影武者転生異常あり!~俺は悪役令嬢の影武者なんだ…誰が何と言おうが影武者なんだ!だから脇役でいさせろや!   作:三流二式

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『chapter3 鳳凰院千歳?』②

 その日は誰にとっても、何も変わり映えの無い日であった。

 

 

 朝起きて、顔を洗い、席につき。用意された朝食を食べる。テレビに映るニュースはいつも通り遠い誰かの不幸が淡々と読み上げられてゆく。すなわち世は事も無し。何も気にすることは無い。

 

 

 歯を磨き、靴を履いて、彼らは普段通りの時間に登校してゆく。

 

 

 変わり映えの無い通学路、普段と変わらぬ友達とのくだらない会話。夏が近づくにつれ気温が上がってきたことに対する愚痴。

 

 

 彼等は皆、特に気負いもなく学園へ、『神代学園』へと向かってゆく。なんて事の無い登校風景だ。その時間帯ではあらゆる場所で、まったく似たような光景を目にすることができるだろう。気にする者など誰もいない。

 

 

「ふあ……」

 

 

 彼、光黒暗夜にとっても、その日はなんて事の無い一日になる筈であった。

 

 

「寝不足ですか?」

 

 

 隣で歩く績が大あくびをする暗夜の顔を覗き込んだ。

 

 

「いや、別に寝不足って訳じゃねーぞ? ただのあくびだ、あくび」

「そうでしょうか……」

 

 

 ジト目を向ける績に、暗夜は心底うんざりしたように首を振った。この女はこの前の授業中の爆睡によほど腹に据えかねているらしい。

 

 

「しょうがねーじゃねーか。あの時はあれだ、俺を勝たせねーCPUが悪いんだぜ?」

「なんという浅ましい言い訳でしょうか。心身の健康は規則正しい生活からですよ!? 分かっているのですか!」

「はいはい、分かってます分かってます」

「あ!? その態度! 分かっていませんね! この!」

「うぉおおおお俺の()()()()()()は渡さねぇぞオオオオオ!!!」

 

 

 やいのやいの言い合いながら2人は並んで、特に急ぐことも無く登校してゆく。この光景も最近では見慣れたものであり、通りがかる者たちは微笑ましく見守ったり、それとなく頷いたり、あるいは自分の青春時代に思いを馳せたりしていた。

 

 

 暗夜に掴み掛ろうと躍起になる績の顔は必死であり、しかし必死ではあるものの、そこには何処かさっぱりとした、晴れやかなような物が宿っていた。

 

 

 本来なら績のような存在がこんな日常を謳歌する事などできなかった。というのも、績の家は敬虔な聖光教の教徒であり、彼女が生まれた時に『光』をその身に宿すと知るや、それはもう大々的に騒がれた。

 

 

 光りを宿して生まれた人間は、それこそ聖光教のエージェントや騎士団の子であれば、それなりの数が確認されている。彼女が騒がれた理由は、彼女の『光』の性質がかつて『聖女』と呼ばれた存在のそれと一致したからである。

 

 

 確認したところ、彼女の血筋である光家の遠い先祖に『聖女』の血統が混ざっている事が発覚し、それが隔世遺伝的に発現した、というのがひょっこり現れた光の神の見解である。

 

 

 以来光家のは今まででは考えられない程の支援が為され、様々な団体が押し寄せ、更にはあろうことか教団の最強の暴力装置であるゴスペルや光の神その人が度々現れるようになった。

 

 

 当然の事であるが、『聖女』の素質を持つ者は希少であり、それ故最高の教育体制を敷き、よりよい『教え』を施すのが良いとされた。

 

 

 世界でも最高峰の環境で愛情たっぷりにすくすくと育った績は、確かに目覚ましく成長した。

 

 

 しかし、()()()()()()()()()()()た。

 

 

 優しくも厳しい両親、一切の容赦なく叩きのめす異能教育監、そしてゴスペルのスパルタな教育は、彼女の精神を正しく、真っすぐに鍛え上げた。

 

 

 その結果、容姿端麗で清楚な見た目とは裏腹に、彼女は一切物おじせず誰に対しても否を否と唱えられるほどの丹力を有する傑物へと成長した。

 

 

