影武者転生異常あり!~俺は悪役令嬢の影武者なんだ…誰が何と言おうが影武者なんだ!だから脇役でいさせろや! 作:三流二式
「ナニィイイイイイイイイ!?」
績と暗夜が動き出したころ、数キロ先の彼方、マガツノオロチとの距離を瞬時に潰したイミテーションは大蛇の根元、黒いフードで覆った顔面に黒炎を纏う右フックを叩き込んでいた!
「ヌゥウウウ!」
たたらを踏んで苦悶するマガツノオロチは、しかし瞬時に動揺を諫め、これに対応!
「カアッ!」
袖の中から、ローブの下から、夥しい数の蛇を解き放ち、イミテーションを圧殺する構えだ!
だが。
「グオッ!?」
イミテーションはすでに眼前! マガツノオロチの腹部に8打、顔面に16打を打ち込んでいた。
「ギッ!!!」
吹き飛ぶ体を地面に蛇を突き立てる事で強引に抑え込み、解き放った蛇を間断なく襲わせることで接近を拒絶する!
しかし!
「ガバッ!?」
着地して正面を見たマガツノオロチの視界を、白炎に包まれた拳が覆った。
イミテーションが!
「ぐほっ」
凄まじい衝撃に上半身を仰け反らせ、がら空きのマガツノオロチへイミテーションは強烈なサイドキック!
速い!
「ヌウァアアア!!!」
くの字に体を折り曲げ、マガツノオロチは大砲で射出されたが如き勢いで家屋を幾軒もなぎ倒しながら吹き飛んで行く!
「むん」
一瞬遅れてイミテーションに巻き付いた数頭の蛇の頭がぽろぽろ落ちてゆき、胴体の方も力なく解け落ちた。
「シャアッ!!!」
上に乗った瓦礫をはね飛ばし、蟒蛇は尋常ならざる憤怒と憎悪を籠めた瞳で目の前で佇んで様子を窺う悪魔を睨みつけた。
「小僧メガ! 調子ニ乗ルナッ!!!」
マガツノオロチのフードは千切れ落ち、中の禍々しい素顔を曝け出していた。
青白い肌。完全なる禿頭の頭はところどころに穴が開いており、その穴からおどろおどろしい色合いの凶悪な蛇たちが鎌首をもたげ、裏切り者の人形へ、あらん限りの殺意を向けていた。
「御託は結構。ならばかかってくるが良いでしょう。御大層な伝説とやらが真実か、この目で見極めてあげますよ」
「抜カセ青二才ガッ!!!」
挑発の手招きに、マガツノオロチは激昂して飛び掛かった。
「シャアッ!」
マガツノオロチは袖の中から膨大な蛇を射出! 一瞬で音速の何十倍にまで達した蛇たちは摩擦熱で炎に包まれながらイミテーションを襲う!
イミテーションは両腕に力を籠めた。ジェットエンジンが空気を取り込むような音とともに、両腕が黒炎と白炎に覆われた。
「「シャアアアア!」」
地獄の鬼の舌が如く燃え上がる長大な蛇たちが人間の頭くらいならばたやすく丸呑みできるほどの大顎を開き、明らかに危険と判断できる不穏な蛍光ネオン色の毒液を滴らせながらイミテーションをバラバラに引き裂かんと迫る!
しかし、接触のほんの0.0000000000000001秒。イミテーションは全身の力を一瞬だけ抜き、すぐさま力を入れ、爆発的な速度で両腕をひらめかせた。
蛇たちが自分の身に一体何が起こったのか理解するよりも早く、イミテーションは爆発的な力を体外に逃がす事無く踏み込み、マガツノオロチの眼前に出現し、打撃を繰り出していた。
「同ジ手ヲソウ食ラウト思ウナッ!!!」
絶命した蛇の痛みを感じ取りながら憤怒に燃える瞳をカッと見開き、マガタノオロチは顔面を狙った正拳突きを首をかしげて最小限でかわすと、伸びきった腕に頭に生えた蛇を巻き付けにかかる!
イミテーションは一瞬早く腕を戻して巻き付を回避すると、腹部に膝蹴りを放つ!
「ジャアッ!」
マガツノオロチはこれを足元の蛇を壁めいて束ねてガード! 凄まじい衝撃が走り、何十頭もの蛇が黒いねばついた血を流しながらはじけ飛んだ!
しかし、数百から数千の蛇の群れ。たかが数十頭死んだ程度で、何の問題があろうか?
仲間が殺された動揺はなく、蛇たちは宿主より与えられた殺意に突き動かされ、怨敵を惨たらしく殺すべくとぐろを巻き、周囲を旋回した!
