影武者転生異常あり!~俺は悪役令嬢の影武者なんだ…誰が何と言おうが影武者なんだ!だから脇役でいさせろや!   作:三流二式

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『三本の矢を折る』

 聖光教は、というよりも光の神は自らの支配を強める形として、様々な宗教の面白い所や都合の良い部分を取り入れる形で取っ掛かりを増やし、それによって広く浅く様々な層の信者を獲得していた。

 

 

 そのため、各支部ごとの装いやそこに所属する信者の恰好や考え方はまるで別物であり、この日本の場合は仏教系の特色が強く部分があった。

 

 

 この部屋も、その一つである。

 

 

『精神の安らぎと熟考の間』

 

 

 この部屋は司祭クラスの信者以上が入出する事を許されるエリアであり、ここで休憩したり、座禅したり、あるいは()()()()()()()を企てたりといった用途で使用される。

 

 

 実際ここに頻繁に訪れるような輩は総じて金にがめつい亡者ばかりで、本来の用途で使用するような信徒はよほどの事がない限りこの部屋をそもそも訪れない。ここに来るくらいならば、人々の奉仕のために奔走してる方が良い、そういう事らしい。

 

 

 この部屋は防音防諜に優れた部屋であり、外界と隔絶された閉鎖空間で己を見つめ直す、それがこの部屋が作られた建前である。

 

 

 実際は企業間の談合に使われたり、信者同士の謀に使われたり、この部屋に訪れたターゲットを秘密裏に葬り去ったりと碌な使い方をされていない。

 

 

 そしてその部屋の一つを使用している者、イミテーションもまた、こそこそとした謀のためにこの部屋を訪れていた。

 

 

((金持ちの考えることはよく分からん))

 

 

 畳14畳の和室で窓は無く、代わりに空調の行き届いた室内は快適であり、熱くも無ければ寒くもない。掛け軸には達筆な字で聖生悪滅と書かれており、その下には盆栽の鉢植えが一つ飾ってあった。

 

 

 大型の冷蔵庫が一つ置いてあり、開けてみれば中には様々な種類の酒が入っていた。

 

 

「酒ねぇ……」

 

 

 一つ一つを手に取り、しげしげと眺めてゆく。

 

 

 法律上、彼は後一年しなければ酒は飲めない。とはいったものの、元より彼は酒をたしなむような人間ではなく、祝い事や友人と居酒屋へ行ったくらいでしか飲まない下戸であり、酒というものに対しての渇望は無い。

 

 

「煩悩を払うための場所で酒とはね。はっ」

 

 

 鼻で笑い、酒を戻して再び座布団の上で胡坐を組む。

 

 

((せせこましい努力でこの部屋を作った割にやる事といえば謀にかまけて修行の一つもせんか……これじゃあ教団のシンパ共と何が違う))

 

 

 とはいえ、その碌でもない連中のせせこましい努力のおかげで、こうして自分もその恩恵にあずかれているのだから皮肉なものである。所詮は同じ穴の狢。何かを言う権利など、自分には無いのだ。

 

 

((つーかおせぇな。何やってんだあの手羽先ども。大人だろうが。いくら嫌いな相手とはいえ時間厳守くらいせんか!))

 

 

『協力者』よりこの部屋の入出許可をもらい、入出してからすでに30分が経過していた。

 

 

 イミテーションは肘をつき、苛立たし気に膝をトントンと指で叩いた。一秒一ナノ秒を争う『時越えの悪魔』にとって待つ時間とは心底無駄な時間であり、それが無意味に浪費されることは命を浪費するに等しい。

 

 

 元より己の命を救うがために命を賭けている身としては、1秒過ぎるごとにやれることが一つ減っていくことと同じなのだ。

 

 

 いい加減こちらから出向いて皮肉の一つでも言ってやろうかと腰を浮かせた直後、戸が叩かれた。

 

 

「……どうぞ」

 

 

 イミテーションは瞬時に頭の中から無駄な思考を消し去り、表情を整えた。彼の入出許可の声を認識した障子戸がひとりでに開いた。そして、やや間を開けてから入ってきた者達の恰好を見て、健太郎は眉間を寄せた。

 

 

「それは、何の冗談です?」

 

 

 いつかどこかで聞いた誰かの声音と、驚くほど似通った声が出た。

 

 

「さ、三本槍。こ、ここに集結しました……」

 

 

 黒い下着姿の鶴子が、顔を真っ赤に染め合がら懸命に顔を逸らさないように努めながら消え入るような声で言った。一歩後ろの雉花も、鵠も同様に下着姿である。雉花は首から下が真っ赤に染まり、鵠に至っては羞恥のあまりに項垂れ、拳をぎゅっと握り閉めてプルプルと震えていた。

 

 

「そうですか。まあいいです」

 

 

 イミテーションは真顔で言った。

 

 

「結構、ならば始めましょうか」

「ッ」

 

 