 彼女は、教育係では埒が明かないと、何と光の神へと直談判しに行った。

 

 

「確かにあの方が提示した学校へ行けば私は成長できるのでしょう。人々を照らしだせる者へと近づけるのでしょう。ですが、私は聖女を任される身です! そこへ行けば力は身につくでしょうが、人の事を知ることができません! 私が照らすべき人々を私が知らなくてどうするんですか!? 私は拒否します!!!」

「え、あぁ、ウン、いいんじゃない……?」

 

 

 という光の神の許可もあって、彼女は本来行くはずであった国立の高校でなく、私立の『神代学園』へと入学した。そしてその時すでに入学し、生徒会長の地位についていた長谷川軌陸が幼馴染のエミリー・コンバットとともに、彼女の護衛兼監視役を仰せつかったのであった。

 

 

 ちなみに千歳がこの学園に来た理由は当然鳳凰院社長、ひいては聖女の力を危惧した魔王の命により決められた。『聖女』光績、及びエージェントである長谷川軌陸の拉致、もしくは殺害、それが千歳に与えられた命令であった。そこに当然彼女の意志は存在せず、千歳の心はまた一つ闇へと近づいていったのである。

 

 

 本日軌陸は任務でいない事は先日の依頼の報告の時に本人により伝えられている。もし何かあった場合は副会長であるエミリー経由で伝えるようになっていた。

 

 

「あの人苦手なんだよなぁ~。いっつも無表情だから、なに考えてるか分かんなくてよ~」

 

 

 下駄箱から上履きをとりだして放り投げながら、暗夜は言った。

 

 

「ふん、情けないですね。私の様な完全無欠な聖女には彼女の考えなど手に取るように分かります」

「ウソ付け、お前この前なんか副会長に話しかけられててんやわんやしてただろ~が」

「は!? そんな訳ありませんが!? 違いますが!?」

「えーえー、完全無欠なせーじょさまの仰るトーリでございますね」

 

 

 ぽこすかと背中を殴りつけてくる績の事を無視し、暗夜は教室へと入っていった。

 

 

 クラスメートの挨拶もそこそこ、荷物を置き、それから席について裁縫道具の整備をしていたみみ子の頭をぽかりと小突いた。

 

 

「あう!? え、……て暗夜君!? な、何するのよ~!」

「おうみみ公! おはようさん!」

「え、うん、おはよう……じゃなくて! どうしてぶったのよ~!」

「うるせ~! 丁度良い所にあったお前の頭が悪いんだよ!」

「何ですって~! この! 今日こそわからせてやる!」

「何ですか喧嘩ですか! 殺します!」

 

 

 うぎゃーぐわー。

 

 

 いつもの3人による、いつも通りの光景である。この3人が揃うと騒がしく、2人でもやっぱり騒がしかった。

 

 

 微笑ましい光景を見ながら、しかしクラスメートの心情は暗くなってゆく。時刻は8時30分。つまり、そろそろ彼女が姿を現す時間という事だ。

 

 

 噂に影とはよく言ったもので、彼らがそのような事を考えた途端に、教室のドアが開かれた。

 

 

 〝来た!〟

 

 

 彼等は確信し、そして、凍り付いた。

 

 

 和気藹々とした朗らかな空気は拭い去られ、枯れ果てた荒野の如くからからに乾いた空気が教室を塗り替えた。

 

 

 そして、それは悠々と入ってきた。途端に彼等の全身が総毛立った。

 

 風にたなびく髪は雄大な空そのもので、深い青の瞳は未知なる深海の如く妖しく、白く艶やかな肌は磨き抜かれた大理石であり、その顔は職人が丹精込めて作り上げた最高品質の人形(ラグドール)のよう。

 

 

 鳳凰院千歳とは、そういう少女であった。

 

 

 しかし、見た目とは裏腹に性質は凶悪そのもの。誰彼構わず罵倒し、罵り、()()()()()()()()()

 

 

 罵る相手に見境は無く、先輩、同級生、クラスメート、はては教員にまで。精神を病み、体調不良を訴えたのも1人は2人ではきかない。

 

 

 しかし、しかしだ。

 

 

 鳳凰院千歳は恐ろしい存在だ。だが、()()()()()()()()()()()()()()()? 

