影武者転生異常あり!~俺は悪役令嬢の影武者なんだ…誰が何と言おうが影武者なんだ!だから脇役でいさせろや! 作:三流二式
「させません!」
放射した破壊は績の張った光の幕がたやすく受け止められた。
「でやぁああああ!」
みみ子が異能を付与した萌印の特殊グレネードを投擲してきた。
「食らいなさい!」
援護するように、萌はガラクタバルカンの引き金を引き、毎分6000発の弾丸をばら撒いた。
「ははっ!」
俺は破壊の幕を張って全てを受け、消し去って無効化するとその膜を爆散させて再び全方位に破壊をばら撒いた。
「させないと言いました!」
績が光の幕を張り、先程と同じように破壊の波動を全て散らす。
「そら!」
績の背後から軌陸のロングソードが恐るべき勢いで俺に向かって伸び来った。
俺は両手に破壊を纏いながら添うようにロングソードに触れ、這わせ、受け流し、そのまま両手を軌陸に向け、破壊の束を撃ち込んだ。
「くっ!」
績が光の幕で受け止めにかかるが、一点に集中させ、貫通力に優れた破壊砲はたやすく膜を貫き、軌陸と績は横に跳ねて回避を強いられた。
「うぉおおおおお俺を忘れてんじゃねーぞおおお!!!」
暗夜が横合いから飛び出して来て、聖剣を一閃。俺は上体を逸らして聖剣をかわすとともに地面に両手をつき、空振りして無防備な暗夜の側頭部に屈み込みながら蹴りを叩き込んだ。カポエラの蹴り技だ。
「ぐっ!?」
「暗夜!」
「このっ!」
「はあ!」
目を剥いて吹き飛ぶ暗夜を軌陸が受け止め、績と萌が援護射撃で追撃を阻む。
「あちょー!」
地面に手をつき、ダメ押しとばかりにみみ子が異能を発動させて地面を軟化させて拘束を試みる。
付き合ってやる気はない。その時既に俺は暗夜を蹴った反動でその場を跳び離れていた。
俺はクルクルと身を捩じりながら着地した。着地の瞬間に闇が全身を舐め上げ、暗夜たちに向き直る時には俺の服装は黒いドレス姿へと変わっていた。自分でやっておきながら、これはなかなかいい演出だったと思う。ゲームではこの姿になってから戦闘開始だったので、こういう攻防の中で姿が変わるのが好きな俺からすれば、いささか不満であったが、これで満足である。
惜しむらくはこれをやる側ではなく見る側でいたかったという点であったが、言った所で仕方があるまい。
「貴様は!」
軌陸が目を見開いた。
「何だ? 姿が変わったぞ!」
「そうか、貴様だったのか鳳凰院!」
「軌陸さん? 鳳凰院さんのあの姿に何か心当たりでも?」
「××区支部!」
「っ! なるほど!」
合点がいった績は全身から膨大な光を柱の如く立ち昇らせると、両手に渦を巻く光を纏い、前に突きだし、躊躇なく光の渦を撃ち放った。
「俺様のも食らっとけやぁああああああ!!!」
暗夜も合わせるように一点集中した光を聖剣から放射した。
全てを貫く一条の光と竜巻状の光りが合わさり、人一人を優に呑み込む嵐となって俺に迫る。
((あっはっは……じゃねーよ! 何だこのふざけた出力は!? お、おま!?
途端に世界の全てが泥のように流れを止め、静止した時の中で前方の暗夜たちを睨む。
暗夜。大剣は鋼色だった部分が全て金に染まり、勇者としての力はほぼすべて解放されている。父親の血の方はまだ覚醒の兆しは見て取れないが、ここまで勇者の力が表出しているのなら、
績。こちらも聖女の力はほぼ全て解放されている。制御こそ甘いが、時間さえあればすぐにでも制御は安定するだろう。
軌陸。あん畜生は2人の砲撃を隠れ蓑に光の翼を展開して大きく回り込み、俺を背後から討とうとしていた。このガキはchapter6の幹部戦で強化されるはずなのに、何故だか知らんがすでに光の者として覚醒していやがる。
みみ子と萌は……まあいいか。ほどほどに援護しているふりをすればいいとは言ってあるから、そこまで大それた事はしてくまい。
ていうか萌。お前何で来た? みみ子だけでいいっつったじゃん? 処理が追っつかねぇって言ったよな俺? あの3人だけで手いっぱいだからエミリーの方へ行ってくれって言ったじゃん?
