影武者転生異常あり!~俺は悪役令嬢の影武者なんだ…誰が何と言おうが影武者なんだ!だから脇役でいさせろや!   作:三流二式

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『〝保健所〟という組織』②

「き、きさ……貴様はッ!」

 

 

 体を震わせ、闇の者は憤怒に声を詰まらせながら、〝保健所〟を名乗り、あまつさえ自らへと意味を与えてやったにも拘らず矛を向ける親不孝者へと指を突きつけた。

 

 

「よくもおめおめと! 我らの前に姿を見せられたものだな! この裏切り者めが!」

 

 

 黒一色の瞳を限界まで見開き、口の端が裂け、剣山のような鋭利な歯を剥き出しにして闇の者は怒り狂った。

 

 

 イミテーションはこれを一笑に伏す。

 

 

「裏切り……? はて? 貴方方に組伏した覚えなど無いのですが」

「な、何を言うか! 貴様など我々に使われなければ何の意味も持たぬ人形でしかないというのに! 何たる恩知らず!」

 

 

 歯を剥き出しにして吠える闇の者に、イミテーションは口元に手を当ててくすくすと笑った。

 

 

「意味無意味を語るなど、それこそ無意味な話です。この世にある物は本来ならば誰しも無意味で無価値なものですよ。そこに価値を付与してるのは、畢竟、我々というちっぽけな個人の寄り合いにすぎません。貴方方の様な自称高貴人の価値如何など、世界という枠組みからすれば吹けば飛ぶ様な価値でしかない」

 

 

 

 イミテーションはぴしゃりと言った。

 

 

「あぁ言えばこう言う……!」

「グムーッ!?」

 

 

 足場代わりにしていた黒い者の頭で、闇の者は激しく地団駄を踏んだ。その度にめきめきと軋み音を発しながら、黒い者の頭がどんどん沈み込み、肩にめり込んでゆく。

 

 

「貴様は口ばかり達者なお喋り人形よ! こんなものに意味を与えたのは教団結成以来の大恥だ!」

「ならばその恥を慮って自害すると良いでしょう。今まで散々恥を重ねてきたのです。丁度良い機会です。これを機に過去の悪行を悔い改めてはいかが?」

 

 

 細めていた目を開く。イミテーションの瞳に、黒炎と白炎が閃いた。

 

 

「ッ! 忌々しい光!」

 

 

 闇の者は吐き捨て、最後に一つ大きく足を振り下ろした。

 

 

「グババーッ!?」

 

 

 黒い者の頭部が破砕した。もはや問答は埒も無し。闇の者の瞳が不穏な光を発した。たちまち殺意があちこちで渦巻いた。

 

 

「そうですか? そうですか……という訳で私はアレを押さえますので、あなたたちはうちの犬たちと共に雑魚は頼みます」

「ッ!?」

「え」

 

 

 軌陸とエミリーは弾かれたように背後を見た。いつの間にか背後にいたイミテーションが2人の肩を叩いたのだ。

 

 

「え、あ……あ、あぁ」

「──────」

 

 

 軌陸は曖昧に返事をし、エミリーは目を見開いてイミテーションを凝視していた。

 

 

「カーッ! 増上慢の操り人形如きに無駄な時間を有したわ! 下らん! ならば我が大地の秘奥を見せてやろう!」

 

 

 闇の者が掌を上に向け、気合を入れて腕を上げると、ずずずっと地面を隆起させ、巨大な岩石を宙に浮かび上がらせた。

 

 

「我が信仰する尊き御主より賜りし聖餅により我はより精強に、より尊き者へ近づいた! 貴様ら如き下賤な光の子孫共とは立っている次元が違うのだ! この意味が分かるか? えぇ? モノが違うというのだ! モノが! 元より優れていた我の異能(ちから)は聖餅を得てもはや人知を超えた! 我の力と聖餅を掛け合わせて百倍。すなわち一億倍の戦闘能力という訳だ! 分かるか!? 貴様らに残された道は直ちに伏して卑しく赦しを希う事のみよ! 当然赦しはせんがな! 虫めいて踏みつぶしてくれグバボッ!?」

 

 

 長い口上は、流星めいた飛び膝蹴りによって強引に黙らされた。空気が爆ぜる音とともに、それが号砲となって両陣営の火蓋は切って下ろされた。

 

 

「グバーッ!?」

 

 

 闇の者は目を剥いた。それから自らが殺めた黒い者からずり落ちた己の体を姿勢制御し、不格好に着地した。

 

 

「グ、グガガ……!」

 

 

 今の一撃により闇の者の頭蓋は砕け、今まさに中身が零れ落ちようといていた。それを、闇の者は土を粘土に変え、割れ目に押し込み、強引に傷口を閉じた。

 

 

「やはり腐っても闇の者ですか。無意味にタフですね。速いところ死んでくださりませんか? こっちも後がつっかえていますので」

「おのれ虫めが!」

 

 

 闇の者は尋常ならざる殺意と闇を放出し、瞬時に大地から岩石の槍を作り出して放ったが、イミテーションはすでに闇の者の眼前に出現し、打撃を繰り出し終えていた。

 

 

「カッ──────」

 

 

 闇の者の体が震えた。32の打撃がほぼ同時に叩き込まれた衝撃によって。

 

 

 一瞬遅れて衝撃波! 空気が割れ鐘の様に弾ける音と共に、数キロ先のガラス窓が粉々に砕け散った! 