 

 

 光を反射して輝く髪は自然の作り出した氷河そのもので、深い青の瞳は奈落の底のように怖ろしく、白く艶やかな肌は死人の如し。その顔は人の姿を偽った悪魔(ディアブロ)のよう。そして身に纏う圧倒的なまでの()()()()()は、人ならざる者のそれであった。

 

 

 今日の鳳凰院千歳は、まさに悪魔そのものが化けて出たかのようであった。

 

 

「な、何だあ……?」

 

 

 暗夜たちも千歳が現れた瞬間に、弾かれたように振り返った。額からは冷や汗が垂れ落ち、思わず生唾を飲んだ。

 

 

(うへぇ……ちょっとまずいですよ。滲み出ちゃってるよ暴力!)

 

 

 一方みみ子は2人とは別の意味で慄いていた。しかし、それを伝えるにはいささか時間が足りず、結局伝えられたのは昼休憩のいつものパシリの時であった。

 

 

「滲み出てる……ですか?」

 

 

 屋上で、みみ子より齎された報告を聞き、イミテーションは眉間に皺を寄せた。

 

 

「はい、もうバリバリ出ちゃってます」

「ふ~む……それ以外は特にないですか?」

「はい、ないです。ほんと雰囲気だけが、その、やばいです。人殺しみたいなオーラでした!」

「それは……まあそうなのですが……ふむ……」

 

 

 イミテーションは目を閉じ、胸に手を当てて深く呼吸した。2度、3度、と繰り返すうちに、放たれていた重圧はみるみる消え去り、目を開けたころにはすっかりいつも通りの仏頂面の千歳がいた。

 

 

「はあ、これでいいか?」

「あ、いいです。凄くいつもの()()()()です!」

()()()()、ね」

 

 

 じろりと向けられる視線に、みみ子はしどろもどろに答える。

 

 

「え? あ、えーとですね、これは本人からのご要望もありですね。決してボスの事を舐めているという訳ではなく!」

「いえ、構いません」

 

 

 首を振り、それからみみ子の肩に手を置いた。びくりと肩がはねたが、息がかかる程の距離にある顔に、体が固まった。

 

 

「どうかそのまま千歳様とよくやってあげてください。きっとそれは、千歳様にとって良い結果になるでしょうから」

「は、はひ!」

 

 

 顔を真っ赤にするみみ子に、イミテーションは微笑んだ。

 

 

「では行きなさい。あんまりあなたを長く拘束していたら、あの2人が飛び込んできてしまいますよ」

「あ、もう遅いと思います」

 

 

 みみ子が屋上のドアを指さした直後、ドアがけたたましい音とともに開かれ、暗夜と績と副会長が飛び込んできた。

 

 

「あ、テメーコラ! みみ子から離れやがれ!」

「いつもいつもみみ子さんをいい様に使って! 今日こそ止めさせます!」

「会長がいない間、この学園を管理するのが私の仕事です。あまり騒ぎを起こさないでほしいですね」

「……虫がそろいもそろって、この私とやりあおうてか!」

 

 

 暗夜の掲げる、鋼の刃にところどころに金のラインが走る大剣を見ながら、千歳は呵々と笑った。それからみみ子を蹴って(ぎゃっ!?)脇に退け、両手に破壊球を生み出した。

 

 

「そうであろう、そうであろうなあ! え? この()()()がそんなに大事か! たかが使い走りの犬一匹が!」

「るせー! テメーにとって犬だろうが()()()だろうが俺たちに取っちゃ大事な友達(ダチ)なんだよ!」

「そうです! そのもやしを解放しなさい!」

「鳳凰院、それ以上やればこちらも考えがありますが?」

「はん!」

 

 

 千歳は鼻で笑い、両者は睨み合ったまま動かない。

 

 

 一触即発の空気。破られたのは唐突であった。

 

 

「こんにゃろー! どいつもこいつも馬鹿にしやがってぇ~!!!」

「なに!?」

 

 

 みみ子は唐突にキレた。ばん、と床を叩くと、一部が棘となって飛び出し、千歳へと勢いよく迫った。

 

 

「チィイ!」

 

 

 千歳は破壊球を投げて棘をかわすと、後方へと大きく飛んだ。それが合図となり、両者は動き始めた!

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