影武者転生異常あり!~俺は悪役令嬢の影武者なんだ…誰が何と言おうが影武者なんだ!だから脇役でいさせろや!   作:三流二式

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『幕間』⑤

 1『光黒宅』

 

 

 

 

「ただいま~」

「お、おじゃまします」

「おぉここがお前の家か」

「異性の友達の家へ来るのなんて初めてだなぁ」

 

 

 暗夜は績と軌陸とみみ子を連れて自宅へと戻っていた。エミリーも誘っていたのだが、どうしてもやりたいことがあると誘いを断り、無理に誘う理由も無いのでそこら辺をうろついていたみみ子を拉致し、こうして暗夜の自宅へとやって来たのだ。

 

 

 靴を脱ぎ、物珍し気に見回しながら、暗夜の後をついて行く。

 

 

 暗夜の祖父の家は、築50年は超えているであろう古民家だった。しかし、内装は手入れが行き届いており、それは暗夜が今なお手入れを怠っていない事を良く表していた。

 

 

「俺だって友達の、しかも異性を招いたことなんて一度だってないぜ」

「へっくそぼっち」

 

 

 腕の中で顔を青くしてタップするみみ子を引きずりながら、暗夜は二階へと上ってゆく。績と軌陸は目を見交わし、同時に息を吐いた。雉も鳴かずば撃たれまい。

 

 

 二階へ上がり、暗夜はぺっとみみ子を捨てると(ぐえっ)引き戸に手をかけ、躊躇うように間を開け、それから一息に開け放った。

 

 

 畳敷きの8畳程度の部屋で、古ぼけた匂いと線香の匂いが交じり合い、何とも言えないノスタルジックな気分にさせられた。

 

 

 暗夜はゆっくりと祖父の部屋へと入ってゆく。績と軌陸も後に続き、少し遅れて首を摩りながらみみ子が部屋の中へと入っていく。

 

 

 先祖たちの白黒の写真。光栄悪滅と書かれた直筆の書道の掛け軸。色褪せた柔道着。鎧甲冑一式。鞘に入れられた刀と脇差。机の上には暗夜の祖父と思わしき老人の遺影と簡易な仏壇。

 

 

 暗夜に言葉は無い。仏壇へ軽く一瞥をしたのち、部屋を横切り、押し入れに手をかける。

 

 

 績たちが部屋の中を見て回っている内に、暗夜は手早く目当て物を探し当てた。

 

 

 それは、一冊の色褪せたノートであった。何の装飾も無く、一目で安物と分かるそれに、暗夜は万感の思いを籠め、ひと時目を閉じて、ぎゅっと抱いた。

 

 

 他者にとっては取るに足らないノート一冊でも、暗夜にとってそれは、信者にとっての聖書と変わらない価値があった。

 

 

 自分は今からこれを読む。なぜ〝光〟を宿す己に正反対の性質の〝闇〟までもが宿っているいるのか? それを知るために。己の根源(ルーツ)を知るために。

 

 

 不思議である。本来ならば大人になった後に全てを知ろうと思っていた。だが今は、()()()()()()()()()()これを読もうとしている。

 

 

 思い起こすのは、心変わりをさせた悪魔の甘言である。

 

 

 光差さぬ、渦を巻く深淵の瞳。心の隙間にするりと入り込み、瞬く間に浸透させた鈴の音のような声。

 

 

 暗夜はブルリと身を震わせる。あの男は、まさしく悪魔そのものであった。

 

 

「それが、貴方のお父さんの日記ですか?」

 

 

 いつの間にか集まっていた彼女たちが、その代表として績が暗夜への背中へと声をかける。

 

 

「──────あぁ、そう、なる」

「そうですか」

 

 

 暗夜は振り向き、どこか自嘲的な笑みを浮かべると、やおら座り込み、胡坐を組んだ。

 

 

 績と軌陸は正座を、みみ子は懐の巾着から座布団を取り出し、どっこいしょーと言いながら腰を下ろした。

 

 

 暗夜は長々と息を吐き、改めてノートの表紙を見る。表紙には簡潔に日記とだけ書かれており、他には一切情報を得られる物は無かった。

 

 

 暗夜が意を決して日記を開いたところで、はらりと一枚の紙が落っこちた。

 

 

 訝り、落ちた紙を手に取った。

 

 

 紙はノート同様色褪せており、加奈子さんへ、とだけ書かれてあるだけの、簡素な手紙のようであった。

 

 

「──────遺書」

 

 

 軌陸がぽつりとつぶやいた。はっとなった暗夜は、反射的に手紙を開き、中の本文を読んだ。

 

