影武者転生異常あり!~俺は悪役令嬢の影武者なんだ…誰が何と言おうが影武者なんだ!だから脇役でいさせろや!   作:三流二式

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『人形と人形と傀儡と』④

 千歳のもとへ来たら何をするかって? 訓練だよ! 

 

 

 今更ながら、俺こと吉田健太郎、またの名をイミテーションの異能は『コピー』だ。ありとあらゆる能力を模倣し、使うことができるのだ! 

 

 

 そんなんチートじゃん! ずるじゃん! と、思うかもしれないが、どっこいこの異能はかなり扱いが難しい。

 

 

 まず模倣する能力をよく観察する必要があるし、コピーする能力をかなり正確に把握していなければコピーできないのだ。しかも習熟度を模倣できるわけじゃないから、コピーしたところでその能力を十全に扱うためには訓練をするほか無い。

 

 

 つまり俺は自分の能力も鍛えなくちゃいけないし、その他コピーする能力の訓練もしなくちゃいけないのだ! 

 

 

 く、クソゲー! クソゲーですよこれ! 

 

 

 でも仕方がない。そのように事は進んでいるし、そのようにすると己で決めたからだ。

 

 

 まあトロコンのためにゲームや攻略本やサイトで何度も相手や味方の異能を確認したから、大体の能力の詳細は頭の中に入っているんだけどね。……どのゲームにも言える事だが、普通に遊ぶ分にはそこまでじゃないけど、トロコンを目指すとなると一気に難易度上がりすぎじゃない? ライトゲーマーにはキツすぎるんですけど! 

 

 

 ようやっと千歳が落ち着きを取り戻したので、さっそく訓練へと取り掛かる。

 

 

 さて訓練の内容だが、難しいことは無い。ひたすら彼女の発射する破壊の力を避けて避けて避けまくるだけの、地獄のシャトルランである! 

 

 

 ふざけるな馬鹿! 

 

 

((ファック、ファック、ファ~ック!!!))

 

 

 訓練用の遮蔽物の無い広大な特別室で、向い来る破壊の力を避けて避けて避けまくる! 

 

 

「あはははは! それそれ~!」

 

 

 さっきまでの暗い雰囲気はどこへやら。サディスティックに笑いながら、千歳は逃げ回るネズミを追いかけ甚振る猫のように執拗な射撃を続けた。

 

 

 ヘビめいてのたうつ破壊の力の束を小跳躍で跳ね続ける事でかわす。地面は彼女の撃ち込みまくった破壊の力でボコボコになり、これに足を取られて撃ち抜かれぬように、俺はただひたすら逃げ惑う。

 

 

 倒れでもしたら、あるいは足を取られてよたつこうものなら、子供特有の何の加減も無い破壊の力をその身に受ける事になるのだ! 

 

 

 あぁ、あの焼けつくような痛み! ぞっとするような喪失感! 何度も受けていたいようなものではない! ていうか断固拒否だ! 

 

 

((アァアアアアアア畜生めぇえええええ!!!))

 

 

 避け、かわし、回避不可能の壁染みた弾幕にコピーした破壊エネルギーを纏った拳を叩きつけて何とかやり過ごし、その隙をついた稲妻めいた速さの破壊球を同様に拳で弾き逸らす! 

 

 

「あたれあたれ~!」

((し……死ぬ……死んでしまう……!))

 

 

 両の手にバスケットボール大の破壊球を浮かべながら無邪気に笑う千歳を前に、俺は冷や汗を流し、頬を引きつらせた。

 

 

 訓練はまだまだ続く。

 

 

((ファック!))

 

 

 俺はひと時目を閉じ、胸中でそっと祈りの言葉を一言述べるのであった。

 

 

 

 

 ■

 

 

 

 

 訓練が終わり、駄々をこねてしがみつく千歳を何とかなだめすかした俺は、とあるあぶれた裏路地で一人歩いていた。

 

 

 教官殿は常日頃から俺を束縛して逃げ道を断とうとしてくるが、365日いつも一緒にいる訳じゃない。彼にだって仕事がある。

 

 

 その上彼は支部を任されている長ではある物の、所詮は無数にある拠点を一つ任されているだけにすぎず、その上そこまで重要な拠点という訳ではないので、組織内での立場は低い。

 

 

 そんな奴の下につけられる部下は闇の力で狂わせて従えた雑兵くらいのもので、しかも数少ない上から与えられた部下も自らの手で葬ってしまったので、俺を監視する目は何とゼロ! 