「ッ!」
イミテーションは周囲を見回した。尋常ならざる蛇の群れがイミテーションとマガツノオロチを中心とした半径30メートルほどの円状空間を作り出していた。
「ココハ処刑場」
マガツノオロチは低く言った。
「ソシテ、死刑執行人ハコノワシヨ!」
頬が裂け、しゅうしゅうと蛇特有の威嚇音を発しながら、マガツノオロチは牙を剝いた。特に長い2本の牙からは黒紫色の毒液が滴り、地面に垂れると煙を上げてコンクリートが溶けた。
「……御託はいいと言いました」
幾千の殺意に満ちた決戦フィールドの中で、イミテーションは全く怖気た様子もなく無感情に言い放った。
「さっきから黙って聞いていればあなたは口先ばかりです。弁舌を並べ立てる暇があったらさっさとかかってくるが良い。その悉くを圧し潰してあげましょう。ご自慢の物量戦術が通用せずめそめそ泣く羽目になるのは、果たしてどちらになるのでしょうね?」
「……」
イミテーションに瞳に黒炎と白炎が宿った。燃える瞳を受けて、マガツノオロチは口を閉じた。両者はしばしの間無言で睨み合った。
一時の間、場に静寂が満ちた。聞こえるのは蛇が這いずる音と、遠くから聞こえる喧騒の音だけ。
遥か彼方で起こる喧騒の音は睨み合う二者には届いておらず、さながら分厚いガラス窓の向こう側から微かに響く雑音のように、二人は二人だけの世界に閉じこもり、ただ互いを殺す算段を立てていた。
やがて、マガツノオロチは目を細め、ニッと笑った。殺意が、弾けた!
「「ジェァアアアア!!!」」
周囲を旋回していた蛇たちが一斉に飛び掛かってきた! イミテーションは雷鳴歩を小刻みに使用して一点に止まらず、常に疾走しながら、隙を見てマガツノオロチへと飛び掛った!
「ヌウゥン!」
後方へと回ったイミテーションが繰り出した24連続滞空跳び回し蹴りを、マガツノオロチは蛇を跳ねあがらせることでガード! 半分の12発を相殺し、残りの12発を首の筋肉を集中させ、強引に受け切った!
「ガアッ!」
イミテーションの着地間際の隙を狙ってマガツノオロチは右腕を突き出し、一頭のアナコンダを飛び出させた!
イミテーションは目の前のアナコンダを迎撃しようとしたのだが、彼を狙う刺客はアナコンダ一匹では無かった!
虎視眈々と隙を見計らっていたパイソンの群れが、イミテーションの足を絡めとり、今まさにその細くしなやかな脚に牙をつきたてんとする!
更に背後から! 頭上から! 幾頭もの蛇が摩擦熱で燃え上がりながら迫る! 危うしイミテーション!
「──────」
尋常ならざる死線に、イミテーションの本能が時間の感覚を停滞させ、この世の全てがその動きを停止させた。
((……ふざけんじゃねぇ……ふざけんじゃねぇ!!!))
停滞し、思考だけが動く事の出来る空間の中で、イミテーションは怨嗟の声を張り上げた。
((この糞蛇が! あの糞神が! 糞教団が! 糞世界が! どいつも! こいつも!))
怒りが、憎悪が、心の中で渦を巻く。それに呼応して、瞳に宿る黒と白の光が激しく瞬いた。
((何でこんな事をしなくちゃいけない!? なんで俺が貧乏くじ引かされてんだ!? なんであのまま退場させてくれない!? 十分苦しんだだろ!? 十分咎は清算したはずだろ!? なのになんで俺はここにいる!? なんで俺は未だ地獄の窯の底でのたうち回っている!? ふざけるな! ふざけるな!! ふざけるな!!!))
思考が煮え立ち、感情が溶岩の如く泡立ち、轟音を立てて吹き上がった!
悪魔の眼光が火を噴いた! そして、静止した時の中を、肉体から軋み音をたてながら、ゆっくりと動き始めたではないか。
尋常ならざる感情の発露に加え、尋常ならざる死線による生存本能の爆発が、イミテーションの肉体の限界を超え、枷を一つ外したのだ。
悪魔は上半身を捩じり上げながら右手を手刀の形に変え、ゆっくりと体を前に倒し、地面に顔が付くほどの前傾姿勢を取った。
体がメキメキと軋む。限界を超えた体の駆動によって関節各所が悲鳴を上げ、目から、耳から、鼻から、夥しい血を流した。それでも悪魔は止まらなかった。
それはさながら、飛び掛かる寸前の蛇を思い起こさせた。
軋む、軋む! 悪魔は全身を苛む痛みに耐え、ただ脱力した。基本中の基本。悪魔の殺しはあらゆる力を抜き、そして刹那の隙をつき、最小限の攻撃回数で敵を仕留める雷光の閃き也。
悪魔は、踏み込んだ!
世界の流れが元に戻り、蛇たちは一斉に悪魔が一瞬前までいた地点に殺到した。
イミテーションは空中できりもみ回転しながら、その様を冷たく見下ろしていた。その瞳は白く黒く燃えていた。
「ギッ──────」
マガツノオロチは呻いた。その体の間接各所に、胴体に、首に、白と黒の線が走り、次の瞬間バラバラと落ちた。
ほんの刹那。ほんの一瞬。この世で誰もが認識できない短い時間で、悪魔は手刀で蟒蛇を切りつけていたのだ。
己を戒め、苛む邪悪な
殺戮奥義『
「ここは処刑場、なるほど」
着地し、主と同じく苦痛にのたうち回る蛇の渦へ振り返り、呟く。
「確かにうってつけです。罪人を葬るには」
イミテーションは吐き捨てる様に言った。