影武者転生異常あり!~俺は悪役令嬢の影武者なんだ…誰が何と言おうが影武者なんだ!だから脇役でいさせろや!   作:三流二式

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『焔部隊殲滅』④

「うふふー!」

 

 

 妖狐は三本の尾を、そして闇で構成されたもう3本の〝尾〟を伸ばし、イミテーションを串刺しにせんとする! 

 

 

 イミテーションは5本をよけ、最後の一本は手を添えていなし、背後に回った闇の泥へと軌道をずらした。

 

 

「あはは~!」

 

 

 闇の泥はにんまりと笑みを浮かべ、さし向けられた〝尾〟を躊躇なく切り刻んだ。

 

 

「うほほ~!」

 

 

 妖狐は気にした素振りも無く微笑み、イミテーションに向けて大口を開けた。

 

 

「ッ!」

 

 

 闇の泥の腹を連続ボディブローで抉っていたイミテーションは危機を察し、瞬間的にその場を跳び離れた。

 

 

「ブシュ―ッ!」

 

 

 一瞬後、イミテーションがいた地点付近は妖狐が吐き出した火薬を含んだ黒いガスが充満し、闇の者もろとも爆発した。

 

 

「あーっはっはっは!」

 

 

 黒煙の中から爆発音すらかき消すほどの狂笑が聞こえた。やがて煙が晴れれば、そこいたのは先ほどよりもさらに人の形からかけ離れた異形であった。

 

 

 損傷した肉体は歪み、捩じれ、膨れ上がった筋肉が皮膚を突き破って露出していた。ひときわ目を引くのが爆ぜ跳んだ拍子に吹き飛んだ伽藍洞の背面部より生えた真っ黒い狐の上半身だ。

 

 

「ギ……ギ……」

 

 

 狐の頭が呻き声を発し、レーザーポインターの様な細く小さい赤い目をぎょろぎょろ向け、やがてイミテーションへと焦点を当てた。

 

 

「くっそ……がっ!」

 

 

 その間も間断なく放たれる妖狐の攻撃を流し、弾き、かわし、合間合間に打撃を差し込んでいたイミテーションは、背中に突き刺さる2つの視線をひしひしと感じていた。

 

 

((おのれッ!))

 

 

 尾を流し、体勢を崩したところに肘打ちを叩き込みながらイミテーションは歯噛みする。止めを刺すにはまだ遠く、何より両者ともに相方がいるのをお構いなしに攻撃してくるため、どうしても後一歩のところで引かざるを得ない。

 

 

 必然的に攻撃してきた方に注意が向くため、その間に片方は急速回復し、戦線に戻るころにはすっかり元気満タンになっていた。

 

 

 イミテーションは一対一ならばほぼ無敵に近い速度を誇る。しかし、そんな彼にも明確な弱点と言えるものが存在する。というよりも、少し考えればわかる程には弱点と呼べる点が多い。

 

 

 まず彼には大規模な破壊手段がない。必然的に集団戦は苦手であり、何より耐久力は多少人間より硬い程度で、打たれ弱い。超自然のバリアも彼の魂の力が小さいために存在しないし、彼の異能は直接的な破壊力を有していない。コピーしている異能も基本的にストックしている物のみで、加速、探知、強弱、破壊の4つだけ。その異能も破壊力を有しているものは破壊の異能のみだ。更に魂の力が小さい関係上大した出力を出せないので、異能や〝光〟と〝闇〟を使用するのはインパクトの瞬間や止めを刺す瞬間でしか使用できない。

 

 

 瞬間的ならば光の速度に限りなく近づき、ありとあらゆるものに致命打を与えられるのだが、問題はあまりにも一撃が瞬間的すぎることだ。大きすぎる力を持ち、尚且つ再生能力が高い者が相手だと、ギリギリの所で殺しきれない。言うなれば決定打にかけるのだ。

 

 

 これが彼が最上位層に一歩届かない理由で、格下相手にも苦戦する理由である。

 

 

 それでもなお彼が悪魔と呼ばれ恐れられているのは、彼が唯一誇れる速度に外ならない。

 

 