 

 

 俺が逃げ出せないと高を括っているのもそうだが、いくら何でも警戒心なさすぎではなかろうかと思わんではない。

 

 

 まあいいさ。その詰めの甘さで助かっているのだから、何も言うことは無い。

 

 

 一人得心し、水たまりを避けつつ、人気の無い裏路地を音をたてずに警戒しながらゆっくりと歩く。

 

 

 表通りの喧騒は遠く、進むにつれて闇は濃さを増した。電柱横に体育座りで蹲る浮浪者、夜逃げにより主のいなくなった空き家、シャッターや壁に描かれた夥しい落書き。人気が無いにもかかわらず空気中に散らばる、敵意や猜疑心。死んだ空気。

 

 

 今現在の俺の身なりはいつもの訓練服でも、千歳とお揃いのゴスロリ女児服でもなく、俺がこっそりこしらえた子供用のスーツである。

 

 

 なぜこんな格好で? と疑問に思うだろう。

 

 

 というのも、俺には何もない。力も無い。金も無ければ立場も無いし、後ろ盾も無ければ些事を任せる駒も無い。

 

 

 だから、やれることをやろうと思い立ったわけだ。すなわち野良犬の捕獲(スカウト)である。頭空っぽのヤンキーなり浮浪者なりを言葉巧みに唆し、自分に従順なコマを作り出そうって寸法よ! 

 

 

 完璧すぎる采配に自画自賛しつつ、それらしき輩を物色しているのだが、ダメダメ全然ダメ! 

 

 

 どいつもこいつも見た目に相応な小物ばっかりしかおらず、俺の計画は早くも暗礁に乗り上げていた。

 

 

 街灯にヤンキー座りで煙草を吸ってぼそぼそ話をしている不良2名。不採用。

 

 

 同じ様な身なりの男を炎の異能で脅しつける、麻薬依存と一目でわかる浮浪者のおっさん。不採用。

 

 

 にやけ面で手に持ったナイフやバット、レンガを弄びながら舌なめずりするチンピラ4名と何処から迷い込んだのか分からないパンツスーツのOL女性1名。

 

 

「ムン」

「不採用」

 

 

 腹にボディブローを受けて膝をつき、顔面にショートフックを喰らってひっくり返ったチンピラを蹴り転がしながら、俺は吐き捨てた。

 

 

 短く残心。起き上がる気配なし。

 

 

「はぁ……」

 

 

 ため息を吐きながら構えを解き、背後を振り返る。同様に伸びているチンピラと、緊張に耐えきれずに白目を剥いて失神しているOLが視界に入った。

 

 

 俺は再びため息をつく。

 

 

 時間は浪費してはいられない。今後このような自由時間が確保できるかは分からないのだ。日が経つにつれて自由にできる時間はどんどん減ってきている。1秒たりとも無駄には出来ない。

 

 

 電柱にチンピラ4人をワイヤーで縛り付け、OLのスマホのロックを開けて警察を呼び、それから野良犬探しを再開した。

 

 

 だがどこをさ迷い歩いても、見つけられるのは薄暗がりに相応しい正真正銘の負け犬ばかり。どいつもこいつも野心のやの字も見受けられず、瞳に宿っているのは暗い絶望と野卑な欲求だけ。

 

 

((畜生! 何でだよ! 何でこんなにいないんだよぉおおおお!!!))

 

 

 死にかけた街灯が点滅する十字路のど真ん中で、俺は天を仰いで憤った! 

 

 

 ヤンキー漫画とかならこういう界隈に一匹くらいいるだろ! こう、ハングリー精神にギラついた野良犬とかさァー! 

