影武者転生異常あり!~俺は悪役令嬢の影武者なんだ…誰が何と言おうが影武者なんだ!だから脇役でいさせろや!   作:三流二式

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『開戦前夜 あるいは未知との遭遇』

「ぎゃあっ」

「ぐぇっ」

「なっこいつ何処から!?」

 

 

 拉致してきた人々から苦痛を搾り取る肉人形へと〝加工〟するための秘密施設は、唐突に中枢に現れた侵入者の存在によって大混乱に陥っていた。

 

 

「キエ―ッ!」

 

 

 指示を仰ぐべき絶対上位者である闇の者は侵入者の不意打ちにより闇の泥と化しており、最早意思の疎通が出来なくなって久しい。

 

 

 中枢にいた者は闇の者だったものを入れても数名しかおらず、不意打ちとほぼ同時に殺害は完了していた。

 

 

 侵入者出現から刹那の時間で施設は壊滅した。確かに戦力はまだまだ健在ではあるが、中枢が落とされればこの施設は機能しないも同然である。

 

 

 故にイミテーションは勝負を急いた。うかうかしていれば残存兵力が雪崩を打って入り込んで来てしまう。そうなれば、広範囲攻撃を持たぬイミテーションでは苦戦必須の泥仕合となるであろう。

 

 

 まだまだ掃除は始まったばかり。下らぬことで体力を消費してはいられない。残った雑魚の掃除は、要請した聖光教のエージェントの仕事である。

 

 

「キキ―ッ!」

 

 

 首が半ばまで切り裂かれた巨大なサルが粘ついた〝闇〟を切断面から零しながら、イミテーションを叩き潰すべく飛び掛ってきた。

 

 

「キーッ!」

 

 

 振り下ろされた腕をステップでかわし、早回しの様に加速した反対側の掌握を素早いターンで勢い付けたワンツーパンチで弾き飛ばす。

 

 

「キ?」

 

 

 弾かれて体勢を崩した大猿の眼前に出現したイミテーションは、呆けた顔で凝視する大猿の眼球に腕を突っ込み、その奥の視神経を掴み、ぶちぶちと引きちぎりながら腕を抜き放った。

 

 

「ギギィッ!?」

 

 

 突如として生じた激痛と見えなくなった視界に驚き、ひっくり返ってのたうち回る大猿のが顔面へ、イミテーションは情け容赦のないサッカーボールキックを叩き込んだ。

 

 

「ギエーッ!?」

 

 

 ひっくり返る大猿にすかさずマウントポジションをとったイミテーションは跨り、間髪入れずに殴りつけた。

 

 

「キィーッ!?」

 

 

 黒炎を纏った右拳が顔面に叩き込まれる。苦悶する大猿の顔面に今度は白炎を纏った左拳が振り下ろされた。

 

 

「ギュエッ!?」

 

 

 顔面に残留する闇と左拳に纏った白炎が反発し、パンっと音をたてて対消滅。反動でイミテーションの左拳は弾かれ、大猿の顔面は陥没した。

 

 

 弾かれた反動を利用し、今度は黒炎を纏った右拳が叩き込まれた。対消滅。弾かれて再び左拳。

 

 

 右。左。右。左。右。左…………。

 

 

「ギエッ!? グエッ!? ギュバッ!?」

 

 

 拳が叩きつけられるたびに大猿の頭は陥没し、形が歪になってゆく。

 

 

「ギ、ギギ……キエ―ッ!」

 

 

 ここで大猿は起死回生の一手に打って出た。黒い蒸気を口から出し、束ね、極太の〝闇〟の奔流を吐き出したのだ。

 

 

「キキッ!」

 

 

 視界が効かなくなるほどの膨大な〝闇〟の砲撃。煙によって効果の程は見えはしなかったが、のしかかる感触が消えた事から自らの試みが成功したことを、大猿は疑わなかった。

 

 

「キキ……キャーッ!」

 

 

 ザマをみよ! そのような事を思ったのかもしれない。しかし〝闇〟に完全侵食されたものの思考を読み事は人には不可能だ。

 

 

「キャッキャッ……キ?」

 

 

 ふと、大猿は自分の顔に影が出来ていることに気が付いた。

 

 

 残った瞳で上を見た。革靴の靴底が視界一杯に広がった。それが彼の見た最期の光景であった。

 

 

「ギュッ―――」

 

 

 重力を〝強め〟空気抵抗を〝弱め〟落下速度を〝加速〟させた強烈なストンプが叩き込まれた。殴打の連打により脆くなっていた頭蓋は、その一撃によりあっさりと踏み砕かれた。

 

