影武者転生異常あり!~俺は悪役令嬢の影武者なんだ…誰が何と言おうが影武者なんだ!だから脇役でいさせろや! 作:三流二式
破壊球を叩き落とし、暗夜は光を纏う大剣を叩きつけに行く!
「はっ!」
勢い良く突っ込んで来る暗夜を、千歳は鼻で笑いながら掌を向け、散弾じみて破壊弾を撃ち放った!
「ムオ!?」
咄嗟に大剣を盾にして防ぎきるが、凄まじい威力にバーンナウト痕残し、大きく後方へと吹き飛ばされた。
「暗夜さん!」
カバーするように放たれた光の玉を、千歳は同様に破壊球を撃って相殺消滅破壊! 危うげなく防ぎ切った。
「ははは、隙だらけだぞ!」
千歳は嘲笑いながら破壊の鞭を作り出すと、暗夜と績に向けて振り回した。
「うぉおお!?」
「きゃあ!?」
暗夜は大剣のガードをすり抜けるように振るわれた破壊の鞭を脇腹に受けて苦悶し、績は球状に展開していた光のバリアに走ったすさまじい衝撃に悲鳴を上げた。
「っ!? しまった!」
2度、3度と叩かれ、ついには績のバリアは叩き壊された。彼女の顔面に、破壊の鞭が迫る! 危うし績!
「そのための私だ」
と、後方で待機していたエミリーがここで動き出し、績を引っ掴んで素早く後退した。直後、績がいた箇所を鞭が打った。
空を切った鞭がバチンと音をたてて地面を抉った。あまりの惨状に、あのまま助けられなかったらどうなっていただろうかと考え、績はぞっとする思いであった。
「相変わらずやんちゃだな鳳凰院。
エミリーは績を放し、眼鏡をはずしながら、
「は、出るか! 『邪眼』!」
「『魔眼』だ!」
千歳がせせら笑うのと、エミリーの瞳から怪光線が出るのとはほぼ同時であった!
異能『魔眼』! 様々な効果を有する瞳を持つ彼女はこの異能を良く使いこなしており、用途によって効果を使い分け、対象を鎮圧するプロフェッショナルであった!
今回放たれたのは指向性を得て放たれた単純明快なエネルギー放射である! 無差別なようで怖ろしく精密に放たれた小粒の破壊弾の弾幕を、一条の閃光が貫いた!
「そんな細っちょい線香花火が効くか!」
「むっ!」
しかし、エミリーの放った光線は千歳が張る破壊の防護膜が易々と弾き返し、お返しとばかりに放たれた膨大な破壊の束を、エミリーは側転で危うくかわす!
「やっぱ」
「「強い……!」」
「はっははは!」
哄笑を上げる千歳から距離を取った3人は、全く同じことを思った。
ただでさえ高い破壊力に加え、それに慢心することなく鍛え上げられた精密性はこちらの隙を過たず突き、無尽蔵とも思える破壊の弾幕は最早弾幕を通り越して壁とすら言えた。
暗夜も、績も、エミリーだって生徒会長からの依頼や
しかし、それでもなお鳳凰院千歳は強かった。
「そらどうした! 3人揃ってその程度か!」
千歳は嵐の如き弾幕を張った! 攻めようと前に出た彼らはたたらを踏み、防御、あるいは回避に徹せざるを得ない!
「ちくしょー攻めらんねー! 績、どうにかしろ!」
「くっ!? 無茶を言わないでください!」
「ちぃ!」
各々防御、あるいは回避し続けながら、反撃の隙を窺うも、弾幕が、濃い! 反撃に移れない。誰もが撤退の2文字が脳裏に浮かびつつあった。
すわ、じり貧か!? そう思いかかっていた時、またしてもひっくり返したのはみみ子であった!
「あちょー!」
「なっ!?」
みみ子は待っていた。視界が眩むほどの弾幕が3人に向けられる瞬間を。いまがその時である!
ばん、とみみ子は両手で地面を強く打った。途端に千歳の周囲の地面が液状化し、千歳は腰から下までが地面にすっぽりと埋まってしまった。
「おのれ小癪な!」
咄嗟に両腕から破壊のエネルギーを爆発させ、反動で跳躍し拘束から脱するも、弾幕が一瞬途切れてしまった。
その時間さえあれば、体勢を整え、反撃に移る事など実に容易である。
「やあ!」
「行け、光黒」
績とエミリーの放った光球と怪光線が千歳の防御膜に突き刺さり、ガラスが砕けるような音と共に防御膜が破られた!