((どうしたものか……))
困った。普段の俺ならばこんなもんぶっ放される前に首を
べつに負けることは問題ない。しかし、ある程度は戦っておかないと、これを見ているであろう千歳に何されるか分かったもんじゃない。
((仕方ない。ゴミみてぇな出力の破壊だけでどこまでやれるか分からんが、一丁やってみるか))
全てが静止しているのを良い事に、俺は光の嵐の出がかり付近に破壊の力を、それだけでは足りなさそうなので闇も混ぜ込んだ板状のエネルギーを生成した。
((角度は……もうちょい上に……よし))
微調整を繰り返し、満足のいく角度にできた俺は、主観時間を元に戻した。
途端に全てが動き出し、ぽっかりと空いた空白に爆音と衝撃が雪崩を打った。
全ては一瞬だった。莫大な光の嵐は俺の作り出した板状のエネルギーに接触。エネルギーは拮抗すらせずに消し飛ばされたが、しかし軌道に僅かなずれを生じさせた。
ほんの少しのずれは、しかし俺に到達する頃には大きな誤差となって逸れ、俺の真横を数ミリ掠め、結界をぶち抜きながら明後日の方向へとぶっ飛んでいった。
「あぁ、外したぁ!?」
「そんな馬鹿な!」
「任せろ!」
驚愕も露な暗夜と績に、頼もしい声が掛けられた。背後からの強襲連続刺突が、俺の背中に迫る。
((奇襲が声を発するなよ))
刺突の軌道上に破壊球を設置し、爆ぜさせて軌道をずらし、全てを薄皮一枚裂く程度に被害を抑え込んだ。
「何ぃ!?」
「馬鹿め!」
驚愕する軌陸にスラスターめいて背中から破壊エネルギーを放射して急接近し、その無防備胴体に手を添え、破壊のエネルギーを叩きつけた。
「ぐうっ!?」
「かいちょー!」
吹っ飛ぶ軌陸を受け止めたみみ子がその勢いを殺さずに頭上に投げ飛ばした。軌陸は背中の翼を羽ばたかせて空中に留まり、数度のホバリングを挟んで再び上空を旋回し、強襲の機会を窺う。
「こんにゃろー!」
「ふん!」
軌陸にかまけていた隙に接近してきた暗夜は光を纏った聖剣を大上段に振りかぶった。俺は両腕に闇を混ぜ込んだ破壊を纏い、クロスしてガード。凄まじい衝撃を、受けた腕を通し、胴体に流し、足の裏へと放出し、肉体のダメージを最小限に抑え込んだ。
放出した衝撃は足元に円形のクレーターを作り出し、その威力の凄まじさを物語った。危ない所であった。あれほどの衝撃をまともに受けていたら、俺の華奢な耐久力では一発で胴体破裂は免れ得なかった。
「てめーコラ! 教団の一員だったのか!」
「はん! 初めから隠した覚えはないぞ光黒!」
「畜生め!」
つばぜり合う俺と暗夜ははひと時睨み合った。
暗夜の瞳には怒りと、それから隠しきれない失望があった。
((失望ね……))
こうなるまで、暗夜は信じていたのだろう。もしかしたら自分たちと、いつの日か分かり合うことができると。
((お優しいことで……))
俺は心の底から暗夜を憐れんだ。
暗夜のその感情は、土台から無理な話であった。
何せ、暗夜は愛されている。過去にそれなりの不幸な出来事があったが、それでも不幸程度で済まされるような経験だ。
それでは千歳を受け入れるにはいささか足りない。千歳を説得するには、大前提として一度どん底を経験しなければならない。
彼女は未だ底を穿ち、悪夢の泥を沈下し続けている。それを掬い上げるには、同じように沈み込み、
そんな奴は、少なくとも彼女の周りや暗夜たちの周りには存在しない。残念ながら、千歳はこのままこいつらと関わらない方が良いのかもしれない。
はじめのうちは暗夜に助けられればちょろっと靡くんじゃないかと期待があったが、いざ関わらせてみせ、その関係の経過を観察して、こりゃ駄目だ、と結論を出した。
不足しているとかそういう訳じゃなくて、暗夜の存在は千歳にとっては眩しすぎる。
