影武者転生異常あり!~俺は悪役令嬢の影武者なんだ…誰が何と言おうが影武者なんだ!だから脇役でいさせろや!   作:三流二式

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『聖女襲撃』

「貴様に一つ命を下す。聖女を襲ってこい。可能ならば仕留めるか、攫ってくるのが好ましいが、あまり期待はしておらん。最悪闇を徴収してくるだけでも良い。本日1700に黒い者が誘拐事件を起こす。聖女は必ず食いつくであろう。そこを、急襲しろ。以上だ」

「かしこまりました」

 

 

 

 

 ■

 

 

 

 

 くそったれのポンチキの下痢便野郎である魔王よりそういう一方的な命令を名を下されはや数時間。時刻はまもなく17時を回ろうとしていた。

 

 

 俺の恰好は教団の戦闘員の基本スタイルである黒ローブを頭からすっぽりとかぶっている時代錯誤の不審者スタイルだ。中身は黒子装束で、これまた全身を覆って正体が万が一にもばれないよう徹底的な隠蔽スタイルをしている。

 

 

 で、今俺は廃ビルの4階。開けた部屋で、人質を背にして浮かれている黒い者を天井に空いた穴から見下ろしている。

 

 

 この依頼はゲームの中でも存在し、黒い者に攫われた人を助けてほしいという実にシンプルな依頼だった。

 

 

 依頼に登場するエネミーは黒い者とその配下である自我剥奪兵どもであるのだが、難易度がハード以上だと、そいつらを撃破した後にムービーが挿入され、天井より追加でもう一人黒い者が現れるのだ。

 

 

 なるほど、ゲームではやけに強かったなとは思ったが、まさかイミテーションが化けて出ているからとは思うまい。

 

 

 黒い者は典型的な()()()()だと一目で分かるほど浮ついており、自我剥奪兵共相手に小突いてイキったり、縛り上げて猿轡を噛ませた人質に電気を流してゲラゲラ笑ったりしていた。

 

 

 身に余る力を手に入れ、それが自分の力だと過信して溺れていく人間など、この世には星の数ほど存在する。

 

 

 権力を筆頭に、何故どいつもこいつも自分が体の良い生贄でしかない事に気が付かないのだろうか? 

 

 

 これは実際に生贄になって分かった事なのだが、思うに、彼らは一様に穴を埋める栓を求めているのではないか? 

 

 

 人の心には埋めようのない虚ろの穴が開いている。で、自分の身に余る力ならば、その穴を埋められると思い込んでしまう。

 

 

 当然埋められない穴にいくら何かを注ぎ込んだところで結局は無駄骨も良いとこで、自分が行っている事は何の意味も無いという事に、誰しもが目を逸らしている。

 

 

 だが、俺にはそれが悪いこととは思えない。

 

 

 だって、それではあまりにも救いがない。この世は碌でもない事に溢れており、自分(てめえ)の事すら信じられないとするのならば、一体何を頼りに信じ歩けばいいというのか。

 

 

 だから俺は、視線の先で、自らが世界の王を気取る道化未満の野良犬を、責めることができなかった。

 

 

 世の中は愚かなままでは食い荒らされる意外に道は無いが、その愚かさが、生きていく上で時としては必要なのだ。

 

 

 とはいえ。

 

 

((ありゃ正真正銘の糞バカだな……))

「おうおう、取るに足らない蚊トンボめいた光の従僕が鼠めいてぞろぞろと従僕引き連れのこのこ来おったわ! 聞けい! 貴様ら如き野卑で同情や正義感などというくだらない下級な感情に振り回される愚か者どもよ! ここに用意した我らが贄が欲しければ大人しく聖女を渡しミミズめいてのたくって土下座すればギャーッ!?」

「うるせー!」

 

 

 くそ無意味で長ったらしい口上に我慢できなかった暗夜が黒い者の脳天に大剣を叩きつけた。黒い者はなさけない悲鳴を上げ、地面にうつ伏せに倒れ、ピクリとも動かない。

 

 

「何だこいつ」

「知りません。早く人質を解放しましょう」

「……そうだな」

 

