影武者転生異常あり!~俺は悪役令嬢の影武者なんだ…誰が何と言おうが影武者なんだ!だから脇役でいさせろや!   作:三流二式

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『〝保健所〟という組織』③

 くるくると球体のように身を丸めながら爆心地より跳び離れたイミテーションは両足で着地した。

 

 

「ふぅー……」

 

 

 イミテーションは反動でめきめきと軋む体に、息を吐いて耐える。

 

 

 実際凄まじい衝撃であった。過去に落日(ナイトフォール)で敵を仕留めた事は何度かあったが、これほどまですさまじい破壊を生んだのはこれがはじめてであった。

 

 

 イミテーションは振り返った。彼の後方、落下地点は隕石の衝突染みたクレーターが出来上がっていた。

 

 

 その中心には黒焦げた肉の破片らしきものが点々とあったが、それが一体何の肉だったかは、最早判別がつかぬ有様である。

 

 

 恐るべしは闇と光の同時使用による対消滅の威力。相反する属性の運用は実際無謀に近い試みである。ほんの少しの比率の誤りが致命的な死を招き、仮に行おうものなら繊細かつ膨大な時間をかけて行わねばならない。

 

 

 しかしこの男はほんの0.00000000001秒以下という誤差の範囲とすら言えるような刹那の時間だけ発現し、しかも一度でなく小刻みに何度も行うという常軌を逸したことを繰り返していた。

 

 

 というのも、元より内に秘める力の小ささ、それに加えて千歳の真似事をするために力の制御の訓練は死に物狂いで行っていた。それに加えて光の神が手ずから調整した〝光〟は一切の拒絶反応を見せることなく彼の体に馴染んでいた。

 

 

 〝闇〟は抜かれたが、長年体に植え付けられた影響か、それとも急に引っこ抜いた結果か、ともかく彼には〝闇〟の残滓が残っていた。それと千歳のよりコピーした破壊と組み合わされば、〝闇〟を抜かれる前と全く変わらない出力で運用できた。

 

 

 〝光〟も同様に彼に入った瞬間性質が変化したものの、それ以外は〝闇〟と大して変わらず使うことができ、神の調整のおかげで大して才能の無い健太郎でも並行して扱うことができたのであった。

 

 

 それがどれだけこの世界ではあり得てはならない事なのか、この男が知らないはずはなかった。しかし、イミテーションは今更取り繕うつもりはなかったし、亡き師父も言っていたではいないか。

 

 

 舐められたら、それ相応の報復をすればよいのだ。

 

 

 イミテーションは一つ息を吐き、膝に力を入れて、未だ終わらぬ乱戦を終わらせ、そして績の結界内で戦っている暗夜の援護をするべく歩き始めた。

 

 

「はあ!」

「ぎゃっ」

 

 

 軌陸は光を纏ったロングソードの刺突でシャム双生児めいて上半身がくっついた悪夢的な試作型レギオンをまとめて串刺しにし、不快感を表しながらも死骸を放り捨て、次の得物へと切り掛かってゆく。

 

 

「シャー……」

 

 

 念力の異能持ちの黒い者が投げ放つ瓦礫を小刻みに跳ねまわる事で巧みにかわし、みごと一刀のもとに切り伏せる軌陸の背後から、体だけをトカゲに変身した黒い者が飛び掛かっていた。

 

 

「……」

 

 

 イミテーションはするりと軌陸と黒い者の間に割って入り、飛び掛かってきた黒い者の眼球と顎に鷲の爪を捻じ込み、振り下ろし、頭から股下まで真っ二つに引き裂いて無造作に殺した。

 

 

「うわっ!? いつの間に!?」

 

 

 血飛沫が足元をはねた事でようやく背後のイミテーションに気が付いた軌陸は距離を取って切っ先を向けた。しかし。

 

 

「今は、止めておきましょう」

 

 

