影武者転生異常あり!~俺は悪役令嬢の影武者なんだ…誰が何と言おうが影武者なんだ!だから脇役でいさせろや!   作:三流二式

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『三本槍襲来』

「だからよォ何べん言ったら気が済むんだお前はよォ~」

「無茶すんなよ。そのための俺らだろーが!」

 

 

 かわるがわる捲し立てられる高齢者二人(トサケンとニンゲンドック)の小言を聞き流しながら、今後の予定を再確認する。

 

 

((暗夜が京都旅行を引き当てるまでしばらくは教団の悪だくみやサブイベント(やっかいごと)の消化だな……活発化している焔部隊の火消しに追われそうだが、それはもうしょうがない。犬たちにもその事は伝えてあるし、聖光教も人手が足りないから俺たちの事を無下には出来まい……ゴスペル(あいつ)はどうだか知らんがな))

 

 

 そう結論付け、一人頷く。

 

 

(こいつ……っ!)

(いい加減拳を使う事も考慮せにゃならんか……)

 

 

 考え事がある程度まとまり、ふと気が付けば聞こえていた声が止んでいたので顔を上げると、据わった目をしたニンゲンドックとトサケンが俺を睨みつけていた。

 

 

 意味が分からず小首をかしげていると同様の視線を感じ、横を見る。似たような眼をした犬たちと、心底呆れ顔の暗夜一行、そして凄まじい殺気を漲らせた千歳が立っていた。

 

 

((何だこいつら))

 

 

 じりじり迫り来る犬たちから距離を取る。しかし突如横合いから突撃してきた千歳の頭突きを脇腹に受け、肺の空気が全て抜けた。それを皮切りに犬たちが飛びついてきた。

 

 

「「~~~~~~!」」

 

 

 密着し、一斉に思い思いの事を捲し立ててくるため、俺には誰が何を言っているのかさっぱり解読が出来ない。その上どいつもこいつも大声で喚き立て要る関係上耳が痛くて仕方がない。

 

 

 閃光弾(スタングレネード)が炸裂したかのような耳鳴りに襲われる。勘弁してくれと懇願するが、彼女たちはちっとも聞き入れてくれやしない。

 

 

「このアホ! バカ! お前は私の物なんだから勝手な──────」

 

 

 中でも千歳なんかは体をひっぱたきながらすぐ耳元でがなり立てるので、こいつのが一番きつい。さっさと離れて欲しいが、この様子じゃ後数分は続くだろう事は経験で理解している。

 

 

 呆れ顔をますます深めた暗夜たちと、してやったりといった顔をしたトサケンとニンゲンドックの視線が、酷く鬱陶しかった。

 

 

 

 

 ■

 

 

 

 

 世の中は予測できない事ばっかりだ。普通に青信号を渡っているというのに突っ込んでくる車。何の脈絡もなく現れる通り魔。唐突に襲い掛かるぎっくり腰。

 

 

 とりわけ天気をぴたりと当てるのは困難を極める。天気予報資格を取った奴でさえ完全に予測できるとは言い難く、それより遥かに知識の劣る我々では不可能に近いと断言できる。

 

 

 真っ青な空、雨の気配が無いにもかかわらず唐突に閃く稲妻の轟き。驚き、立ち竦んで棒立ちになり、思わず天を仰ぐ。これを青天の霹靂という。

 

 

 晴天の空に稲妻が走るなど、誰も予想などできやしない。人は自分には何も起きないと無意識の内の思い込んでいるもので、例え事件が起きたとしても、直接的被害が齎されなければ対岸の火事にも劣る些末事に過ぎない。

 

 

 どんな世紀の大ニュースだろうが、当事者でなければ精々が世間話の種にされるだけで、瞬く間に消費される題材の一つに成り下がる。

 

 

 だからこそ、我々は晴天に閃く稲妻の影に必要以上に怯えるのだ。対岸の火事を笑っていた我々が、天を切り裂く稲妻の轟きを耳にした瞬間、部外者ではいられなくなるから。

 

 

 暗夜が三本槍、即ち軌陸の姉に襲撃された事を聞いた時、まさしく俺は対岸の向こうから霹靂をせせら笑う人間の一人だった。

 

 

 高を括っていた。あれは暗夜だけに関連する出来事だと。

 

 

 ゲームでもこのイベントはあった。chapter8の冒頭がまさにそれだった。軌陸に暗夜の事を紹介され、それで軌陸と共に歩むに足る男か試す為に、彼女たちは暗夜を襲撃した。

 

 

 暗夜を試すというだけあって暗夜一人だけを操作して軌陸の姉たちと戦わされるわけなのだが、あくまで力試しのため、そこまで苦戦することなく撃破可能だった。

 

