影武者転生異常あり!~俺は悪役令嬢の影武者なんだ…誰が何と言おうが影武者なんだ!だから脇役でいさせろや!   作:三流二式

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『〝保健所〟という組織』

「ギャーキモイキモイ!」

 

 

 バタバタと強烈な羽音と共に纏わりついて来るバッタの群れを、聖剣が放つ高出力の光で焼き払いながら、暗夜は嫌悪の絶叫を上げた。

 

 

「ギギギ……オロカ。コノビテキソンザイヲタダシクニンシキデキヌノハアワレデアル……ショセンワガカミノゴイコウヨリハズレシモノ……セメテワガカイナニテホロビルガヨイ」

「うるせー! 聞き取りづらい上に訳分かんねーこと言ってんじゃねー! 日本語喋りやがれチクショー!」

 

 

 膨大な虫の嵐とでもいう只中で、無限の羽音に負けないように暗夜も叫び返した。

 

 

「ギギギギギッ!」

 

 

 その嵐の中心、バッタで形作られた不定形な顔は暗夜を見下ろして嘲笑うと、上を向き、より広範囲を汚染すべく飛び立とうとした。

 

 

 しかし。

 

 

「グヌーッ!」

 

 

 ばちんと、いう音と共に闇の者は弾かれ、忌々し気に自らを阻んだもの、薄っすらと白い光を発する膜へ忌々し気に唸った。

 

 

「逃がしません!」

 

 

 績は暗夜と闇の者を光の結界の中に閉じ込めていたのである。これにより闇の者は逃げ場を無くし、暗夜は安心して戦えるという訳だ。

 

 

「くそ! とっとと消えやがれ!」

「ヌウウン!」

 

 

 弾かれた瞬間を好機と見た暗夜は聖剣に光を集め、思い切り振りかぶった。莫大な熱の塊が、バッタが形作った闇の者の顔面に勢いよく迫る。

 

 

「コシャクッ」

 

 

 迫り来る光の塊に、闇の者はバッタを一点に集めて巨大な塊を作り出し、叩きつけた。

 

 

 ボンッ、という腹に響くような音と共に光と虫塊がぶつかり合い、対消滅。バラバラと燃えながら降り注ぐ虫の死骸の雨を振り払い、暗夜は再び襲い来る虫の嵐に向けて切っ先を向けた。

 

 

「く、数が多い! そこまでして私たちが鬱陶しいか!」

「昨日の出来事は彼らにとっても想定外な事態だったのかもしれませんね。この物量から察するに、私達から彼らの居所を知りたくてたまらないのでしょう」

「迷惑な話だ!」

 

 

 一方軌陸と途中で合流したエミリーは結界をはる績を守るために、背中合わせで荒げた息を整えていた。

 

 

 町中で突如として起こった教団の同時多発テロ。ここのエリアだけではなく、町中の至る所で黒い者、ないし闇の者を中心としたグループが暴れ回っていた。

 

 

 一緒に来ていた騎士達はそれの鎮圧のために方々に散り、暗夜たち一向は最も大きな集団であったこの変身(虫)の異能持ちの闇の者の下へと急行、鎮圧にあたっていた。

 

 

「まさか黒フードの連中が教団とは無関係とはな!」

 

 

 軌陸はぶよぶよした皮膚を持ち、手足が異常に長く、首から上が捩じれた奇妙なヒトガタを切り伏せ、倒れ伏したヒトガタの背を踏みつけながら睨んだ。

 

 

 この怪物の名はレギオンという。〝保健所〟という胡乱な団体から齎された資料から、軌陸もその存在を把握していた。

 

 

 しかし、資料にある完成品としては程遠く、この個体は初期の試作品であると軌陸は見切りをつけていた。

 

 

 〝保健所〟という組織は聖光教で正確に把握しているのは光の神やゴスペル、暗部といったごく一部であり、軌陸がその存在をはじめて知ったのはある依頼を達成するために調べたネットの掲示板からであった。

 

 

 その掲示板。主に都市伝説の話題で細々と盛り上がっている閉じたコミュニティの書き込みの中で、〝保健所〟の名はしばしば上がっていた。

 

 

 曰く全構成員が黒いスーツを着ており、顔は黒塗りのヘルメットで全身を隠した一種の黒ずくめの怪人(メン・イン・ブラック)的存在として、思い思いの考察が書き連ねられていた。

 

 

 どれもこれも信憑性の薄い荒唐無稽な話ばかりで、鵜呑みにするのも憚れるような情報に早々に次のサイトに移ったものだが、軌陸の中でその〝保健所〟の名は喉に刺さった小骨のように、手持無沙汰になればふと考えこむような存在として残り続けていた。