 いつの間にか息がかかる程に近づいていたイミテーションは、軌陸に顔を近づけ、唇に指をあて、茶目っ気たっぷりに片目を瞑った。

 

 

「―――ッ!?」

 

 

 悍ましいとすら称せる色気に、軌陸の背筋が粟立った。体が固まる。目が離せない。必然的に彼女は目の前にある顔に注目する事となる。

 

 

 見慣れた、とは言えないが、それでも知っている顔だった。

 

 

 鼻の形。唇の形、瞳の形。髪型も、何もかもが知っているものであった。ものであったはずだ。しかし、()()()()()()()? 

 

 

 光差さぬ深い青の瞳。渦を巻く瞳孔は暗黒の海で渦巻く渦潮の如く、人々を絡めとり、粉々にしながら奈落へと引きずり込んでゆく。

 

 

「話はまた、後で」

「あ、あぁ。そう、だな」

 

 

 どこか上の空で返答する軌陸に、イミテーションは口元に片手を当ててくすりと笑うと、上空から強襲してきた黒い者へ振り返りもせずにカウンターの肘うちを打ち込んで頭蓋を叩き砕いた。

 

 

(何という奴だ……! こんな状況で焦りもしなければ怒りもしない! まさに戦闘マシーンのようだ!)

 

 

 すまし顔であまりにもあっさりと殺戮するイミテーションに、軌陸は戦慄を覚えた。

 

 

 しかし、実際のイミテーションの心境は。

 

 

((クソがぁアアアアアアアア!!! 何でこうなるんだよ! おかしいだろ実際! クソ! クソ! クソ! アァアアアアアアアアア!!!))

 

 

 これである。

 

 

「うぅくそ!」

 

 

 脳漿が散らばり、飛沫をもろに浴びて浮足立った黒い者や洗脳兵士たちを鷲の爪でばらばらに引き裂く悪夢的光景を見せられて我に返った軌陸は、頭を振るって意識を戻し、再び切り込んでいった。

 

 

「はぁ……はぁ……ハア!」

 

 

 ところどころにやけどや切り傷を負ったエミリーは荒げた息を整え、再び目から怪光線を放って敵を撃ち抜いて行ったが、多勢に無勢。彼女は特に〝光〟で強化されているわけではなく、訓練により常人よりも動けるとはいえパーティの中では一番打たれ弱い。

 

 

 実際ゲームでも彼女はサポート型であり、率先して前線に出る様な者では無かった。故に、限界をきたすのは早かった。

 

 

「くっ!?」

 

 

 疲労で判断が鈍り、レギオンの攻撃を避けた際に血でぬめった地面で足を滑らせて尻もちをついた。

 

 

「しま―――」

 

 

 気付いた時にはレギオンはすでに眼前。咄嗟に腕でガードを試みたが、レギオンの鋭利な爪が彼女の肌を切り裂く前に、横合いから繰り出されたイミテーションのサイドキックがレギオンの脇腹に決まり、胴体を弾けさせて()()が周囲にぶちまけられた。

 

 

「あ」

 

 

 エミリーは目をぱちくりさせた。いつの間にかイミテーションの腕の中にすっぽりと収まっていたからだ。

 

 

「注意一秒、怪我一生。こういう乱戦では特に周囲への警戒は重要です。呼吸が整えば、貴方ならばすぐに対応できるでしょう。それまで守ってあげます。なので安心してくださいね」

「──────」

 

 

 奈落の瞳が間近にあり、エミリーは目を見開いてイミテーションを凝視した。

 

 

 その際にもひっきりなしに敵からの攻撃が繰り出されていたが、イミテーションは片腕で円を描くように回し、その悉くを受け流し、できた隙に狙いすました突きを放って次々と敵を打ち倒していった。

 

 

 その様を間近で見ていたエミリーは目をキラキラと輝かせて見入っていた。それはまるで、彼女の大好きなスパイアクションの主人公そのものの様な、あまりにも華麗な戦い方であった。

 

 

「──────クールなのだわ」

「おっと、そろそろ落ち着きましたか?」

 

 

 イミテーションに問われ、エミリーは白い肌を赤く染めながらも、こくこくと首を縦に振り、全力で肯定していた。

 

 

((何かこいつ……テンション高くねーか?))