 

 いつの間にか兵士共すら殲滅し終えた績と軌陸が暗夜の後ろから進み出て、績が人質の解放を、軌陸が黒い者をロープでぐるぐる巻きにして拘束した。

 

 

 そして聖光教のエージェントがやって来て人質と黒い者を回収し、残された3人も用は済んだとばかりに踵を返そうとした。

 

 

 ここだ。

 

 

 俺は天井から飛び下り、彼らの目の前に床を砕きながら着地した。

 

 

「あぁ!? んだこいつ!」

「いったいどこから!」

「うぅ……!」

 

 

 突然現れた俺に3人は一瞬棒立ちになり、しかしすぐに我に返ると各々臨戦態勢へと移行した。

 

 

「グググ……!」

 

 

 俺の口から、エコーがかった声が響いた。ボイスチェンジャーによる音声の改変である。今の俺の声は千歳の鈴のような声ではなく、即身仏のようなエコーがかった嗄れ声になっている。

 

 

「何者か、とな? このなりを見てもまだ分からんか? 精強なる光の僕が! そのザマでは話にもならんわ!」

「御託はいらねー! どうせ教団のろくでなしだろーが!」

 

 

 真っ先に動いたのは暗夜だった。薄っすらと光る大剣をその場で振るい、空振りさせた。瞬間、纏う光が大剣から離れ、偃月刀染みた光波となって襲い掛かってきた。

 

 

 恐るべき光波はすさまじいスピードで向かい来より、弾丸並のスピードで俺へと迫る。

 

 

((さてと、俺の方も切り替えるとするか))

 

 

 かちりと、俺の中でスイッチが入る感覚があった。瞬間、世界が泥のように固まり、音速を超えた光波もその動きを止めた。

 

 

 止まった時間の中を空間にひずみを生みながら歩き、空気がゆっくりと波紋を広げる様を見ながら、両腕に力を籠めた。ジェットエンジンが空気を取り込むような音とともに、俺の両腕が炎にも似た闇に覆われた。

 

 

 いつ見ても、情けなくて涙が出る有様である。

 

 

 俺は魂の力は怖ろしく弱い。故に異能の出力は低いし、闇の力もカスみたいなもんだ。千歳として化けて出る場合は力を圧縮し、解放を繰り返すというかなり無茶な運用をしてようやく見てくれだけは誤魔化せる有り様だ。

 

 

 本来ならばこの闇だって黒炎状ではなく、黒い光として腕を覆うはずなのに、俺の魂の力が弱すぎて、炎めいて揺らぐ不完全な状態で発揮されてしまうのだ。

 

 

 ただ、まあ、はったりとしてならば、むしろこちらの方が都合が良いのかもしれない。全く嬉しくも何ともないが。未熟が褒められるなど。こんな屈辱は無い。

 

 

 苛立ちを吐き出すように、拳を光波に叩きつける。光波は叩かれたことに気づいてすらいない。ただ何事も無くそこにあった。

 

 

((光でできているくせに、随分と()()ことだ))

 

 

 鼻を鳴らしてその場を離れ、大剣を振りかぶったまま固まる暗夜の下へと立った。

 

 

 端正な顔は必死に正面を、敵である俺がいた地点を睨み、片時も放さない。

 

 

 強い力を秘めた、良い顔だった。

 

 

 俺は頷き、その横っ面を殴りつけた。そして今度はその後ろで両手を前に突きだして光を放とうとしていた績の前に立つ。

 

 

 可憐で、美しい容姿。制服を突き破らんばかりの胸は男が羨んで仕方が無いだろう。

 

 

 気の強く、何物にも物怖じしないと感じさせる、力強い顔だった。

 

 

 俺は頷き、前蹴りを放って腹を抉った。そして最後に績の横に立っている軌陸の前に立った。

 

 

『三本槍』とよばれる高名な姉に憧れ、高校生という若輩の身で戦いへと身を曝け出した勇敢な少女。という謳い文句で体の良い宣材として使われている彼女だが、その心の深奥は姉へのコンプレックスと自分と世間のギャップの差に苦しむ年相応の少女であり、つい先日の敗北はその心に拍車をかけた。

