影武者転生異常あり!~俺は悪役令嬢の影武者なんだ…誰が何と言おうが影武者なんだ!だから脇役でいさせろや!   作:三流二式

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『幕間』⑧

⑤『聖光教日本支部7階 精神の安らぎと熟考の間』

 

 

 

 

 人には様々な嗜好がある。被虐嗜好(マゾヒズム)加虐嗜好(サディズム)。その他言うを憚れるような嗜好がこの世界にはごまんとある。

 

 

 で、人というのは自分の性嗜好がどの程度偏っているかなど知る由もない。

 

 

 かくいう俺も自分がどのような嗜好をしているのかはさっぱり分からない。経験こそあるものの、それは向こうから強制されたもの、あるいは情報を引き出すための手段であったりと、楽しむ暇などありはしない。

 

 

 必然的に快楽からは無縁であり、積み重ねれば積み重ねる程性に対しての忌避感ばかりが募ってゆく。

 

 

 今回の経験は、今までの自分の性の道を見つめ返す良い機会だった。

 

 

 腕の中で跳ねまわるどことの知れぬ誰かの()()を確かめつつ、今まで培ってきた、その上で一切使う機会の無かった技を使いながら、俺は自分自身に問いかけてみる。

 

 

 俺「なあ、一体俺はどういうのが好きなんだ?」

 体「分からねぇか?」

 俺「分からないんだ。いつまでたっても、どれだけの道を往こうとも」

 体「そいつはお前が自分(てめえ)を愛し切れていないからさ」

 俺「愛し切れていない?」

 体「そうさ。愛っつうのは互いを知り得た先に存在する一種のしるし(イコン)みたいなもの。お前がお前を愛する事が出来るならば、いつの日か知る事も出来るだろうぜ」

 

 

 愛した結果相手を知り尽くすのか。知り尽くした結果に愛が生まれるのか。なるほど。そう考えてみると、愛する事と知る事に、違いなんて無いのかもしれない。

 

 

 結局この行為の果てに何かしらの答えが導き出せたわけではないが、行為自体は悪いものではなかったように思える。生まれて初めて性に対して好意的な感情が持てた気がする。そこで図らずも俺は相手に強制させられるよりも自分から仕掛けて弄ぶ方が好きだという事に気が付いた。

 

 

 今までさんざこっちを恨み、憎み、怒りを向けてきた相手が獣のように啼き、蕩けてゆく様を見るのはなかなか面白かった。楽しくは無かったが。

 

 

 乱れた服を整えながら、ちらりと横を見る。横たわる3つの体はピクリとも動かない。壮観な光景であった。この光景を見るために、世の男どもはやりたくもない事をやり、結局その手に掴むことが叶わなかったりする。

 

 

 それが脳天に滴り落ちる雨粒の様に唐突に訪れた俺は、果たして幸運だったのだろうか? 

 

 

 それは分らない。ただ部屋を出る際に一つ伸びをしたときに得も言えぬ清々しさが胸を満たしたので、きっと悪くなかったのだろうな。

 

 

 さて行くかと思い、その時にふと懐に収めた懐中時計を取り出した。

 

 

 時刻は10時を回った所であった。俺は目をしばたいた。あの手羽先どもがやって来てから3時間も経っていた。

 

 

「──────」

 

 

 幸せの残滓は強風で吹き飛ばされ、今やその名残すら残らない。幸福という奴は刹那的に閃く電撃の様なもの。美食を食い終えた後の皿を見た時の空虚感。長時間のセンズリの果てのマスターベーションの後の虚脱感。

 

 

 性嗜好? 自分を愛す? 

