影武者転生異常あり!~俺は悪役令嬢の影武者なんだ…誰が何と言おうが影武者なんだ!だから脇役でいさせろや!   作:三流二式

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『メランコリック・マイ・デイズ』

『ボス、シバイヌとチワワは突入を開始しました』

「そうですか。増援の類は?」

『今のところ探知(レーダー)に感無しっす。レトリバーのジャミング装置がしっかり仕事してるからっすね』

「それは重畳」

『ウチもそろそろ本丸叩きますんで、一旦切ります。ボスの方もお気をつけて』

 

 

 ブツンと通信は切断された。

 

 

「うん」

 

 

 誰もいなくなった廃墟の一室で、俺の声だけが聞こえる。ほんの数秒前までは2ダースほどの命がこの廃墟ビルを我が物顔で支配していたのだが、今は壁の染みになったり、ネズミ共が食いやすいようにバラバラになったりしている。

 

 

 むせ返る様な死臭が鼻を突く。もうヘルメットもしてないから、その臭いを直に嗅がされている訳なのだが、それほど気にならなくなっている自分がいた。

 

 

 慣れとは恐ろしいもので、どれだけ凄惨で目を背けたくなるような事でも、それが毎日と行われるようであれば感慨も失せ、遂には感情が揺れ動かされることが無くなってしまう。

 

 

 俺は今その一歩手前にいる。これが本当に気にならなくなってしまったら、俺はいよいよここで無様に屍を晒している野良犬どもと同じものになってしまうだろう。

 

 

 息を吐き、頭を振るう。考えたところで、致し方なし。

 

 

 ポメラニアンから通信があったのは、丁度一仕事を終えたあたりだった。

 

 

 闇の者を含めた12人単位の2個分隊が、悪だくみの最終ブリーフィングを行っている最中に強襲。

 

 

 はじめに前に立って身振り手振りで演説を行っていた闇の者を鷲の爪の不意打ちで頭を捥ぎ、傍らに立っていた闇の者が動揺している内に鷲の爪で利き腕を切り落とす事に成功した。

 

 

 部下の自我破壊兵士共が反応できない内に負傷した闇の者へと飛び掛る。

 

 

 体感で負傷した闇の者との戦闘時間は10秒ほどだったが、実際に確認したところ1秒も経っていなかった。

 

 

 鷲の嘴で首から上を吹き飛ばして壁の染みにしたのと、リーダー格の黒い者がかすれ声を発したのはほぼ同時だった。

 

 

 技を撃った反動を殺さずに跳躍、整列する兵士共の中心に飛び込み、指を鷲の爪にしたまま両腕を広げきりもみ回転。『鷲の舞踊(フェザーダンス)』で付近にいる奴の肉を根こそぎむしり取ってやった。

 

 

鷲の舞踊(フェザーダンス)』なんて洒落た名前をつけちゃいるが、聞くのと見るのとでは大違いというのはよく言ったもので、フェザーダンスという優雅な響きから華麗な物を想像しがちだが、実際に舞い散るのは羽根ではなくて肉片や血潮と絶叫。このザマを見た後で華麗だ何て、口が裂けても言えないはずだ。

 

 

 それにしても、と思う。

 

 

 毟り取った肉や血を舞い散る鳥の羽根に見立てるだなんて、我ながら皮肉が効いている。コメディアンでも目指そうか。

 

 

 壁を背にして座り込み、天井を眺めながらぼんやりと考える。

 

 

 最近はいつもこうだった。仕事中の小休憩の最中にそんな取り留めも無い事をつらつらと考えてしまう。

 

 

「へっ……」

 

 

 思わず鼻で笑ってしまう。首を振り、立ち上がる。丁度その時数名の白フードを着た不審人物が部屋の中へと入ってきた。聖光教の隠密部隊の連中だ。

 

 

 俺は顎をしゃくって目当てのものを示してやる。そこにはぱんぱんに詰め込まれたバックが置いてあり、彼らがそれを確認すると、中には火器やら爆弾やらがみっちり詰まっていた。

 

 

 確認し終えた『白い者』が俺に向かって頷いてきた。俺は立ちあがり、部屋を出た。

 

 

 実はこの仕事、ゲームでもある任務だったりする。

 

 

 本当ならば2地点に散らばった闇の者をそれぞれ殲滅するというものだったのだが、起きる事が分かっているのだから、なにも馬鹿正直に事が起きるのを待ってやる道理もない。この世界はよーいスタートで始まるゲームでは無いのだから。

 

 

