影武者転生異常あり!~俺は悪役令嬢の影武者なんだ…誰が何と言おうが影武者なんだ!だから脇役でいさせろや!   作:三流二式

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『幕間』④

 5『昼休み 神代学園屋上』

 

 

 

 

『神代学園学園祭にて『教団』は爆破テロを実行に移すことに決めた。お前はイミテーションと共に作戦を指揮し、より多くの人間を殺戮すべし』

「……」

 

 

 衝動に任せ、スマートフォンを握りつぶさなかった自分を、千歳は褒めてやりたい思いであった。

 

 

 爆破テロ? 殺戮すべし? それが父が子に向ける言葉か。そこまでして私が憎いか。それとも本当に私に一欠片の興味も関心も無いのか? 

 

 

(どこまで私を馬鹿にすれば気が済むんだ? あの男は……)

 

 

 握りしめた手すりがミシミシと歪み、黒い闇を含んだ破壊がバチバチと音をたてて激しく放電し、ガオンと音をたてて握りしめていた部分がきれいさっぱりと消失した。

 

 

「あの~頼まれた物、買ってきました~」

「ッ!」

 

 

 後方の屋上の扉が開かれる音と共に、みみ子の気の抜けるような声が聞こえた。千歳は弾かれたように振り返り、反射的に破壊球を放っていた。

 

 

(しまっ──────)

 

 

 気付いた時には、もう遅い。みみ子に向かって恐ろしい勢いで破壊の塊が迫る。

 

 

 避けろと言う間もない。みみ子の顔面に破壊球が今まさに激突せんとしていた。千歳は無駄だと分かっていながらも、手を伸ばしていた。

 

 

 終わる。消える。何で、こんな──────。

 

 

 絶望が、胸に満ちる。ようやく得られるかもしれなかった繋がりが、今まさに消えようとしていた。千歳の心は再び黒い闇に沈みかけ──────。

 

 

「うひゃあ!?」

「は?」

 

 

 みみ子は眼前に迫った破壊球に目を剥き、物を抱えたままフリップジャンプをして破壊球を飛び越すと、なんて事の無いように千歳の前に着地した。

 

 

「あわあわあわごめんなさい千歳さん! この時間の購買はその、物凄く混んでいるというか私チビだから押し流されると言いますか! と、ともかく物はありますので何卒! 何卒!」

「……そう、か」

 

 

 腰を90度曲げて両手で焼きそばパンを掲げるみみ子に、千歳は上の空で呟き、恐る恐るといった手つきで焼きそばパンを受け取った。

 

 

「いやぁ~危ない所でした。もう1個しかなかったんですよ。あと少し遅かったら確実に無くなってましたね。他の人も手を伸ばしてましたし!」

 

 

 捲し立てる様に言うみみ子を、千歳はじっと見つめる。

 

 

 華奢な体だ。そう思った。自分もあまり人の事は言えないが、それにしたって貧相な体をしている。にも拘らず、その運動能力は、想像以上に高いようだ。

 

 

 千歳は思い返す。つい一瞬前の光景を。本人は間抜けそのもののような感じであったが、千歳の脳裏にはあまりにも鮮烈に焼き付いていた。

 

 

「……おい」

「はい、何でしょう」

 

 

 千歳に声をかけられ、みみ子はすぐさま直立不動の姿勢をとった。

 

 

「何故、私に従う? あれだけ動けるお前からすれば、私の言葉に従い続ける理由も無いだろう? 嫌ならば、いつでも逃げられるはずだ。何故だ?」

「え? べつに嫌じゃないですよ」

 

 

 けろっとした顔で返すみみ子に、千歳は目をしばたいた。

 

 

「どういうことだ?」

「まあ確かに千歳さんはおっかないですし、頭ごなしに命令してくるのもイラっと来ますけど、でも、まあ、千歳さんが()()()()()()()のは知ってますから、別にいいかなって」

「──────」

 

 

 今度こそ千歳は完全に言葉を失った。

 

 

 悪い人じゃない? 私は鳳凰院千歳だぞ? 何を言っているのだ、このもやしは? 

