ルームミラー越しに睨みつける。ポメラニアンは肩を竦めた。
「綾子」
「分かってますよ。何で談合の事をリークしたんだって事っすよね」
「分かっているのならば話は早いです」
ポメラニアンはやや躊躇うように視線を彷徨わせ、観念したかのように口を開く。
「ボス、あんた言いましたよね? 結果さえ良ければ過程なんかどうでもいいって」
「そうですね。……だから何ですか?」
「ウチらは必死になって考えました。どうすればボスがあの豚共の魔の手にかからないで済むかって。それで思いついたんです。現地には黒い者もいる。だったらあえて談合の話をリークして警察を向かわせて、突入する寸前にビルを爆破すれば談合の話はうやむやに出来るし、近くに黒い者の死体でも置いておけば勝手にテロ事件って事になるんじゃないかって」
「……リスクが高すぎますね。その上成功する確率があまりにも低い」
「でも成功しました。結果良ければすべて良しっす。言われた事には何も反していませんよ?」
「~~~~~~……」
ため息を吐き、背もたれに体を預け、天井を睨む。
確かに結果さえ見れば大成功と言える。不正しているカセマ社だけを狙って脅しかけ、『保健所』のスポンサーになってもらうつもりだった。しかし蓋を開けてみればカセマ社のみならず○○社までついて来た。
結果だけなら大成功だ。結果だけなら。
「私は、賭け事が大っ嫌いです」
「……」
おもむろに切り出す。
「確率に左右され、運という不確かな要素により失敗するなど虫唾が走る」
「……」
ポメラニアンは無言だ。
「だからこそ計画を練り、機会を待ち、その時が来たら最小限の時間で最大の成果を得る。私が求めている事は、突き詰めて言えばそういう事です。不確定要素が入る余地などありません」
「だからってそんな、本当に何でもかんでも
「だから何でもやったでしょう?」
「──────」
ポメラニアンは唇をかみしめて、今にも泣きそうに目を伏せた。
「──────分かり、ました」
「貴女たちが私を想ってくれること自体は好ましく思っています。ですが、言った通り、私は不確定要素を酷く憎悪しているのです」
車が停車した。俺はドアを開けて外へ出る。
「貴女達の忠誠心はよく知っています。しかし、はき違えないでほしいのは、私を守ろうとする貴女たちの想いと、私が考えている事は違うという事です」
「ウチらの想いと、ボスの考えの違い……」
口に出し、言葉の意味を反芻するポメラニアンの手をそっと握る。
「どうか分かってください。私は止まるわけにはいかないのです」
どれだけ穢れようと、生きて逃げられれば勝ちだ。その過程を、俺は考慮しない。懸念しなければいけないのは、こいつらはそれを許容できないという事だ。
「──―ボス、あんたの事は好きですよ。でもそういう、決めた事は絶対曲げない頑なな所は、嫌いです」
キッと睨みつけているつもりなんだろうが、眼は潤んでいまにも涙がこぼれ落ちて来そうで、震える口元から発せられた声は覇気が無い。
「たとえどう思われようとも、私はやめるつもりはありません」
「でしょうね。あなたはそういう人だ」
ポメラニアンはぐしぐしと涙をぬぐい去ると、そっぽを向き、アクセルを踏み、そのまま走り去っていった。
運転手に影響されてか、やけに小さく見える車のケツを見つめながら、俺は深くため息を吐いた。
俺の最終目標はこの舞台から消えること。しかし、あいつらの目的は俺の目標(当然内容は伝えていない)を支えること。恐らく命尽きるその時まで。
その忠誠心は素晴らしいと思う。こんなどうしようもない小物には過ぎた部下たちだ。
しかし、あいつらは何というか、俺の事を神聖視しすぎているきらいがある。そんなことある筈もないのに。
そのまま裏路地へと入り、誰の目も無いことを確認するや、全身の力を一瞬抜き、それから一気に踏み込んだ。
ありとあらゆるものが一瞬で過ぎ去り、俺は『巣』のドアのノブを捻り、中へと入っていった。
部屋は真っ暗だった。人がいないのだから当然だが。電源を入れて照明をつける。
「あぁ、お帰り。楽しかった?」
「んひッ!?」
真後ろから、息がかかるほどの近距離で、女の声が聞こえた。
肩を跳ねさせ、ばっと背後を振り返る。薄笑いを浮かべたレトリバーがそこにいた。
あ、あのガキども! なんという事をしてくれたんだ! よりにもよって萌の奴に作戦のことバラしやがったな!
「レトリバーですか。ただいま帰りました。えぇ、なかなか実りある結果でしたよ」
「ふぅん。そう」
にこにこと笑みを浮かべながら、レトリバーは一歩踏み出した。俺は一歩後ろへと下がった。
「可愛い恰好ね。あんたの趣味?」
「これは指定されたものですよ」
一歩前へ。一歩後ろへ。
「香水まで付けちゃってさ」
「万が一にも失礼があってはいけませんからね」
前へ。後ろへ。
「それで? 満足してくれたの? ねぇ?」
「えぇ、双方ともに大満足の結果でしたよ」
前。後ろ。ソファーがある事に気が付かず、そのまま倒れ込む。萌の奴も一緒に。
「満足? へぇ。満足したんだ。男なのに、男とエッチして満足したんだ」
俺の上にのしかかった萌は股の間に膝を差し込み、手と手を重ね合わせ、指を絡めた。
「残念ながら想定外の事態が起きて最後まではしていま」
最後まで言い切る前に、俺の横にタコちゃんの機械触手が突き立った。
「だから、なに」
細められた瞳は見開かれ、形の良い眉がつり上がっていた。
「私、その作戦の事なんにも知らされてないんだけど」
「この作戦に必要だったのはあの3人だけで」
「だから! なに!」
何だ? なんで俺は糞みたいな状況を乗り越えたと思って帰ってきたら爆弾の解体作業をさせられているんだ!? 沸点が分からん。一体こいつは何にキレてるんだ!?
