影武者転生異常あり!~俺は悪役令嬢の影武者なんだ…誰が何と言おうが影武者なんだ!だから脇役でいさせろや!   作:三流二式

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『学園祭爆破阻止』④

 真っ暗だ。

 

 

 右を見ても、左を見ても、あるのは底の無い暗闇だけ。そして、無限の暗闇の荒野の只中に、ただ己だけが浮かんでいる。

 

 

『人よ……人よ……』

 

 

 何処からか、声が聞こえる。すぐ耳元で聞こえた様にも遥か彼方から聞こえたようにも思える。

 

 

 声はどこからでも聞こえた。横から。上から、下から、前から、後ろから。ありとあらゆる方向から声は聞こえた。まるで空間そのものが語り掛けてくるようであった。

 

 

「……」

 

 

 イミテーションはただ閉口し、舌打ちした。威厳に満ちた声も。すぐそばに迫りつつある凄まじい存在感にも、敬意の欠片もありはしない。

 

 

 あるのは、唯々、不快感のみ。

 

 

 そして、その不快感の主が現れた。

 

 

 闇を裂いて、空間を割り砕きながら、太陽の如き光を放つ巨大な光球が彼の前に姿を現した。

 

 

 極大の光の塊は尋常ならざる光を放ち、闇の全てを消し飛ばして空間を真っ白に染め上げた。しかし、その只中にあってなお、白き光に染まらず、確固たる意思を持ってイミテーションはそこにあった。

 

 

 太陽と蟻ほどの力の差を見せつけられても、健太郎の意志は決して揺るがなかった。

 

 

『人よ……今お主の心に直接語り掛けておる』

「そうですか。出てってください」

『──────』

 

 

 イミテーションがにべなく言うと、声はしばしの間途切れた。

 

 

『……人よ、お主は死にかけておる。その死を退ける力が欲しいか?』

「不要です。出てってください」

『──────』

 

 

 イミテーションがにべなく言うと、声はまた途切れた。

 

 

『ひ、人よ』

「同じ事を言わせないでください。要りません。不要です。自力でどうとでもできる状況です。私は貴方の奴隷に成り下がる気はありません。私の心から出て行ってください」

『え? は? ……ちょ!? おま!?』

 

 

 声が何事か返答する前に、イミテーションはその意識体を追い出しにかかった。

 

 

『う、うぉおおおおお!? 待て待て待て! いや待てって! ちょ!? お前マジじゃん! これマジに追い出しにかかってきてる奴じゃん!? うっそだろ!』

((ぐっ! なんつう巨大な思念体だ! じ、自力じゃ追い出せねえ!))

 

 

 イミテーションは白き太陽に両手を掲げ、己の全意思の力を集中して押し出しにかかる。しかし、いかに意思の力が強固であろうとも、蟻の力で巨山を押しのける事などできはしない。

 

 

 心への侵入を許すことは無いが、イミテーションの力では、どうやっても人ならざる者(かみ)の力を押し返すことができなかった。

 

 

『待てって!? いや待てや!? ち、力だぜ!? わし自らがお前用に調整して整えた特別性の〝光〟ぞ!? スペシャルだぜ!? 一点ものだぜ!? 貴方だけに特別にこの話をしているんですよ!?』

「ギ、ギギ……不要と……言ったッ!!!」

『ぬぉおおおおおおお!? こ、こんにゃろ……舐めん、な!』

 

 

 太陽が爆散した! そして、その光の粒の一つ一つがイミテーションに向かって流星のように降り注いだ! 

 

 

「むんっ!」

 

 

 イミテーションは目前に迫る光球を、一切の躊躇なく殴り砕いた! 

 

 

「ふん! ふん! ふんりゃああああああ!!!」

 

 

 殴る! 殴る! 殴る! 殴る! 降り注ぐ神の光を、イミテーションは一心不乱に殴り砕き続ける! 

 

 

『えぇい拒むでないわ!』

「オォオオオオオオオオオ!!!」

 

 

 イミテーションの眼光が赤熱した! 神の威光はますます強く、濃くなってイミテーションを染め上げんとするも、彼は決して屈せず、背けず、ただ只管拳を振るい続けた! 

