影武者転生異常あり!~俺は悪役令嬢の影武者なんだ…誰が何と言おうが影武者なんだ!だから脇役でいさせろや!   作:三流二式

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『幕間』⑦

 ①『京都行新幹線 エコノミークラスB-10番席』

 

 

 

 

「お~やっぱはえーぜ新幹線!」

 

 

 高速で流れゆく風景を眺めながら、暗夜は子供のようにはしゃいでいた。

 

 

「暗夜、子供じゃないんですから座席に膝立ちにならないでください。はしたないですよ。軌陸もそう思いますよね?」

「お~見ろ績! スゴイ速いぞ!」

「……」

 

 

 目を輝かせて同意を求めてくる軌陸へ、績は凄まじい渋面を作り、呆れ果て、アホ二人を視界に入れないように努めた。同じ人種の存在だと、一括りにされたくなかったからだ。

 

 

 視線だけだと影がちらつくため、績は完全にそっぽを向いた。丁度その時乗務員が車内販売のカートを押して横にきたので、績は手頃なスナック菓子とペットボトルの茶を買った。

 

 

「あ! 店員さーん! 俺! 俺コーラ!」

「かしこまりました」

「午前ティーのレモンってありますか?」

「かしこまりました」

「……」

 

 

 その気配を敏感に感じ取ったアホ二人は振り返り、柵越しの猿のように手を伸ばして乗務員より手渡された飲料を受け取った。績の渋面はますます深くなり、このままいけば彼女の顔は完全に内側に引っ込んでしまう事だろう。

 

 

「にしても京都か……向こう着いたら何する?」

 

 

 ある程度落ち着きを取り戻した暗夜が績と軌陸にそのような事を聞いた。

 

 

「考えて無かったんですか?」

 

 

 績の渋面がまた更に深くなった。

 

 

「ふ、馬鹿め! 向こうに着いたらすぐにネオン街へ直行だ!」

「あ、そっかぁ……」

 

 

 得意満面に軌陸が言った。暗夜は手を叩いて礼賛した。

 

 

「……念のため聞きますけど、何処へ行く気ですか?」

 

 

 渋面をそのまま、績は恐る恐るといった様子で聞いた。

 

 

「ふ、全ては風の赴くままよ!」

「~~~~~~……」

 

 

 堂々と胸をはる軌陸と呆けた表情で軌陸を見る暗夜に、績は天を仰いだ。

 

 

(あぁなんて事でしょう……)

 

 

 片やノープランのアホ、片や想い人との旅行でうきうきの浮かれポンチのアホ。

 

 

(私が手綱を引かなければ、この二人は間違いなく変な所へ行ってしまう)

 

 

 績はきゃっきゃと無邪気に笑い合う二人を睨みながら、現地での苦労に思いを馳せ、心底辟易した。

 

 

 

 

 ②『京都行新幹線 エコノミークラスD-15番席』

 

 

 

 

「あぁもう。軌陸は何をやっているんですか」

「完全に浮かれてますよあれ」

 

 

 暗夜たちよりやや後方のボックス席で、軌陸の浮かれ具合を目の当たりにしたエミリーは苦言を呈した。みみ子は同意した。

 

 

「別にあれくらい普通でしょ? 部外者のあんたらにどうこう言われる筋合いなんてないはずよ」

「あむあむ」

 

 

 ネイルを直していた萌が手を止め、まるで敵を見るかのように表情を険しくさせ、二人を睨みつけた。千歳は我関せずに駅弁に夢中であった。

 

 

「だからといって何も考えずに来ますか普通?」

「績がいるでしょ」

 

 

 エミリーは目を眇める。萌は表情をますます険しくし、両者は無言で睨み合った。

 

 

「えっとぉ~あんま騒ぐと気付かれちゃいますよ~」

「おい、もっとなんかないのか」

「あ、はいー」

 

 

 遂に殺気を帯びるまでに膨れ上がった両者の敵意に割って入ったみみ子だが、空気を読まずにせっついて来た千歳の催促の圧に負け、戦々恐々でことの成り行きを見守りながらバックへと手を伸ばす。

 

 

「これとかどうでしょうか?」

「ん」

 

 

 みみ子から差し出されたあんパンをひったくると、千歳は空容器を破壊で消し去り、包装を破いてむしゃむしゃ食った。

 

 

「「……」」

 

 

 エミリーと萌はなおも睨み合った。両者の空間がどろりと濁り、いつ破裂するとも分からない危険な均衡が膨れ上がってゆく。

 

 

「や、やばいですって……! ほ、ほら二人とも抑えて……! 他のお客さん凄い顔してるよ……!」

「「……」」

 

 

 あたふたしながら小声で二人に呼び掛けるみみ子へ両者は目だけを向け、睨み、それからエミリーはため息を吐き、萌から顔を逸らした。

 

 

「はんっ」

 

 

 勝ち誇る萌に、エミリーはもう一度顔を向けて睨みつける。萌は不敵な笑みを浮かべたまま、逸らさない。

 

 

「~~~~~~~……」

「あわあわあわ」

 

 

 すわ第2次冷戦勃発か!? というみみ子の思いと裏腹に、エミリーは頭を振るい、それから眼鏡を外してみみ子を見た。

 

「え?」

「ふんっ」

「ぎゃっ!?」

 

 

 エミリーの眼より放たれた怪光線がみみ子を捉え、みみ子は絞められた獣の如き断末魔を発し、痺れて動かなくなった。

 

 

(なんで!?)

