影武者転生異常あり!~俺は悪役令嬢の影武者なんだ…誰が何と言おうが影武者なんだ!だから脇役でいさせろや!   作:三流二式

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『幕間』⑥

 4『教団 祭壇前』

 

 

 

 

「おのれ〝保健所〟……!」

 

 

 祭壇前、魔王は忌々し気に〝保健所〟の名を吐き捨て、拳を握りしめていた。

 

 

 幹部、マガツノオロチの死。

 

 

 その知らせより齎された衝撃は下の雑兵から、上の幹部、果ては魔王まで。大なり小なり揺らしていた。

 

 

 実際マガツノオロチの死は彼らにとって痛手であった。特にマガツノオロチの有していた極大範囲の索敵能力。それからくる異常な執着心による背信者及び敵対存在の排除。そして彼の配下たる『爬虫類部隊』。

 

 

 それらがすべて失われた。

 

 

 大打撃である。

 

 

『中々……面白い……事に……なったな……』

「ッ! 神!」

 

 

 脳裏に響いた超自然の声に、思わずはっとなった魔王は頭上を仰ぎ見た。

 

 

 闇の神が嘲笑うかのように薄目を開け、眼下の魔王を見下ろしていた。

 

 

 途端に空間が邪悪な気配に支配された。この場には魔王やその幹部といった世界でも有数の邪悪存在が揃っているというのに、闇の神の気配はたやすく全てを飲み込んだ。

 

 

 それ即ち、闇の神にとって、彼らも所詮は配下の黒い者や闇の者程度の取るに足らないちっぽけな存在でしかないという証左である。

 

 

 実際闇の神は彼らに対してさした感慨は無い。あればよし。無ければそれはそれでよし。困ればまた、補充すればよい。この世は闇に満ちているのだから。

 

 

「神! 必ず、必ずやかの者……〝保健所〟を滅ぼします! 我らを裏切り、あまつさえ楯突いた報いを受けさせましょうぞ!」

『グルグルグル……』

 

 

 闇の神は喉を鳴らすように唸った。魔王やその幹部より齎される圧倒的な負の感情を吸い込み、恍惚に震えた。

 

 

「ならば私が行きましょう」

「〝グレンキュウビ〟か……」

 

 

 それまで跪いていた黒ローブの一人、グレンキュウビが立ち上がり、魔王の前へと歩み出た。

 

 

「やれるのか?」

「僭越ながら、殲滅というのでしたら私を置いて他に無し」

 

 

 ローブの奥、黒く朱い瞳。まるで肉食の獣を思わせる野蛮な視線が、魔王の絶対零度の瞳とぶつかり合った。

 

 

「神よ」

『好きに……しろ……私は……眠る……』

 

 

 一頻り闇を吸い終えた闇の神は興味が失せたとばかりに瞳を閉じた。魔王はグレンキュウビに向き直り、頷いた。

 

 

「ならば、行け」

「お任せあれ。必ずや〝保健所〟そして勇者どもを粉微塵にしてやりましょう」

 

 

 そう言うや、グレンキュウビの体が風船のように膨れ上がり、ボン、と爆炎を上げながら四散し、消えた。

 

 

「お前たちも行け。マガツノオロチが消えた穴を埋めねばならん」

「ギギギ……」

「御意……」

 

 

 残る2人の幹部も暗がりへと引っ込み、消えた。後に残された魔王は一人佇み、尋常ならざる憤怒と憎悪に狂った。

 

 

「イミテーション……!」

 

 

 魔王の呪詛は誰に聞かれる事無く暗がりへと消え、闇色の炎の消失と共に、彼の気配も忽然と消え去った。

 

 

 

 

 ■

 

 

 

 

 5『鳳凰院コーポレーション本社ビル 最上階 社長室(プレジデントルーム)

 

 

 

 

 エレベーターが開き、社長室まで続く一歩道の廊下を、イミテーションは悠々と進む。

 

 

 廊下には様々な絵画や壺が置かれており、どれを取ってみても相当の金が掛けられているのは一目で分かる。

 

 

 しかし、イミテーションは目もくれずにただ只管直進し、廊下の終点、最新式のスキャンシステムが搭載されたセキュリティゲートの前に立った。

 

 

 イミテーションは白い手袋を外し、ゲートの横にある黒い認証装置に掌を当てた。

 

 

 たちまちスキャンが開始され、ピーっと音をたてて認証が通った。イミテーションは手袋をはめ、次に舌を出して鳳凰の印を提示した。

 

 

 スキャンが開始され、その鳳凰印を入念に精査し、遂に認証完了、という無機質な機械音声と共に、ゲートは開かれた。

 

 

 イミテーションは淡々と歩を進めてゲートを潜り、社長室へと入ってゆく。

 

 

「貴様っ!」

 

 

 入るなり、イミテーションは扉に押し付けられた。血走った鳳凰院社長の顔が、すぐ目の前にあった。

 

 