 

 

 しかし、無限の如き光は徐々にイミテーションを追い詰めつつあった。それでも彼は拒み続けた。決して屈することなく睨み続けた。

 

 

『いい加減にしろ! 人間!!!』

 

 

 怒号が空間を震わせ、異常な密度の光球が壁の如くイミテーションへと迫った! 

 

 

 イミテーションは壁を前に、脱力。そして、爆発的に踏み込み、拳を突き出した! 一点集中! 一瞬でほぼ同時に当たる連続打撃ではなく、その全てを一撃のもとに籠めた正拳突きである! 

 

 

 光の壁は爆散した! しかし、四散した光の粒が彼の背後で一瞬で再構成され、白髪の少女の姿を形どった! 

 

 

「しまっ──────」

 

 

 反動で反応が遅れ、咄嗟に裏拳を繰り出したものの、イミテーションが少女の顔面を砕き切るよりも先に、少女が彼の胸に空いた穴に〝光〟を押し込む方が速かった。

 

 

 イミテーションの拳が少女の顔面を砕くのと、イミテーションの胸に光が押し込まれたのはほぼ同時であった。

 

 

 天と地が震えた! 空間が、時間が、世界を構成する全てがバリバリと音をたてて崩壊してゆく! 

 

 

 圧倒的な白と黒が世界を二つに分かち、混じり、爆ぜた! 

 

 

 意識が、覚醒する! 

 

 

 

 

 ■

 

 

 

 

 目覚めてすぐに彼が思ったのは、体の隅々まで行き渡った、酷く不愉快な熱への恨み言であった。

 

 

 体の節々が鈍く痛み、つけられた傷跡が発する不快な熱に眉を顰める。

 

 

 それから目の前まで迫り、静止した大斧を不愉快極まりないとばかりに睨み、無造作に左腕を振り抜いた。

 

 

 インパクトの瞬間、白炎が閃き、大斧を弾き返した。

 

 

 イミテーションは立ち上がろうとして、その傍らで力なく座り込んで縋りつく千歳に目をやり、思わず天を仰いだ。

 

 

((何でこうなるのやら……))

 

 

 イミテーションはぼやいたが、よく考えなくともそんな事は分り切った事だった。

 

 

 決して誰も信じられない状況にいた幼い少女の前に現れた己のあらゆることを拒まず、見捨てず、気にかけてくれる存在をどう思うかなど。

 

 

 分り切った事であった。ただ、認めたくなかった。そうであって欲しいと思っていた。

 

 

 自分の都合の良い方向になど、世界は流れてはくれない。自分の考える通りに、他者が動くとは限らない。

 

 

 表面上は嫌いだ何だと言っておきながら、その胸の内で決して手放したくないと思っている事など。彼には分かっていた。何せ自分と彼女は繋がっているのだから。

 

 

 胸中に呆れと諦めが満ちる。

 

 

((どうやら世界の流れとやらは何が何でも俺に地獄を見せたいらしい))

 

 

 深く、深くため息を吐き、立ち上がり、千歳を一撫ですると、イミテーションは大斧を弾かれて仰け反った状態で静止している闇の者へ近づき、情け容赦ない右ストレートを撃ち込んだ。

 

 

 その瞬間、世界が動き出した。

 

 

「ぐッはッ!?」

 

 

 があんと弾かれた音と共に空気がはじける音がして、闇の者は凄まじい勢いで吹き飛び、壁に大の字で叩きつけられた。

 

 

 イミテーションは顔を見上げて呆然としている千歳に振り向いて笑いかけ、それから闇の者の横薙ぎの斧斬撃を裏拳で弾き返した。

 

 

「ふんがっ!!!」

 

 

 イミテーションと闇の者は近距離で激しく打ち合った。それを合図に、周囲で乱闘が開始された。

 

 

「だぁああああさっきから何なんだ!? 意味分からねーことばっかなんだが!」

「私だってもう何が何だか!」

「と、とにかく撃退! 撃退だ!」

「ボス! 良かった! 生きてた!」

「あいつがあんな程度で死ぬわけないでしょ! それはそうと後で覚えときなさいよ!」

 

 

 背後で誰かしらが何事か喚いていたが、今のイミテーションは目の前の相手をするのと己の意識が飛ばないように踏ん張るので手いっぱいであった。

 

 

「おのれ! たかが贄風情が神より選ばれたもうたこの至高聖戦士たるこのワシに何たる無礼! 贄は贄らしく斬首されて大人しくくたばっておれ!」

「薄汚い野良犬が何を言おうと響きませんね。薄っぺらい人間が至高だの神性だの語った所で詭弁に感じ入る道理など無し。私の首を斬る前に御託を並べる己の喉を裂く方が先でしょう」

「グヌーッ!」

 

 

 激昂した闇の者は斧を大ぶりに振るった! しかし、その時にはイミテーションは懐に入っており、手首に肘うちを打ち込んだ! 