 この地上において、彼以上に速い生物は存在しない。異能を使えばあるいは上回れるかもしれないが、異能無しなら彼はこの地上でてっぺんだ。

 

 

 この世は異能ありで全てが成り立っている。そんな中で、全く異能の助けを借りずに雷と同等の速度で動き回り、侵入し、引っ掻き回す生物の存在を、この社会は想定していなかった。

 

 

 彼が最も得意な事は戦闘ではなく、実のところ攪乱、破壊工作、暗殺なのである。正面切っての戦いは、本来ならばあり得ない事なのだ。

 

 

 しかし、この世では自分の土俵で戦い続けられることはまず無い。故に、彼は磨き抜いた。汚泥を啜り、恥を被り、涙すら枯れ果てる程に己の腕を磨き抜いた。どんな状況でも戦い抜けるように。

 

 

 彼は異能の力、超自然の〝闇〟や〝光〟、それどころか自分自身の肉体すらも信じてはいない。

 

 

 だからこそ彼はあらゆる手段を投じる。その使用に優劣は無く、彼にとって超自然の力だろうが異能だろうが量産品の拳銃だろうが自分の肉体だろうが等しく横並びである。

 

 

 目的に応じて使用するものを選び、不利と見るや躊躇なく手放し、捨て去り、別の手段に切り替える。

 

 

 どんな手段を使ってでも対象を排除する。あらゆる汚い手を使ってでも目標を達成する。

 

 

 狂った社会は、遂に正真正銘の狂った怪物を作り出してしまったのだ。

 

 

 怪物は意思を持つ。決して揺らがぬ芯を己の胸の真ん中に突き立てて、ただ目標を遂行するためだけに直進する。怪物の歩みに躊躇いは無い。狂った運命を前に、怪物は真正面から戦いを挑んだのだ! 

 

 

 悪魔の眼光が赤熱した! 応えるようにその両腕に黒炎と白炎が燃え滾った! ミシリと肉体が脈動した。それは肉体の枷が、また一つ外れた音であった。

 

 

「うひー!」

 

 

 妖狐が前足を振り下ろし、イミテーションを叩き潰しにかかる。

 

 

「「アギャーッ!」」

 

 

 闇の泥とその背面の〝狐〟の怒涛の斬撃を全て流し、弾き切り、12の打撃をほぼ同時に当てて吹き飛ばし、振り向きもせずに雷の速度でほんの少し横にずれた。悪魔の数ミリ先を死の鉄槌が過ぎ去り、地面を砕いた。

 

 

「うえ?」

 

 

 手ごたえがなく目を白黒させる妖狐へ、間髪入れずにイミテーションはバックキックを放った! 

 

 

「うふーっ!?」

 

 

 鼻面に痛烈な打撃を受けた妖狐はひっくり返り、鼻を押さえて悶絶した。

 

 

「「あハはー!」」

 

 

 衝撃から復帰した闇の泥が隙を補うように背面の狐と共に飛び掛かってきた。目を爛々と輝かせた2つの視線を、イミテーションは真っ向から受けて立つ。

 

 

 瞬間、両者の情景は消し飛び、世界にはイミテーションと闇の泥、ただ二人だけがあった。

 

 

 喧騒は遠い彼方。互いの息遣いすらも、今は聞こえない。

 

 

 闇の泥は動かない。動けない。これは、そう、言うなれば走馬灯である。脳内にアドレナリンが溢れ出し、主観の時間を鈍化させ、己に迫る命の危機を脱する手段を算出する、そんな時間だ。

 

 

 危機? 

 

 

 闇の泥は訝しむ。一体危機なぞ何処にあるというのか? 