 

 

 糞くらえだ。

 

 

 今の俺は『怪人イミテーション』だ。イミテーションはそんな無意味な嗜好にうつつをかまけている場合じゃない。イミテーションの役割は舐めた奴をぶっ殺す事。そして程よく死んだふりをし、吉田健太郎の魂を解放する事だ。

 

 

 部屋を出た先に『協力者』の遣わしたシスターが数名おり、中の『掃除』を頼むと、体を脱力させた。

 

 

 それから踏み込み、力を爆発させた。世界の全てが引き延ばされ、僅かな疲労とともに、俺は煌びやかなネオンが輝く人ごみのど真ん中にいた。

 

 

 京都某所にある行楽街。通称『ネオン街』である。

 

 

 一仕事行く前に懐に入れた手帳を開き、今日の予定を確認してずれを修正してゆく。

 

 

 その間ありとあらゆる角度から視線が突き刺さった。そのどれもが敵意ではなく好奇心や物珍しさといったものばかりで、光の神が直々にカメラの前に立った宣言はこういった面倒な弊害を生んだ。

 

 

 必要な事とはいえ、鬱陶しいことには変わりない。

 

 

 〝保健所〟の存在が世に露になった際の反応はさまざまであったが、今ではおおむね好意的な評価に落ち着いた。それもこれも聖光教の電子部隊が影でプロバガンダをばら撒いたのと、虎の子であるビーハイブが裏で動いたためであるが、まあいい。

 

 

 確認を終え、手帳をしまうと、俺は跳んだ。一際大きなネオンを放つビルを駆け上がり、屋上に立ってネオン輝く街を見下ろす。

 

 

 本番の夜前だというのに、人でごった返す街。その裏では悍ましい悪意が手ぐすね引いて犠牲者を引きずり込まんと待ち構えている。

 

 

 さぁて。仕事開始だ。

 

 

 貪婪の都市へ、俺は跳び込んだ。

 

 

 

 

⑥『○○旅館 103号室』

 

 

 

 

 チェックインを済ませた暗夜たちは荷物を置き、さっそく出かけようとしていた。

 

 

「行くぜ行くぜ行くぜェ~!」

「馬鹿め! 私が先だ!」

「もう! このアホ!」

「「グワーッ!?」」

 

 

 遂に切れた績が先走る二人の脳天に〝光〟を纏った拳骨を落とした。

 

 

「あなた達の今日一日の行動は私が管理します。いいですね?」

「「えー」」

「いいですね?」

「「サーマム!」」

「宜しい。では行きましょうか」

 

 

 きびきびと前を歩く暗夜と軌陸の背を呆れ果てた顔で見つめながら、績は今日何度目かもわからぬため息を吐いた。それから旅行雑誌を開き、マーカーをつけたページをぺらぺらとめくった。

 

 

 その一つ。とある甘味処に力強くマークされた個所があった。

 

 

『数量限り。カップル限定パフェ』

 

 

「~~~~~~……」

 

 

 績は複雑な表情でそれを見やり、前を向く。暗夜に腕を絡ませて楽しげに話す軌陸が映った。

 

 

「……」

 

 

 瞬時に機嫌が底をついた績は足早に暗夜に近づいてその背中をどつくと、無言でもう片方の腕を掻き抱いた。

 

 

「うぇ!? おい績!?」

 

 

 狼狽える暗夜の脇腹を、績はドスドスと殴りつけた。

 

 

「ぬぅ……」

 

 

 績と暗夜のやり取りを見た軌陸はその間にある確かな信頼の強さに静かに歯噛みした。実に気安いやり取りだ。互いに本気で信頼していなければこうは出来まい。

 

 

(負けてられるか!)

 

 

 反抗心を燃やした軌陸は、負けじと反対側の脇腹を殴りつけた。

 

 

「グワーッ!? 軌陸お前もか―ッ!」

 

 

 こうして両腕を抱かれ、両脇腹を殴りつけられるという奇妙な男子高校生が誕生し、多くの人目を引いたのは言うまでもない。暗夜は羞恥の下、ゆっくりとした歩調でネオン街への坂を下っていった。

 

 

 

 

⑦『○○旅館 108号室前』

 

 

「行ったみたいですね」

「そうですね」

 

 

 軌陸たちの背を見つめながら、エミリーとみみ子は呟いた。

 

 

「おい何やってるんだ。早く行くぞ! ネオン街には様々な娯楽、飲食店がひしめいている! とても一日では回り切れん! 効率的に、かつ最短で行かなければ! 歓楽街は店を閉めるのが速いのだ!」

「何あんた? 興味ないとか言ってたくせに随分と詳しいじゃない?」

 

 

 せせら笑う萌を千歳は凄まじく睨みつけ、それからみみ子の頭をぽかりとひっぱたいた。

 

