影武者転生異常あり!~俺は悪役令嬢の影武者なんだ…誰が何と言おうが影武者なんだ!だから脇役でいさせろや!   作:三流二式

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『学園祭爆破阻止』③

 時は少々遡り、学園の外で待機していた千歳達は、一つの知らせを聞いていた。

 

 

「なるほど、つまりあれは失敗したか」

 

 

 無機質な声で、淡々と事態を把握してゆく闇の者の隣で、千歳は妙な胸騒ぎに襲われていた。

 

 

 説明はできない。ただ、胸がざわついた。

 

 

 何かが起こる。何か、天地がひっくり返る様な事が。その確信が、彼女にはあった。

 

 

「うむ、では行こうか」

 

 

 通信を切り、闇の者が黒一色の瞳で千歳を見た。真っ黒な瞳には一切の感情が宿っておらず、井戸の底を覗き込んだが如き虚無が千歳を戦慄させた。

 

 

「行く、とは?」

 

 

 震える声で、千歳は尋ねた。

 

 

「愚問を。あれは失敗した。これでは闇が足らず、貴殿を真の意味で幹部には出来ぬ。故に、()()()()()()()()

「──────」

 

 

 千歳は息を呑んだ。

 

 

 時間と空間の境目が曖昧となり、視界が瞬いた。胃がひっくり返り、冷汗がとめどなく流れ落ちる。

 

 

 分かっていた事だった。自分たちは所詮、闇の神に献上するために肥え太らせた贄にすぎず、不要と分かれば根こそぎにむしり取られて、顧みられることなく捨てられる。

 

 

 分かっていた。光黒暗夜たちがいる時点で、この作戦は失敗するのだと。

 

 

 はじめはただ鬱陶しいだけの野良犬にすぎなかった。しかし、時が経つにつれどんどん自分とあれらの力の差は縮まり、ついには自らと比肩する力を手に入れていた。

 

 

 勇者の力と聖女の力を覚醒させた暗夜と績が発した光を見て、千歳は愕然としたものだ。

 

 

 何だあれは。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 闇を切り裂き悪しきをくじき、無辜の民を照らし出す希望の光。今では赤子でも知っている勇者のお話。

 

 

 希望! 

 

 

 何と我には縁遠き言葉であろうか。

 

 

(希望だと? 光だと? ……ふざけるな!)

 

 

 千歳は激昂したが、それもすぐに収まった。

 

 

 分かっている。自分とあれらでは、最早勝負にもならぬ。あれには勝てぬ。……孤独では勝てぬ。

 

 

 分かっている。何もかもが無駄であると。自分はこれから、滅びようとしていると。

 

 

(要は時が来た。……それだけの話だ)

 

 

 千歳は一筋の涙を流した。それは、この世の全てへの望みを諦め、運命を受け入れた、諦念の涙である。

 

 

(人形になろう。意思を持たぬ人形に)

 

 

 ベールの奥、虚ろな瞳で闇の者を見つめ返す。

 

 

操られるだけの人形(マリオネット)へと。何者にも諾々と従うだけの自動人形(オートマタ)へと)

 

 

 そう決意して、地獄へと誘う鬼の手を取った。そのはずだったのに。

 

 

 目の前で半身が貫かれ、血を流して力なく倒れる様を見て、己の成した決意など、無慈悲な現実の前には風の前に逸らされた蝋燭のように儚く無意味なものだと知った。

 

 

「うむ、ほどほどに実っておるな。これならば最低限は──────」

 

 

 隣で誰かが何事か喚いている。聞こえない。

 

 

「──────!?」

「──────!」

「──────?」

「──────!!!」

「──────!!!」

 

 

 私の前で、誰かが何かを言っている。聞こえない。

 

 

 世界から情景が消え去り、千歳の眼にはうつ伏せに倒れ、ピクリとも動かない自らの半身だけが映っていた。

 

 

「おい……何を、やっている」

 

 

 ともすれば頽れそうな己の体を強い、震える手で、抱き起す。

 

 

 半身は青白い顔で浅い呼吸を繰り返しており、ぽっかりと空いた胸の穴からは蛇口を捻ったが如く血が流れ落ちていた。

 

 

「おい……おい……目を覚ませ。私が命令しているんだぞ。早く起きろ。起きろ……」

 

 

 千歳は茫然と呟きながら、半身をゆする。半身は何も言わず、何も答えず、ただされるがままにがくがくと力無く揺れた。人形のように。

 

 

「死ぬな…………死ぬなぁアアアアアアアアアア!!!」

 

 

 千歳の絶叫が響き渡り、そしてそれが止まっていた時を動かす切っ掛けとなり、両陣営は動き出した。

 

 

 

 

 ■

 

 

 

 

 

 真っ先に動き出したのは萌とみみ子であった。

 

 

「このっ!!!」

 

 

 萌の背負ったバックパックから6本の機械触手が現れ、その先端についたミニガンが火を噴いた! 

 

 

「ぐぉおお!?」

 

 

 毎分6000発、それが6門! 狂った弾丸の嵐に晒された闇の者は咄嗟に黒い炎の壁を作り、弾丸の嵐を何とか防ぐ! しかし! 

 

 

「だりゃああああ!!!」

「うぉおお!?」

 

 

 いつの間にか接近していたみみ子が当身を放ち、怯んだ隙に裾と襟を掴み、異能で地面に反発の性質を付与し、それに合わせて跳躍! 10メートル近い大跳躍を得て、みみ子は空中でスクリュー回転を開始! 

 

 

 その間も闇の者へ拘束を付与し続け決して身動きの出来ない状態で急降下! 尋常ならざる加速の果て、地面が陥没する勢いで叩きつけた! 