 

 そこに書かれていたのは───────────。

 

 

 

 ■

 

 

 

 

 2『聖光教日本支部本部 聖域』

 

 

 

 

 ゴスペルはいつものようにアーチ型障壁を潜り抜け、聖域の扉を開こうとして、僅かな違和感に襲われた。

 

 

「……」

 

 

 それは異物。真っ白な紙の中に落とされた一滴の墨汁の如き汚点。完全無欠の中に入り込んだあってはならない違和感。

 

 

 その瞬間無礼を承知でゴスペルは聖域の扉を蹴り開いた。

 

 

「──────!!!」

 

 

 目に入った黒に、反射的に切りかかる。

 

 

 隙の多い大上段の振りかぶり。しかしゴスペルほどの強者が放てばその速度は神速に達する。大概の者は避けられず、反応すらできずに真っ二つの残骸となって果てるのみ。

 

 

 しかし、此度の者は違った。

 

 

 黒き汚点は瞬時にゴスペルの懐に入り、振り下ろされる瞬間の手首に向かって裏拳を放っていた。

 

 

「ッ!」

 

 

 瞬間的な判断で手首にありったけの力を籠めて衝撃に耐え、膝蹴りを放って接近を拒絶。

 

 

 侵入者も同様に膝蹴りを放つ。ガンッという音と共に、両者弾かれてノックバック。

 

 

「貴様ッ!!!」

 

 

 顔を上げたゴスペルは侵入者を視界に収め、憤怒に声を荒げた。

 

 

 光を反射して輝く髪は自然の作り出した氷河そのもので、深い青の瞳は奈落の底のように怖ろしく、白く艶やかな肌は死者の如し。その顔は人の姿を偽った悪魔(ディアブロ)のよう。そして身に纏う圧倒的なまでの()()()()()は、人ならざる者のそれであった。

 

 

 ゴスペルはその者の腕前を、イミテーションの腕前に思わず唸った。ほんの僅かな攻防であったが、敵の力量を推し測るには十分に過ぎた。

 

 

 あの男の腕前は実際恐るべき境地にある。自分ほどではないが、迫るほどの実力があるという事を瞬時に把握したゴスペルは、全身をうっすらと白く発光させながら警戒した。

 

 

「何故ここにいる……〝保健所〟!」

 

 

 じりじりと円を描くようにすり足で移動しながら、ゴスペルは問いかけた。

 

 

「どう、と言われましても、私は貴方方の神に直々に招かれたにすぎません。よもやナンバー2である貴方がその事を知らないなど、そんなはずはありませんよね?」

 

 

 イミテーションは片腕をゴスペルの正中線上に置きながらもう一方の手で口元を覆い隠し、目を細め、目尻を下げた。

 

 

「ッッッ!!!」

 

 

 瞬時に激昂したゴスペルは爆発的な踏み込みと共にイミテーションへと切り掛かった。しかし、イミテーションはこれを避けようともしない。

 

 

「なぜ! 避けぬ!?」

 

 

 首筋の寸前で刃を止めたゴスペルが、額が付かんばかりに顔を近づけ、怒鳴った。

 

 

「何故? これは所謂ナンバー2御自ら行う力試しの様な物ですよね? ただの力試しで、絶対の忠誠を誓う貴方が、神の住居である神域を血で穢すなど、そんな、まさか! ほほほほほ!」

「~~~~~~!!!」

 

 

 ギリギリと歯軋りする音が、鎧越しでなおはっきりと聞こえた。剣を持つ手が震える。殺意によってだ。

 

 

「貴様……この……悪魔がぁ……ッ!」

 

 

 ゴスペルの呪詛を、イミテーションは涼しげな顔で受け流す。

 

 

 悪魔が目を開く。光差さぬ、渦を巻く深淵の瞳と、ゴスペルの白一色に発光する尋常の瞳とかち合い、火花を散らす。

 

 

 神聖な空気を塗りつぶし、どろりとした殺気が溢れ出した。

 

 

 一触即発の空気。切っ掛けがあればたやすく破れるような危うい均衡が膨れ上がってゆく。

 

 

 だが、殺意がはじける寸前、より大きな気配が突如として出現し、殺気を塗りつぶし、室内は再び神聖な気配に満ち始めた。

 

 

「いや何やっとんじゃお前ら」

 

 

 両手にビニール袋を持った光の神が足で扉を蹴り開けながら入室し、殺気立つ従僕と客人を目にし、半目になって呆れ果てた。

 

 