「うぉりゃあああああ!!!」
間髪入れずに暗夜が突貫! 瞬く間に距離を詰めた暗夜は、握り締めた大剣を思い切り振りかぶった!
光を纏った大剣が千歳に向かって勢いよく迫る!
途端に時間間隔が凝縮され、刹那の時間が永劫の時の如く引き延ばされた。暗夜は千歳と目が合った。赤熱した、奈落色の瞳と。
暗夜の背筋が粟立った。瞬間、暗夜の脳裏に閃くは、爆散する己の胴体を冷たく見下ろす千歳の姿であった。
(──────ヤバい!!!)
あまりにも鮮明に映る己の死の光景。それこそまさに勇者に備わった力の一つ。超直感。その片鱗が、莫大な死の気配と共に一瞬だけ解放されたのだ。
静止した時の中で、ゆっくりと千歳の腕が動き、手刀の形で今まさに突き出そうとしていたそれを、しかしゆっくりと折り曲げ、代わりに拳を固く握りしめ、両腕をクロスさせた。
暗夜は訝った。大剣が千歳の腕へと、迫る!
「グワーッ!?」
「ぐうっ!?」
光と破壊の力が衝突し、どーんという凄まじい炸裂音と共に両者は弾丸めいた勢いで弾かれた!
「うひゃあ!?」
その射線上にいたみみ子はすぐさま地に伏せた。直後、その頭上を暗夜が通過し、その背後にいた績とエミリーの二人に受け止められた。
一方千歳はフェンスに背中を強打し、咳き込みながら痛めた腕を押さえ、憎悪の瞳で暗夜を睨んだ。
「おのれ、これで勝ったと思うなよ……!」
そう捨て台詞を残し、千歳は破壊球を足元に叩きつけた。バン、という音と共に黒い光が爆ぜ、光が消える頃には千歳の姿は忽然と消え去っていた。
「どっちがだよ……」
咳き込みながら2人に支えられ、暗夜はどうにか立ち上がった。
「なんだか、いつもより潔くなかったですか?」
績は首を傾げた。
「知らん。あの気まぐれな鳳凰院の事だ。大した意味は無いだろう」
エミリーは切って捨てた。
「……」
暗夜は無言である。彼の頭には、未だあの一瞬の出来事が脳裏から離れないでいた。
あの一瞬、明らかに手を抜かれた。やろうと思えばあの女は自分が幻視した光景をいつでも作り出せたはずだ。根拠は無いが、自分の中で目覚めた直感がそう言っていた。
釈然としない終わりであったが、ともかく目的は達せた。今は安堵に身を任せるのも悪くは無いだろう。
そう思い、暗夜はぽてぽてと無警戒に近寄ってくるみみ子の頭をぽかりと小突いたのであった。
「何するのよ~!?」
「うるせ~! 知らね~! 元はと言えばお前がホイホイパシらされるからだろうが!」
「なんですってぇ~!」
暗夜へと殴り掛かりながら、みみ子はどうにかこの場を無事に乗り切れたことに、心底安堵するのであった。
■
一方そのころ、長谷川軌陸は突如現れた黒いドレスの女を相手に苦戦を強いられていた。
「くっ!」
膨大な闇の束を小刻みに跳ねまわる事で何とかかわし、執拗に追いかけてくるそれを走り回る事で回避する。
「っ! そこ!」
一瞬の隙をつき、軌陸はロングソードをドレスの女へ向けた。瞬間、ロングソードは勢いよく伸び、ドレスの女へと迫った! 『伸縮』。それが長谷川軌陸の持つ異能である!
(決まる!)
軌陸は勝ち誇った。これでもっと名声が手に入る。褒めてもらえる。姉たちに近づける!