 ゲームには様々な依頼がある。そのほとんどが教団がらみの厄ネタばっかりだ。章が進むごとに依頼はどんどん追加されるが、後半になるにつれ、被害の度合いはどんどん広くなってゆく。

 

 

 だが、ゲームだったらそのまま放置していてもただ溜まっていくだけで、依頼を始めなければ被害というものは出てこない。夏に出た依頼を冬休みに初めても、その依頼の時は夏のままなのだ。

 

 

 要するに俺が言いたいのは、この世界はゲームじゃないってこと。時間は進むし、人は死ぬし、憎しみと悲哀に満ちているということ。

 

 

 悲劇はつつがなく進行する。何も対策をうたなければだけれども。

 

 

 

 この依頼も本来ならば暗夜たちが解決する案件だ。それが本人の成長を促す正しい道のはずだから。

 

 

 しかし、もっと現実的になってみよう。ゲーム脳になっていないか? 家族と話はしているだろうか? 

 

 

 あいつらはまだガキだ。経験の足りないクソど素人だ。そんなガキが、そういう凶悪な事件を被害なく抑えきれると思うか? 

 

 

 俺が見ていない間でそれなりの難易度の依頼をこなし、凄惨な現場を少なくない頻度で暗夜たちは目撃している。

 

 

 今はまだ、それだけやれば十分だと思う。ただでさえ千歳が要る関係上そっちに構って欲しい俺からすれば、依頼なんぞにかまけてコミュニケーションを怠られる方が問題だ。

 

 

 まあ、結局の所、俺の方も自分が考えている以上に千歳の事を気にかけているようだ。

 

 

 こうならないために振舞っていたのに。年月というものの力は、やはり俺如きに御しきれるものでは無いのだ。

 

 

 廃墟から出て、すぐさま体から力を抜き、踏み込み、駆けだす。背景が引き延ばされ、音が、影が、何もかもが置き去りになってゆく。

 

 

 

 ほんの一瞬で数十キロ先の彼方、子供を地下に監禁して食べ頃になるまで肥えさせるといったどこぞの魔女の様な事をしている闇の者の背後をとった俺は、腰を抜かす子供を追い詰めることに夢中になっている隙に心臓に向けて突きを放つ。

 

 

「―――ッ!?」

 

 

 咄嗟に反応され、ぎりぎり致命傷は避けられ、わき腹をえぐり取る程度に抑えられた。

 

 

「ギャアッ!?」

 

 

 肥満体の中年女は甲高い悲鳴を上げ、物凄い勢いで壁に叩きつけられた。

 

 

「わ……わ……」

 

 

 何が起きたか理解できていない子供を抱え上げ、出口付近で下す。

 

 

「これは檻の鍵です。これを使って、閉じ込められている子供を助けてあげてください」

「え? え?」

 

 

 事態が飲み込めていない子供へ、俺は鍵を握らせた。

 

 

「大丈夫。悪い魔女はやっつけてあげますから。だから、信じて」

「ッ! は、はい!」

 

 

 屈み込み、両頬を押さえ、顔を近づけて間近で見つめながら、微笑んでみせる。

 

 

 みせるというのは、果たして自分が笑えているのかさっぱり分からないからだ。だが、子供が素直に言う事を聞いてくれている事から、少なくとも睨みつけている訳じゃない事は理解できた。

 

 

「ア゛ァ゛ア゛ア゛ア゛て゛め゛ぇ゛え゛え゛え゛!!!」

「お菓子の家事件、これにて解決ですね」

 

 

 掴みかかって来る闇の者の手をかわし、振り向きながらの肘うちを叩き込む。しかし、膨れ上がった脂肪が打撃を吸収し、そのほとんどを散らしてしまった。

 

 

 数歩後退った闇の者は顔を上げ、にたりと脂ぎった笑みを浮かべた。

 

 

 こいつの異能は『掘削』。触れたものを全て削り取っちまう異能だが、使い方が下手くそだから口の周りにしか展開できない。

 

 

 しかし膨れ上がった巨体は一度捕まれたら脱出は困難で、闇によって強化された力は一度捕まれたら最後、脱出しようと藻掻いている間にバクッと一口でやられちまう訳だ。見れば、ところどころに白い布地が落ちており、何人かの白い者が挑みかかり、そして散っていったことを知らしめていた。

 

 

「お、おぉ? よ、よく見たら貴方、お、オイシソウね……! 柔らかくって、いいお肉……」

「生憎、この体は食用に適していませんよ」

「いただきまぁあああああああああす!!!」

 

 

 飛び掛かってくる闇の者を流し、背中から叩きつけ、首骨を踏み砕きながら、さて次はどいつを攻めるかな、と考えるのであった。

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