影武者転生異常あり!~俺は悪役令嬢の影武者なんだ…誰が何と言おうが影武者なんだ!だから脇役でいさせろや! 作:三流二式
5「東京××区」
自分用にしつらえた黒いゴシックロリータ風のドレスに身を包み、黒いベールで顔を隠した千歳は、任務の前に言われたイミテーションの言葉を思い出していた。
『千歳様。闇を絞るのに、何も殺す必要などありません。必要なのは、生かさず、殺さず、じわじわと絞る事です』
生かさず、殺さず。あの男はそう言った。殺す必要は無いと。
確かに奴隷を働かせるにあたって、死なれたら搾取することができなくなってしまう。言い分はもっともだ。
だが、あの男の言う通りにするのは何とも癪に障る。気に入らない。
苛立ちを隠しもせず千歳は歩を進める。彼女の視線の先には黒い者を制圧した聖光教のエージェントがどこかへと報告していた。
あえて存在を知らせるようにハイヒールの音をたてて歩いてやる。
程なくして彼女の存在に気が付いたエージェントは、千歳の身に纏うすさまじいまでの闇の力に恐れ戦き、持っていたスマートフォンを取り落とし、拾うまでも無く光を帯びた岩の弾丸を飛ばしてきた。
千歳は避けもせず正面から食らった。食らったように見えた。
エージェントは見た。彼女の体に岩の弾丸が届く前に、薄っすらとした黒い幕がその全てを悉くを防いだ様を。
「ば、馬鹿な!?」
「そうだ、お前は馬鹿だ」
「ガッ!?」
『おい! どうした! 何があった!』
腹に破壊球を受けたエージェントは苦悶の叫びを上げながら吹き飛び、無様に地面を転がった。
千歳は未だ通話の切れていないスマートフォンを無造作に踏み砕きながら、ゆっくりとエージェントへと歩み寄っていく。
「ぐ、あぁ……何者……」
「知る必要は無い」
そう言いながら千歳はエージェントの顔面を蹴り飛ばし、投げ出された腕を無慈悲に踏み砕いた。
「ガッ───」
苦悶に呻くエージェントへ、指を拳銃のように折り曲げ、人差し指から破壊弾を追いうちの如く撃ち放ち、両膝を破壊した。
「ぐう……お、俺を殺しても意味はないぞ!」
「そうだな。殺しはしない。
「お、俺の名を、何故!?」
「ご子息は元気か?」
「──────」
エージェントは凍り付いた。
「両親はすでに他界。妻は難病で病院生活。息子は一人寂しく自宅でほとんど監禁に等しい状態で放置」
「なっ……なっ……」
口をパクパクと開閉しながら、エージェントはがたがたと身を震わせた。先ほどまでの高潔な態度は見る影もない。
「これ、見えるか?」
「な、んだそれは……?」
千歳は赤いボタンが一つついた簡素な装置を取り出した。
「これはな、お前の宝物を粉々にするためのスイッチだ」
「ッ!!!」
瞬間、エージェントはしゃにむに暴れた。まるで自らの半身を取り戻そうとするかのような、鬼気迫る暴れ方だった。
「はっはっは、どうした? 早くせんと妻子が死ぬぞ? ほれほれ」
「うわぁあああああああああああ!!!」
胸を踏みしめる千歳の足をはね退けようと藻掻くエージェントは、全く微動だにしない事に絶望した。
ほっそりとした、ともすればほんの少しの力で折れそうなほど華奢な脚なのに、
籠められた力は大型の獣の如きすさまじい力であった。
「ふむ、そうか。まあそんなもんか」
千歳はスイッチを奪おうと暴れるエージェントを冷めた目で見下ろしながら、何のためらいもなくスイッチを押した。
「あ──────」
途端にエージェントから力が抜け、呆然とした表情で千歳を見上げていた。
「もうこれはいらん。くれてやるよ」
「あ゛ぁ゛!!!」
足を離し、無造作にスイッチを放った。解放されるや否やエージェントは芋虫のように這ってスイッチを拾い上げ、踏み砕かれて動きもしない手で何とか拾い上げようと必死だった。
まるで拾い上げることができれば結果を覆すことができるかのように。
「あぁ……あぁああああああ……」
ボロボロと涙を流し、エージェントはスイッチを掻き抱き、蹲った。
そんな彼に千歳は無造作に歩み寄った。
エージェントはガバッと顔を上げ、憎悪に滲んだ瞳で近づく千歳をあらん限り睨みつけた。気にせずに耳元へ顔を近づけ、ぼそりと一言。
「ウソだ」
「──────は?」
目が点になったエージェントへ、千歳はくすくすと笑いながら続ける。
「ウソに決まっているじゃないか? 何を本気にしているんだ?」
「へ?」
放心するエージェントに背を向け、千歳は歩き出した。
「え?」
弄ばれた。そう思い至ったと同時に、エージェントは白目を剥いて気絶した。
帰り道。回収ポイントへと向かいながら、千歳は腰に吊ったカンテラのような道具を見る。これは闇を収集する『籠』である。これを使って彼女たち闇の尖兵たちは人々から闇を集めるのである。そして中身は満タンに溜まっていた。
つまりそれだけ精神的な負荷がかかった事になる。千歳は考える。
(妻子の死にあそこまで動揺するとは。やはり普通は父親にとって、子や妻の死はそれだけ動揺するに値する出来事なのか)
千歳は物思いに耽る。
普通なのだ。それが。父が子を愛し、子が父を愛し、妻が夫を愛し、夫もまた妻を愛する。
考える。父の顔を。自分が死してしまったことを。彼は動揺してくれるだろうか?
