影武者転生異常あり!~俺は悪役令嬢の影武者なんだ…誰が何と言おうが影武者なんだ!だから脇役でいさせろや!   作:三流二式

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『chapter8 いざ京都へ!』

 いきなり襲撃された時はビックリしたが、終わってみれば思いのほか何事も無くて別の意味でビックリした。

 

 

 あの三本槍とかいう変な連中は軌陸の姉であるが、それ以前にアイツらはゴスペルのシンパとして有名だ。

 

 

 ゲームじゃ碌な出番の無かった彼女達だが、現実ではその名を耳にする機会が結構ある。

 

 

 というのも軌陸の姉達、長女鶴子、次女雉花(ちか)、三女(くぐい)は全員が光の者であり、ビジュアル、話題性などなどの観点からメディア露出が多く、要するにこいつらは広告塔の様なものなのだ。

 

 

 更に最近じゃあ軌陸の奴も光の者として目覚ましい活躍を遂げているので、姉妹揃ってインタビューやスカム番組なんかで聖光教の特集が組まれた時に解説役として呼ばれることがある。

 

 

 古今東西何処の企業も表に出すのは面の良い奴と相場が決まっているもので、ゴスペルなんかメディア露出が皆無だし、他のベテランの光の者は癖が強い奴が多い。そんな中でも比較的とっつきやすいこいつらに白羽の矢が立ったわけだ。

 

 

 見てくれもいいし、互い互いがストッパーなりうるから暴走する事も無い。まさにうってつけの人材だったわけだ。

 

 

((しっかし何だってあのガキども俺を襲ってきたんだ?))

 

 

 あの女どもは重度のシスコンで、その上思考はかなり信仰に汚染されているから、元敵対組織に所属していた上に軌陸とも仲良しやってる俺を疎ましく思うのは当然と言えた。

 

 

 だが自分の組織の長である光の神その人が「俺ははじめからこちら側の存在であり、スパイとして長らく教団に潜入していた」と大々的に宣言しているため、あいつらの信仰心から鑑みれば、此度の襲撃は些か疑問に思わざるを得ない。

 

 

((ま、大方ゴスペルの奴に何か吹き込まれたんだろ―な))

 

 

 ゴスペルの思想はかなり、いや教団でもそうそういないレベルで過激だ。

 

 

 悪即斬が基本の潔癖なあいつの事だ。汚点そのものである俺の存在が教団に所属している事に耐えられず、しかし光の神直々に手を出すなと釘を刺されている関係上、自ら手を下す事は出来ない。

 

 

 そんな中自分を慕う3人の、強さも申し分なく、頭の出来も程よく愚かなガキ共の存在を思い出し、何か、まあ妹の近くにあのような悪魔を置いておいていいのか、とか何とか唆し、体よく俺の抹殺、及びその戦闘能力の測定にでも使われたのだろう。

 

 

((俺との戦闘結果はすでにあいつの耳にも届いているはず……幹部相手に生きてた俺にあの3人で殺しきれるとは、流石の奴とて思っちゃいまい。舐め腐った報復は後日するとして、この話はそれでおしまいだ。ただでさえ計画に遅れが出ているのだ。これ以上無意味な事に思考を取られてたまるか))

 

 

 元々使い勝手のいい駒としてしか認識されていない鉄砲玉や兄へのコンプレックスこじらせた兄弟ホモの事なぞ知った事か。

 

 

()()()()()1()()()()()()()()()使()()()()()()()。これ以上の時間を浪費する事などできはしない。俺には時間が無い。

 

 

 俺は今、ゲームでもあった依頼の出現を止めるためにとあるマンションの屋上から下を見下ろしていた。マンションの入り口前でやや肥満体形の中年が何やら苦し気に胸を押さえていた。それを心配したマンションの住民が駆け寄った。

 

 

 しかしおっさんはそれを拒絶し、咳き込み、真っ黒い墨汁の様な〝闇〟を吐き出した。

 

 

 住民が悲鳴を上げて後退る。おっさんは全身から〝闇〟を吹き出しながら、両手を掲げ、黒っぽい氷塊を作り出した。

 

 

 後一分早ければ、先んじて止められたのだろうか? 

 

 

 ビルから飛び降りながら、そんなたらればが脳裏に閃くが、しかしすぐにかき消した。考えたところで詮無きことだし、どうせ予定通りに到着したところで結果は変わらないだろうと確信する。

 

 

((だって俺だし))

 

 

 おっさんの頭を踏み砕き、そのまま体を縦に圧し潰しながら、次の現場に向かって跳躍の準備を始めた。

 

 

 俺には時間が無い。事を終えてから次の現場の事を考えるようでは遅いのだ。

 

 

 脱力、踏み込み、跳ぶ。景色が引き延ばされ、次の現場であるガソリンスタンド前で炎の異能を発動させようとしていた黒い者の頭部に拳を叩きつけて弾き飛ばす。

 

 

 まだまだ忙しい一日は始まったばっかりだ。

 

 

 

 

 ■

 