 

 

 そういうのがさァー、何かデカい不良組織の下っ端の集団にガンつけてさァー、一触即発の空気になったりとかさァー、ドンパチとかしてルはずぢゃん! 

 

 

((全く聞こえないんですけどぉおおおお!!! おかしいでしょぉおおお!!!))

 

 

 俺の憤慨の声は、虚空へと吸い込まれ、響き、しかし誰の耳に入ることなく空しく吹く風の音とともに消えていった。

 

 

「……帰ろう」

 

 

 ひとしきり激情を吐き出し終えると心は凪ぎ、澄んだ思考から冴え渡る様なアイデアがすっと浮かび上がってきた。

 

 

 肩を落とし、ため息を吐き、踵を返した、その時! 

 

 

 微かな足音が聞こえた。俺は反射的にそちらの方向へと顔を向け、片耳に手を当てて目を閉じ、集中する。

 

 

 次第にせわしない足の音が、明瞭に鼓膜に伝わってきた。

 

 

((この感じ、移動している……数は……3人、会話は無し……呼吸の間隔が短い。急いでるな……なんだこいつら、なんかから逃げてンのか?))

 

 

 逃げるチンピラはすでに飽きるほど見た。大方この3人も同様にチンピラなのだろうとあたりをつけた。しかし、顔も見ずに決めつけるのはいかがなものか。

 

 

((丁度帰路にぶつかるな……帰るついでに見てくか))

 

 

 同じ様なチンピラなら捨て置けばいいしね。

 

 

 そういう訳で、俺は手近な街灯に上り、そのまま建物の屋根やら壁やらを蹴ってぴょんぴょん渡り、件の(推定)チンピラの下へと向かった。

 

 

 足音の下へはすぐに追いついた。チンピラたちは膝に手をついて荒げた息を整えていた。

 

 

 奇妙な格好だった。3人ともフード付きの襤褸を頭からかぶり、自らの姿を覆い隠していた。見てくれは道中で見た浮浪者と何ら変わらない。しかし俺は目が離せなかった。

 

 

 息を荒げながら途切れ途切れに聞こえる会話から、この3人はここら一体を仕切っているストリートギャングと小競り合いになり、そして這う這うの体で逃げていたことが分かった。

 

 

 はあはあ言って自分らの人生へ呪いの言葉を吐く3人組を見下ろしている間、俺は奇妙な既視感に襲われていた。

 

 

 この既視感には覚えがあった。それは千歳と初めて会った時に感じたものとまるで同じものであった。ただ記憶にある中で、あんなキャラは本編には出てこなかった。しかし記憶の何かにかすった。その何かが分からない。

 

 

 あとちょっとで思い出せそうなのに、そのあとちょっとがどうしても結びつかず、もどかしさに苛立ちを覚えていると、眼下の3人がおもむろにフードを下げた。

 

 

「くそ、やっと撒いたか!?」

 

 

 茶髪セミロンのヤンキー面の少女が口の端から垂れたよだれを払いながら吐き捨てる様に言った。

 

 

「知らねーよ……たく、何でウチらがこんな目に合わなくちゃいけねーんだよ」

 

 

 黒髪のショートヘアの目つきの悪い少女が舌打ちした。

 

 

「もう……限界……」

 

 

 3人の中では一際デカい金髪長髪の少女が、その図体と反比例の小さな声で自らの限界を訴えていた。

 

 

 そして、3人の顔が露になった瞬間に、俺の中の既視感が記憶と結びつき、脳裏にあるキャラクターの存在が電撃的に閃いた。

 

 

 通りで分からないはずだ。俺が知っているそのキャラは()()()()()()()()()()()辿()()()()()()()()()()

 

 

((あーなる程! あいつら『闇の者』か!))

