影武者転生異常あり!~俺は悪役令嬢の影武者なんだ…誰が何と言おうが影武者なんだ!だから脇役でいさせろや!   作:三流二式

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『千歳とイミテーション』

「にょわ~!?」

「ッ! 神!」

 

 

『聖域』にて、胡坐を組み、何事か念じるかのように額に指をあてていた光の神が、突如として素っ頓狂な悲鳴を上げてひっくり返った。傍らに控えていたゴスペルはすぐさま駆け寄り、光の神を抱き起した。

 

 

「痛ってぇ~……」

「おのれ〝保健所〟!!!」

 

 

 鼻血を垂らして悶絶する光の神を見て、ゴスペルは怒り狂いながら忌むべきその名を口にした。

 

 

 神代学園の文化祭にて、教団が大規模なテロを起こすことを事前に知り得た聖光教は先んじて騎士たちを派遣、迎え撃つことに成功した。

 

 

 そんな中、光の神が突如として今日は何かが起きる、とゴスペルの肩を揺らしながら力説し、部屋の中心で胡坐を組み、学園周りに意識を飛ばしていたのである。

 

 

 そして、彼女はついに予感のど真ん中を捉え、その者の意識へと潜行しようと試みた。

 

 

 が、それは失敗した。潜行対象の精神があまりにも強固であり、光の神ですら侵入できず、意識の表層に留まるのが精々であった。

 

 

 どうにか〝光〟を渡そうとしたのだが、何と対象はこれを拒否。圧倒的な拒絶であった。強引に渡そうとしたが、それすら撥ね除けられてしまった。

 

 

 対象の自我が強固に過ぎた。光の神は驚愕した。ここまで強固な自我は今の今まで終ぞお目にかかったことは無い。

 

 

 〝こいつぁ良い! 〟

 

 

 光の神は凄惨に笑った。何が何でも〝光〟を渡そうと思った。対象は何が何でも拒絶した。

 

 

 次第に苛立ちが募ってきた。彼女は気が短いのだ。

 

 

 大人げなく物量で押し切ろうと思ったが、対象は予想以上に粘り、ついには数百年は見せてこなかった怒りをもって強引に状況をひっくり返した。

 

 

 それすらも最後の最後まで対象は抵抗を続け、受け渡しと同時にアヴァターを砕かれ、意識を強引に肉体へと戻されたのだ。

 

 

「痛ぇ~痛ぇ~……ふへ」

「神?」

「ふへ、ふひひ……ウへヘ……」

 

 

 訝るゴスペルなど眼中に無いとばかりに、光の神は笑い続ける。

 

 

 笑い続ける。嗤い続ける。

 

 

「う゛ヴぅ゛ッ」

 

 

 莫大な力が放射された。間近で浴びたゴスペルはひとたまりもない。神へ語り掛けることすらせず、己の自我を守るので精一杯だ。

 

 

「うへ……ヒヒ……やべぇな、()()()()()()()……あはは」

 

 

 嗤い続ける神の顔がひび割れ、崩壊し、興奮により仮初の肉体(アヴァター)の一部が崩れ、その中身を、何か不穏な、不定形なモノが、蠢き、枝葉を伸ばし、現実を侵食し始めた。

 

 

「か゛、か゛み゛!!! お゛き゛を゛た゛し゛か゛に゛ッ!!!」

「え? うん? あ゛!?」

 

 

 ゴスペルの決死の呼びかけが通じたのか、光の神は我に返り、慌てて飛び出しかかった中身を収納し、ごしごしと両手で顔を拭った。するとひび割れていた顔は元に戻り、放たれた力はこの星でも問題ない程度には収まった。

 

 

「あーわりわり。ちょっと興奮が抑えきれなんだったわ」

「ハアーッ! ハアーッ! ハアーッ! ……ぎょ、御意……御意に!」

 

 

 全身の穴という穴から血を吹き出し、息も絶え絶えのゴスペルは震える体に鞭打って頭を床にこすりつけながら土下座した。

 

 

「悪かったって。ほら治してやっから。な?」

 

 

 背中をぱしぱしと叩きながら頭の上に浮かぶ光輪から光を放射し、ゴスペルの肉体の損傷を綺麗さっぱりと消し去った。

 

 

「下がって良いぞ~」

「……ありがとう、存じます」

 

 

 深く深く土下座したゴスペルはゆっくりと立ち上がり、体をふらつかせながら退出した。

 

 

「いやぁ~悪いことしちまったなぁ……でも」

 

 

 ゴスペルの出て行ったドアから目を離し、光の神はつい少し前の記憶を脳裏に思い浮かべる。

 

 

 小さな魂だった。あまりにも小さすぎて、はじめは信じられなかった。これが世界を揺るがせる何某かを成す者の魂か? と。

 

 

 だが、あの者の自我の強固さときたら! 