幾度となく考えた問答。やはり未だに応えは出せないでいた。
彼女の憂鬱な問答は回収者が現れるまで続いた。
6「東京 上空2000メートル」
「ガァアアア!? ガァアアア!?」
『無茶苦茶だ! 何やってやがんだ!』
プテラノドンは狂ったように上空を飛び、血を、闇をまき散らしながら絶叫した。
「さっさと……くたばってください!」
バレルロールで振り落としにかかるプテラノドンの背に必死にしがみついて落下に耐えながら、イミテーションはひたすら背中に拳を叩き込んでいた。
その全身は真っ赤に染まっており、それが返り血なのか己の零したものなのか、最早判別すらつかない!
「ギャアアアアア! ギャアアアアア!!!」
ついにプテラノドンは根負けしたかのごとく断末魔を発すると、重力に引かれ、自由落下が始まった。その際もイミテーションは殴りつける手を止めはしない!
『お、お前どうする気だ!? 異能を使うのか!? だが異能を使った所で───』
「不要です。このままこいつを殺します」
『んな!?』
決断的に言い放つと、イミテーションはじわりじわりと背を這い、首元まで辿りつくと、その首を締め上げ、背中側へと引っ張り上げた! プロレスの奥義、変則的なキャメルクラッチだ!
「ガ……が……」
「ここで死ぬのは貴様一匹」
「グギ……」
「無様に大地の染みになれ!」
地面が迫る……迫る!
イミテーションは衝突の直前、拘束を解き、その背を蹴って跳躍! 地面をゴロゴロと転がって何とか着地に成功する!
直後、隕石落下めいた衝撃が襲い掛かる!
「ぐっ!」
莫大な衝撃波を、地面に手をついて何とか凌ぐ。
「はぁ……はぁ……」
『平気か!? 生きてるか!? 返事しろ! おい!』
肩で息をしながら立ち上がり、プテラノドンの墜落地点を見る。
プテラノドンが墜落した場所は採石場のど真ん中だった様だ。作業はまだ途中だったようで、ところどころに置かれた器具が衝撃により横転していたり、どうしようもない程破壊されたりしていた。
改めて墜落点を見る。まさに隕石落下じみた大きなクレーターの中心に、かつて何某かであったモノの残骸が見て取れたが、それはそれだけの事だった。
「えぇ、生きています」
『そ、そうか。良か……良くねぇよ! バカかテメェは!』
我に返ったみみ蔵は、イミテーションを怒鳴りつけた。
「ですがこうして生きています。ならば良しです」
しかしイミテーションはどこ吹く風で、しれっと言ってのけた。
『お前はよォ~……おい』
「気付いています」
まだ何か言ってやりたかったみみ蔵だが、レーダーに映る反応に、緩んだ空気は一瞬にして引き締まった。
「来るッ!」
イミテーションが構えたと同時に、ショベルカーや山積みされた土砂を蹴散らしながら、トリケラトプスとティラノサウルスが突っ込んできた!
「同志ノ敵!!!」
「シンデシマエ!!!」
イミテーションは横へ跳びながら懐から拳銃を抜き放ち、躊躇なく発砲!
「ギャッ!?」
放たれた弾丸はティラノサウルスの眼球を過たず撃ち抜き、黒く粘った血を吹き出しながら悶絶した。
「キサマァ!!!」
「来い。戦ってやる!」
「「グォオオオオオオオ!!!」」
2体の怪物たちは憤怒の雄たけびを上げながら、満身創痍の悪魔へと迫る!
イミテーションの眼光が赤熱した! 夕暮れを背に、恐るべき凄惨な戦いが幕を開けた!