影武者転生異常あり!~俺は悪役令嬢の影武者なんだ…誰が何と言おうが影武者なんだ!だから脇役でいさせろや! 作:三流二式
1「ジャンク屋『
「おい、まだ着かないのか?」
「もうちょっと、もうちょっとだから!」
「こんな裏路地始めて通りました」
みみ子を先頭に、暗夜と績を含めた3人が、陽の光が届かぬ薄暗い路地裏を、まるで未開の地探検隊の如くおっかなびっくりと進んでいた。
「もうすぐ……あ、見えた! あそこだよ!」
みみ子が指を指した先に、それはあった。
廃車の山、歯車やナット、ボトルの川、用途不明の機械の残骸に囲まれて、その建物はなお埋もれず、力強く存在を主張していた。
雄々しく掲げられた看板には『
「へぇ、何か貫禄あるじゃん?」
「凄い廃材の数です」
「こっちこっち!」
数多のジャンク品を物珍しそうに見まわす2人に、みみ子は勝手知ったるといった風に廃材の中をひょいひょい進んでゆく。
「あ、おい待てよ!」
「見てくださいアヒルのゴムおもちゃですよ! 可愛いですね!」
「いや今それどころじゃねぇからな!?」
目を輝かせてゴムのアヒルを見せつけてくる績に暗夜は突っ込み、しゅんとする彼女を引っ張って、みみ子の後を追う。
「すみませーん! 店員さんいますかー!」
「おい待てって!」
「中はもっとすごいですね」
みみ子を追って店内へ入った2人が見たのは、足の踏み場が無い程の凄まじい量のジャンク品であった。
たったか先へ行ってしまうみみ子の背中を、物珍しさにすぐ足を止めようとする績の手を引っ張りながら、暗夜は苦労してみみ子の背中に追いついた。
「あのー! 誰かいませんかー!」
「えぇい案内役が連れを置いて行くな、このボケ」
「あう!」
大声で姿の見えない店員に呼び掛けるみみ子の後頭部を、暗夜はぽかりとひっぱたいた。
「な、何するのよー!?」
「やかましい、このもやし!」
「だ、誰がもやしだ! この! 分からせてやる!」
「見てくださいブリキのおもちゃですよ! 凄い古いタイプです! お宝ですよお宝!」
「お前はちょっと黙ってろ!」
腕をぐるぐる回して突撃してくるみみ子の頭を押さえながら暗夜は怒鳴りつけた。しゅんとした績はそっとブリキおもちゃを元の場所に戻すと、またぞろ廃材の山をあさり始めた。
「……うるさい」
そんな時である。作業室に当たる部屋からのそりと顔を出したのは、
「誰あんたら? うるさいんだけど?」
「こんなろー! うんなろー! ……うん? あ!」
夢中になって突撃していたみみ子はそこで少女の存在に気が付き、頭を掴まれた状態で器用に身を捻って少女に向き直ると目をしばたき、それから慌てた様子で自己紹介した。
「うわ! うわわ! あ、ど、どうも!
「俺様は光黒暗夜様だ!」
「初めまして、光績といいます」
「……田所萌」
みみ子を始めとして、各々自らの名を告げ、そして最後にうんざりと首を振って萌が名乗った。
「で、こんな早朝に何の用? 私暇じゃないんだけど?」
「それは、こいつのためだぜ!」
と暗夜はあの古びた大剣を虚空から取り出し、萌の前に高々と掲げた。
「──────ッ!!!」
瞬間、萌は目を見開き、それから眉を吊り上げて大剣を暗夜の手からひったくった。
「あ! おい何しや」
「うるさい! よくもあんたこんな!」
問いただそうとした暗夜に、萌はすさまじい剣幕で怒鳴りつけた。あまりの剣幕に、暗夜は思わず手を引っ込めた。
「あぁなんて可哀そう……うんうん、わかるわ。あんたもこんな不甲斐ない奴に使われてうんざりしてるんでしょ? ……だと思った! 全くもう!」
まるで剣と話をしているかのごとく相槌を打ち、慰めるように表面を撫でる萌に、暗夜とみみ子は目が点になって棒立ちしていた。績はガラクタの山から難儀してブラキオサウルスの模型を引っ張り出していた。
「3日よ」
「え」
「3日でこの子を整備してやるわ!」
二の句を告げない暗夜に、萌はキッと睨みつけながら捲し立てた。
「それまでこの店に入ってくるな!」
「うぉおお!?」
「ぎゃあ!?」
カウンターから取り出した、いかにもジャンク品で作られたと思しきガトリングガンを突きつけながら萌が吠えた。
暗夜とみみ子は大慌てで店の中から飛び出していった。
「これ可愛いですね! いくらですか?」
「あんたもとっとと出てけ!」
「痛い!」
木材で作られたカメレオンをカウンターに乗せて嬉々として聞いてくる績へ、萌はぽかりとひっぱたいた。しゅんとした績は財布から一万円札を取り出してカウンターへ置くと、カメレオンを胸に抱き、とぼとぼとした足取りで出て行くのであった。
2「教団第××支部」
イミテーションは闇の者の繰り出した恐るべき透明の風の刃を潜り抜け、すでに24の打撃を叩き込んでいた。
「ぐほっ!?」
「はあ!」
「ぶっ!」
突き出た顔面に右フック!