 三本槍はびくりと身を震わせる。しかし、決心がついたとばかりにきっと表情を引き締め、前を向いた。その様を冷ややかに見つめながら、イミテーションは口を開く。

 

 

「これからあなたたちは京都に行ってもらいます。私個人の情報筋と、聖光教の京都支部より齎された情報ですが」

「え?」

 

 

 鵠は目をしばたかせ、隣の雉花を見た。彼女の顔も困惑に彩られていた。思っていたやって欲しいことと違って凄く真面目な話だぞ、と。

 

 

「京都、そこにネオン街というものがありますね。そこに焔部隊が集まりつつあるといいます」

「あ、あの」

「話の腰を折るな」

「ひっ」

 

 

 いつの間にか目の前に居たイミテーションが奈落の底の様な瞳で鶴子を覗き込んだ。一瞬で意気消沈した鶴子は目の端に涙を浮かべながら無言で首を縦に振った。

 

 

「話を続けます」

「「……」」

 

 

 座布団の上にはすでにイミテーションが胡坐を組んで座っており、何事もなく話を再開した。もはや誰も異を唱える者はおらず、話はつつがなく進んでいく。

 

 

「彼らの目的は裏切り者である鳳凰院コーポレーションが関わっているネオン街の完全破壊です。大きな街です。焔部隊だけでは到底破壊しきれるものではありません。恐らく幹部も出て来ましょう」

「「っ!?」」

 

 

 驚いて目を見張る3羽の鳥へ、イミテーションは続ける。

 

 

「貴方方にはうちのメンバーと一緒に街に潜伏している焔部隊を討伐してほしいのです。そのための費用はこちらで持ちましょう」

「あ、あの。話は分かりましたけど、その」

「なにか? 問題でもありますか?」

「ぴっ」

 

 

 目の前に居たイミテーションに覗き込まれ、言葉に詰まった雉花は陸に打ち上げられた魚のようにパクパクと口を開閉した。

 

 

「なにか、問題でも、ありますか?」

「ち、雉花姉さんが言いたいのは、拠点とかどうするのって話!」

 

 

 固まった雉花に変わり、鵠が彼女の言い分を代弁した。イミテーションはじろりと鵠へと目を向ける。鵠は狼狽えたが、気丈にも睨み返した。イミテーションはつまらなそうに鼻を鳴らした。

 

 

「それならば問題ありません。○○旅館という宿泊施設が、当初のあなた方の拠点となります」

「○○旅館……?」

「確かそこって」

「ッ!? 貴様!」

 

 

 掴みかかってきた鶴子の手を払いのけ、イミテーションは無感情に言った。

 

 

「あなた方に異議申し立てをする権利も、ましてや拒否権もありません。失敗した貴女方にある権利は、私に良い様に使われ、諾々と従う権利のみです」

「ぬぅ……」

 

 

 悔し気に歯噛みする千鶴に、イミテーションは小さく息を吐いた。

 

 

「別に貴女方の事は嫌いではありません。これからそれなりに付き合っていくことになるのです。こういう時くらいは仲良くしましょう」

「「……」」

 

 

 むすっとした千鶴と、未だ再起動しない雉花、それからふくれっ面の鵠を前に、イミテーションはそれまでの冷酷な雰囲気を180度反転させ、猫なで声で優し気な雰囲気で言った。

 

 

「「……」」

「それにしても、ふむ……」

 

 

 誰も声を発しない事を良い事に、イミテーションは目の前の恥知らずな格好の恥知らずな鉄砲玉達をしげしげと眺めた。

 

 

「なかなか愉快な格好をしていますね。一体どういう意図でその恰好でやって来たのか、大変興味がある事ですね?」

「「うっ!」」

 

 

 その一言で彼女たちは自分がどういう恰好でいるのかを思い出し、慌てて自らの体を掻き抱いたり、姉の後ろに隠れたりしてどうに隠そうとした。曲がりなりにも目の前の人物は男だ。異性に素肌を晒した事など皆無の彼女たちにとってこの行為は一種の自暴自棄的な行いであり、それが無意味となれば羞恥も一入である。

 

 

「うーん。貴女たちは何やら重大な覚悟をしてここに来たご様子ですし、その期待に応えないというのも、中々こちらとしても忍びないというもの」

 

 

「い、いい! 要らん! そんな気遣いなど―――」

 

 

 要らない。そう言おうとしたときには、千鶴はイミテーションの腕の中にすっぽりと収まっていた。

 

 

「ッ!?」

「鶴ちゃん!? って! これ!?」

「わあ!? なんで!?」

 

 

 驚愕に目を見開く千鶴。彼女の目の前では、いつの間にか両腕を拘束された妹たちが芋虫めいて転がっていた。

 

 

「ふ~む。いつも無理やりされる形だったので、自分からするのは初めてですね☆」

「や、やめろ! 要らない! そんな事しなくていいから! 妹たちの前でなんて! そんな!」

 

 

 悪魔は微笑んで、蓋をするように千鶴の目を片手で覆った。

 

 

 長谷川千鶴は死んだ。

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