 

 

「キャアアアアア!?」

 

 

 尋常ならざる衝撃に闇の者の五体が付け根からはじけ飛んだ! 胴体を中心にして頭が、手が、足が、明後日の方向へと飛んで行く! 

 

 

「ギャハハ! しょっぱなから飛ばすなぁオイ!」

「ギャアッ!」

 

 

 ケルベロスを豪快に振り回し、群がる雑兵どもをバラバラに切り刻みながら、チワワは手ひさしを作ってイミテーションの恐るべき所業に唸った。

 

 

「クソカス共がぁ! なに我が物顔でお天道様の下ぁ歩いとんじゃワレ! いてまうぞオラァアアアアアア!!!」

 

 

 ポメラニアンはスコルとハティの爪を展開し、しゃにむに腕を振り回して百鬼の群れをズタズタのくず肉に変えていった。

 

 

「えりゃあああ!」

 

 

 シバイヌは四方八方から飛んでくる異能の炎や銃弾をイヌガミで軽々防ぎながら、イヌガミの機構をフル稼働させて家屋への被害もお構いなしにありとあらゆるものを粉々にしていた。

 

 

「あちょー!」

「ぐえっ」

「ぶえっ」

 

 

 プードルは向かい来るレギオンや洗脳兵士を次々と投げ飛ばして脊椎を破壊し、付与で飛び出させた針で串刺しにしたり、自ら喉を踏み砕いて次々と殺してゆく。

 

 

「おうおう、ジジイをあんまいじめてくれんな? 頼むぜ? へへへ!」

「ギッ───!?」

 

 

 トサケンの前には不可思議な事に宙ずりとなった黒い者やレギオンが手足をばたつかせて藻掻いていた。

 

 

「悪いな」

「「ギャッ」」

 

 

 トサケンがグイと虚空を引っ張ると、宙ずりとなった者どもの首がぱっくりと裂け、血の雨を降らせながら胴体と頭を落着させた。

 

 

 トサケンは血で濡れた糸を捨てると、今度は糸を通した待ち針を指に挟み込み、投げ放って次のターゲットたちを宙ずりにしていった。

 

 

「邪魔よ。邪魔が邪魔で邪魔よ」

「「グワーッ!?」」

 

 

 レトリバーはバックパックより伸ばしたタコちゃんマークⅧの触手先端についたレーザーメスやドリルクローで敵をバラバラに刻み、あるいは吸盤めいた部分より発射した小型ミサイルの弾幕でシバイヌと負けず劣らず周囲の被害もお構いなしに薙ぎ払った。

 

 

「な、なんて連中だ!? 少しは周囲に気を使え!」

 

 

 軌陸は〝保健所〟のメンバーたちを、特にシバイヌとレトリバーへ向けて大声で怒鳴りながらロングソードを振るい、群がる魍魎たちを切って捨てていた。

 

 

 だがそれ以前に彼女が気にしているのは、彼女たちがあまりにも躊躇なく敵を殺害しているという事だった。

 

 

 軌陸は明らかに人間でないレギオンはやむを得ず殺傷しているが、洗脳兵士や黒い者は極力無力化するにとどめていた。

 

 

 軌陸は本来ならば極力暴力は控えたいという、ごく当たり前の感情を持っており、暴力という行為にどこか忌避感めいたものを感じていた。

 

 

 普通に育てば暴力に対する拒否の感情が出てくるのは当たり前で、彼女はその事が誇らしいとすら感じていた。

 

 

 しかし〝保健所〟(かれら)は違う。

 

 

 彼らはあまりにも殺害に対して躊躇が無かった。あのプードル(みみ子)レトリバー()ですらも、顔を顰め、嫌そうにしているにも拘らず、殺害に躊躇いは無い。

 

 

 確かに教団、またはそれに類ずるものは超法規的措置により、よほどの例外的存在でない限り殺害が許可されている。

 

 

 だがいくら許可されているとはいえ、それを実行に移せるものが、果たしてどれだけいる? 彼らは何を覚悟してここまでの殺戮が行えるというのか? 