 

 

 目で訴えかけるも、エミリーはむすっとした表情を崩さない。みみ子に目もくれずに軌陸たちの様子を見て、またもどかしさにはらはらしていた。

 

 

 萌はその様を見て鼻で笑った。

 

 

「おい、もっと何かないのか?」

(誰か助けて……)

 

 

 包装を破壊で消し去りながら催促してくる千歳に、みみ子は心の中で懇願したのだった。

 

 

 

 

 ③『京都行新幹線 プレミアムクラス3番個室』

 

 

 

 

 この京都行きの新幹線にはエコノミークラス、そしてプレミアムクラスの二つのクラスがある。

 

 

 エコノミークラスはボックス席が採用されており、第2車両から第4車両までが当たる。対してプレミアムクラスは第1車両のみとなっており、限られた者たちしか踏み入る事を許されない。

 

 

 この車両は個室席となっており、快適な空間は乗客に一時の癒しと美味なるコース料理を提供し、最高の空間の元、目的地まで寛ぐのだ。

 

 

「何やってんだあのガキ共」

 

 

 その個室の一つ。3番個室の中で食事の手を止め、耳につけたピアス型の通信機に手を当てながらポメラニアンがぼやいた。

 

 

「良いじゃねぇか。一度きりの旅行だぜ? 少しくらい羽目外したって罰は当たりやしないさ」

「マナーがなってねえってんだよ」

 

 

 黒毛和牛のレアステーキに舌鼓を打ちながらのんきに呟くチワワへ、ポメラニアンはぎろりと睨みつけた。

 

 

「わあこれ凄く美味しい!」

 

 

 ちびりと飲んだワインに目を見開き、大はしゃぎするシバイヌ。

 

 

「お前もなぁ……」

「まあまあ。そう言うポメラニアンだってちょっと浮かれてんじゃん?」

「……ちっ」

「あ、そっぽ向いた。図星なんだ!」

 

 

 今度はシバイヌを睨みつけるポメラニアンだが、シバイヌは堪えた様子もなくくすくす笑いながら食事を続けた。

 

 

「はぁー……」

 

 

 ため息を吐き、ポメラニアンも食事を再開する。

 

 

「しっかし協力者ねぇ」

 

 

 嚥下しながらチワワは呟いた。

 

 

「大方聖光教の誰かだろ? とっつきやすい奴ならいいんだが……まず間違いなくやっかい事の気配がする」

「口先三寸で騙されるような鉄砲玉か。嫌な予感がしねぇな」

「仲良く出来ると良いねぇ~」

 

 

 互いに顔を見合わせて苦い顔をする二人と対照的に、シバイヌはぽやぽやした表情でのんびりと言った。

 

 

「お前は良いな。楽観的でよぉ~」

「対応するのはあたしらなんだぞ。他人事みたいに言ってんじゃねえぞ。こら」

「ふふ。向こうだって教団に好き勝手にされるのは嫌だし、私達の事を悪く言うかもしれないけど、目的は一致してるんだからそこまで悪いようにはされないはずでしょ? だったらそこを落としどころにして、いがみ合いはお終い! みんな仲良し! これで良いじゃない?」

「まあ」

「そりゃ」

 

 

 意外にも考えていたシバイヌの物言いに何も言えなくなったチワワとポメラニアンは口をもご付かせ、結局何も言わず肩を竦めた。

 

 

「じゃあこの話はお終いね。話は変わるけど、作戦が始まる前にネオン街。どこ行きたい? 私ここの甘味処が良いな!」

 

 

 シバイヌは手を叩いて占めると、旅行雑誌を引っ張り出して開き、目を輝かせて指を指した。

 

 

「あーここね。良いんじゃね?」

「だったらあたしは―――」

 

 

 それまでの険悪な雰囲気から一転。3人は年頃の女性相応に姦しく騒ぎながら目的地に思いを馳せたのであった。

 

 

 

 

 ④『〇〇線 京都府○○町行き 第3番車両優先席』

 

 

 

 

「なあ」

「何だ?」

 

 

 ニンゲンドックからの言葉に、新聞から目を離さずにトサケンは返事をした。

 

 

「何で俺らこんなとこにいるんだ?」

「知るか」

 

 

 トサケンはにべもなく言った。

 

 

「ジジイとおっさんの二人旅ってか? 今時流行らんだろそれ」

「知るか」

 

 

 トサケンは新聞をめくりながらにべもなく言った。ニンゲンドックはうんざりと首を振り、腕を組んで押し黙った。

 

 

 景色は流れてゆく。沈黙は流れない。その場に留まり、二人の時間を何十倍にも引き延ばした。

 

 

 年寄りの二人旅。まだまだ先は長い。

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