影武者転生異常あり!~俺は悪役令嬢の影武者なんだ…誰が何と言おうが影武者なんだ!だから脇役でいさせろや! 作:三流二式
「シャアアアアア!」
巨大な狐へと変身した闇の者の伸ばした3本の尾を踊るように避け、イミテーションは瞬く間に懐へと入り、右で3、左で3発のストレートパンチを放つ。
「たわっ!?」
悲鳴を上げて浮き上がる体に、間髪入れずにサイドキック。
「ゲフッ!」
血を吐いて吹き飛ぶ闇の者へ飛び掛かろうとしたその時、彼の背後のマンホールが吹き飛び、地下からレギオンが溢れ出した。
「ぬっ」
咄嗟に前方に向けた力の方向を後方へと変え、現れたレギオンに向けて強烈なジャンプパンチで頭部を粉砕破壊。
「ふんっ」
更に拳を振り下ろし頭蓋骨陥没殺。
「はあっ」
4脚レギオンの膝を踏み台にして顔面に向けてシャイニングウィザードを放ち頭部を爆散殺。
「オォッ」
溢れたレギオンの中心に着地し、両手の指を折り曲げて鷲の爪を作ると、そのままきりもみ回転。
時間にして0.1秒以下。驚異的な殲滅の速度である。しかし、圧倒的な強者同士の戦いにおいて0.1秒とはあまりにも大きな隙だった。
「シャアアよくも同志を殺したな! この火薬以下の屑肉めがー!!!」
イミテーションがレギオンにかまけている隙に体勢を立て直した巨大狐の闇の者が血走った目でイミテーションを睨み、大口を開け、闇の球体を次々に放った。
「ちぃ!」
途端に地上は花火会場さながらの爆音に埋め尽くされた。コンクリートが、対異能コーティングが為された建物が積み木玩具のように崩され、瓦礫が紙吹雪さながらに舞い上がる。
その瓦礫を、八艘跳び染みて蹴り渡りながら闇の球体をかわし、瞬間移動の如き速度で闇の者の眼前に出現したイミテーションは勢いを緩めぬままとび回し蹴りを放ち、もう一度その横っ面を蹴り飛ばそうと試みる。
「フシーッ同じ手を食うと思うてかー!!!」
しかし、闇の者とて馬鹿ではない。あの0.1秒の隙に体勢を立て直すだけでなく、防御手段すらも用意していたのだ。
「ッ!?」
イミテーションは目を剥いた。自分の蹴りの軌道上に、何十体ものレギオンが跳び上がってきているではないか。
恐らく闇の者はイミテーションがレギオンを倒すのを見て攻撃の兆候を見てからでは間に合わぬと考え、体勢を立て直すのと同時に自らの周囲にレギオンを跳び上がらせていたのだ。
((ふざけた真似をッ!!!))
憤怒の炎が燃え上がり、イミテーションの眼光に黒と白の炎が猛り狂った。
しかし、いかなイミテーションとて放ち終えた技を中断するのは
複数体のレギオンの首を切断し、威力の弱まった蹴りで闇の者の横っ面を蹴って再回転する。ここまではいい。
しかしその次。闇の者の横っ面を6連続逆回し蹴りを叩き込んでいる時、その回転の最中、彼は見た。
切断されたレギオンの体のあちこちに括りつけられていた肉片が脈動し、光を放ち、今まさに炸裂しようとしていた。
((グレンキュウビの肉片!? しま──────))
目も眩むような光が視界一杯を覆い尽くし、次の瞬間尋常ならざる爆音が鳴り響き、しかし音はすぐに消えた。
「がっは……ぐわ……ッ!」
爆心地より数百メートル離れた地点でイミテーションは血を吐き、空を引っかくように手を伸ばし、藻掻いた。
耳鳴りが酷い。視界が霞む。
((
苦しみの中、意識が飛ばぬように気張りながら、ほんの0.001秒前の出来事を懸命に思い出そうとする。
失敗作にできる肉腫かと思われていたものは、その実グレンキュウビの肉片から作られていた生体爆弾であった。グレンキュウビ製の生態爆弾は小さな破片でも建物一つ粉々にする威力がある。
それが複数個寄り集まって一斉に爆発したとなれば、その威力は区画まるまる破壊出来るほどにまでなる。
しかし、どれだけ不意を突かれようがイミテーションからすればあらゆるものは停止しているに等しい。焦りながらも無意識の内に体は脱力しており、力を爆発させて雷鳴歩で離脱を試みたが。
((ッ!? この! 邪魔をするな!))