 

 

「何……を……」

「まあそんな難しく考えないでくださいよ。ピンと来ないのでしたら、困ってるクラスメートを助けてるって思ってもらえばいいですから」

 

 

 余計に意味が分からなくなった千歳は額に手を当てて困り果て、心配して手を伸ばしてきたみみ子の手をはたき落とし、じろりと睨んだ。

 

 

「意味が分からん。もういい。どこへなりとも行け」

「あ、はい」

 

 

 苛立ちを感じ取ったみみ子は回れ右してそそくさと逃げ去って行った。

 

 

「……」

 

 

 みみ子が去って行った屋上のドアをひとしきり睨みつけると、千歳は手に持った焼きそばパンへと目を落とす。

 

 

 なんて事の無い物だ。普段彼女が口にしている物からすれば、正真正銘低俗なものだ。

 

 

 千歳は包装を剥き、一齧りした。焼きたてのロールパンは甘みが強く、それが濃い味付けの焼きそばと良くあった。アクセントの紅しょうがの酸味とシャキシャキした触感が心地いい。

 

 

 これは良い物だ。庶民が食べるものという意味では。

 

 

 しかし、千歳が思ったのはもっと別の所。

 

 

 普段から質の高い物を口にしている関係上、千歳は舌が肥えている。

 

 

 にも拘らず、普段食べている物よりもずっとおいしく感じられるのは、一体どういうことなのだろうか? 

 

 

 どれだけ考えても、千歳には答えが出せなかった。

 

 

 

 

 ■

 

 

 

 

 6『悪魔の契約 ③』

 

 

 

 真っ白な部屋である。右を見ても左を見ても、あるのは一点の染みも無い白が広がるばかりの部屋だ。

 

 

 こんなところに長時間居座るなど狂気の沙汰だが、生憎この部屋の主は元より普通の倫理観など持ち合わせていない。

 

 

「──────」

 

 

 ソレは、ただひたすら耳を澄ませていた。今日起きてから、ソレにはずっと予感があった。何かが起きる。生まれた時から脈動する〝混沌〟が、完全に外界と隔絶されたこの空間の壁を()()()()、外からの情報を届けているのだ。

 

 

「へ、へへ」

 

 

 耳を澄ませる………………澄ませる………………来た! 

 

 

 ソレは刮目した。その瞬間、ソレの目の前の壁が内側にへっこみ、次の瞬間爆発し、白い破片をバラバラと散らしながら砕け散った。

 

 

 外の空気が流入する。何年振りかの香しい自由の香りが鼻腔に満ちる。それは深々と息を吸いこみ、堪能するようにゆっくりと肺に溜めてから、音をたてて吐き出す。

 

 

「へ、へへへハハハ! マジか! マジで来やがったのかよ!」

 

 

 と、ひとしきり深呼吸すると、ソレは拘束された体をよじりながら未知との遭遇に興奮を隠す事無く喜色満面に顔をほころばせた。

 

 

 来訪者はつかつかと決断的にソレに歩み寄った。歩く度に、それから滴り落ちる赤が、清潔で無欠な白い床を汚し、穢した。

 

 

 入ってきた人物は奇妙ななりであった。デフォルメされた犬を模したヘルメット。ふざけた被り物だが、しかし服装はきっちり着こなした皺一つ無い黒スーツである。

 

 

「ふむ、その様子では、私の事は知っているようですね」

「おうおう、知ってるぜ。あんた保健所だろ? 結構界隈じゃ有名だぜ? 何たってオイラの耳にも入ってくるほどだからな!」

 

 

 男はソレの前に立った。ソレはにっこりと笑い、拘束具をガチャガチャと鳴らした。

 

 

「なあ、オイラの前に来たって事はよ」

「話が速くて助かります。その通り。貴方をスカウトしに来ました。とはいえ、あなたが所属するのは保健所ではありませんが」

「へぇ、じゃあどこだい?」

 

 

 イミテーションは手刀で拘束具を破壊し、ソレの手を取りながら、言う。

 

 

「あなたには私が秘密裏に作った会社、武装警備員派遣会社ペットショップに所属してもらいます。これもまた秘密裏に、ですが」

「へへへ、今みたいに監禁か?」

「こう言っては何ですが、それに近いですね」

 

 

 再び拘束されるかもしれないと告げられても、ソレはにやにやとした笑みを浮かべていた。目の前の人物が、それで終わる訳が無いと理解しているからだ。

 

 

「代わりに、望む物を可能な限り与えましょう」

「ッ!!! ピザも!?」

「モズバーガーもいいですよ」

「こ、コーラのリッターサイズも!?」

「アイスのパイントサイズもミセスドーナツの盛り合わせも、どうぞご自由に。代わりに」

「おうおう! いいぜ! 好きに使ってくれよ! うひょー! あんた最高だぜ!」

 

 

 ソレは目を輝かせながら、ぴょんぴょんとウサギのように跳ねて喜びをあらわにした。

 

 

「さて、あなたはこれから『ビーハイブ』と名乗りなさい」

「良いぜ! C-108以外ならなんと呼んでも構わねぇぜ! よろしくなボス!」

 

 