 

 

 普段通り勇んでいるつもりなのだろうが、滲み出る負の感情は最早隠し切れなくなっている。こいつのそばに立つと勝手に『籠』が充填されていくのだから、その傾向は一目瞭然である。

 

 

 勇んでいるようで、全く覇気のない顔。滲み出てる雰囲気は空元気のそれであり、見る奴が見れば一目で不調だと分かるだろう。

 

 

 俺は頷き、右フックで脇腹を打った。

 

 

 そしてとことこ元居た場所に戻り、時間間隔を元に戻した。途端に世界に音が満ちた。

 

 

「グワーッ!?」

「あうっ!?」

「うぐっ!?」

 

 

 暗夜がきりもみ回転しながら壁に叩きつけられ、光波が爆散し、績が吹き飛んで地面を二転三転し、苦悶しながら軌陸は咄嗟にロングソードを突き刺して地面を削りながら何とか停止した。

 

 

「グハハハハハ! どうした光の僕!」

「ち、くしょ……グハッ!?」

「暗夜さん!」

「よそ見をするな!」

「うぅ!」

 

 

 立ち上がる暗夜の顔面に膝蹴り。光球を叩きつけようと向かってきた績に肘うちを叩きつけて再び吹き飛ばす。

 

 

「くっ! この!」

 

 

 軌陸がロングソードを向け、『伸縮』で貫こうと構えた時には、俺はすでに眼前におり、裏拳で手首を打って剣を叩き落し、無防備胴体にボディブローを叩き込んだ。

 

 

「あぐっ!?」

「グググ、刀剣が無ければ何も出来ぬか!」

「そんなこ──────」

 

 

 最後まで聞く事無く肩に手刀を振り下ろし、肩を抑えて後退る軌陸へ追撃の左ストレート。吹っ飛ぶ先には光球を発しようと構える績がいて、両者縺れるようにしてダウン。

 

 

「こんにゃろ───」

「貴様もだ小僧!」

 

 

 大剣を掲げて走り出そうとする暗夜の前に一瞬で近寄り、腕を打って剣を手放させ、足にローキック。バランスを崩して転倒する暗夜へ回し蹴りを放ち、破れかぶれで殴りかかってきた軌陸の顎にトラースキック。

 

 

「惰弱! 貧弱! これが聖光教の次世代を担う者の力だというのか! 何たる無様! 何たる弱敵! 下らん!」

 

 

 部屋の中心に立ち、発破もかけて大仰な身振りで見回すが、どいつもこいつもダメージでそれどころでは無く、聞こえてくるのは苦痛の呻き声だけだ。

 

 

「グググ返す言葉も無いてか! そうよなあそうよなあ! 実際自らの事は自分がようわかっておるわ! 情けなさに自然と体が震えるであろう?」

「「……!」」

 

 

 嘲笑う俺に対し、彼らはどうにか顔を向け、あらん限り睨みつけるが、それはそれだけの事だった。起き上がってくる気配は、無し。頃合いである。

 

 

「グハハハハ! 貴様ら如き殺すまでも無いわ! ほっておけば勝手に消えゆく霞にも劣る犬畜生どもよ! 精々我々が世を黒に落とすさまを手をこまねいて見ているが良いわ! グッハハハハハハハハハハ!!!」

 

 

 高笑いを上げながら、俺は暗夜たちのもとを去った。

 

 

 廃ビルから出て、しばらく待っていると、ビルが揺れんばかりの咆哮が轟いた。

 

 

 少しやりすぎた感が否めないが、結局この先挫折を味わう展開が起きるので、それが早まっただけの事だ。

 

 

((という訳で、後はみみ子、何とかしろ))

 

 

 彼らが立ち上がるかは、小柳みみ子の手に託された! がんばれみみ子! 負けるなみみ子! こいつら、特に軌陸はすこぶる面倒くさいぞ! 

 

 

 そう思い、みみ子に会うためにビルから離れる事にしたのであった。

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