彼の進行方向を塞ぐように絶妙に配置された何十体ものレギオンに、イミテーションは苛立ちながら鷲の爪でばらばらに引き裂いた。その間にも爆発の衝撃は迫り来る。
再度の脱力。力を爆発させ、今度こそ離脱する。が、離脱する瞬間。ほんの刹那の瞬間に飛来したいくつかの破片が彼の体にめり込み、それによりバランスを崩し、衝撃波にあおられるように吹き飛ばさた。
音よりも早く吹き飛んだ彼の体は嵐の中の木の葉の如く空を飛び、辛うじて姿勢制御が間に合い、どうにか地面への激突は防いだものの、肉体のダメージは甚大であった。
強者同士の戦いは一瞬の判断ミスが死を招く。何より彼は個人で、相手は軍勢である。
数がいるという事は、取れる手段が多いという事。その上相手はいくらでも味方を使い捨てる事が出来るのだ。死を厭わぬのならば、果たしてどれだけの作戦を立てられるのか見当もつかない程膨大なものとなる。
「ぐ……んん……」
イミテーションは咳き込み、血を吐きながら上半身を立てようとして、倒れる。
「ヌ……な、舐めるな……!」
イミテーションはよろよろと立ち上がった。耳鳴りは徐々に治りつつある。次第に音が戻って来る。白黒の光景も色彩を取り戻してきた。
遠くで、地獄のようなきのこ雲が世界樹さながらに屹立している。多種多様な色の街並みは、今や瓦礫のモノクロームと火炎の赤のみとなっていた。
「……」
その事自体にさした感慨はない。自分の家族が住む町でなくて良かったと、安堵するほどであった。
そんな事はどうでも良い。彼の聴覚はこちらに向けて近づいてくるいくつかの足音を捉えていた。
((んなこたぁどうだっていい……))
言い聞かせるように、胸中でもう一度呟く。
やがて、足音の主は再び彼の前にその姿を現した。
「ふひ……フヒヒ……」
ズタズタに引き裂かれ、焼けただれた肉体から泥の様な闇を零しながら、狐の姿をした闇の泥が狂った笑みを浮かべ、べたべたと不自然な歩き方で一歩一歩近寄ってきた。配下の姿はない。あの爆発で、全て焼き払われたか。
しかし、安堵したのも束の間。闇の泥の隣に、黒い何者かが回転ジャンプと共に現れた。
「あ、あはは……いひひ……」
これもまた闇の泥であった。キツネ面と身に纏うプロテクターが肉体と融合し、怖ろしく醜悪な怪物が、これまた正気を感じさせない笑みを浮かべながらイミテーションを凝視した。腹には真一文字の刀傷。そしてその手には血塗られた刃。仲間の死を直感し、腹を切って闇に還ったか。
((冗談きついぜ……))
イミテーションは引きつった笑みを浮かべた。冷汗が額から流れ落ち、形の良い顎を伝い、地面に落ちた。
「「ア゛ァ゛―ッ!」」
2体の闇の泥は奇声を発しながら同時に飛び掛ってきた。
「上等だこの野郎ッ」
イミテーションの眼光が赤熱した! 怪物同士の戦いの火ぶたが、切って落とされた!