そんな皮算用が軌陸の脳裏に閃き、彼女を歓喜させた。
彼女は長谷川家の4人姉妹の末っ子であり、上の姉たちに強い憧れと劣等感を持って育った。
上の姉たちは全員が『変身』の異能を持ち、その姿を鳥へと変えることができた。更に3人は騎士団に入団した後目覚ましい功績を上げ、神から光を賜り、ついには『光の者』になるほど力をつけていた。
対して自分はどうだろうか。軌陸はいつも考える。
自分だけが姉と違う異能を持ち、光を賜っているのにもかかわらず、未だ光の者への覚醒の兆しも見えない。
周囲の反対も押し切って教団のエージェントとして働き、幾人かの黒い者を捕縛し、先の十字軍にだって参加したものの、さした戦果も挙げられずに終わってしまった。
軌陸は焦っていた。戦いの場に身を投じれば、少しは姉たちに追いつけると、そう思っていた。いずれ自分も彼女たちの隣へと。そんな淡い希望を抱いていた。
だが現実は何と厳しい物なのだろうか。寧ろ戦いの場に出たからこそ、姉たちがどれだけ凄いのか、そして自分がどれだけちっぽけな世界を生きていたのか、嫌が応でも分からされてしまった。
長谷川軌陸は焦っていた。戦果を。もっと戦果を! より大きな戦果を! 誰の目にも明らかな目の覚めるような功績を!
そう思っていたというのに!
「ッ! くそッ!」
軌陸は吐き捨てた。渾身の刺突は、あまりにも冗談のように何の成果もあげられず、薄っすらと見える闇のベールに阻まれ、弾き返された。
「これが期待のスーパールーキーか、下らんな」
そう呟くドレスの女の表情は分らない。しかし、軌陸は考えるまでも無く理解していた。
嘲笑。圧倒的なまでの見下し。
要するに周囲に散らばっている瀕死のエージェントたちとまるで変わらない評価を、軌陸に下したのだ。
全く相手にならない、と。何の障害にもならない、と
「ふざけるな!!!」
軌陸は激昂した。
ふざけるな! 私をそんな雑兵どもと一緒にするな! 私は『3本槍』の妹だぞ! 私は……私だって! こんな程度の苦難など! 打ち破れるはずだ! 私だって! 私だって。私だって……。わたしだって──────。
「うわぁああああ!!!」
踏み込み、一気に距離を詰め、ドレスの女へと切り込む。袈裟切り。刺突。一文字切り。
軌陸はしゃにむに剣を振った。しかし、ドレスの女の防御膜はその薄さからは想像もできないほど強固であり、しまいにはロングソードが刃こぼれする始末であった。
「く、そ、こんな……!」
「もう良いか?」
肩で息を切らす軌陸に、それまで沈黙を保っていたドレスの女が口を開く。心底うんざりした口調であった。
「まだ──────」
「そうか。知らん。どうでもいい」
一方的に会話を打ち切ったドレスの女はその身から闇を迸らせた。
「う、あぁ……」
それは、未だかつて経験がない凄まじい闇の力であった。軌陸は後ずさり、ペタンと尻もちをついた。
「はは、どうしたエージェント。正義の使者が聞いて呆れるぞ」
陸に打ち上げられた魚めいて口をパクパクさせる軌陸にドレスの女は問いかけるが、軌陸は首を横に振るばかりで、最早立ち上がる気力もない。
「……無様だな、お前」
言い捨てると、ドレスの女は腕に闇を凝縮させた。空気が捩じれるような音と共に、女の腕はみるみる黒い靄のような物で覆われてゆく。
「───はッ!」
そして闇が充填されると見るや、ドレスの女は横薙ぎに腕を振った。世界から音が消え、天地が逆転した。軌陸の視界は白く、黒く。
「──────う、あぁ……」
目が覚めた。視界に広がるのは、青く青く、何処までも広がる青い空。
目をしばたき、それから立ち上がる。
「何が、なに、が───」
周囲の光景を見て、絶句する。
周囲は瓦礫一つなく、綺麗さっぱり何もない空き地と化していた。あるのは自分と、死にかけのエージェントが無数に転がっているだけ。
自分は失敗した。
そう長い時間もかからず、彼女はその結論へと至った。気絶してもなお手放さなかったロングソードを取り落とし、力なくへたり込むと、地面を激しく叩きながら慟哭した。
「くそぉ……畜生ぉ……」
彼女の嘆きの声は、救援に駆け付けた騎士団のエージェントが来てもなお途切れることは無かった。