 

 撃破後はそれまでの敵意を収め、自分たちを撃破した暗夜の事を認めた軌陸姉たちは軌陸に激励の言葉を投げかけ、各々鳥へと変身し、どこかへと飛んで行ってしまう。

 

 

 それで彼女たちの本編での出番は終了だ。後日別の依頼で本気の彼女たちと対峙できるのだが、まあそんな話はどうでもいい。

 

 

 重要なのは、霹靂は誰に対しても訪れるという事だ。仮にそいつの隣にいた奴が青空の下で雷に打たれたとして、じゃあそいつが雷に打たれないという保証が、一体どこにあるというのか。

 

 

 その日は嫌に晴れた日だった。青空の下、案の定現れた焔部隊の下っ端が建物の支柱にせかせかC4を括りつけていたので、サクッと鎮圧した。

 

 

 捩じり折った首から手を放し、躯と化した黒い者を無造作に放る。辺りにはキツネ面を被った似たような輩が同じように倒れており、同じ空間に居続けると気が狂いそうになる。

 

 

 連絡はすでに入れてあるからそろそろ来るはずだと考えていると、馴染みの白い者の集団がぞろぞろやって来た。聖光教の暗部の一つ。処理部隊。通称〝サンタクロース〟だ。

 

 

 処理班共は袋を取り出し、せっせと死体をその中へと詰めてゆく。ウチのプードルが提供した収納が付与された袋だ。限界以上にものを詰め込めるから、実際かなり便利だ。もっと提供してくれと言われたものだが、彼女の手作りかつそれなりの労力と時間を有するため、すべて断った。

 

 

「……」

 

 

 処理班のリーダーである光の者に会釈し、俺はその場を離れる。最後に意味深に見つめてきたのだが、その時の俺はさして気にもしなかった。

 

 

 あの感情を表に出す事の無い処理班のリーダーが感情を表に出した時点で何かしらを疑うべきだったが、生憎俺の頭はすでに次の事に移っており、この場の事は過去のものとなっていた。

 

 

 愚か者へ天罰が下ったのだろうか。それとも初めからそう定められていたのだろうか

 

 

 建物から出た瞬間、俺の目の前に光の槍が突き立った。途端に空間が敵意に満ち、四方八方から光の槍が降り注いだ。

 

 

 内心で心底うんざりしながらのろのろと降り注ぐ光の槍を潜り抜け、駆けだす。光の槍は何処までもついて来た。建物の壁を蹴って上へと駆け出そうとすると目の前に光の槍が、それからちょっとでも道が逸れると目の前に槍が降って来た。

 

 

 何というか、どこかへ誘導したいという意図が透けて見えるようだった。苛立ちを隠しながら誘導に導かれ、徐々に人気の無い打ち捨てられた区画へとたどり着いた。

 

 

 誘導はなおも続き、開けた更地でようやく降り注ぐ槍が止んだ。何か爆発でもあったのか、焦げた地面を踏みしめ、それから気配を感じ、天を仰ぐ。

 

 

 空には大きな鶴、雉、白鳥が旋回しながら飛んでおり、片時も俺から目を離す事無く睨みつけているようだった。

 

 

 やがて鳥たちは翼を折りたたんで急降下。俺の横を通り過ぎ、畳んでいた翼を広げて減速し、視界が効かなくなるほどの羽根をまき散らしながら着地した。

 

 

「……」

 

 

 そして、羽根の目くらましが晴れる頃には、俺から10メートル離れた地点に古風な白い鎧を身に着けた3人の戦士が立っていた。

 

 

「悪魔よ、滅ぶべし」

 

 

 白鳥を模したフルフェイスかヘルムらくぐもった声が聞こえた。使命に酔った、熱に浮かされた声。

 

 

「悪魔よ、死すべし」

 

 

 雉を模したフルフェイスヘルムからくぐもった声が聞こえた。使命を全うするという思いを秘めた、決意に満ちた声。

 

 

「悪魔よ、お前はここで消えるべき存在だ。懺悔の意志あらば首を垂れよ。慈悲深く切り落としてやろう」

 

 

 鶴を模したフルフェイスヘルムからくぐもった声が聞こえた。定めた意思の元、己のすることを欠片も疑っていない決断的な声。

 

 

 戦士たちは横に並び、翼を展開した。美しい光を纏った鳥の翼は、まさしく天使の翼である。舞い散る羽根は祝福の抱擁か。

 

 

「ふん」

 

 

 くだらなすぎて思わず鼻を鳴らす。

 

 

「「執行開始」」

 

 

 光の槍を生成し、握り締めながら、戦士たちが切り込んできた。

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