■
ずんっという重い衝撃に地下工場が一瞬だけ揺れた。
「あぁ何だ今の揺れは!?」
目を白黒させた暗夜がきょろきょろと首を巡らせる。
「手を止めるな!」
狂ったように迫り来るレギオンを切り捨てながら、振り向きもせずに軌陸が怒鳴りつける。
「ちっ、
ポメラニアンはスコルから飛び出た爪でレギオンを串刺しにし、引っこ抜きながらちらりと頭上を見る。
『イミテーションの戦ってた方だ! 反応から察するに闇の者が何かやったみてぇだ! 俺たちに手出しできることはねぇぞ! 動きが速すぎる! こっちに集中するぞ!』
「言われなくても!」
トサケンの通信を聞いていた績は叫び、最小限に力の出力を絞ると前方に向けて〝光〟を照射した。
前方に壁の如く迫るレギオンたちは、それであらかた消し飛ばされた。生き残った個体が何体かいたが、彼らが攻撃を仕掛ける前にプードルが接近し、流れるように投げ飛ばし、脊椎を破壊して即死させた。
「……おっかねぇな」
「ふんす! バカにしたら暗夜君もこうしちゃうよ!」
「アホやってねぇで次行くぞ!」
「ぐえっ」
プードルの首根っこを掴んだポメラニアンは爪を引っ込ませ、そのまま駈け出した。暗夜たちも後に続く。
レギオンは一体一体は大した脅威ではないが、問題はその数だ。どれだけの数が作られ、どれだけの数が失敗作と断ぜられ、捨てられてきたのかは、この屍の数が無言のうちに知らしめていた。
しかし、ここにいるのは若いが、確かな腕を持つ実力者たちだ。彼らにしてみれば寄り集まった雑兵など、物の数ではない。
あっという間に中枢部へと達した彼らは、その扉の前で仁王立ちする闇の者と対峙した。
「おのれ侵入者め! 我らの花火会場をよくも荒らしてくれたな!」
煌々と輝かせた眼光を暗夜たちへ向け、念力の異能で様々な爆弾を浮き上がらせた。
だが、暗夜たちの後方の闇より光が閃いたかと思えば、一筋の光線が爆弾を貫き、一斉に連鎖爆発を引き起こした。
「あわびゅ!?」
「なんだぁ!?」
爆炎から転がり出て悶絶する闇の者へ注意を向けながら、暗夜は後方を振り返った。
「ふん、あんたらが掃除してくれたから楽にこれたわ」
「「萌!?」」
ポメラニアン以外の全員が予想外の来訪者に目を見張った。
「何? 私がいちゃダメ?」
レトリバーは腰に手を当て、ふてぶてしくふんぞり返った。背中のタコちゃんマークⅨが誇らし気にゆらゆら揺れた。
「言い争いはあとにしろガキ!」
「するわけないでしょ。あんたたちと一緒にしないで」
「おいどういう意味だ!」
「後にしろと言われたでしょう!」
「後ですんのかよ?」
「いやしないよ! それより前見て前!」
プードルに言われ前を向くと、怒り心頭の闇の者が先ほど以上に爆弾を宙に浮かせ、今まさに放とうとしていたところであった。
「カーッ四散して我らが神の贄になれーっ!」
「績!」
「えぇ合わせて!」
散弾のように放たれた爆弾の礫は、しかし暗夜と績が放った光の嵐が闇の者もろともを消し飛ばしそれだけに止まらず中枢まで届き、壊し、吹き飛ばした!
途端に鳴り響くレッドアラートの無機質な声に、ポメラニアンが脱出を急かした。トサケンは彼らに脱出までの最短ルートを提示した。
彼らが逃げおおせた瞬間、背後のエクスプロシブ第4廃工場が大爆発を起こした。
「「「「ギャーッ(きゃーっ)!?」」」」
熱風にあおられ、暗夜たちはひっくり返り、顔面をしたたかに打って悶絶した。
「これで打ち止めだ……シバイヌ、チワワ! このまま押し切れ! 連中を一匹も残すな!」
「ふぎゃっ」
顔を押さえて転げまわるプードルを踏みつけながら、ポメラニアンは他の犬たちへと通信を繋ぐ。
『『了解!』』
短くも力強い返事が返ってきた。ポメラニアンは頷き、レトリバーを見る。
「分かってるわよ。こいつらといればいいのね」
「分かってるならいい。ウチも行く。お前らも早く行け」
そう言うや、ポメラニアンは駆けだした。レトリバーもタコちゃんの機械触手で暗夜たちを引き起こしながら、別方向へと駆け出した。暗夜、績、軌陸、プードルも、遅れてその後を追った。