影武者転生異常あり!~俺は悪役令嬢の影武者なんだ…誰が何と言おうが影武者なんだ!だから脇役でいさせろや!   作:三流二式

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『光と闇の勇者』

「「──────」」

 

 

 暗夜と績はしばらく動けなかった。とても目の前で起きた出来事が信じられなかった。

 

 

 伝説の魔獣。決して滅びる事の無い尾を喰らい合う大蛇。天蓋を作る世界蛇。それを、助けがあったとはいえ、自らの手で葬り去るなどと。

 

 

 荒唐無稽に過ぎる。子供の描いた絵空事と切って捨てられた方が、まだましだった。

 

 

 だが、現実はいつだって狂っている。絵空事と切って捨てたいような出来事が現実であったことなど、星の数ほど存在している。この光景もまた、その一つに過ぎなかった。

 

 

 それはあまりにも唐突だった。

 

 

「う゛う゛!」

「暗夜!?」

 

 

 暗夜が突如として胸を押さえて苦しがったのだ。

 

 

「どうしました!?」

「わ、分からね……ッ離れろ!」

「え? きゃ!」

 

 

 駆けよってきた績を払いのけ、暗夜は四つん這いの姿勢でうっ、うっ、と噛みしめた口から呻き声が漏れた。

 

 

 次の瞬間、暗夜の体内から膨大な〝闇〟が迸った。

 

 

「なっ──────」

 

 

 績は目を見開いて、有り得てはならない光景に立ち竦んだ。

 

 

「あ、アアアアアアア!!!」

 

 

 暗夜は絶叫を上げた。呼応するように〝光〟までもが発現し、暗夜の背中からまるで翼の如く〝光と〝闇〟が迸った。

 

 

「うぐ……おぉおおお……」

 

 

 目を剥き、地面に指を突き立てて、体内を滅茶苦茶に暴れ狂う力をどうにか抑え込もうと躍起になった。

 

 

「暗夜! 暗夜! く、この!」

 

 

 放たれる〝光〟と〝闇〟をどうにかかいくぐり、その根元の暗夜へとたどり着いた績は暗夜の〝光〟に干渉し、抑え込まんとする。

 

 

 しかし相反する二つの属性は干渉を拒絶し、績は弾かれて地面を転がった。

 

 

「う……つぅ……」

 

 

 

 力のフィードバックによる頭痛に苛まれながらも立ち上がった績はどうにかこの状況を覆そうと策を練るが、このような異常事態に経験などある筈もなく、頭を抱えて右往左往した。

 

 

「……そうだ、イミテーションさん! どこ!? イミテーションさん!」

 

 

 ハッとなってさっきまでこの場に居た悪魔の事を思い出した績は周囲を見回して叫んだ。

 

 

 有り得ない光景だ。〝光〟と〝闇〟を同時に宿すなど。だが彼女は見たのだ。そのあり得てはならない事象を引き起こし、尚且つ平然としている悪魔の事を。

 

 

()()ならばどうにかできるはず……!)

 

 

 根拠はない。出力では目の前の暗夜どころか自分にすら劣る。だがあの悪魔ならば、どうにかなるのではないかという漠然とした確信があった。

 

 

 今や視界が効かなくなるほどの〝光〟と〝闇〟の奔流に、負けないように声を張り上げる績の視界の端に、黒い影がゆっくりとした歩みで暗夜へと近寄っていくのを捉えた。

 

 

「イミテーションさん! 暗夜が!」

「うるさいぞ」

 

 

 酷く冷たい拒絶を孕んだ鈴の音の声が、績の耳に入り込んだ。

 

 

「──────え?」

 

 

 績は聞き間違えかと思った。だって、その声音は普段から耳にしていた声であり、今この場にはいない者の声であったからだ。

 

 

「ふん」

 

 

 そんな績などお構いなしに、黒い影は方々に放たれる力の奔流に避ける仕草すら見せず、悠々と暗夜の前へと立った。

 

 

「なんという無様な姿だ。それで勇者の継承者などとは。全く笑わせる」

「お……おま、え……は……」

「うるさい」

「が!?」

 

 

 頭を上げ、黒い影を見上げようとした暗夜の顎を、黒い影は蹴り上げた。暗夜は抵抗すらできずに仰向けにひっくり返った。

 

 

「な……て、テメェは!?」

「うるさいと言ったんだが?」

「ぐえ!」

 

 

 影は、鳳凰院千歳は心底鬱陶しいとばかりに暗夜の胸を踏みつけ、呆れ半分嘲笑半分で見下ろしながら、つまらなそうに鼻を鳴らした。

 

 

「起きて見れば訳の分からん男にああだこうだと言われ、外に出て見れば何だこの騒ぎは。急いで奴の気配を頼りに駆け付けて見れば、随分と面白い状況ではないか。えぇ?」

「はっ……はっ……」

 

 

 千歳の言葉に、暗夜は答える事すらできない程に弱り切っていた。

 

 

「千歳様」

「……」

 

 

 その声を耳にした瞬間、千歳は心の底からうんざりしたことを隠しもしない顰め面を作り、首だけ回して後ろを見た。

 

 

「……なんだ?」

「そろそろ助けてあげてください。彼、そのままでは不愉快な事になってしまいますよ?」

 

 

 微笑みを称えた悪魔がそこにいた。

 

 

「お前にとって、だろ。違うか?」

 

 

 悪魔は何も言わず、ただにこにこと微笑んだ。

 

 

「~~~~~~……」

 

 