二転三転して地面に叩きつけられた闇の者に一瞬で距離を詰めたイミテーションはマウントポジションを取り、拳を叩き込んだ!
右拳!
「ギギッ!?」
左拳!
「ブエッ!?」
拳を叩きつける度、どんどん闇の者の頭は陥没していき、ついにはブツンと音をたてて千切れ、地面の染みとなって消えた。
「ハァー……」
イミテーションは太い息を吐いた。
『闇の者の反応消失を確認。傷はどうだ? 平気か?』
「問題ありません」
トサケンへ短く返しながら、イミテーションは胴についた傷を撫でる。
鼬の最後っ屁めいて死ぬ間際に放たれた風の刃は、イミテーションの体を深く切り裂いていた。立ち上がる際に血が吹きこぼれたが、イミテーションは一切頓着せず、すでに動き始めていた。
一瞬体の力を抜き、瞬時に力を爆発させ、駆けだす!
全てが瞬く間に過ぎ去り、何十キロも遠く離れた地点に一瞬で出現したイミテーションは今まさに犠牲者を喰らわんとしていた闇の者のがら空きの胴体へ不意打ちの飛び蹴りを叩き込んでいた!
「ぐぉおおお!?」
吹き飛ぶ闇の者へ脱力、踏み込み、背後へと出現したイミテーションは身を捻り、背中から肩にかけて体当たりを叩きつけた。これは八極拳の奥義、鉄山靠である!
「がはっ!?」
連続で大質量を叩き込まれた闇の者は既に虫の息! しかし!
「ギッ───」
びくり、とその身が痙攣したかと思えば、口から、耳から、鼻から! 粘液状の闇がどろどろと溢れ出たではないか!
((野郎、もう『泥』になりやがった……!))
仮面の奥で、忌々しく顔を顰め、舌打ちをかます。
どうも一瞬で死の淵へと叩き込まれると、彼等は死という根源的な恐怖へのストレスから一気に闇に侵食されるようだった。黒い者は闇の者へ。闇の者は闇の泥へと。
闇の泥はメキメキとその身を膨れ上がらせた。『巨大化』の異能である!
『こんな室内で完全態にさせるとまずいんじゃねぇか!?』
「問題ありません。この個体が何某になろうとも、2秒以上の時間を使うつもりはありません」
「う、うふふ、アハハ……」
闇の泥は今や3メートル近い巨体にまでその身を膨らませていた。しかもまだこれは完全ではないようで、未だミシミシと音をたてながらその身の丈は高くなってゆく。
「早く死んでください……!」
「イピィー!」
闇の泥が狂った哄笑を上げた瞬間、その顔面に閃光のような打撃が炸裂した!
