影武者転生異常あり!~俺は悪役令嬢の影武者なんだ…誰が何と言おうが影武者なんだ!だから脇役でいさせろや!   作:三流二式

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『焔部隊殲滅』

「コーッホ―ッ! 我が焔部隊の紅殺法を受けて四散する喜びを与えてしんぜようぞ!」

 

 

 狐面型ガスマスクを被った細身の黒い者が、爆弾を括りつけた洗脳兵士や試作型レギオンを走らせ、神風染みた自爆を強要し、辺り一面を爆炎と共に瓦礫の山に変えた。

 

 

「汚物は消毒だァ~!!!」

「ギャンッ」

 

 

 火の異能持ちの狐面をした黒い者が両手から火炎放射さながらの爆炎を放ち、逃げ惑う人々を次々と火だるまへと変えてゆく。

 

 

「「索敵・爆破・排除・索敵・爆破・排除・索敵──―」」

 

 

 洗脳兵士たちが一切抑揚のない無感情な声を輪唱の様に揃え、一糸乱れぬ動きで爆弾を投擲しながら前進する。

 

 

「おーおー、こりゃあまた派手にやるもんだなぁ」

 

 

 爆熱の花が咲き乱れる地獄のような戦場を、まだ破壊されていないビルの上から見下ろしたチワワがのほほんと呟いた。

 

 

「この前に続いて焔部隊か……聖光教から渡されたデータによれば破壊に特化した攻撃的な部隊とあったけど、ありゃどっちかってぇとただの火薬馬鹿だな」

 

 

 ポメラニアンは鼻を鳴らした。

 

 

「確かグレンキュウビってエクスプロシブ社の関係者なんでしたっけ?」

 

 

 後方にいるイミテーションに振り返りながら、シバイヌは聞いた。

 

 

「えぇ、正しくはその前身の花火会社の創設者の血縁ですね」

 

 

 シバイヌの質問に答えながらイミテーションは前に出て、眼下の戦いに目を向ける。

 

 

 教団の戦士たちは方々に散らばり、無差別に爆弾を投げたり、異能を放ったりして滅茶苦茶に暴れ回っていた。到着した聖光教の騎士達や、暗夜、績、軌陸、みみ子、千歳達も各々戦闘を始めているらしく、怒声や悲鳴が風に乗ってこちらまで聞こえてきた。

 

 

((マガツノオロチが消えてなりふり構わなくなったか……厄介な))

 

 

 イミテーションは目を細め、胸中で吐き捨てる。

 

 

 作中で教団がこれほど大規模かつ堂々と破壊活動を行うようになるのは、少なくともグレンキュウビ戦が終了したchapter9からだったはずだ。

 

 

 だが、自分と千歳が生き残り、鳳凰院コーポレーションが多少株価を落とした程度でいまだ健在で、本来行き渡る筈だった物資や金がそっくりそのままこちら側にある時点で、最早ゲームでの知識が碌に役に立たなくなってきている。

 

 

 本来ならばchapter6でマガツノオロチと初顔合わせをして敗北し、次のchapter7でマガツノオロチを倒しつつ暗夜の中にある〝闇〟が覚醒し、次のchapter8で自宅へと赴いて出生の秘密を知り、グレンキュウビ戦で〝光〟と〝闇〟を扱えるようになるのだ。

 

 

 しかしこの世界ではchapter6の時点でマガツノオロチが滅び、〝闇〟までもが覚醒していた。つまりchapter7をまるまるすっ飛ばしてchapter8へと移行しているのだ。

 

 

 大筋自体は変わらないが、細部の方はまるで別物となっていた。

 

 

((これからはもっと慎重に動かんとなぁ……幸いゲームや設定資料の知識が完全に役に立たなくなっている訳じゃない。それを基に情報を集め、この世界用に情報をその都度更新していかないといけないな……やる事が増えた。はぁ……))

 

 

 イミテーションはうんざりと頭を振るった。心配してきたポメラニアンを制し、丁度通信を寄越してきたトサケンの声に耳を澄ます。

 

 

『おう、聖光教の方からデータが来たぜ。奴さん、いくつかの班に分けて破壊活動させているらしい。各指揮官と雑魚の位置データを送るぞ』

 

 

 トサケンが言うや、スマホに入っている保健所のアプリにマップと敵の位置を知らせる赤マーカーと緑色の友軍マーカーが表示された。

 

 

「んじゃ、あたしらもそろそろ行くか」

 

 

 チワワは情報を確認し、スマホをしまうと柵に手をかけて身を乗り出し、躊躇なく身を投げた。

 

 

「うぃ~っす」

「えい」

 

 

 ポメラニアンとシバイヌもその後に続いた。

 

 

 チワワはごうごうと唸る風の音を聞きながら、ぐんぐん迫る地面を見つめ、衝突する直前に身を捻り、ゴロゴロと転がる事によって衝撃を散らし、何事もなく着地した。

 

 

 ポメラニアンも同様に着地し、シバイヌは衝突のエネルギーを異能の力で限りなく弱めて危うげなく着地した。

 

 

「トサケンはポメラニアンたちヘナビを」

 

 

 いつの間にかチワワ達の前にいたイミテーションが、振り向きもせずに言った。

 

 