 

「痛い!」

「そう急かさないでください。というか本来の目的は軌陸たちの出歯亀ですからね?」

「ならばこそうかうかしてられんだろ? とっとと動け」

「~~~~~~……」

 

 

 エミリーは眼鏡をはずして眼を揉んだ。

 

 

「何だその反応は」

 

 

 千歳は目を眇めた。

 

 

「いえ、そうですね。行きましょう」

「分かればいいんだ分かれば」

「わあ! 待ってください! そんな堂々と進んじゃバレちゃうよー!」

 

 

 ずんずん進んでいく千歳の背を追ってみみ子も小走りで先を行った。

 

 

「どうすんのよ?」

「まあ、なるようにします」

 

 

 くたびれ切ったエミリーに鼻を鳴らし、萌も歩き出した。エミリーもそれに続いた。

 

 

 

 

⑧『○○旅館 露天風呂』

 

 

 

 

「あぁ~堪らねぇぜ……」

「ジジイそのものの感想だな」

 

 

 肩までつかり、完全に脱力したトサケンに、ニンゲンドックは一言。

 

 

「抜かせ小僧。お前だって随分寛いでるじゃねぇか。えぇ?」

「平日の真昼間からあくせく働いてる奴を目尻に入る風呂は格別だからな」

「いい趣味してるぜ」

 

 

 ニンゲンドックの答えを聞いて、トサケンは唸るように笑った。

 

 

「まあ仕事が始まる前に、精々休もうや」

「違いない」

 

 

 そう言って2人は湯に浮かべた桶からお猪口をとり、グイっとあおった。

 

 

「「うはははは!」」

 

 

 上機嫌の高齢者たち。周囲に人は無く、遠慮の欠片も無い下品な笑い声が、抜けるような青空へと吸い込まれていった。

 

 

 

 

 ⑨『聖光教日本京都支部 訓練場』

 

 

 

 

「〝鉄砲玉〟ね」

 

 

 ポメラニアンは5メートルほど前に立った3人の人物を値踏みすると、無感情に呟いた。

 

 

「へえぇ、随分な有名人じゃん?」

 

 

 チワワはポケットに手を突っ込み、顔を突き出して睨みつけた。

 

 

「わー凄い! 三本槍だ!」

 

 

 シバイヌは有名人との対面に目を輝かせて喜んだ。

 

 

「〝保健所〟……!」

 

 

 一歩前に出たリーダー格の女、千鶴がポメラニアンの凝視を真っ向から受け止めながら、吐き捨てるように言った。

 

 

「なんだこの! やるか!」

「おぉ? 何だこら!」

 

 

 三女鵠はチワワとにらみ合い、すでに一触即発の有様である。

 

 

「むう……」

 

 

 次女雉花は姉と妹、そしてキラキラした視線を送って来るシバイヌを見て、自分はどう動くべきなのか悩み、狼狽えていた。

 

 

「本来ならば我らのような高位騎士が派遣されるなどあり得ぬことだ」

「だろうな。派遣理由はどうせボスに吹っ掛けてボロクソに負けて良い様に使われてんだろ? へっ」

 

 

 合点のいったポメラニアンは鼻で笑った。千鶴は瞬時に激昂した。

 

 

「貴様ぁ!!!」

「おぉやるか? 来いよ! もう一度負けを叩き込んでやるぜ!」

「ほざくな! うぉおお!」

 

 

 鵠が光の槍を生成しながら突っ込んだ。チワワは背中のケルベロスを駆動させながら嬉々としてそれを受けた。

 

 

 金切り声を上げる魔獣の牙が聖なる槍とかち合い、火花を散らす。鍔迫り合いの中、睨み合う両者の眼光もまた火を噴かんばかりだ。

 

 

 ポメラニアンと千鶴も同時に地を蹴った。光の槍と、スコルとハティの爪が何度も交差した。静寂に満ちていた訓練場はたちまち喧騒に満ちた。

 

 

「ど、どうしましょう……?」

「ほっとけばいいんじゃないかな?」

 

 

 おろおろと右往左往する雉花の横に立ったシバイヌは、その肩に手を置きながら朗らかに微笑んだ。

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