 

 

「軌陸、手が止まってるわ」

「分かっているッ!」

 

 

 幼馴染の冷静な声が軌陸を我に返らせた。軌陸はエミリーに大丈夫だと伝えると、再び剣を構えなおし、突貫していく。

 

 

「……」

 

 

 犬たちの活躍を尻目に、イミテーションは闇の者の胴体を前で佇み、時折無謀にも向かって来るレギオンや黒い者を虫けらのように惨殺しながら残骸を睨み続けた。

 

 

「───ッ」

 

 

 イミテーションはやおら倒れ込むように前転した。直後、彼の頭上すれすれを黒い何かが恐るべき勢いで通過していった。

 

 

 それは手である。次いで足が、最後に頭が飛んできて、無残に損壊した胴体にぐちゃぐちゃと音をたてて繋がっていった。

 

 

「あぱー」

 

 

 それはまるで悪夢じみたマリオネットのようであった。黒い粘液めいた闇を滴らせながら、千切れた五体を糸めいた細い闇が強引に繋いでいた。

 

 

 元が130センチ程度だった闇の者の身長は、手足の伸長によりイミテーションを超える200センチ近い長体となっていた。

 

 

「またマリオネットですか。芸がありませんね。いい加減飽きてきましたよ」

「あぱぱぱぱ!」

 

 

 闇の泥は散弾めいて岩石を飛ばした! 一粒一粒が野球ボールほどもあり、速度は拳銃並みのふざけた拡散広範囲殲滅攻撃だ! 

 

 

 しかしイミテーションはすでに闇の泥の眼前! 一瞬で上、中、下段突きを各3発ずつ放っていた! 

 

 

「あぴー!?」

 

 

 強烈な正中線3段突きである! 闇の泥は冗談のようなスピードで後方へと吹き飛んでいく! 

 

 

 そしてその後方にはすでにイミテーションが回り込んでおり、尋常ならざる加速の果て、処刑斧めいた後ろ回し蹴りで首を刎ねにいく! 

 

 

「ぴぴぴ」

 

 

 闇の泥は笑いながらこれを胴体で受けた! ばっさりと裂けた胴体は、しかし伸ばされた闇が腰から下を接続し、何の問題なく戦闘を継続した! 

 

 

「ぴぴー!」

 

 

 闇の泥は一瞬にして岩のダガーを両手に作り出し、イミテーションに切り掛かった! 

 

 

「ぴーっ!」

 

 

 奇声を発しながらの突きをガントレットに包まれた右腕で最小限の動作で逸らし、次いで来た脇腹を狙った刺突を裏拳で弾く! 

 

 

「ぴーぴぴぴ!」

 

 

 弾かれたことによりあいた刹那の隙に24の打撃を喰らった闇の泥は、しかし早回しめいて動きを加速させ、怖気走るような蟹バサミめいたダガー刺突を放った。

 

 

 イミテーションはこれを上体を屈めて回避。そのまま手をつき、身を捻り、反転しながら後頭部を蹴り飛ばした! 

 

 

「あぱぱぱっ」

 

 

 この一撃はさしもの闇の泥とて堪えた。たたらを踏んで後ずさり、前方の怨敵を睨む。

 

 

 が。

 

 

「ぴ?」

 

 

 敵は視界から消えていた。

 

 

「ぴぴ……ぴっ!?」

 

 

 狼狽えて周囲を見るも、見えるのは敵の犬か、さもなくば光の走狗のみで、彼が殺したくてたまらない敵の姿はどこにも見えない。

 

 

「ぴ? ぴ? ぴ、ひ゛!?」

 

 

 だが次の瞬間、彼の肩に何者かが乗り、反応する間もなくその首を足で締め上げた。

 

 

人形遊び(マリオネット)はお終いです。私は次に行きます」

 

 

 すぐ耳元で鈴の音のような声が、ぞっとするような冷たさで耳朶を震わせた。

 

 

「ぴ!? ぴ!?」

 

 

 狼狽する闇の泥を締め上げながら、悪魔は思い切り身を仰け反らし、その脳天を地面に突き立てた! 

 

 

「あぱーっ!?」

 

 

 それはプロレスの奥義フランケンシュタイナー! 否! 悪魔はその反動で先ほどよりも高く跳躍、再び闇の泥の脳天を大地に叩きつけた! 

 

 

「あぱーっ!?」

 

 

 それはプロレスの奥義フランケンシュタイナー! 否! 悪魔はその反動で先ほどよりも高く跳躍、再び闇の泥の脳天を大地に叩きつけた! 

 

 

「あぱーっ!?」

 

 

 それはプロレスの奥義フランケンシュタイナー! 否! 悪魔はその反動で先ほどよりも高く跳躍、再び闇の泥の脳天を大地に叩きつけた! 

 

 

 

 叩きつけた! 叩きつけた! 叩きつけた! 

 

 

 叩きつける度、跳躍の高度は上がり、今や50メートルを超えたではないか! 

 

 

 悪魔の眼光が赤熱した! 高さが最高高度に達した瞬間、両者は急降下! そして叩きつける直前、闇の者の脳天に黒炎と白炎が二重螺旋めいて巻き付いた! 

 

 

 殺戮奥義『落日(ナイトフォール)!』

 

 

 闇の泥は粉々に砕け散った! 

 

 

 尋常ならざる衝撃が戦場を蹂躙し、付近のものを何もかもを吹き飛ばした!

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