 

 

「ぐぬっ!?」

 

 

 得物を取り落とし、注意が一瞬逸れたところにこめかみに掌打を叩き込んで平衡感覚を乱し、ふらつく闇の者へ白炎に包まれた左足で顎を蹴り上げた! 

 

 

「があっ!?」

「むんっ!」

「うぶっ!?」

 

 

 浮き上がった無防備胴体に、イミテーションは黒炎に包まれた右拳で12発のボディブローを叩き込んでいた。

 

 

「おぶっ!?」

 

 

 再び壁に叩きつけられる闇の者! 間髪入れずに、脱力、踏み込んで瞬時に距離を潰すと顔面に黒炎に包まれた右跳び膝蹴りを叩き込んだ! 

 

 

「ふごっ!? そ、そのような搾りカスの闇でこのワシが!」

 

 

 効くわけが。そう言おうとした。しかし、黒炎は全く何の問題も無くそこにあり、闇の者へ牙をむき続けていた。

 

 

 元来、闇同士がぶつかり合った場合、拮抗しているか、より強い性質でないと相手側の闇に吸収されてしまい、ダメージは与えられない。

 

 

 しかし、イミテーションの闇は、闇の者が有している物とは()()()()()

 

 

 イミテーションの闇は引き抜かれ、今彼が使用しているのは残った残滓と破壊を組み合わせた特異なものだ。いつか説明した通り、破壊の異能は元は魔王と呼ばれたものの力。すなわち闇の力である。

 

 

 しかしそれを組み合わせてなお、闇の者とは比べ物にならないほど小さな力だ。本来ならば勝負にもならない。

 

 

 だが、言ったように、イミテーションの持つ闇は性質が違う。

 

 

 彼の闇の性質は『虚無』である。そういう体質か。それとも彼の性格に影響されたのかは分からないが、ともかく一般的な悪意をもとにした闇とは根本が異なっている。

 

 

 故に、性質が違うもの同士が接触した場合、何と押し付けられた相手側の闇が、ほんの一瞬阻害されるのだ。

 

 

 刹那の時間。彼らほどの強者ですら誤差と呼べるような時間に、しかしイミテーションからすれば十分に過ぎた。闇の者の顔面に黒炎が炸裂した。

 

 

「く、くそぉおおおお! たかがゴミが!」

 

 

 怒り狂った闇の者が大振りのフックを繰り出すが、イミテーションはこれを軽々捌き、絡め、捩じり上げるように投げ飛ばした! 

 

 

「ぐえ!?」

 

 

 肩を脱臼させながら地面に叩きつけられた闇の者は苦し紛れの前蹴りを放った! イミテーションは怯むことなく前進し、ほんの少し手を添えるだけで逸らし、伸び切った膝関節に手刀を振り下ろした。

 

 

 一瞬遅れて白炎が閃き、膝から下がポトリと落ちた。

 

 

「なっ──────」

 

 

 呆けて立ち尽くす闇の者の肩に、同様に白い線と黒い線が走り、一拍子遅れてポトリと落ちた。いつの間にか接近していた悪魔が放ったモンゴリアンチョップが、肩を切断したのだ。

 

 

「──────」

 

 

 闇の者は絶句した。いつの間にか周囲から喧騒の音が止んでいた。聞こえるのは闇の者の粗い息遣いとあちこちで倒れ伏している黒い者の呼吸音だけ。あとの者は悪魔の所業に呼吸すら忘れて見入っていた。

 

 

 闇の者は膝をついた。あんぐりと口を開け、黒一色の瞳に恐怖を浮かべながら、目の前でフィニッシュムーブを構える悪魔を見上げた。

 

 

 悪魔は腰を捩じり、右手の親指以外の指を合わせ、親指を下に合わせ、あたかも猛禽類の嘴の如き奇怪な手刀を握りこんだ。

 

 

 ぎりぎりと肉体が異常な緊張に軋み音を立てる! 