 千歳はあらん限りイミテーションを睨みつけ、それから舌打ちした。

 

 

「ちっ……おい光、何をぼさっとしている。お前も手を貸せ。〝闇〟ならともかく〝光〟は無理だぞ。私はこいつが死んだところで構いはしないが、お前はどうだ?」

「──────言われなくとも!」

 

 

 呆けていた績は千歳の言葉に我に返り、憤慨しながら千歳の横に立ち、暗夜の〝光〟に干渉し始めた。

 

 

「くぅ……」

「ふん」

 

 

 干渉する力が半分になったとはいえ、それでも暗夜の光は膨大に過ぎる。湖がダムに変わったところで、汲み上げる側からすればそこに大した違いはない。一個人で御すには、あまりにも大きすぎた。

 

 

 苦心して〝光〟を制御する績を一瞥しながら、千歳は溢れ出る〝闇〟を淡々と処理する。

 

 

 〝光〟と違い、〝闇〟もまた膨大ではあるのだが、所詮は受け継ぎ、発現したばかりで全く育っていない未熟な力に過ぎない。

 

 

 産まれたころから彼女は〝闇〟と共にあった。誰からも愛されず、闇に漬かり続け、培ってきた正真正銘の〝闇〟に比べれば、何と弱弱しく取るに足らない力であろうか。

 

 

 千歳は鼻で笑い、放たれる〝闇〟を遥かに超える〝闇〟を内側から解放し、そのまま暗夜の〝闇〟を取り込みにかかる。

 

 

「おっとそれはいけません」

 

 

 しかし、その試みは添えられた手によって阻まれた。

 

 

「……」

 

 

 いつの間にか傍らにいたイミテーションが、千歳の掌に自らの掌を重ね合わせ、その試みをやんわりと窘めた。

 

 

 千歳はイミテーションを睨みつけた。イミテーションは微笑みを崩さない。まるできっと受け入れることを確信するかのような、そんな笑みであった。

 

 

「~~~~~~!」

 

 

 

 そのいかにも理解しているといった笑みが、千歳は大嫌いであった。このまま受け入れるのはあまりにも癪に障る。

 

 

 しかし。

 

 

「う、うぅ……!」

「……」

 

 

 死に物狂いで〝光〟を制御する績を見て、千歳はしばし無言であった。やがてため息を吐くと、イミテーションへ目を向け、績へ向かって顎をしゃくった。

 

 

「仰せの通りに」

「ふん」

 

 

 一礼して立ち上がり、績へ手を貸すイミテーションの背を、千歳はまじまじと見た。

 

 

 滴る血は敵のものかはたまた己ものものか。後からやって来た彼女には判別がつかなかった。傷口が開いたのか、今なお血を流すイミテーションを見て、千歳は何を思うか? 

 

 

「うぁ……」

「績さん。手を貸します」

「ッ! あなた」

 

 

 績の手に自らの手を重ね合わせたイミテーションは、両目を鈍く光らせながら、同調を開始した。

 

 

((績さん。いいですか? 力を無理に抑えてはいけません))

 

 

 績の〝光〟の力に合わせて同調の度合いを調整しながら、イミテーションはそっと語り掛ける。

 

 

((大きな力は無理に抑さえつけたところで、決して御すことはできません。故に、その大きな力に抗うことなく身を任せ、受け流し、循環させるのです))

(循環……?)

((その通り。合わせてください))

 

 

 イミテーションはゆっくりと、まるでろくろを回すかのように手を回した。績もそれに続いた。

 

 

((渦です。円を描き、回し、循環させる。血管を流れる血液の様に))

「渦を、描き、回し、廻す……」

 

 

 績は譫言の様に、示された言葉を口に出す。

 

 

 いつしか彼女の心は凪と化し、動かす手は手は滑らかに円を描く。やがて、荒れ狂うだけだった光の奔流は渦を描き、遂には吸い込まれる様に暗夜の胸の内へと還っていった。

 

 

「──────はあっはあっはあっ」

 

 

 激しく息を荒げる績に、同様に息を荒げる暗夜が立ち上がって、互いに肩を貸し合って立ち上がった。

 

 

「これにて一件落着ですね」

「何が落着だこの馬鹿め。よりにもよって幹部を殺しやがって。教団が黙ってないぞ」

 

 

 睨みつける千歳に向き直り、イミテーションは決断的に言い放った。

 

 

「望むところです。あの舐め腐った輩には、それ相応の報復を与えましょう」

「ふん」

 

 

 真っすぐ向けられた奈落色の瞳を見つめ返し、千歳は鼻を鳴らすと、ぷいっとそっぽを向いて、脛を蹴っ飛ばした。

 

 

「ふふ」

「おーいボスー終わったっすかぁ~!」

 

 

 傷だらけで、息も絶え絶えのチワワがのたのたとやって来た。それに続いてポメラニアンが、シバイヌが、プードルがトサケンがレトリバーがやって来て、それからエミリーを腕に抱えた軌陸が光の翼を弱弱しく明滅させながら飛んできた。

 

 

「えぇ、終わりです。帰りましょうか」

「そうっすか? そうっすか……」

 

 

 イミテーションの体をつま先から頭頂までじろじろ見つめ、半目になったポメラニアンが呆れたように言った。

 

 

「そうだね、帰ろ」

 

 

 シバイヌは胸に手を当てて安堵した。

 

 

 その後レトリバーと千歳がイミテーションに向かって詰め寄ってそれはもう長いこと捲し立てたのだが、ともかくこれが切っ掛けとなり、教団の終焉が始まったのであった。

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