影武者転生異常あり!~俺は悪役令嬢の影武者なんだ…誰が何と言おうが影武者なんだ!だから脇役でいさせろや!   作:三流二式

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『学園祭爆破阻止』①

 時刻は0500、保健所の〝巣〟にて、勢ぞろいしたメンバーを前に、俺は最終ブリーフィングを行っていた。

 

 

『本作戦は教団の仕かけた爆弾の解除。及び、潜伏する黒い者の排除が目的となっております』

 

 

 マイク片手に前に立つ俺に、犬たちのギラギラとした視線が突き刺さる。

 

 

『設置される予定の爆弾は──────』

 

 

 ホワイトボードに投影された映像に映る神代学園の要所要所にレーザーポイントを順に当ててゆく。

 

 

『そして最後、体育館に設置される爆弾を任せられるのが、私です』

 

 

 ピリッと犬たちに緊張が走った。

 

 

『爆弾は1300より体育館で始まる吹奏楽部の催しに合わせて一斉に起爆されます。設置予定時刻は1000時より始められます。私は千歳様の代わりに現地入りし、爆弾を守護します。その間千歳様は学園の外で待機し、爆発による痛みと恐怖で闇が充満し次第私と合流。闇を吸収し、晴れて幹部の一員となります。当然私はこれを許容しません。貴方たちは1030より指定した場所の爆弾の解除。および爆弾を守っている黒い者を排除してください』

「設置される前に黒い者を排除するってのは駄目なんすか?」

 

 

 ポメラニアンが当然の疑問を口にした。

 

 

『いえ、それでは逃げられる可能性があります。私の目的の一つは教団の戦力を可能な限り排除する事です。小粒の魚でも、逃す理由はありません』

 

 

 俺が消えた後、あいつらが残ってるせいで平穏が脅かされました、だなんて冗談じゃない。

 

 

 最後の最後まで手は抜くつもりはない。まあでも、最悪残るのはいい。俺の周りにうろつかなければ、奴らが世界の裏側で百人だろうが一兆人殺そうが知った事か。

 

 

 ポメラニアンはとっくりと考え、それから頷いた。

 

 

「それもそうっね」

『さて、皆さんはこれで終わりです。後はプードル。暗夜さんたちを1100に体育館へ誘導するように。頼みますね』

「は、はい!」

 

 

 プードルはやや自信なさげに返事をした。

 

 

『では、解散。後は現地で会いましょう』

「……嬉しそうだな」

 

 

 トサケンが訝るように目を細める。

 

 

((顔に出てたか?))

 

 

 口元に手をやると、確かに口の端が上がっていた。

 

 

「えぇ、そうですね。柄にもなくはしゃいでいるようです」

「何かいいことでもあったのか?」

「はい。とっても良い事があるんです。そうだ。皆も覚えておいてください」

 

 

 メンバーの一人一人に目を合わせながら、両腕を開く。

 

 

「今日は素晴らしい事が起きます。全てが変わります。期待していてくださいね」

「「……」」

 

 

 俺の内心とは裏腹に、何故か犬たちの顔は強張っていた。

 

 

 

 

 ■

 

 

 

 

 1000、文化祭開始と共に、黒い者が学園に侵入を開始したことが、聖光教のエージェントたちが使っている通信を傍受したことにより分かった。

 

 

 どうやら別動隊が張っていた聖光教のエージェントとかち合ったらしく、秘密裏の小競り合いの音がそこかしこで聞こえた。

 

 

 

 俺は千歳として堂々と学園に侵入し、千歳らしく傲慢に手伝いをサボり、それとなく爆弾設置場所へとふらっと現れ、文化祭へやって来た民間人に化けている黒い者へ顔を見せたりしていた。

 

 

 軌陸も駆り出されたらしく、毒づきながら外へ駆けだしていく姿をはっきりと視界に収めた。

 

 

「あいつも大変だな~」

「他人事みたいに言ってますけど、忙しくなったら私も手伝いに行きますからね」

「あ、あはは……」

 

 

 績と暗夜の会話に相槌を打ちながら、俺を見つけたみみ子が助けてくれ、とばかりに目配せをしてきた。

 

 

 俺は肩を竦め、そのまま体育館へと直行した。恨みがましい視線が背中に突き刺さったが、知った事じゃなかった。

 

 

 教団の張った結界により人払いが行われた体育館は人っ子一人おらず、外から聞こえる人々の喧騒は別の世界から割り込んで来るノイズじみていた。

 

 

 楽しい思いをしている傍ら、その裏では殺伐としたやり取りが行われているのは、何もここだけの話じゃない。

 

 

 いついかなる時代、場所で、誰かの幸せの裏では誰かが不幸になっている。

 

 

 そういう奴は大抵、自分が世界一不幸だという自己愛に浸る事でどうにかその場をやり過ごしている。

 

 

 残念ながら下には下がいるもので、上を見れば切りが無いのと同じように下にだってきりがない。自分が世界一不幸だと思い込む奴は、その事実から目を逸らしている。

 

 

 当然のことだ。きっとそいつには何一つ誇れるものも胸をはれるような物すら無いのだろう。だから、何も無い自分を世界一不幸だ、というレッテルをはり、せめてその部分だけは自分はこの世で一番なのだと嘯くのだ。