 

 

 悪魔の赤熱した眼光に、黒炎と白炎が宿った! 同様にその右腕に黒炎と白炎が、二重螺旋めいて巻き付いた! 

 

 

 イミテーションは緊張を、解き放った! 

 

 

 殺戮奥義『鷲の嘴(バードストライク)!』

 

 

「グギャアアアアアアア!!!」

 

 

 尋常ならざる衝撃が闇の者の胸を貫いた! 弾丸めいた勢いで闇の者は天井を突き破り、上空へと吹き飛んでいった! 

 

 

「オォオオオオオオオオ!?」

 

 

 黒と白の二重螺旋はイミテーションの下から離れ、闇の者の体内で混ざり合い、反発し、そして、尋常ならざる爆発と共に対消滅した! 

 

 

 戦術ミサイルの爆発めいた衝撃が炸裂した! 

 

 

「うぉおおおおおお!?」

「きゃー!?」

「くぅ!?」

「ひー!?」

「あんのばか!」

 

 

 尋常ならざる衝撃を、一同は何とか踏ん張って耐える! 

 

 

「あぁ!」

 

 

 千歳は踏ん張りが効かず、ゴロゴロと床を転がり、咄嗟に萌が伸ばした機械触手にからめとられ、引き寄せて胸に抱き、千歳はその中でどうにか衝撃をやり過ごす。

 

 

「……」

 

 

 衝撃でぽっかりと空いた穴を見上げながらイミテーションは残心し、しばしの間そのままの姿勢で待機し、やがて体を震わせると、咳き込み、力なくその場に崩れ落ちた。

 

 

「イミテーション!」

「あ!」

 

 

 萌の腕の中から飛び出した千歳がイミテーションを抱き起し、激しく揺さぶった。

 

 

「おい! おい!」

「ほ、鳳凰院! よせ! そんな激しく揺さぶると悪化するぞ!」

 

 

 千歳は駆け寄ってきた軌陸をあらん限り睨みつけると、イミテーションを抱き寄せ、後退った。まるで、人形を抱いて縮こまる子供のように。

 

 

 と、その時である。一台のハイエースが飛び込んでくるのと、黒フードを被った集団が体育館に転がるように駆け込んでくるのは全くの同時であった。

 

 

「あぁ!? テメーらは!」

「話は後だガキ!」

 

 

 目を剥いて聖剣を向ける暗夜を怒鳴りつけ、黒フード(インテリ)はイミテーションと千歳へと駆け寄っていった。それに続いて黒フード(ヤンキー)、黒フード(のっぽ)、黒フード(翁)が続々と集結した。

 

 

 そして、ハイエースからはスーツの上から白衣を着たうだつの上がらない中年が顔を出し、怒鳴った! 

 

 

「何やってやがる! さっさとその糞バカを乗せんか!」

「あぁ!? テメー源蔵じゃねーか!」

「細かい話は後にしろ! そいつ死んじまうぞ!」

「くそ」

 

 

 運転手こと源蔵と黒フード(翁)は一頻り怒鳴り合い、それから言われた通り開かれたバックドアからイミテーションを担ぎこみ、黒フードたちは続々と乗り込んでいった。

 

 

 当然のようにみみ子と萌も後に続き、後を追った暗夜たちも車内へと押し込むように入ってゆく。

 

 

「せ、せめぇえええ!!! おいみみ子、お前船降りろ!」

「うるさいー! 臭いー!」

「何でてめーらが入ってくんだよ! 降りやがれ!」

「乗り掛かった舟です! 今更降りるつもりはありません!」

「狭い!」

「暑い!」

「く、苦しい!」

「てめーらちっとは黙ってろ!」

 

 

 どかどかとやって来た聖光教に騎士たちを振り切るように、ハイエースはぎゅうぎゅうに中身を押し込んで、とんずらをこいた。

 

 

 あとに残された騎士たちは困惑を隠しきれずに互いを見合い、みるみる小さくなっていくハイエースの背を、呆然と見送った。

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