 

 

 ずん、という轟音とともに、体育館がかしいだ! 

 

 

「グワッハ!?」

 

 

 脊椎破損! 闇の者は血を吐いて苦悶し、全身から黒炎を吹き出してみみ子を焼き殺しにかかる! 

 

 

「当たるかアホ~!」

 

 

 しかしすんでのところで後退したみみ子は連続バク転を打ってこれを回避。暗夜たちの傍らに危うげなく着地した。

 

 

 その間も萌は闇の者をクズ肉に変えるべく間断なく射撃を継続し続けていた。

 

 

「な、なんだ? 何で鳳凰院が二人いるんだ!?」

「知るわけないでしょう!? ですが!」

「ともかく奴を倒すぞ! 事情を聴くのはそれからだ!」

 

 

 突然現れた闇の者に貫かれた千歳。かと思いきや現れたもう一人の千歳。そして急に怒りだしたみみ子と萌の2人。

 

 

 いきなり浴びせかけられた情報量の多さにしばしの間思考停止に陥っていた暗夜たちだが、優先順位の確立を終え、動き出した。

 

 

「なんだか知らんが食らえぇえええ!」

 

 

 暗夜は聖剣を滅茶苦茶に振り回し、光波を大量にばら撒いて闇の者を圧殺せんとする! 

 

 

「グ、ぐぅうウ……な、舐めるなぁ!!!」

 

 

 闇の者は黒炎を放って光波を全て焼き壊しにかかるが、肉体の損傷は彼のパフォーマンスを大いに阻害し、そのほとんどを撃墜できぬまま光波は彼の身をズタズタに切り裂いた! 

 

 

「ぐっ!?」

「はあっ!」

「ぬぐッ!?」

 

 

 闇の者はどうにか耐えきり、反撃の火球を打ち放とうとした矢先に、軌陸のインターラプトを受けてたたらを踏んだ。

 

 

「これはおまけです!」

「ぐわぁあああああ!!!」

 

 

 怯んだ隙に績が特大の光球を闇の者へと叩きつけた! 吹き飛び、壁に叩きつけられた闇の者へ、みみ子がグレネードを、萌がミニガンと手持ちのガラクタガトリングを斉射した! 

 

 

「グワッガワッ!? ガワワワワッ!?」

 

 

 守る術すら失った闇の者はグレネードに身を焼かれ、弾丸の嵐に身を磨り潰され、煙が晴れる頃には、くず肉の破片と化して四散していた。

 

 

「「──────」」

 

 

 あまりの惨状に、暗夜たちは絶句していた。

 

 

 人死にを見るのは、これが初めてであったが、ここまで凄惨かつ徹底的に破壊されると、嫌悪感や忌避感よりも、いっそ清々しさすら感じていた。

 

 

 束の間、体育館は静寂に支配された。聞こえるのは千歳のすすり泣く声と、萌とみみ子の粗い息遣いだけ。

 

 

 しかし、次の瞬間、体育館のガラス窓を突き破り、黒い者たちが立て続けにエントリーしてきた! 

 

 

 更に、壁を突き破って、もう一人の闇の者まで現れたではないか! 

 

 

「ヌゥー! あの役立たずの生体反応消失に駆け付けて見れば、千歳が闇を取り込んでいないではないか! どこまで使えんのだあのカスは!」

 

 

 大斧を担いだ巨漢の闇の者は泣き崩れる千歳をじろりと睨んだ。

 

 

「まだ微かに生きておるな! えぇい下らん! その首、切り落としてくれる!」

 

 

 ずかずかと瞬く間に千歳へと到達すると、闇の者は大斧を大上段に構え、処刑斧めいて振り下ろした! 

 

 

「「鳳凰院!」」

 

 

 暗夜、績、軌陸の声が重なった。萌とみみ子は弾かれたように千歳へと向かうが、闇の者の振り下ろしが速い! 

 

 

 悲しみに暮れる千歳は動けない。危うしイミテーション! このまま無慈悲に斬首処刑され無様なしゃれこうべを晒すというのか!? 

 

 

 否! 否である! この悪魔が! こんな程度の地獄で終わる筈も無し! 

 

 

 見るがいい! 斬首の寸前、イミテーションの眼がカッと見開かれた! その眼光は右目に黒炎を、左目に()()を宿しているではないか! 

 

 

 悪魔は赤熱した眼光で自らの運命を睨み、そしてつばを吐いた! 運命に抗ったのである! より深い闇へ! より深い地獄へと! 

 

 

 イミテーションはうつぶせの状態で左腕を振り抜いた! 大斧に左腕が、触れた! そしてその瞬間、インパクトの0.00000000001秒以下の一瞬だけ、白炎が閃いた! 

 

 

 大斧は冗談のように弾かれた! 

 

 

「馬鹿な!?」

 

 

 驚愕する闇の者の顔面に、閃光めいた衝撃が炸裂した! 

 

 

「ぐッはッ!?」

 

 

 いつの間にか立ち上がっていたイミテーションが一瞬で接近し、その顔面に黒炎に包まれた右拳を叩きつけたのである! 

 

 

 周囲からの視線を一身に集めた悪魔は、壁にめり込んだ闇の者ただ一人を睨みつけ、黒炎と白炎が燃える拳を握りしめ、構えた。

 

 

 それは、あってはならないものであった。

 

 

 光と闇、決して交わる事の無い陰と陽。だがしかし、この悪魔の体には闇と光が存在していた。あってはならない事が、いかなる理由か実現してしまったのだ! 

 

 

 悪魔が、動き出した……!

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