「物だけ作ったら、私の役目はそれで終わり!? へぇ、だったら私をあんた達の企みに加える必要なんか無いわよね?」
あ? こいつまさかハブられたことに怒ってんの?
「作戦の事を伝えなかったことに対してですか?」
「へぇ分かってるじゃん。そうよ。なんで?」
「言った通り必要なのは彼女達だけでした。世の中には万が一というものがあります」
「だから作戦に関わる奴ら以外にはだんまり? は!」
萌の奴は鼻で笑った。
「万が一があるっていたわよね? だったらなおのこと何かあった場合のバックアップ要員が必要だとは思わない? それとも私たちはそれにすら値しない程力不足だってわけ?」
「いえそんなことは」
「だったら何で頼ってくれないのよ!!!」
萌は吠えるように言った。部屋が揺れるようだった。
「そう思ってるんだったら頼りなさいよ! 私も、みみ子も、みみ蔵爺さんだって! 言ってくれればいくらだって力を貸すわ! 他ならないあんたの頼みだったら!」
手を放し、力なく俺の胸を叩く。水滴が頬に垂れる。萌は泣いていた。
「頼ってよ! あんたは自分の事どうとも思っていないんでしょうけど、一二も綾子もリリーだってあんたが心配でしょうがないのよ? いつか消えるんじゃないかって。分ってよ。居なくならないでよ。お父さんとお母さんみたいに……消えないで……」
「……」
項垂れる萌は声を上げて泣いていた。
これがまあこいつの本心なのだろう。おいおい泣く萌を見上げながら、ぼんやりと考える。
正直こいつらの事をどこか侮っていた。俺に対してまあ上下関係は理解してるだろうなと漠然と考えてはいたが、まさかここまでとは。
しかし消えないで、か。消えるんだよなぁ。でもこいつらがなぁ~。でも表にいたら否応なく碌でもない事に巻き込まれるからなぁ~。
まあ、後の事を考えても仕方がない。今は目の前の事を考えよう。俺は項垂れる萌の肩に手を置いた。
「……放して」
払いのけようとするが、抵抗はあまりにも弱弱しく、俺はそのまま萌を抱き寄せ、その頭を胸に押し付けた。
萌は抜け出そうともぞもぞと動いたが、やがて動かなくなり、俺の背に腕を回し、すすり泣いた。
((これはたから見たらすごい光景だろうな~))
娼婦さながらな格好の女のような男に縋りついて泣く18歳の少女。恐ろしくインモラルな光景だ。見る奴が見れば反射的に異能をぶっ放しても、まあしょうがないと言えた。
「気は済みましたか?」
「……うるさい」
声をかけるが、萌はより強く顔を押し付け、離れようとしない。仕方がないので頭を抱く力を強め、気が済むまで抱き着かせることにした。
「消えませんよ」
「……」
俺は嘘を吐く。
「えぇ、消えませんとも。元よりそのために戦っているのですから」
「……」
嘘と本当。
「だからどうか泣かないで。あなたにはそんな顔をして欲しくないのです」
顔を上げた萌の額に額を重ね、眼を見ながらゆっくりと言葉を紡ぐ。
「……」
泣きはらした目元は真っ赤に染まり、未だ目の端に涙が堪り、今にも零れ落ちそうで。瞳に宿る感情は悲しみ、怒り、そして何かを期待するように揺れている。
「ん……」
そして、目を瞑った。
言わんとすることは分ったが、こいつの思う通りにするのは、何というか、癪に障る。
だから俺は髪をかき上げ、その額に口づけをすることにした。目をしばたいて俺を見る萌に、俺は唇に指を添えて、言う。
「今はまだこれだけ。ね?」
「──────」
これで萌が納得するとは思えない。こいつの性格上馬鹿にされたとか子ども扱いするなというのは目に見えているが、それでもやってしまうのは俺という人間があまりにも反骨精神にあふれているからだ。俺は何かを強制されると、反抗するのを止められない。
なんてことを現実逃避気味考えていると、突如としてボン、という音と共に萌が弾かれたように立ち上がり、そのまま俺に背を向けて走り去っていった。
ばたんと音をたてて閉じられるドアを茫然と見つめながら、俺はぼそりと一言。
「何だってんだ、一体……」
ただ一つ分かる事は、ようやく俺は一息つける、という事だった。
俺はそのままソファーに体を預け、体を脱力させて、目を閉じる。睡魔はたやすく俺の意識を飲み込み、視界は黒く飲まれていくのだった。
萌ちゃんの性癖はもうボロボロ