 そう言って、C-108改めビーハイブは豊かな胸をはり、イミテーションへと服従を誓ったのであった。

 

 

 本来なら2年後に〝混沌〟と〝金〟の両方を兼ね備え、『侵食』の異能で章ボスとして無茶苦茶に暴れ回る存在は、この世界ではイミテーションの切り札の一つとして厳重に秘匿されるのであった。

 

 

 

 

 ■

 

 

 

 

 7『教団 祭壇前』

 

 

 

 

「これ以上の破壊は目に余る。実際、奴らに狩られた兵隊はすでに3桁を超えている」

「ギギギ……コロス」

「しかし、奴等は、神出鬼没」

「ならば、炙り出せば、良い」

「策はあるのか?」

「ワシガ行コウ」

「オロチ、お前か」

「ウム、ワシノ感知ハ教団一。本腰ヲ入レテ探セバ、ソウ長クハカカラヌ」

「ならば行け。〝マガツノオロチ〟。保健所を名乗る集団を残らず抹殺せよ」

「御意二」

 

 

 

 

 ■

 

 

 

 

 8『廃工場地帯』

 

 

 

 

「ギャアッ!?」

「ギッ」

「なっ!? 一体どこから」

「知る必要はありません」

 

 

 聖光教と教団の抗争により無人となった廃工場地帯はアウトローたちが隠れ潜むには格好の場所である。

 

 

 当然教団はそこで何か言うを憚られるような非道行為を行っており、そこの殲滅は聖光教にとっても、またイミテーションにとっても急務であった。

 

 

 しかし、その広さ、教団とは関係のない悪党どもの妨害、あるいは秘密裏のやり取りから、聖光教はおいそれと手出しができないでいた。

 

 

 だが、この男にとってそんな事は関係が無い。

 

 

 己の目的。すなわち自分が足抜けした際の治安の向上のためならば、彼はいかなる非道行為も辞さない。

 

 

 それを体現するかのように、教団の傘下にあった暴力団組織のアジトに急襲し、殲滅する。今日一日だけですでに十数回と繰り返していた。

 

 

 ついには駐屯している黒い者、更には闇の者すら何人も出てきたが、その全てを惨たらしく殺害し、なおも悪魔は殺戮を続けた。

 

 

 太陽が昇り、真上に来て、陽が傾いて来ても、死の嵐は弱まるどころか光が弱まるにつれて加速した。

 

 

 銃声。怒号。爆発音。悲鳴。

 

 

 銃声。怒号。爆発音。悲鳴。銃声。怒号。爆発音。悲鳴。

 

 

 銃声。怒号。爆発音。悲鳴。銃声。怒号。爆発音。悲鳴。銃声。怒号。爆発音。悲鳴。銃声。怒号。爆発音。悲鳴。銃声。怒号。爆発音。悲鳴。銃声。怒号。爆発音。悲鳴。銃声。怒号。爆発音。悲鳴。銃声。怒号。爆発音。悲鳴。

 

 

 悲鳴。悲鳴。悲鳴。悲鳴。悲鳴。悲鳴。悲鳴。悲鳴。悲鳴。悲鳴。悲鳴。悲鳴。悲鳴。悲鳴。悲鳴。悲鳴。悲鳴。悲鳴。悲鳴。悲鳴。悲鳴。悲鳴。悲鳴。悲鳴。悲鳴。悲鳴。悲鳴。悲鳴。悲鳴。悲鳴。悲鳴。悲鳴。悲鳴。悲鳴。悲鳴。悲鳴。

 

 

 …………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………静寂。

 

 

 聞こえてくるのは、ビルの谷間を泳ぐ風の音と、満身創痍の悪魔の粗い息遣いだけ。

 

 

 

 命の気配は無し。廃工場地帯の数区画は、いまやネズミ一匹すらいない、究極の無人地帯と化した。

 

 

 屍の山と血と闇の泉の中心に、暮れなずむ赤を背にし、悪魔は残心した。

 

 

 この廃工場地帯には暴力団組織、教団、アウトロー気取りの小物を含めば100を超える団体が存在したが、その半分が、文字通り綺麗さっぱりと消滅した。

 

 

 残ったもう半分は這う這うの体で逃げ出すか、決死の特攻に打って出て刹那の内に消え去ったりしていた。

 

 

 アウトローというのは総じて迷信深いものだ。そして誰しもが、こんな悪いことをしている自分の目の前に、いつの日か死神が姿を現すに違いないと確信していた。

 

 

 彼らは逃げ出した。死神の目に映らぬように。悪魔の(かいな)に影を取られぬように。

 

 