 

 

 ぴき、ぱき、ぱりぱり。

 

 

 光の神の顔に再び狂気じみた喜びの笑みが広がった。

 

 

 ぴき、ぱりぱり。

 

 

「あぁ畜生! 渡した途端性質が変わりやがった! あれじゃあもうわしが干渉する事すらできん! アアアアアアアアアア畜生ォオオオオオオオオオ!!!」

 

 

 ばきばきばきばきばきばき。

 

 

 先程の崩壊とは訳が違う。罅は全身に行き渡り、仮初の肉体(アヴァター)が砕け散った。

 

 

「■■■■■■■■■▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲●●●●●●●●●●▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▰▰▰▰▰▰▰▰▰▰◉◉◉◉◉◉◉◉◉◉!!!!!!」

 

 

 〝ソレ〟はこの地上のものでは決して理解できぬ言語で咆哮した。

 

 

 

 

 ■

 

 

 

 

 唐突に目が覚めた。

 

 

 視界一杯に広がるのは、知らない天井、ではなく、それなりに目にしたことのある天井である。

 

 

 正直言って、あまり目にしたくない天井である。この天井を見上げているという事は、それ即ち──────。

 

 

「おう、生きてたか。小僧」

 

 

 声のする方へと目を向ける。スーツの上から白衣を着たうだつの上がらない中年が腕を組みながら威圧的に歩み寄って来て、俺を睨め下ろした。

 

 

「おや、どうも。おはようございます」

「丸一日眠りこけていたくせに元気だな」

 

 

 はあーっと呆れたようにため息をつくこの男は藤木源蔵(ふじきげんぞう)、またの名を『ニンゲンドック』。〝保健所〟のメンバーの一人である。尤もスカウトできたのは割とつい最近なので、他のメンバーにはその存在は伝わってはいない。

 

 

 彼もまたゲームで登場するキャラクターであり、その役割はサブ依頼の討伐対象としてである。

 

 

 彼は闇医者である。そうなった経緯は20年ほど前、彼が25歳のまだ研修医だった時にその病院の院長の不正を偶然目にし、その不正を全て押し付けられる形で辞めさせられ、そのまま表社会からドロップアウトし、以来彼は薄暗い世界で二束三文の金で誰の治療でも請け負う闇医者として活動してきた。

 

 

 ゲームではその20年前の時に教団に植え付けられた闇が何かの拍子で発現し、夜な夜な道行く人をメスと異能の糸で惨殺する怪人と化した。

 

 

 暗夜たちは聞き込みや事件現場に赴くことで次の出現ポイントを炙り出し、真夜中に現れた闇の者と化した源蔵と対峙、これを撃破する。

 

 

 撃破後に彼のアジトに赴くイベントが挟まり、当時尊敬していた院長が不正をしていたこと、それを正せなかった自分への無力感、自らの腕の上がらなさに対するやるせなさが書き連ねられた手帳を発見する。

 

 

 そしてその病院のかつての院長だった老人が通り魔に刺されて亡くなるというニュースのカットが挿入され、この依頼は終了する。

 

 

 あまりにも後味が悪く、その上誰も救われない依頼は、今作ではちょこちょこ見受けられた。

 

 

 現実ではそのような惨殺事件が起きていない事から、まだ発症してない事が分かったので時間が確保でき次第すぐに源蔵の下へと赴き、〝保健所〟にスカウトした。

 

 

 以外にも話の分かる奴で、金が出るなら別にいい、と二つ返事で受けてくれたのは感謝しかなかった。

 

 

 お礼もかねて俺自ら懇切丁寧に戦闘訓練をつけてやり、源蔵も泣くほど喜んでくれた。

 

 

「手間を掛けさせますね」

「全くだぜ。おめーの作戦の話は聞いてたから、試しに張って見てたが、案の定ボロカスにやられやがって」

「助かりました」

「礼ならあの聖女の嬢ちゃんに言ってくれ」

 

 

 ニンゲンドックはドアに向かって顎をしゃくった。

 

 

「俺は元々人工肺をぶちこむつもりだったんだ。でもよ、あの嬢ちゃんが私も手伝うって聞かなくてよ。仕方ねーからついてこさせて光で何とかしてみろって言ったらよ、まじで肺を再生させやがった! 畜生再生させやがったんだぜ! スゲーな、あれが聖女の癒しの光か!」

 

 

 だんだんと地団駄を踏み、それから鼻を鳴らすと煙草をくわえた。

 

 

「後は楽なもんだったぜ。裂けた筋肉を縫い合わせて、それで終いよ。これで金が貰えるんだから、神には感謝だな」

 

 

 そう言って、ニンゲンドックは人差し指を立てて左右に振った。指の先端から糸が飛び出し、糸は指に合わせて左右に揺れた。

 

 

「そう、ですか」

「あぁ、そうだ。ところでお前、気が付いてるか?」

「? 何にです?」

 

 

 訳も分からず聞き返すと、ニンゲンドックは俺の腹に指さした。指さす方向へ視線を向けると、俺の腹を枕にし、寝息を立てる千歳の顔が見えた。千歳だけじゃない。

 

 

 部屋のあちこちに〝保健所〟のメンバーが座り込んでぐうすか眠りこけていた。

 

 

「俺は外へ避難しとくぜ。後の事は知ーらね。自分の蒔いた種だ。自分(てめえ)で何とかしろ」

「……」

 

 

 肩を竦めながらドアを開け、退出するニンゲンドックの背中を、俺は睨みつけることしかできなかった。

 

 

 下手に動けば千歳が起きてしまう。そうなる前に、とにかくここから逃げださなければ。

 

 

 そう思って千歳に目を向ける。ぱっちりと見開いた深い青の瞳と目が合った。

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