土の底でのたくるモグラが、いきなり地上に放り出され、太陽の光を直視して無事でいられるか? 千歳にとって、暗夜と関わるのはそういう事だ。
どちらかと言えば彼らと関わらせるより、うちの犬たちと関わらせた方が良いと思った。
あいつらなら、どん底を経験し、愛されない苦しみを知っているあいつらなら、きっと千歳の事も受け入れてくれるだろう。
特にリリーなんか末っ子気質なためかみみ子や萌の様な年下の友人にここぞとばかりにかわいがるので、千歳も同様にかわいがろうとするだろう。
表面上は千歳もいやがるだろうが、その内心では欲しがっていた愛情に夢中になるに違いない。
一二も綾子も千歳如き今更恐れるはずもないし、どれだけ癇癪を爆発させても
みみ子と萌は言わずもがな。みみ蔵なんかは千歳が思い描いていた父親像そのものなので、やっぱり表面上はいやがるだろうが、きっと受け入れるだろう。
あのカス共は犬たち共々いい金蔓程度にしか思わないだろうが、今までの環境からすれば、きっと天国に違いない。
だから、そう。
((もういいかなって))
みみ子が萌のガラクタガトリングに触れて全力で異能を付与し、萌は赤熱する弾丸を狂ったように発射して俺の張る闇の幕を剥ぎ取った。
間髪入れずに績の放ったレーザーが脇腹を貫き、暗夜と軌陸が踏み込み、俺をX状に切り裂きながら脇を駆けていった。
どだい無理な話だった。
普段の俺なら、間違いなく勝っていた。というか、そもそも勝負にならない。こいつらが勝負を仕掛ける前に各個に奇襲を仕掛け、悟られる前に殺害するからだ。
人生は自分の都合の悪いように流れている。いついかなる時も自分に有利な状況で戦えるなど、そんな事はあり得ない。
自分の土俵で戦えない時点で、こうなる事は必然だった。
血を流し、足を震わせながらかろうじて立つ俺の前に、
力強い瞳。強い決意を秘めた瞳。覚悟を決めた瞳。困惑に揺れる瞳。定まらない瞳。
瞳に宿る感情は三者三様だが、俺から言える事は一つだけ。
((どうでもいいな……))
それに尽きた。もはや俺の役目はこれで終わりで、これからの物語は彼らが紡いでゆく。
俺は消えゆく木端道化にすぎず、彼らの記憶からは瞬く間に消え去る泡沫の夢に過ぎない。
((下らねぇ時間だったな……))
傷ついて、死んだように眠って、また傷ついて血を流して。その繰り返し。報われたことなど、ただの一度も有りはしない。
何一つとして良い事の無い14年であった。人生を無駄にするのは、前の生で慣れていると、あの時の俺はそう思った。
しかし、何事も経験していなければ真に物事は語ることができない。俺はそれを、この時をもって本当の意味で理解した。
この14年は、真なる虚無であった。
喜びも無く、報われもせず、泥の様な憎しみと殺意の果て、茨に傷つけられながらも駆け抜けた軌跡には、血の川と臓物の山、屍が草花の如く生い茂っているだけ。
その道を進むことを決意したのは俺だが、振り返ってみると、ここまで空しくなるとは思わなかった。
「──────!」
「──────!?」
「──────」
「──────!」
「──────?」
ただ、ゆらりと背後に立つ者の息遣いと、これからする事への期待だけが、今の俺を立ち上がらせていた。
((あぁ、これでやっと休める……))
俺は目を閉じた。その者の手の先端が、背中に突き立ち、ゆっくりとめり込んで来るのを感じる。
痛みはあったが、しかし、どこか夢の中で感じているかのように、遠く、曖昧であった。
皮を割き、血管を破き、肉を裂き、その手は俺の右の肺を掴んだ。
そこで、ようやく、俺は気が付いた。
((違う……違うぞ! こいつは千歳じゃねぇ!!!))
気が付いた時には、もう遅かった。
俺の胸を突き破って、明らかに成人男性と思わしきごつごつとした墨汁の様な真っ黒な手が、現れた。