『……気は済んだか?』

「えぇ……いくつか残っているようですが、消えるのは時間の問題でしょう」

『だろうな、誰も悪魔に喧嘩売ろうなんて考えやしないさ。ここまでコテンパンにされちゃあな』

 

 

 

 イミテーションは荒い息を吐きながら、肩に突き刺さった折れた刀剣を引き抜き、一呼吸入れてからトサケンへと返事を返す。

 

 

『もう今日は良いだろ? 早く帰って来いよ。明日は文化祭。一仕事あるんだろ?』

「そうします。さすがに、疲れました……」

 

 

 返事の代わりに、深いため息が聞こえた。

 

 

「苦労を掛けます」

『だったらこういう無茶は控えて欲しいんだがな』

「それは無理ですね」

『目的のためか?』

「そうです」

 

 

 再度のため息。イミテーションは仮面の奥で苦笑いを浮かべた。

 

 

「では帰還──────ッ!?」

 

 

 言いかけて、弾かれたように後方を見る。

 

 

『あ? どうし』

「今すぐ通信を切ってください」

『何を──────』

「はやくしろ!!!」

『ッ!? クソ!』

 

 

 ブツンと音をたてて通信は切れた。イミテーションは通信が切れたと同時に全身の力を抜き、爆発的に踏み込んだ。雷鳴歩で、すぐさま廃工場地帯から抜け出した。

 

 

 その一瞬後に、イミテーションがいた地点に、何か巨大な質量が鉄槌めいて突き立った。

 

 

 凄まじい衝撃が土砂やコンクリートの破片、死体を襤褸雑巾のように跳ね上げた。

 

 

 バラバラと死体と瓦礫の雨が降り注ぐ中、舞い上がる土埃よりもなお大きな影が身をもたげ、訝るように小首をかしげ、二股の舌を出し、ピロピロと振った。

 

 

「……?」

 

 

 ヘビであった。しかし、そのサイズが狂っている。神話に登場する大蛇そのものである。

 

 

 首を捻る深緑と黒の斑模様の蛇の横に、建物の合間を縫って、濃い青と黒の斑色の蛇がぬっと顔を出した。その横に赤黒の蛇が。そのさらに横に毒々しい黄色の蛇が。

 

 

 続々と大蛇は合流し、計8匹の大蛇がとぐろを巻いたり、まだいないか周囲を見回したり、舌を出して索敵したりしていた。

 

 

『『逃ガシタ……?』』

 

 

 ヘビはエコーがかった声で、困惑を露にした。

 

 

 明らかに当たるであろうタイミングだった。しかし、蛇の予想とは裏腹に、ターゲットは逃げおおせ、自分はこうして無様に途方に暮れている。

 

 

『『オノレ……!』』

 

 

 怒気に応じて、凄まじい闇が放射された。それだけで周囲の建物が崩壊し、ヘビすら覆い隠す埃を巻き上げた。

 

 

 一頻り怒り狂って建物を破壊すると、ヘビたちはずるずると後退し、やがて黒いフードを被った男の顔面に収納された。信じがたいことに大蛇たちはこの人物の顔面から生えていたのである。

 

 

 これが教団の4人の幹部の一人、『マガツノオロチ』である。

 

 

「コザカシイ真似ヲ……」

 

 

 憎しみと共に吐き捨てると、マガツノオロチは体を軋ませ、メキメキと音をたてて黒緑色の蛇へと姿を変え、暗闇の中へと音も無く去って行った。

 

 

「クソが……」

 

 

 それを、遥か遠くから眺めていたイミテーションは忌々し気に吐き捨てた。

 

 

 あれがマガツノオロチ。ついに幹部が重い腰を上げ、自分を殺しにやって来たか。

 

 

((ファック! にょろにょろととぐろを巻く以外に脳が無い蛇風情がふざけた事しやがってッ!!!))

 

 

 イミテーションは心中で怒り狂った。

 

 

 しかし、この思いは外には出さない。

 

 

 

((あの蛇の感知脳は桁外れだ。ほんの少しの感情の吐露が発見につながりかねん))

 

 

 あれと戦うのは、自分ではない。その前に自分は降りる。

 

 

 ただでさえ明日は自分にとってすべてが終わる日だというのに、何という不穏な幕引きであろうか。

 

 

((ファック! ファック! ファーック!!!))

 

 

 イミテーションは祈った。どうか私目に明日が良い一日となりますように、と。

 

 

 しかし、祈りというのはいつだって通じない物だ。とりわけ、どうしようもないろくでなしは特に。

 

 

 明日はきっと荒れるのだろうな。その確信が、健太郎の胸中を更に爆発させるのであった。

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