「き、きさ、貴様はッ!」

((あ、こりゃ頼み事する雰囲気じゃねーや))

 

 

 イミテーションは今なお行われている『メイドのお世話』を止めさせるために、態々こうして社長室くんだりまで足を運んだのだ。

 

 

 鳳凰院邸の自我破壊メイドたちは鳳凰院社長の命令は絶対であり、それを覆すには社長自ら命令を取り消さなければ、どれだけ不要と訴えても止まりやしない。

 

 

 今ではひたすらかわす事が出来るようになったものの、鳳凰院邸に赴く度に毎回やられてはいい加減鬱陶しくてたまらない。

 

 

 故に直談判しに来たのだが、鳳凰院社長の精神状態は、相当に追い詰められているようだった。さすがにこの状態で頼み事をするほど、イミテーションは腐ってはいない。

 

 

「貴様はッ! 自分が何をしたか分かっているのかッ! なぜ生き残ったッ! なぜ幹部を殺したッ! なぜ聖光教などと手を組んだッ! なぜ! なぜ! なぜ!」

 

 

 怒りで顔を真っ赤に染める鳳凰院社長は、まるで癇癪を起こした子供のようであった。何も言わずに無抵抗でいると、鳳凰院社長はイミテーションの胸ぐらから手を放し、一歩二歩と後退った。

 

 

「何故っ! くそ! なぜこう……どうして……わ、私は……僕は……畜生……」

 

 

 鳳凰院社長はイミテーションへ指を突きつけて喚き散らし、遂には頭を抱え、その場に蹲ってしまった。途方に暮れた子供のように。

 

 

((めんどくせぇ……))

 

 

 この親子は……、と心の中でぼやきながら天を仰ぎ、健太郎は意を決して鳳凰院社長へと近寄り、そっと語り掛けた。

 

 

「閣下」

「ッ!?」

 

 

 びくりと身を震わせる鳳凰院社長の背中を撫でながら、イミテーションは耳元へ唇を寄せ、そっと囁く。

 

 

「大丈夫です。私は貴方を裏切りません。貴方の娘である千歳様も、きっと同じことを思っているでしょう」

「──────」

 

 

 悪魔は囁く。泥のように甘い言葉を。鳳凰院社長の震えはますます強くなる。

 

 

「大丈夫です。きっと乗り越えられますよ。だって皆、生きているのですから」

 

 

 ですから、と悪魔は言う。

 

 

「頑張りましょうね。〝孤高の断罪者〟さん」

「ひっ……ひひ……ひぃ……」

 

 

 すすり泣く声が、外界と隔絶された広く空虚(ひろい)社長室に響き渡った。

 

 

 

 

 ■

 

 

 

 

 6『ニンゲンドック闇診療所』

 

 

 

 

「検査の結果は?」

「筋肉、血管、臓器、どれもボロボロのオンボロ。長く見積もっても──―」

「──―そうか。悪ぃな」

「そう思うならもう動くな」

「そうはいかん」

「あのガキか?」

「そうとも」

「そうか」

「……すまねぇな」

「ふんっ」

 

 

 

 

 ■

 

 

 

 

 7『ショッピングモール フードコート』

 

 

 

 

「で、ダチの誘いを断ってわざわざあたしらに聞きに来たと?」

「はい」

 

 

 ハンバーガーをもしゃもしゃと食いながら、チワワは目の前に座る少女、エミリーへと問いかけた。

 

 

「つってもあんたが思うほどウチら派手な動きなんてしねーぞ?」

 

 

 ラーメンをすすり、もちゃもちゃと咀嚼しながらエミリーへと箸を向けるポメラニアン。

 

 

「どちらかと言えば多人数相手に戦うよりも拠点爆破とか破壊工作が主だもんね」

 

 

 言って、シバイヌはサンドイッチを一齧りした。

 

 

「私はこの乱暴者どもの武器整備がメイン。この前みたいな表立った戦闘とか論外だから。聞かれても無駄よ」

 

 

 レトリバーはムーンバックスコーヒーの季節限定フラペチーノをちびちびやりながらエミリーを睨みつけた。

 

 

「あもあも」

 

 

 千歳は会話に参加せず、マスタードーナツのドーナツをむしゃむしゃと貪り、時折シバイヌに口元を拭かれては子供扱いするなと怒り狂った。

 

 

「破壊工作……」

 

 

 エミリーは押し黙り、今聞いた情報の整理をするため、目を閉じた。

 

 

 今まで見てきたスパイ映画やアウトロー映画では、その様な場面は何度もあった。派手なアクションは無く、しかし洗礼された動きは見る者を引き付け、仕事を終えた主人公の後方で爆炎を上げて崩れ去る敵拠点。

 

 

「かっこいい……!」

 

 

 エミリーはブルリと体を震わせた。チワワとポメラニアンは呆れたようにため息を吐いた。

 

 

「お前、マジなん?」

 

 

