影武者転生異常あり!~俺は悪役令嬢の影武者なんだ…誰が何と言おうが影武者なんだ!だから脇役でいさせろや!   作:三流二式

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『神と悪魔』

「うおっうま!」

「なっ!? か、神様!?」

 

 

 績と軌陸とエミリーが即座に立ち上がり、膝をついた。暗夜は狼狽えた様に績と光の神を交互に見て、それから績たちに倣うように膝をついた。犬たちは弾かれたように立ち上がり、懐から拳銃を取り出し、光の神へと向けた。

 

 

「ど、何処から入ってきた!?」

「ドアは閉まってるよ!」

「クソッ! おいみみ子!」

「付与の結界はこじ開けられた形跡はないよ! すり抜けられたんだ!」

「私のロックも問題はないわ!」

「俺の結界も問題なしだぜ畜生め!」

 

 

 冷や汗を流しながら犬たちが喚き散らす間、俺はというとようやくありつけた甘味に舌鼓を打っていた。

 

 

「そんな警戒する事はありませんよ。彼女はそこの」

 

 

 跪く績たちへフォークを向ける。

 

 

「績さんたちの〝光〟を辿って時空をまたぎ越したのです。所謂配下に対する〝権限〟の行使ですね」

「へぇ、よく知ってるじゃん」

 

 

 息がかかる程の距離まで顔を近づけ、光の神は歯を剥き出しにして笑った。

 

 

()()()()()()〝保健所〟」

()()()()()()()()〝光の神〟。我々は貴方を歓迎します」

 

 

 凶悪な気配へ、俺は微笑をもって返し、干渉を跳ねのけた。

 

 

「──────くっくっく」

 

 

 気分を害した様子もなく、心底おかしいとばかりに肩をゆすって笑う光の神に、どいつもこいつも戦々恐々しながら俺たちの動向を窺った。   

 

 

「銃を下ろしなさい。彼女は敵ではありませんよ。皆さん、座ってください。それからシバイヌ、彼女へお茶を」

「は、はい」

 

 

 ぱたぱたと走り行くシバイヌから目を離し、おずおずと席につく犬たちと暗夜たちに、改めて言った。

 

 

「では、お話を続けましょうか」

 

 

 

 

 ■

 

 

 

 

「それで、どうですか? 幹部が一人死んだわけなのですが、あっちの動向はいかに?」

「くくく、そりゃあもう表も裏もてんやわんやの大騒ぎよ!」

 

 

 ケラケラと笑いながら、光の神は大仰な仕草で手を広げた。

 

 

「見てたぜ? マガツノオロチ相手の大立ち回り! 何だありゃあ!? 神代の時代の英雄か!? この時代にあそこまで訳の分からねぇ動きする奴がいるなんてな! 痺れたぜ……」

「光栄の極みです。私が努力したかいも、少しはあったという事ですね、あも……」

 

 

 言いながらプディングを一口。優しい甘さが口の中に広がる。光の神はにやりと笑った。

 

 

「え、と、あの、神様、その……どうしてここに?」

「どうしてだぁ? 愚問を」

 

 

 おっかなびっくり聞いてきた績に、光の神は鼻を鳴らした。

 

 

「大事な勇者と聖女が〝保健所〟なる胡乱な組織に連れ去られちまったとあっちゃあ、取り返すべく(かしら)が出向くのは、なにもおかしい事じゃねぇだろ?」

「嘘つけ……」

 

 

 ぼそりと吐き捨てたポメラニアンへ、光の神は顔を向けた。

 

 

「──────ッ」

 

 

 一瞬怯んだものの、唇を噛みしめ、気丈にも睨みつけて見せた。額には冷汗が滲んでいる。顔は緊張で真っ青だ。しかし目は逸らさなかった。光の神は頷き、俺の方へ顔を向ける。

 

 

「いい部下だ」

「えぇ、自慢の犬たちです」

「何より」

 

 

 光の神は言うや、ブルーベリーパイをむしゃむしゃと食べた。

 

 

「旨い! くそったれ! うますぎる。どうなってんだ……?」

「え~と、まだありますけど、どうでしょうか?」

「おかわり!!!」

「た、ただいまぁ~!」

 

 

 突き出された皿を受け取り、シバイヌはキッチンの方へと小走りで走り去っていった。

 

 

「マジで粒ぞろいだな。よく集めたもんだぜ。お、さんきゅ」

「どうぞ」

 

 

 うちの犬たちを一人ひとり眺めながら、光の神は感心したように息を吐いた。シバイヌがパイの食べ合わせを光の神の前に置き、逃げるように自分の席についた。

 

 

「へっ……これだけいい面子そろえりゃあ、そりゃ、引っ掻き回せるわな」

「……」

 

 

 光の神の瞳が鈍い光を発した。

 

 

「さっきの話だがな、全然かまわねぇ。だけどよ、それだけじゃあメディアも、何ならうちの上層部も納得はせんだろう。もっとなんかが必要だ」

「……分かっています」

 

 

 底意地の悪い笑みを浮かべながら、光の神は言う。

 

 

「お前にはうちに所属していたってことにする。位階は、そうさな、〝粛清騎士〟、なんてどうだ?」

「謹んで承ります」

「「はあ!?」」

 

 

 声を上げて立ち上がったのは、ポメラニアン、チワワ、トサケン、績、軌陸、エミリーの6人だ。

 

 

「なんだそりゃ!?」

「え? じゃあうウチら聖光教の下に下るって事っすか!? 冗談じゃねぇ!」

「おいおいおいマジかよ! しかしそうするしかないというのも……グムー!」

「か、神様! そんなでっち上げが通用するんですか!?」

「〝粛清騎士〟!? 新しい位階を作るという事ですか!?」

「〝粛清騎士〟……なんて、クールな響きッッッ」

 