 

 

「会長」

「おう、やれ!」

 

 

 第一波を殲滅し終え、僅かな小休憩で呼吸を整えたエミリーは、丁度やって来た第二波で先陣を切ってきた足が五本生えている試作型レギオンに向けて目を光らせて前に立った。

 

 

「はッ!」

 

 

 エミリーの目から凄まじいフラッシュが放たれ、光が晴れると、石化したレギオンはぐらりと倒れ、粉々に砕け散った。

 

 

 それを切っ掛けに、再び狂ったような数の洗脳兵士、試作型レギオン、黒い者が続々と集結した。

 

 

「はッははは! まだ生きておったか! さすがは汚らわしき聖光教の走狗どもよ! まさにゴキブリめいて生き汚い! おおいやだいやだ! 見るも悍ましきとはこの事也!」

 

 

 一際目立つ巨大な体躯の黒い者の肩に立つ小柄な闇の者が、大仰な仕草で軌陸たちを見下ろしながら嘲笑った。

 

 

「言ってくれる……!」

「口だけでない事を祈るばかりです」

 

 

 下品な口上に軌陸は眉を顰め、エミリーは無感情に言った。

 

 

 その間にも表れる増援はまだ止まらない。

 

 

 闇の者に続いて続々と集結する百鬼夜行の群れ、そして、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「はーはっはっは……うん? 誰だ貴様ら」

 

 

 眼下で立ち並ぶ魑魅魍魎の軍勢を見ながら、闇の者は高笑いを上げていたのだが、端っこの方でさも当然とばかりに並ぶ見覚えのない黒フードの集団が目に入り、高笑いを止め、訝しんだ。

 

 

「あいつは……」

 

 

 ヤンキー、のっぽ、インテリ、翁、もやし、マイスターの中心にいる特徴のない黒フードを見て、軌陸は目を見張り、それから顔を顰めた。忌々しい思い出が脳裏に思い起こされ、体が鈍い痛みを発した。

 

 

「会長?」

「すまん……だが、なぜ今連中が出張ってくる?」

「くっさすがにこの数に加えて黒フードまで……!」

 

 

 身構える軌陸、エミリー、績を前に、闇の者が先陣切って誰何した。

 

 

「えぇい! 貴様ら、何奴!」

 

 

 黒フードたちは何も答えず、ただフード付きのローブを掴み、思い切り脱ぎ放った。

 

 

「何っ!?」

「お前たちは……!」

「うそ!?」

 

 

 ローブの中から現れた人物を見て、彼女たちは目を見開いた。

 

 

「おうおう! ずいぶんとまあ雁首揃えたもんだなぁ~!」

 

 

 犬飼一二はぐるんぐるんと腕を回し、居並ぶ怪物たちを前に堂々と啖呵を切った。

 

 

「レギオンまで持ち出してきやがって。その上試作型とはね。くくく、ウチらの妨害はよほど効いていると見える」

 

 

 斎藤綾子が肩をゆすって笑った。

 

 

「お待たせ績ちゃん! 軌陸ちゃん! エミリーちゃん! お姉さん、頑張っちゃうから!」

 

 

 リリー・ライトニングは績たちへにこやかに笑いかけた。

 

 

「随分とまあ大所帯で来たもんだ。今どきのチンピラだってここまでせんぞ」

「いやチンピラって、規模的に比較にならなくない!?」

 

 

 小柳みみ子とその祖父でありみみ蔵が、まるでショーのパレードを見るかのような気軽さで教団の軍勢を指さした。

 

 

「あのさ、私碌に寝て無いからさっさといなくなってくれない? 迷惑なんだけど」

 

 

 田所萌はうんざりした様子で闇の者を睨みつけた。

 

 

 そして、黒子装束の人物は一歩前に出た。異様な雰囲気であった。さながら火山の噴火を前にした動物のように、魍魎たちは一歩後退った。

 

 

 狼狽える怪物たちを前にして、黒子装束は無言。そして、突如としてその装束は黒炎に包まれた。

 

 

「「あ!」」

 

 

 再びの驚愕が、績たちだけではなく闇の者さえもが目を剥いた。

 

 

「どうも」

 

 

 瞳孔が渦を巻き、光差さぬ奈落色の瞳を細め、鈴の音のような声で、その者は道化めいて慇懃に一礼した。

 

 

「我々は〝保健所〟です。どうか、良しなに」

 

 

 黒いスーツを着た悪魔はそう言って、笑った。

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