 

 

 俺は膝を打った。

 

 

『闇の者』とは、ゲーム後半から出てくる黒い者の上位互換である。その記念すべき最初の相手である闇の者は三体一組で出てくるのだ。そして戦う時に出てくる体力バーの上についている名前は『闇の者(のっぽ)』、『闇の者(ヤンキー)』『闇の者(インテリ)』である。

 

 

 こいつらは初めに戦う相手だけあってやたらと強い。のっぽが『強弱』の異能で自己バフやこっちにデバフをかけ、インテリが『探知』の異能で仲間のクリティカル率を上げ、ヤンキーが『加速』の異能をかけながら突貫してくるという死ぬほど面倒な連携を取ってくるのだ。

 

 

 あの忌々しい3人組のシルエットと、眼下の3人のシルエットが俺の視界で重なった。

 

 

「……良いね」

 

 

 思わず呟いた。

 

 

 良い。凄く良い。とても素晴らしい! よもやこんな所でかような拾い物ができようとは! 

 

 

 頬が紅潮し、心臓が高鳴った。碌な事が無かった中で、初めて良いと思える出来事が起こり、舞い上がる心を抑えきれなかった。

 

 

 俺は手駒が出来て良い! 未来の主人公パーティは強敵が一つ減って良い! 良い事尽くめだ! 悪い面がどこにも見当たらない! しかもスカウトの手間は向こうが勝手に減らしてくれた! 

 

 

「さて、後はシチュエーションだ」

 

 

 微かに、しかし確実に近づいてくる足音に、俺はうきうきした足取りで向かって行った。

 

 

 建物と建物の壁をパルクール競技者のように蹴り渡り、複数の足音の下へと急行する。次第に足音の主が視界に入ってきた。

 

 

 道中で見てきた負け犬と大差ない連中が手に手に角材やバット、あるいは異能で発生させた炎や稲妻を拳に纏わせながら、一心不乱にあの3人組がいる地点へと早歩きで突き進んでいた。

 

 

 足取りに迷いが無く、おそらくあの中に探知系の異能持ちがいるに違いない。

 

 

「あの舐めたガキどもは半殺しの後にファックしてやるぜ!」

 

 

 先頭を突き進む、負け犬共の中でも一際頭の悪そうなモヒカン頭のガキが、部下の犬どもにも聞こえるように口から垂れる血と唾を飛ばしながら大声で喚き立てた。

 

 

「流石っす頭領(ヘッド)!」

「俺あの目つきの悪いガキが良いっす!」

「へへへ、あのガキ共、俺たちに逆らうとどうなるか体にたっぷりと教え込んでやりますよォ~」

 

 

 太鼓持ちの馬鹿どもが賛同して下卑た笑みを浮かべた。笑みは瞬く間にグループ全員へ広がり、全員が全員、手に入る筈もない光景を夢見てよだれを垂らさんばかりに舌なめずりしている。……これならば、何ら遠慮する必要はなさそうだ。

 

 

 俺は建物から降り、彼らの眼前に着地した。

 

 

「おわっ!?」

 

 

 急に現れた俺に面食らって、負け犬の群れは反射的に足を止めた。急な静止で、何人かがずっこけ、あるいは背にぶつかり尻もちをついた。

 

 

「あ? 何だこいつ?」

 

 

 モヒカン頭の野良犬が俺を見るなり顔を顰めた。彼らに事態を把握させる前に、俺は間髪入れずに口を開いた。

 

 

「どうも、さっそくで悪いのですが、あなた方を痛めつけますので、動かないでください」

「は?」

 

 

 俺の言った事を飲み込めなかったモヒカン犬が呆けた声を出す。思考する間は与えない。その横っ面に右フックを繰り出す。

 

 

「ぶえっ!?」

「「頭領(ヘッド)!?」」

 

 

 吹っ飛んで建物の壁に大の字でたたきつけられた犬モヒカン。その後頭部に間髪入れずに左ストレートを打ち込んで意識を奪う。頭がやられ群れに動揺が走った。残り9人。浮足立った集団に、俺は踏み込んだ! 

 

 

「ホブッ!?」

 

 

 踏み込みながらのボディブローで一人気絶! 

 

 

「うぶっ!」

「ギャッ!」

 

 

 下段回し蹴りで足首を狩り、浮いた体にダブルエルボードロップを落として二人気絶! 

 

 

「ギッ!?」

 

 

 肘を落とした反動でそのまま跳躍。呆けた様に棒立ちしている犬の鼻面にドロップキック! 