 

 

 例え虚飾であっても自分にとって誇れるものを作らなければ、たちまちの内に世界の重みに押しつぶされてしまう。

 

 

 天蓋は無限に連なり、深淵の底は永遠に拡張され続けられる。人が消え、地球という宇宙に漂うちっぽけな石ころが消えたところで、それはきっと変わらない。

 

 

『1030、時間になったから始めるぜ』

『ポメラニアン、了解。こっちもやり始める』

『シバイヌ。分った。私も仕掛けるね』

『久しぶりに登校してきて、やる事がテロリスト排除? まったく、デリカシーの欠片も無いわ』

『こちらトサケン。お客さんだ。相手をしてくるぜ』

 

 

 通信から犬たちの声が聞こえ、その後に破砕音、怒号、悲鳴。

 

 

 耳に入ってくる犬たちの仕事ぶりを聞きながら、俺はというと、懐から握りこぶし大の脈打つ心臓のような物体を取り出した。

 

 

 これが『爆弾』である。より正確に言うと幹部の一人『グレンキュウビ』の肉から作り出した生体爆弾である。

 

 

 奴の異能『爆破』が込められたこの肉塊は、その小ささからは想像もできないほどすさまじい破壊力を持つ。このサイズで、体育館がまるまる吹っ飛ぶのだ。

 

 

 他の仕掛けられた物とは訳が違う。とんだ特別性の代物(サノバビッチ)である。

 

 

 俺はそれを思い切り握り締め、砕き、闇と破壊の力を流し込んで消滅させた。

 

 

 設置? どうせ績に消し飛ばされるのに? 冗談だろ? 

 

 

 やる事も終わり、手持無沙汰となり、体育館の奥の方にある壇上へ腰を掛け、足をぶらぶらと揺らしながら、俺は考える。

 

 

 ゲームでは軌陸とエミリーや聖光教のエージェントが増援を防いでくれているので、増援の類はやってこない。その代わりに時間制限以内に爆弾を解除しないとゲームオーバーとなる。

 

 

 前半の終わり。chapter5はそういう感じで始まる。

 

 

 マップに4つのマーカーが灯り、そこにある爆弾を守護する黒い者を排除し、爆弾を解除。すべて終えるとエミリーから通信が入り、最後の一つが体育館に仕掛けられているという情報が齎される。

 

 

 マーカー情報が更新され、体育館に行くと、その入り口にこれ見よがしにみみ子と萌が立っており、露骨にボス戦を意識させられるのだ。

 

 

 そして千歳に化けたイミテーションと戦い、彼の敗北を悟った千歳が現れ、イミテーションは心臓に宿る闇をぶっこ抜かれ、死ぬ。

 

 

 この世界ではどうなるだろうか? 

 

 

 闇は肺に宿り、千歳は人死にを経験せぬままここまで来た。それがどう転ぶのかは、俺には分からない。

 

 

 ただこれにて俺の役割はお終いだ。ぶっこ抜かれた後は適当に余波で壁の端まで転がっていくふりをし、視界が効かなくなるほどの何かしらが起きたと同時に去る。それで終わりだ。

 

 

 俺はようやくそれで自由になれる。

 

 

 だが、それで終わらないのが俺様だ。アフターケアもばっちりだ。

 

 

 千歳も、うちの犬たちも、聖光教の保守派の幹部、その中でも悪どい事をしている奴とネットワーク上ではあるがコンタクトは取ってある。

 

 

 こいつらの利用価値、どれだけ金を生むか懇切丁寧に説明してやり、さらに廃工場地帯から悪党どもを一掃することを条件に、こいつらの保護をもぎ取ってやった。

 

 

 はじめは半信半疑だった。ならばやって見せろと手を振るあいつらの顔は、全部むしり取ってやるという薄汚い欲望に満ちていた。

 

 

 だから俺は徹底的にやってやった。お望み通り血と臓物と屍の山を見せてやった。

 

 

 本当に悪党どもを根こそぎにしてやって、真後ろに立ってやった時の奴らの顔は、本当に傑作だった。()()()()()()()()()()()()()()()()()()。思わず笑ってしまった俺を、誰が攻められる? 

 

 

 と、そうこうしている内に、体育館の扉が蹴破られ、暗夜、績、みみ子、萌それから遅れて軌陸がどたどたと得物を構えてやって来た。

 

 

 壇上に腰かける俺の前に、福音を告げる五人の御使い(しゅじんこうたち)が、何事かを告げている。

 

 

 これが、俺の関わる最後の光景(げーむどおりのこうけい)である。

 

 

 短いながらも、中々新鮮だった。これで終わりかと思うと、なんとなく寂しい気も。

 

 

 

 

「無いな」

「うぉ!?」

 

 

 ぶっ放された破壊球を仰け反ってかわす暗夜を見ながら、俺は鼻を鳴らした。

 

 

((これで終わりだ。精々苦しませて見せろ))

 

 

 胸中で吐き捨てると、距離を取って構えるその他のメンバーへ、闇の混じった破壊を放射した。

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