 

 

 自分の中にあったゲームでの彼女と、現実での彼女との雰囲気の剥離に僅かなリアリティショックに襲われたが、まあそういうものかと切って捨て、先程よりもなぜか切れが良くなった動きをするエミリーを一瞥した。それから績へと向かおうとする黒い者の頭を掴み、こっちに小刀を構えて突き刺しにかかった洗脳兵士の頭を同様につかむと、両者の頭を叩きつけてもろともに砕き殺した。

 

 

 死骸を無造作に捨て去り、イミテーションは戦場を転々とし、ある時はチワワの加速チェーン刃に合わせて敵を投げ飛ばして殺し、ある時はポメラニアンの下段回し蹴りと合わせて上段回し蹴りを放って殺し、ある時はシバイヌのラリアットと合わせてラリアットを放って首骨を挟み込んで殺し、ある時はプードルよりパスされた敵をオーバーヘッドキックで殺し、ある時はトサケンが糸で吊った敵を拳銃で射抜いて殺し、ある時はレトリバーの機械触手と共に鷲の爪で競うように敵をばらばらにして殺した。

 

 

 丁度仲間たちを一巡する頃には、敵はすっかりいなくなってしまった。むせ返る様な死臭が辺り一面に漂っていた。

 

 

 軌陸とエミリーがむせ、それにハンカチを渡すシバイヌを目尻に、イミテーションは績へと近づいていった。

 

 

「どうです、彼は?」

「あなたは……いえ、今はいいです。暗夜は、正直攻めあぐねています」

「でしょうね。そのための私です」

 

 

 そういうとイミテーションは拳銃を取り出し、今まさに暗夜をバッタの渦の中に閉じ込め、勝ち誇るように高笑いをする朧な顔に照準を合わせた。

 

 

「何を?」

「突破口を作ります。暗夜さんにテレパスは送れますかな? 勇者と聖女ならばそれが可能なはずですが?」

 

 

 イミテーションの意図に合点がいった績はこれを承諾し、目を閉じ、暗夜へと何事か思念を送り始めた。

 

 

 イミテーションは闇の者の顔に照準を合わせたまま、動かない。虫で作られた不定形な顔は一頻り高笑いを終えると、未だ渦の中で光の防御膜を張って抵抗する暗夜へと突撃の準備を開始した。

 

 

 その瞬間。イミテーションの眼光が赤熱し、探知の異能で最適なルートで弾丸が発射された。発射された弾丸は加速と強弱の異能によって瞬時にプラズマ化し、光に限りなく近づいたエネルギーと化して闇の者の額に着弾。そしてその瞬間に黒炎と白炎が二重螺旋めいて巻き付いた。

 

 

『ギャァアアアアアアアアアアアアアア!?』

 

 

 績の結界を紙屑のように砕きながら、極光は蝗の群れを射抜いた。

 

 

「おるぁああああああああああ消えやがれぇえええええええええ!!!」

 

 

 暗夜は間髪入れずに光の幕を凝縮し、お返しとばかりに極大の光の渦を叩き込んだ。

 

 

「私も! はあ!」

 

 

 績もそれに合わせ、光の束を発射した。2つの光は混ざり合い、巨大な光の嵐と化し、闇の者を飲み込み、虫一匹逃す事無く消滅した。

 

 

「ふぃー……あ、おまえ──────」

 

 

 息をつき、績の手を取り、それからイミテーションに気が付いた暗夜は何か言おうとしたが、それは、横合いのビルを巨大な質量が粉砕する轟音によってかき消された。

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