 

 

「え? え?」

 

 

 真横を吹っ飛んでいく仲間に狼狽する犬っころに接近し顔面を締め上げ、ブルドッキングヘッドロックで後頭部を地面に叩きつけて気絶! 

 

 

「こ、この野郎! ガキ!」

 

 

 残り4! さすがにここまでくれば動揺から脱した者が出始める頃合いだ。一番近くにいた野良犬がその掌に火球を作り出して放ってきた! 

 

 

 が、遅い。教官殿に比べればあまりにも遅すぎる。

 

 

「このテメーコラ!」

 

 

 稲妻を纏った拳を振り上げながら突っ込んで来る犬の拳を落ち着いて避け、避けながら手首を掴み、その勢いをのまま火球に向かって投げ飛ばした! 

 

 

「ギャアアア!」

 

 

 火球は背中に着弾し、地面に落ちた犬は着いた火を消そうとのたうち回った。

 

 

「ああぁ!?」

 

 

 背中からぶすぶすと煙を吹く犬に動揺した犬の顔面に跳び膝蹴りを突き刺す! 

 

 

 残り2! 

 

 

「うぉおおおおおお!!!」

 

 

 破れかぶれに突っ込んできた犬をいなし、投げ飛ばし、背中から地面に叩きつけた! 

 

 

 残り1! 

 

 

「ひいっ!? な、何なんだよ、お前何なんだよ!?」

 

 

 最後の一人は立ち向かう気力すらなく、腰が抜け、尻もちをついたまま後退って絶叫した。

 

 

「あなたがそれを知る必要は無い」

 

 

 つかつかとにじり寄る俺に、犬は少しでも離れようと後退るも後方は壁であり、すぐに背中は壁にぶつかった。犬は愕然とし、絶望に顔面から血の気が引いた。俺は足を振り上げた。

 

 

「ひ、止め」

 

 

 助けを希う野良犬に、俺は前蹴りで応じた。

 

 

「むん」

 

 

 息を吐き、周囲を見回す。起き上がってくる者0。周囲に敵影無し。

 

 

((さて……))

 

 

 聞こえていると良いのだが。構えを解き、耳を澄ませる。そのような心配は無用だった。

 

 

 おっかなびっくりに近づいてくる3つの足音に、俺の口角は自然と上がっていった。

 

 

 50メートル……40……20……10……5……。

 

 

((真後ろ))

 

 

 振り返る。

 

 

 3匹の野良犬が、びくりと震えながら俺を見た。

 

 

「おや、今日はよくよく野良犬に会う日です」

 

 

 その時、空を覆いつくしていた雲が不意に途切れ、月明かりが差し込み、俺たちを照らし出した。

 

 

 俺は畳みかけるように口を開く。まともに考える暇を与えない。自分の主張を押し通す。相手の意見を挟む余地を与えない電撃的な意見の押し付け。これが交渉を上手くいかせる一つの回答である。

 

 

「あなた方に一つ提案があるのですが」

 

 

 言葉を切り、3人の顔を一人一人見てから、それから勿体ぶった口調で口を開く。

 

 

「受けるかどうかは、任せます」

 

 

 3人は無言。ただ俺を呆けたように見つめていた。

 

 

「どうしますか?」

 

 

 手を差し伸べた。犬たちは何も言わず、ただ互いに顔を合わせ、3人だけが汲み取れる無言の会話を交わした。

 

 

 俺は手を伸ばした姿勢のまま待機。急かしたり口を挟むのは寧ろ悪手。圧をかけながら無言で3人を凝視した。

 

 

 どれだけ長いことそうしていただろうか。体感時間では何分も経っていたかのように感じたが、実際にはほんの数秒程度の短い沈黙であった。

 

 

 そして犬たちは互いに頷きあい、こっちに向き直り、同時に膝をつき、同時に頭を下げて、同時に手を伸ばし、同時に俺の手を取ったのであった。

 

 

 雲はすでに月を覆い隠し、裏路地に闇が戻っていた。風の音すら聞こえる程の静寂と闇の中、誰も見ていない事を良い事に、俺は一人ほくそ笑んだ。

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