 

 ……最後の一人を除き、両陣営は概ね否定的な意見を見せた。他の連中はというと、俺や光の神を見たり、隣にいる奴と目配せして困惑を表していた。暗夜に至ってはさっぱり話が分からないとばかりに目を白黒させていた。

 

 

「まあいろいろ意見があるのは分るがよ、でもそういう事にしておかねぇと後々困るのはお前らだぜ? まさか分からねぇとは言わせねぇぞ?」

「「……」」

 

 

 光の神のいう事に少なからず思う事があるのか、それまで騒いでいたポメラニアンとチワワは押し黙り、忌々し気に光の神を睨むと、渋々引っ込み、むすっとしながら腰を下ろした。トサケンはため息を吐き、首を振って、それから腰を下ろした。績たちもそれに続いた。

 

 

「と、いう訳で、実は私、閣下の命令で聖光教に接触し、〝粛清騎士〟として教団へ潜入していたんです!」

「「……」」

 

 

 と言う俺に突き刺さる視線は険しく、隣の千歳とレトリバーなどに至ってはさっきからずっと無言で睨み続けており、遂には殺気すらおびていた。

 

 

「おっと質問も非難も聞くつもりはありませんよ。これは決定事項です」

 

 

 なんてことをさも当然の様に言ってはいるが、当然そんなことは無く、行き当たりばったりの思い付きの行動なのは火見るよりも明らかだ。

 

 

 何せ俺は本来ならばここにいるつもりが無かった人間だ。この前の段階で一足先に降りていたという前提ですべてを進めていたのだから。

 

 

 それから先の話など、全く考えてはいない。俺には時間が必要だった。考える時間が。さらに深くなった深淵を泳ぎ切る算段を立てる時間が。

 

 

 幸い、幹部を殺したことにより教団も聖光教もしばらくは表立って暴れる様な事は控えるだろう。その間に新しいプランを練り直さなければ。

 

 

 もしゲーム通り事が進むというのならば、次に大きなことが起きるのは神代学園の夏休みが始まった時だ。

 

 

 具体的に言えば暗夜が福引で京都にある旅館の宿泊券を当てたところから始まる。

 

 

 それまでに立て直さねばならない。

 

 

「まずは、暗夜さん」

「お、俺か?」

 

 

 急に声を掛けられて目をしばたく暗夜へ、俺はある提案を持ちかける。

 

 

「あなたには是が非でも自宅に戻ってあなたの父親、光黒暮男(くれお)さんの日記を読んでいただきます」

「ッ!?」

 

 

 がたっと音をたてて暗夜は立ち上がった。

 

 

「あなたは知らなければならない。なぜ〝光〟を持つ自分に〝闇〟が宿っているのか? 父は何者なのか?」

「で、でもよ、俺」

 

 

 言い淀む暗夜に、俺は畳みかける。

 

 

「分かっています。ですが暗夜さん。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「俺が大人になるために?」

 

 

 頷き、続ける。

 

 

「大人になるためには自覚が必要です。ですが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「俺自身を、知る……」

「その通り。大人になりたいというのでしたら、なおのこと貴方は自らのルーツを知る必要がある。己自身の地盤を固め、定めた目標に対して責任を負う事。それこそが大人への条件だと、私は考えます」

 

 

 俺は言い切り、口を閉ざす。暗夜は無言で、俺から言われたことを吟味し、唸りながら考えていた。

 

 

「……そうなのかも、しれねぇな」

「暗夜……」

 

 

 目を開き、俺をまっすぐ見つめる暗夜の瞳は、まだ迷いが見て取れたが、それでも決心がついたという事は何となく読み取れた。

 

 

「……お前はやっぱり悪魔だな」

「全くね。とんだ悪党ね」

 

 

 千歳とレトリバーが信じられないとばかりにため息を吐き、俺の頬をぐりぐりと拳で押した。

 

 

「あはは……皆さん聞いてください」

 

 

 両頬を引っ張られながらも苦心して手を叩いて注目を集め、今後の方針を改めて伝える。

 

 

「さすがに幹部との戦いは堪えましたから、その療養もかねて我々はしばらく休むことにします。その間にどう動くかは各人に任せます」

 

 

 一人一人に目を向ける。どいつもこいつも何か言いたげに口をもごもごと動かしていたが、結局諦め、ため息を吐いた。

 

 

 俺も息を吐き、茶を飲んだ。

 

 

「じゃま、話は終わりっつーことで良いな? なら再開だ再開! おねーちゃん! おかわりくれよ! 次はケーキセットが良いな!」

「は、はーい!」

 

 

 光の神がそのように話を締め、シバイヌにおかわりの催促をしたことで茶会は再開された。神の前ともあり、はじめのうちは遠慮していたものだが、千歳を筆頭に全く気にしない奴に影響されて、彼らの中から遠慮という文字は綺麗さっぱり消え去った様だ。

 

 

「あっ!? おいこら! それはわしのだぞ!」

「知るか。もう私のだ」

「何じゃとこら!」

「ちょっと~取らないでよ~!」

「油断してる方が悪いんだよォ~!」

 

 

 ぎゃあぎゃあ喧しく騒ぎ合うガキどもを見つめ、このあり得ない交流が果たしてどんな影響を及ぼすのか考え、憂鬱に脳裏を支配され、俺は深いため息を吐かされた。

 

 

 酸素を求める鯨の様に糖分を求めた俺はケーキを一口食った。優しい甘さが身に染みた。

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