 

 

 カランカランと音をたてて、抽選機から金色の玉が排出された。

 

 

「大当たり―! スゴイ! 一等の京都旅行行きのチケットヨー! あなたスゴイ運がイイねー!」

「う、うぉおおおお!? マジか!」

「まあ!」

「やったじゃないか!」

 

 

 一等を当てた当の暗夜は現実感が無く目を白黒させ、後ろの軌陸と績の方が大はしゃぎする有様だった。

 

 

「へー3人の旅行券くれるとか、今時の福引は太っ腹だなぁ」

「お?」

 

 

 声のする方へ暗夜が顔を向けると、そこには私服姿のチワワが立っていた。

 

 

「応、大当たりだぜ!」

「ふぅん。いいなー結構いいとこの旅館じゃん? あたしも行きてぇなぁ~」

 

 

 場所は移り、近場のファミレスで注文を待ちながら暗夜たちは駄弁っていた。

 

 

「夏休みの思い出作りにはうってつけだな」

「何より近くには最近できた京都ネオン街がありますからね! 私あそこ行ってみたかったんですよ!」

「ふ~ん……」

 

 

 目を輝かせながら力説する績の熱量に当てられ、チワワもスマホでネオン街について検索し、大雑把にその情報を眺めてゆく。

 

 

「へえぇ~なかなか良さそうじゃん? いい感じにデートスポットって感じじゃん?」

「そうなんです! そうなんですよ!」

「良かったな暗夜! 両手に花が出来るぞ!」

「お、おおうっ」

 

 

 それから4人はネオン街の事、旅館の事で一頻り盛り上がり、頼まれていた料理がやってきたことによって一時は静かになったものの、食事が済めばまたぞろ京都旅行について思いを馳せ、店員に睨まれるまで長々と居座ったのであった。

 

 

「―――ってことがあったんだけど、お前らはどう思うよ?」

 

 

 〝巣〟に戻って事のあらましを語り終えたチワワに、その場の面々は各々口を開いた。

 

 

「へぇ良いな温泉。入りてぇなぁ……肩凝ってしょうがねぇや」

「おばあちゃんみたいなこと言うね」

 

 

 心底羨ましそうな顔をするポメラニアンに、シバイヌが茶化すように口を挟んだ。

 

 

「うるせぇぞシバイヌ!」

「良いなぁ京都。向こうの着物とかトレンドの服とかあったら欲しいなぁ。参考に、したいです!」

 

 

 シバイヌを睨みつけながら殴りつけるポメラニアンから距離を取ったプードルが、こちらも同様に羨ましそうに呟きながら京都へと思いを馳せた。

 

 

「京都ネオン街ねぇ……あんたはどう思う?」

「知るか」

 

 

 レトリバーに話を振られた千歳は、ドーナツをぱくつきながらにべなく言った。

 

 

「ネオン街にゃあ鳳凰院コープも一枚噛んでんじゃなかったっけ? 身内としてどうなんだその感想は?」

「知るか」

 

 

 ニヤ付くポメラニアンを睨みつけながら千歳はドーナツにジャムを塗りたくり、鼻を鳴らしてむしゃむしゃ食った。

 

 

「これで軌陸も一皮剥けてくれればいいのだが……」

 

 

 と、エミリーが難しそうな顔で呟いた。

 

 

「気になりますか? 幼馴染の事が?」

「うわっ」

 

 

 真後ろで声が聞こえ、エミリーは肩を跳ねながら後方を振り返る。よれた上着を肩からずり落とさせたイミテーションがそこにいた。

 

 

「あ、ボス。おかえんなさい」

「えぇただいまポメラニアン。それで、もう一度言いますが、気になりますか、軌陸さんの事?」

「え、えぇ、そうです。確かに気になりますが、流石について行くほど野暮ではありません。その手段もありませんし」

 

 

 残念そうに言うエミリーに、イミテーションは一枚のチケットを取り出した。

 

 

「あなたは運が良い。丁度犬たちに京都でやってもらいたいことがありましてね、宜しればあなたもついて行きませんか? 宿泊先は○○旅館という所です。おや? よく見ればこの旅館は軌陸さんが泊まる旅館と同じですねー。偶然ですねー」

「「……」」

 

 

 しれっととんでもない事を言うイミテーションへ、犬たちのジト目が突き刺さる。イミテーションは悪びれもせずににこにこと笑いかける。

 

 

「丁度聖光教よりいい感じの協力者(鉄砲玉)を調達できたんですよ。彼女達とは話はつけてありますから、貴方たちも向こうで合流してくださいね」

「……話は分かりました。どうせ拒否権は無いんでしょう?」

 

 

 渋面を作ったポメラニアンは深いため息を吐いた。イミテーションは微笑んだ。

 

 

 そういう訳で、急遽決まった京都行の準備のために各々準備を始めたのだった。

 

 

 余談だが、当然その準備にイミテーションは付き合わされることとなり、とてつもなく長いショッピングの時間は地獄であったと、後にイミテーションは語るのであった。

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