 チワワが確かめる様に聞いた。

 

 

「はい、やっぱり諦めきれません」

「まあ訓練だけなら付き合ってやるけどよォ~……」

 

 

 ポメラニアンはジト目でエミリーを凝視する。エミリーは逸らさず、まっすぐに見つめ返した。

 

 

 混じり気の無い視線にばつが悪くなったポメラニアンは首を振り、視線を逸らした。

 

 

「でも、夢に向かって努力するっていうのは素敵だと思わない?」

「軽い調子で言うな馬鹿たれ。ウチらだって暇じゃねーんだぞ」

 

 

 にこにこ笑うシバイヌの肩を、ポメラニアンは殴りつけた。

 

 

 それでも笑うシバイヌに、ポメラニアンは獣めいて唸り、千歳の方へ顔を向け、ぽかりとひっぱたいた。

 

 

「何をするか貴様!」

「やかましいわ! 何でてめーが付いて来てんだよ!」

 

 

 目を吊り上げて怒る千歳に、ポメラニアンは怒鳴った。

 

 

「はっ! お前たちのボスは私の物だ。つまりボスの所有物であるお前らも私のものという事だ。そんな事も分からんのか」

「馬鹿抜かしてんじゃねーぞガキ!」

「おい綾! うるせーぞ!」

「公共の場くらい静かに出来ないの? 哀れね」

「「あぁ?」」

 

 

 途端に始まる口汚い罵り合い。周囲からの視線もなんのその。彼女たちは言葉を交わすごとにますます熱くなり、遂には互いの頬を引っ張り合いながら獣めいて唸り合った。

 

 

「ね? 面白いでしょ?」

「むぅ……」

 

 

 それをやや離れた地点で眺めていたシバイヌとエミリーは片や愉快そうに笑い、片や複雑な表情で事の成り行きを見守っていた。

 

 

 犬たちの喧嘩は、係員が駆けつけてくるまで続いた。

 

 

 

 

 ■

 

 

 

 

 8『〝保健所〟 訓練室』

 

 

 

 

 黒炎に包まれた左フック! 

 

 

「くそっ!」

 

 

 暗夜は辛うじてかわし、黒い光に包まれた拳を握り締め、反撃に打って出た! 

 

 

「おりゃ!」

 

 

 顔面を狙った黒い光が瞬く右拳を、イミテーションは円を描ように腕を回してたやすく流すと、白炎に包まれた掌打で顔面を狙う! 

 

 

「うぉ!?」

 

 

 咄嗟に仰け反ってかわし、そのままバック転で距離を取るが、イミテーションはすでに眼前! 

 

 

 黒炎に包まれた手刀で頭からつま先まで切断する構え! 

 

 

「ちぃ!」

 

 

 暗夜は咄嗟に光を腕に集めてブロック! 相反する属性が衝突し、バンという音をたてて両者は弾かれる! 

 

 

「うげっ!?」

「今のは〝闇〟を使うべきでしたね」

「──―ッ!?」

 

 

 声は背後か聞こえた。驚愕し、反応する間もなく視点が反転! 気が付いた時には背中をしたたかに打ち、肺の空気が全て漏れ、咳き込みながら悶絶した。

 

 

 だが、イミテーションは一切手心を加えなかった。

 

 

 苦痛に歪む暗夜の頭を踏み砕くべく白炎に包まれた足を振り上げ、無慈悲に振り下ろした! 

 

 

「うぉおおおおお!?」

 

 

 ぞっとするほどの死の気配! 生存本能が爆発し、体は無意識の内に動いていた。

 

 

 暗夜はブレイクダンスの様に回転しながら蹴りを放ち、恐るべき踏み付けを弾きながら立ち上がった。

 

 

「はあっ……はぁっ……はぁっ……」

 

 

 息を荒げ、苦痛を押し殺す暗夜へ、イミテーションは無感情に言った。

 

 

「止めておきますか?」

「冗談……!」

 

 

 暗夜は不敵に笑って見せ、口の端から垂れたよだれを払った。

 

 

「まだまだ、こんなもんじゃだめだ。親父から受け継いだ〝闇〟を、もっと使いこなせる様になんねーとな!」

「……」

 

 

 堂々と啖呵を切る暗夜に、イミテーションは目を細める。

 

 

「では、お望みの通りに」

「おっしゃ! 来ぶべっ!?」

 

 

 瞬間的に顔面を打たれた暗夜は地面をバウンドし、思い切り壁に叩きつけられた。

 

 

 しかし。

 

 

「ぐえ、痛って……へへへ……」

 

 

 四つん這いになり、がくがくと足を震わせながら立ち上がる暗夜は不敵な笑みを崩さない。

 

 

「まだやりますか?」

「当然っ!」

 

 

 血の混じった唾を吐き、右手に黒い光を、左手に白い光を纏わせながら、暗夜は悪魔へと突貫した。

 

 

 訓練は、まだまだ始まったばかりだ。

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