たたらを踏む闇の泥へ、イミテーションは落下しながら拳を握りしめ、振りかぶった。
仮面の奥で、ぞっとするほど冷たい光を放つ深淵の双眸に、じわりと熱がこもり始めた。
3「『巣』でのお茶会」
「こんにちわ~誰かいますか~?」
くたびれ切ったみみ子は特にやる事も無かったので、暗夜たちと別れた後は『巣』に寄る事にした。
ドアを開けてまず香ったのは、優しく甘い香り。
「あ、みみちゃん。こんにちわ」
「わ、なにこ、萌さん!?」
「ムッグムッグムッグ……」
みみ子の目に飛び込んできたのは、テーブルの上に所狭しと置かれた様々な種類の甘味。そしてそれを一心不乱に貪る萌の姿であった。
「おいみみ子。お前なんか知らない? こいつここに来てからずっとこうなんだけど」
同じく席についていた一二が萌を指さしながら聞いてきた。
「えっとですね、実は──────」
事のあらましを聞いた彼女たちは、思い思いの言葉を口にした。
「なんだそんな事かよ」
呆れたようにジト目で萌を見る一二。
「ウチらに言えることは何もねぇなぁ」
と綾子。
「ふふ、このままじゃみんなが食べる前に萌に食べ尽くされちゃうかもね」
「「は?」」
リリーの一言が、犬たちの闘争心に火をつけた。
「ざっけんじゃねぇ! このガキの癇癪で何であたしらが食いっぱぐれなきゃなんねぇんだよ!」
一二が糾弾するように指を突きつけたが、当の萌は一二に目だけを向け、ふん、と鼻で笑うと再び甘味を貪る手を動かした。
「こ、んのガキ……!」
「ぷっ! 笑われてやんの!」
プルプルと怒りで震える一二を見て綾子は噴き出し、ケラケラ笑いながらおかきを手に取りぽりぽり食った。
「あ゛ぁ゛!? テメーは何だこら! てかそのおかきは何だ! どっから出てきた!?」
「あ、それはね。みみ蔵からの差し入れだよ」
「は? 爺さんから?」
訝しげにリリーを見る一二に、手洗いから戻ってきたみみ子が説明した。
「あぁそのおかきね。おじいちゃんの知り合いのおかき屋さんがね、形の悪くて弾いたものを毎月くれるんだ」
「へぇえ~、なんて店だ?」
「えっと、『米菓 金剛』ていうんだけど」
「ゲッ!? マジかよ!?」
みみ子から名前を着た途端、綾子は目の色を変えて摘まんでいたおかきをまじまじと見た。
「何だ綾子、知ってんのか?」
「無知め、こいつは京都の老舗で、普通に買ったら小袋で1000円は下らんぞ!」
「……LLサイズの袋にみっちり入ってたよね?」
「気前良いんだよね。金剛さん」
「クソ! いいもん食ってやがんな、てめえはよ!」
「ムッグムッグムッグ……」
「てかテメーはいつまで食ってんだ! 終わりだ終わり! お前の取り分はお終いでーす!」
「うるさい! 触るな!」
「ふふ」
ケーキやチョコレートやらを奪い合う彼女たちを見つめながら、リリーは柔らかく微笑んだ。
かつてのお茶会は苦痛の場でしかなかった。誰も彼もが和やかに話しているように見えて、その実腹の底まで互いを探り合っていた。菓子の甘みも、紅茶の風味も、全てが遠く。味わう暇もない。
しかし、ここでは本当の意味でのお茶会が出来ていた。紅茶や茶菓子に舌鼓をうち、取るに足らない会話を楽しみ、そこには探り合いが入る余地などどこにもない。
確かに過去と比べても過酷な日々ではあるが、少なくとも仲の良い人たちとの憩いの時間が確かにあるのだ。
リリーは今、確かに幸せだった。
4「北海道某所」
吹雪の中、恐るべき死闘はついに終幕を迎えようとしていた。
眼前の先、雪でできた豹の群れを展開する闇の泥へ、イミテーションは腕を前に突きだし、あたかも猛禽類の爪の如く指を折り曲げた。
『おい、まずいぞ! お前に向かってすげえデカいエネルギーが一体向かって来てる!』
最早猶予は無し! この一撃でカタをつけねばならない!
「イヒヒ……」
叩き潰された顔面に、狂った笑みが広がった。悪意だけが籠るそれとは対照的に、仮面の奥のイミテーションの顔は完全なる無表情であった。
「キャアーッ!!!」
沈黙の果て、しびれを切らした闇の泥が雪の豹の群れを解き放った! 怒涛の如き豹の群れが迫る!
そして、氷柱の牙が彼の身をバラバラに引き裂くかと思われたその時!
イミテーションの眼光が赤熱し、その体が有り得ない速度で動き出した!
「ギッ!?」
闇の泥が気が付いた時にはその眼球に人差し指と中指が、顎に親指が突き刺さっていた!
「滅びろ! 邪鬼め!」
「~~~~~~~!!!」
イミテーションは間髪入れずに腕を下へと振り下ろし、その途中にある眼球を、視神経を、肉を、骨を、心臓を、脊椎を、股間を削り取った!
殺戮奥義『
真っ白な雪に、湯気が立つ血潮が迸った。一瞬遅れて雪の豹の群れが鷲の爪に引き裂かれてバラバラに砕け散った!
いつの間にか吹雪は止んでいた。陽の光が、悪魔の如き黒い魔人を照らし出した。
と、頭上に影が差す。イミテーションは訝った。雲一つない晴天に影?
イミテーションは反射的に頭上を見る! そこにいたのは今まさに上空から急襲を仕掛けるプテラノドンの姿が!
『イミテーション!?』
イミテーションは逃げず、腰を据え、あえての迎撃の構え!
「シネェエエ!!!」
プテラノドンの急襲急降下爪が迫る! イミテーションは握りしめた拳を、突き出した!
爪と拳がかち合い、凄まじい衝撃波に大気が震える!
イミテーションの眼光が煮えた! まだまだ戦いは終わる気配を見せない……!