「ッ神! こ奴は!」

「おや、お帰りなさいませ光の神」

「剣を収めろ……おう〝保健所〟うちのガキが悪かったな」

 

 

 神の言葉に渋々といったように従い、最後にあらん限り顔を近づけて憎悪と憤怒を伝えると、ゴスペルは光の神より手渡された荷物を受け取り、中身をいそいそと検め、並べてゆく。

 

 

「お気になさらず。逆の立場ならば、私も同じ事をしたでしょう」

「嘘つけお前がそんなタマか。まあいいや。ほれ」

 

 

 鼻を鳴らし、それから光の神はイミテーションへと何かを投げ寄越した。イミテーションは受け取り、寄越されたそれを検める。

 

 

 それは不可思議に発光する球体であった。光は徐々に形を変え、光が消え去ると、それは白と銀の装飾の施されたネクタイピンとなった。ピンにはPunisher(断罪者の意)の文字が刻まれていた。

 

 

「なるほど」

「これでお前は正式にウチの所属という事になる。どうだ? うれしかろ?」

「そうですね」

 

 

 イミテーションは微笑んだ。

 

 

「へっ」

 

 

 光の神はひとしきり笑うと、テレビの電源を入れ、それからコントローラーを投げてよこした。

 

 

「親睦を兼ねて、やろうぜ!」

「「……」」

 

 

 イミテーションとゴスペルは投げ渡されたコントローラーを見、次に互いを見やり、最後にテレビの画面を見た。画面には某乱闘格闘ゲームのキャラクター選択画面が映っており、光の神は既に選択を終えていたようだった。

 

 

 ゴスペルはもう一度イミテーションを見た。イミテーションは肩を竦め、光の神の左横に座り、胡坐を組むと、コントローラーを握り、淡々とキャラクターを選択していた。

 

 

「~~~~~~……」

 

 

 ゴスペルは納得いかないとばかりに唸り、怒り、押し殺し、渋々コントローラーを握り、光の神の右横へ腰を下ろすと、慣れない手つきでキャラクターを選択してゆくのだった。

 

 

 

 

 ■

 

 

 

 

 3『鳳凰院コーポレーション本社ビル 大ホール』

 

 

「──────えぇおっしゃる通り、私はまだ幼い子供をごく個人的な目的のために利用しました。ですが、それは苦渋の決断の末、やむを得ず決行したという事は留意していただきたく──────」

 

 

「──────そうです。例え皆様方に後ろ指を指され、大罪人として罵られようとも、私は教団の悪行を許すことができませんでした。この中にも教団の魔の手によって被害を被った方がいるでしょう? たとえばそう、そこ、そこの▽◇さん。貴方は確か教団のテロによって妻子を失っていましたね? 隣の〇□さんは確かご友人が半身不随の重傷を負ってたはずでしたかな? この狭い空間にも教団の手にかかったものがこれだけいるのです。外に出ればもっといるでしょう。いや、現在進行形で魔の手にかかっている者もいるはずです!」

 

 

「──────許すまじ教団! 私は平和のために! 愛のために! 亡き妻のために! たとえ汚名を被ろうと、どれだけ後世で罵られようとも、自らが行ったことに一切の後悔はありません! 恐るべき教団に鉄槌を食らわせられるのであらば、たかが罵り言葉一つ、何とするというのか! 私は──────」

 

 

 鳳凰院コーポレーション代表取締役社長 鳳凰院敏明の記者会見より抜粋

 

 

 

 

 ■

 

 

 

 

 4『光黒宅』

 

 

 

 

 この手紙を読んでいる時、僕はもうこの世にはいないでしょう。ごめんなさい加奈子さん。結局僕はあの頃と変わらない、弱くてどうしようもない人間でした。貴方の愛を受けて、僕たちの愛の結晶ができれば、内なる〝闇〟を克服できると、そう信じていました。ですが〝闇〟は弱まるどころかますますその強さを増し、遂には僕自身でも抑えきれないまでに膨れ上がってしまった。このままでは君を、お義父さんを、暗夜を傷つけてしまう。そんな事はさせない。そんな事あってはならない。ごめんなさい。あなたともっと一緒にいたかった。暗夜の成長を見ていたかった。でも、それは叶わないようです。さようなら。加奈子さん。僕はこのまま人のいない場所で自害するつもりです。お父さんには申し訳ないと言っておいてください。そして、暗夜。こんな弱い父さんでごめんな。君も、母さんと同じくらい愛している。どうか僕に似ないで、母さんの様な優しくて立派な────────。

 

 

 

 これ以上先は黒い墨のような物体に塗りつぶされて読めない。

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