『えーえー。ボスの仰せの通りに……無茶すんなよ』

「グレンキュウビがいない以上、それ程大それた事などしませんよ。私は要である闇の者を叩きます。各指揮官や雑魚は貴方方に任せます。散っている騎士やすでに戦っているプードルたちとうまく連携してください」

 

 

 それだけ言うとイミテーションの輪郭が霞み、揺らぎ、消えた。同時に、遥か彼方で空気が爆ぜる音が轟き、付近一帯のガラス窓が粉々に砕け散った。

 

 

 尋常ならざるソニックブームが突風となって吹き抜け、彼女たちの髪をたなびかせた。

 

 

「残像か……」

「声も残していったみたいだな。せっかちな人だぜ」

「私たちもいこっか」

『オーケー、ミッション開始。町に散った教団の勢力を全て撃破しろ』

 

 

 軽口をたたき合い、互いに目配せをすると、犬たちは3方向に散らばり、各々のターゲットへと向かって行った。

 

 

 

 

 ■

 

 

 

 

「たわば!!!」

 

 

 狐マスクを被った闇の者は瞬間的に放たれた32の打撃の衝撃に断末魔の悲鳴を上げた。一瞬遅れて衝撃波が走り、数キロ先の窓ガラスが粉々に砕け散った。

 

 

((ちっ殺せてない!))

 

 

 いくつもの建物をなぎ倒しながら吹き飛ぶ闇の者へ、イミテーションは瞬間的に脱力、力を爆発させて跳躍し、追撃の踵落としを食らわせに行く。

 

 

 しかし、その頭部を踵が破壊するほんの0.01秒以下の一瞬で、闇の者の精神は完全に闇に支配されて自我無き闇の泥と化し、物理的にあり得ない挙動でギリギリの所で頭を横に逸らす事で命を繋いだ。

 

 

「ちっ」

 

 

 イミテーションの踵落としは闇の者の頭部を粉砕することなく、肩を砕き割り、左腕を切断する程度の損害しか与えられなかった。

 

 

「ミャオオーウ!」

 

 

 体中から闇色の血を流しながら奇声を発する闇の泥が残った腕を掲げ、闇の球体を滅茶苦茶にまき散らした。

 

 

 球体が物体に触れた瞬間、ボンッと腹に響く音をたてて炸裂した。

 

 

「おのれ奇怪な!」

 

 

 吐き捨て、脱力、力を籠め、時間を置き去りにする速度で球体を縫うようにかわしながら駆ける。

 

 

「アーオ!」

 

 

 瞬時に眼前に出現したイミテーションを前に、闇の泥は尾てい骨部分から闇で構成された5本の〝尾〟を作り出し、振り回した。

 

 

 一本一本がたやすく音速の壁を突破した恐るべき刺突を、イミテーションは身を捻ってかわす。

 

 

「ナオ―!」

 

 

 狐マスクは今や完全に肉体と同化し、人と狐を中途半端に混ぜた醜悪な頭部から獣染みた叫び上げると、闇の泥は再び爆破球体を周囲にばら撒いた。

 

 

 しかしイミテーションはすでに間合いの外におり、拳銃で淡々と射撃した。出がかりを狙われ、連鎖爆発に巻き込まれた闇の泥が悲鳴を上げて吹き飛び、顔をあげればイミテーションはすでに眼前。

 

 

「消えろ」

「ゴギァ!!」

 

 

 凄まじい威力の蹴りをかろうじて〝尾〟で防いだものの、威力を多少変減んじさせた程度で防ぎきる事は出来ず、顔面を蹴り飛ばされた闇の泥は放物線を描いて吹き飛んで行く。

 

 

「あし、しし……」

 

 

 顔を押さえて呻く闇の泥だが、ぞっとする死の予感に反射的に横へと転がった。一瞬後に頭があった地点に瓦割りの如く振り下ろした拳がめり込んだ。

 

 

「ウシャー!」

 

 

 ネコ科動物の様な唸り声をあげながら〝尾〟を振り回して起き上がる隙を消すと、闇の泥は今度こそ宿敵を爆殺するべく口から爆破の息を吐き出そうとした。

 

 

 しかし、その眼前に、残心したイミテーションが立っていた。

 

 

 残心? 

 

 

 闇の泥は訝った。

 

 

「これ、一度言ってみたかったんですよね」

 

 

 イミテーションはにこやかに微笑みかけた。

 

 

「お前はもう死んでいる。なぁんて」

 

 

 意味が分からず、闇の泥は首を傾げた。その拍子に首がずれ、ぽろりと落ちた。

 

 

「あべし!!」

 

 

 切断された闇の泥の首が断末魔の悲鳴を上げると同時に、残った腕が、胴体が、足が同時にずれ落ちた。

 

 

「同志ィイイイイイ!!!」

 

 

 闇の泥の絶命と共に、建物の壁を突き破りながら、巨大な狐が姿を現した。

 

 

「ぬんっ」

「へげえっ!」

 

 

 闇の者の飛び掛かりをかわすと同時に、イミテーションはその横っ面に回し蹴りを叩き込んだ。

 

 

 イミテーションは悲鳴を上げて地面を転がる闇の者を視界に捉えながら、こんなのが後何度も続くのかと、心底辟易した。

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