 

 

 答えは目の前にあった。

 

 

 静止した時の中を、悪魔の腕がゆっくりと、だが確かに動いた。悪魔は腕を弓の如く引き、指を合わせ、鷲の嘴を形作った。先端に黒炎と白炎が二重螺旋のごとく巻き付いた。

 

 

「「──────」」

 

 

 鷲の嘴は、いつの間にか目前へと迫っていた。闇の泥は動かない。動けない。彼は未だ物理法則に囚われたままだ。()()()()()()()。全てを覆すには、何もかもが―――。

 

 

 嘴が闇の泥のかつては頭部だった部分に触れた。その瞬間時間が雪崩を打って虚空へと流入し、世界の全てが元に戻った。

 

 

「「アーッ!」」

 

 

 闇の泥は〝狐〟もろとも爆散して四散した。

 

 

「うフーッ!?」

 

 

 復帰した妖狐は顔面に闇の泥の体液をもろに浴びた。反射的に頭を振り、かかったものを払うが、悪魔はその隙を決して見逃さなかった。

 

 

「ウラ?」

 

 

 顔を正面に向けると、誰もいない。頭上に影が出来る。妖狐は敵の意図を察し、慌てて顔を上げる。

 

 

 赤熱する悪魔の眼光と目が合う。悪魔は拳を固く握る。妖狐は目を見開き―――。

 

 

 

 

 ■

 

 

 

 

「急げ急げ!」

 

 

 暗夜を先頭に、勇者一行は戦地さながらの街並みを視界に収めながら疾走する。彼らの視界の先、尋常ならざるきのこ雲がある。そこが彼らの目的地だ。

 

 

 レギオン生産工場は破壊され、残るは町に蔓延る教団の残存勢力の掃討であった。それも、各地に散らばる騎士や〝保健所〟、暗夜たちの活躍によって瞬く間に鎮圧された。

 

 

 残るはきのこ雲の根元。ありえない速度で動き回る緑の友軍マーカーと、2つの敵性反応のマーカーのみ。

 

 

「お」

「あ?」

 

 

 その途中でエミリーとそれを追う千歳が、更に別方向からチワワとシバイヌが合流した。

 

 

「何だお前らいたのか」

「当然です。ここまで大規模な物、駆け付けるなという方が無茶な話です」

「おいコラ待て!」

 

 

 追いすがる千歳を無視し、エミリーは軌陸へと肩を竦める。

 

 

『あーすまんお前ら、急いでるとこ申し訳ないが。敵性存在の反応が消えた』

 

 

 トサケンの報告に、誰も何も言わなかった。元より間に合うなどと思ってはいない。交流した時間は短いが、あの男の秘める戦闘能力は十分に察していた。部下の犬たちに至ってはやっぱりな、というような仏頂面である。

 

 

 やがて、彼らは爆心地へとたどり着いた。

 

 

 薙ぎ払われた家屋。倒壊したビル群の瓦礫の山。炭化した物体があちこちに点々としており、おそらくは相当数のレギオンや洗脳兵士たちが巻き込まれたのであろう。

 

 

 そこからやや離れた地点に、その者は立っていた。

 

 

「おや、終わったようですね」

 

 

 事も無げに言うその男は、満身創痍の有様であった。流れる落ちる血は果たして敵のものか己のものか、判別する事すらできないほど全身血まみれであった。

 

 

 片手に歪に歪んだ狐の頭を持っており、その後方には事切れた巨大な狐の胴体が横たわっていた。

 

 

「いやはや、流石ですね」

 

 

 血を滴らせながら歩み寄るイミテーションの歩みは、その傷に反して軽やかであった。

 

 

「お前なぁ……」

「あんたねぇ……」

 

 

 先に反応したのは案の定千歳とレトリバーであった。

 

 

『な、危なっかしいったりゃありゃしないだろ?』

 

 

 モニターに映るイミテーションの有様に、トサケンは暗夜たちへと言葉を投げかける。

 

 

「……だな」

「ですね……」

「うむ」

「むむ……」

 

 

 イミテーションは今やその場にいる〝保健所〟の全員に問い詰められており、困り顔で後退るが、背後に回ったシバイヌにがっしりと抱き抑えられ、捲し立てられる異議申し立てに正面から対峙せざるを得なかった。

 

 

 しかし、どれだけ彼女たちが必死に言葉を伝えても、イミテーションが首を縦に振る事は決してなかった。

 

 

 その様を見て、なんとなくトサケンの言った言葉の意味を理解した暗夜たちは同時にため息を吐いた。

 

 

 彼らは千歳の今までの苦労の一端に触れた気がして、あいつも苦労しているんだなと思い、もう少しだけ優しくしてやろうと固く誓ったのであった。

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