影武者転生異常あり!~俺は悪役令嬢の影武者なんだ…誰が何と言おうが影武者なんだ!だから脇役でいさせろや! 作:三流二式
「「イイイイイイイイイイミィイイイイイイイイイテェエエエエエエエエエショォオオオオオオオオオンンンンンンンンンン!!!」」
瓦礫の雨を降らせながら、長大な影が憤怒と憎悪に狂おしい咆哮を上げた。
「な、んだあ!?」
「なんという大きさ……!」
あまりにも馬鹿げたサイズゆえ、暗夜と績ははじめはそれが何なのか理解できなかった。
やがて現れたそれの全容を理解したとき、両者はぽかんと口を開け、同時に瞠目していた。
蛇である。狂ったサイズの蛇たちが、イミテーションただ一人を目がけ、無茶苦茶に暴れ回りながら突っ込んできた。
「「アァアアアアアアア!!!」」
蛇の一軒家ほどもある頭が音速の壁を越え、流星さながらの急降下で立て続けに降り注いだ。
まるで天蓋そのものが降ってきたが如き超広範囲面制圧攻撃だ。避ける避けないの話ではない。反応できる訳が無い。これは神話や御伽噺の怪物そのものなのだ。
未だ人の域を出ていない両者ともに、咄嗟に光の幕を張るのが精々だった。人の身で正真の怪物と対峙する事などできはしない。
天蓋が視界を覆いつくし、今まさに押しつぶされると覚悟した矢先に、一瞬の浮遊感とともに、気が付けば頭にかかっていた影は消え失せていた。
直後、世界そのものを揺らす様な衝撃が走り、莫大な土砂が空へと舞い上がった。
「ぐっ!」
「くぅう!」
体に沿うように光の幕を張り、衝撃をどうにかやり過ごした2人は肩に手を置く黒く青い影を振り返った。
「なあおい、えぇ、と」
「イミテーションです」
「イミテーション、ありゃ一体なんだ? えらくお前にご執心らしいけど」
身をもたげ、外したことに怒り狂ってのたくる8匹の大蛇を指さしながら、暗夜は問うた。
「あれは教団の四人の幹部の一人、マガツノオロチです」
「幹部!」
績の顔がわずかに強張った。それもそのはず。聖光教の教徒ならば誰もが知っている教団の四幹部。そのうちの一柱の『マガツノオロチ』は績も良く知るところであった。
マガツノオロチは見ての通り蛇に変身する異能をもつ闇の者であり、過去数百年のうちで幾度となく人前に現れては拭い去れぬ破壊の痕跡を残していた。
最初期の出現記録は江戸時代末期とも江戸時代初期とも言われている。というのも江戸時代末期に現れた八つ頭の大蛇の話よりも前、江戸時代初期に小さな農村が立て続けに消えるという怪事件が起きた話があり、そこで大きな蛇を見た、という記述がちらほら出ているのだ。
いずれにせよ、永い刻の中で培われた大蛇の魔物の恐怖の話は枚挙に暇がなく、まさしく伝説との対峙に、信心深い績が恐怖を抱くのは当然と言えた。
「あの怪物は対象に執着する気質があり、どうも散々逃げ続けた私を熱烈に求めているようなのですね☆」
「ね☆じゃねーよ! どうすんだあれ!」
「殺します」
「「は?」」
悪魔は決断的に言い放った。暗夜と績は素っ頓狂な声を上げた。
((ゲームでの時系列的に今はchapter6の最終盤だ。本来ならばここで初めて敗北し、次のchapter7の対峙で勇者の力に目覚めるはずなんだが、何でかしらんが奴はもう覚醒してやがる。績も、軌陸もしかり。そして俺がいる。ならば、前倒しであの糞蛇公をこの段階でぶっ殺してやれば、年を越す前に教団をぶっ壊せる。ならば、
イミテーションは脳内で激しい激情と共に高速回転させ、単純明快な結論を導き出した。瞳が熱を帯び、凄惨な殺意が胸の内で渦を巻いた。
『ボス、あの糞蛇野郎に合わせて増援だ! 迎え撃ちますんで、そっちは頼んます!』
『あーあーウチの探知にもスゲー反応あり。マガツノオロチの『爬虫類部隊』っすね。きも』
『うわっ! 凄い数のトカゲが通りを練り歩いている!』
『うぎゃー改造パイソンだぁアアアア!!!』
『命を弄びよってからに!』
『メカアナコンダ……だと?』
通信から犬どものてんやわんやの鳴き声が聞こえる。
「私はこれより勇者と聖女と共にあの〝世界蛇〟を滅ぼします。些事は任せました」
『『了解』』
途端に始まる戦闘の音を聞きながら、イミテーションは績と暗夜へと顔を向けた。
「そういう訳ですので、これよりあの大蛇を討ちます。付いて来てくれますね?」
イミテーションは2人へ手を差し伸べた。にこやかな笑みは、しかし有無を言わさぬ迫力があった。績と暗夜は顔をこわばらせて互いを見た。
冷汗が垂れる。今まで対峙したどの敵よりも強大な化物。それに、自分たちは挑もうとしている。
かつて戦った敵たちは、そのほとんどが自分より下か、あるいは交戦中に覚醒した自分の力が上回ったがためにそれほど命の危機を感じなかった。
だが今回は違う。明らかな格上。覚醒したところで苦戦は必至。
「断っても構いませんよ。命は大事ですから。ですがその場合、大勢の罪なき人間の命が失われるでしょうね」
「「―――ッ」」
実質答えは一択だ。何という恐ろしい怪物だろうか。前方で身をもたげ、ついにこちらを見つけ、黄色い瞳を限界まで見開いて凝視する八つ股の蟒蛇と、目の前の悪魔に、一体何の違いがある?
「あぁもう! やりゃあ良いんだろやりゃあ! やって見んぞー! クソがー!」
「いずれ避けては通れぬ道ならば、勝てる可能性がある今やる方がいい。そういう事ですね?」
2人の若者は、悪魔の手を取った。悪魔の口元がほんの一瞬だけ三日月めいて弧を描き、それから口元を覆い隠し、目尻を下げ、微笑んだ。
「えぇでは頼みます。私は先に行ってあの怪物の足を止めます。貴方方は頃合いを見て急襲してください。頼みますね」
それだけ言い残すと、悪魔の輪郭がゆらりと揺れ、かすみ、消えた。
「消えた……」
「まさか、残像? ならば本体は何処に」
績の疑問は、遥か彼方で轟いた凄まじい轟音によって解消された。
「「シャァアアアアアアアア!?」」
驚愕の叫びをあげ、8匹の大蛇が物凄い勢いで後方へと引き戻されていく。
「なッ!?」
「噓でしょう!? もう本体のもとにたどり着いたというのですか!?」
どどん、ずずんと、断続的に響き渡る激しい戦闘音に、2人は戦慄を覚えた。だがここで浮足立って立ち止っている訳にもいかない。
「い、行くぞ! あのヤローだけに良いカッコさせてたまるか!」
「そ、そうですね。行きましょう!」
二人は互いに頷きあい、駆けだした。地獄へと向かって。より悍ましい深淵へと。
日常へと一時の別れを告げながら、若い勇者と聖女は手を取り合って、死地へと赴いた。