 

 黝ずんだ脳漿と血が辺りに飛び散りイミテーションの頬にまで飛んだが、付着する寸前に破壊され、蒸発した。

 

 

 それと同時に中枢の入り口が破られ、試作型レギオン、黒い者、洗脳兵士が雪崩を打って入り込んできた。

 

 

「ちっ」

 

 

 イミテーションは振り返って舌打ちし、付き合ってられないとばかりに離脱を試みたが、次の瞬間尋常ならざる〝光〟がアリの巣を侵食する鉛のように空間を埋め尽くした。

 

 

「なっ―――」

 

 

 目を見開き、咄嗟に体に闇と光の二重の膜を張り、腕をクロスしてガードを試みた。直後、膨大な〝光〟がイミテーションを包み込んだ。

 

 

「うん?」

 

 

 思いのほか衝撃は少なく、直ちに防御を解いたイミテーションは〝光〟が巻き起こした惨状に眉根を寄せた。

 

 

 それまで地を埋め尽くさんばかりに広がっていた教団の尖兵たちが綺麗さっぱり消えていた。瞬間的な探知で施設全体を洗ってみたが、敵性存在は()()()()()()完全に消滅していた。

 

 

 一人。残った者。膨大な〝光〟の持ち主が近づいてくる。

 

 

 この反応。白い者や光の者では到底ありえない。これはその先。光の者が完全に光に侵食された末路、『光源』に他ならない。

 

 

 〝光〟は驚くべき勢いで下ってくる。恐らく各階の床をぶち破りながら強引に下りているのだ。振動は徐々に強く、音はどんどん迫って来る。

 

 

 やがて天井が爆ぜ、何者かが目も眩むような光を放ちながら降り立った。

 

 

「……」

 

 

 降り立った者は体を包んでいた6枚の光の翼を広げた。露になった白い鎧は自らの発する光によって神々しく輝き、広がる3対の翼はさながら熾天使そのものか。

 

 

「おやおや、雑魚の殲滅にあなたが派遣されるとは。贅沢な人選です。話では光の者が率いた殲滅部隊が来ると聞いていたのですが?」

 

 

 尋常ならざる殺意を立ち昇らせたゴスペルは無言でイミテーションへと歩み寄り、額が付かんばかりに顔を近づけて睨みつけた。

 

 

「よくもぬけぬけと言えたものだな! 悪魔!」

「はて。何の事やら」

「とぼけるな!!!」

 

 

 空間が撓むほどの大音声。ゴスペルはイミテーションの胸倉を捩じり上げ、激昂した。

 

 

「貴様が保守派の司教共から情報を得ている事は知っているぞ! この街に幹部が入り込んでいる事もな!!」

「……」

「私が何も知らぬと思ったか!? 裏でせせこましい努力をして情報を得る矮小な〝保健所〟と! 我ら壮大勇壮な騎士団とが! 対等だと思ったか。恥知らずな野良犬どもが!」

 

 

 今やゴスペルは直視する事すら困難なほどに発光していた。イミテーションは至近距離で発せられる光に鬱陶し気に目を細め、苛立ちを顔に出さないように細心の注意を払ってこの繊細な男(メンヘラ糞野郎)の癇癪に耐えていた。

 

 

「そうですか。それは、まあ、仕事熱心な事で。私も見習わなくてはなりませんね」

「ッ!!!」

 

 

 当たり障りのない事を言って取り合えず流しておくか、という浅はかな試みは、ゴスペルにさらなる油を注ぐこととなった。

 

 

「貴様ぁ……」

 

 

 ゴスペルの眼光が危険な熱を帯び始めた。

 

 

((やっべこいつマジじゃん))

 

 

 流石にまずいと思ったイミテーションは直ちに場を収めるべく口を回し始めた。

 

 

「なるほど。確かに幹部クラスとなればあなたが派遣されるのもやむなしという訳ですね。しかし私を含め、聖光教のあらゆる隠密部隊が駆けずり回って施設を潰して回っていますが、発見報告は今のところ上がっていません。この街に派遣されたのは()()グレンキュウビです。破壊に特化した彼の目的はこの街の完全破壊です。理由は裏切り者の一人である閣下。鳳凰院敏明様が携わっているからですね。そして間の悪いことに閣下はこの街に視察に来る予定です。まあそれを狙って態々京都くんだりまで足を運んだのでしょうが。ともかく一体いつあの怪物が『爆発』するか分からない以上下手に刺激するわけにはいきません。時間もありません。私にもあなたにも。という事でこの場はお開きにしたいと思いますが。いかがかですかな?」

「……」

 

 

 イミテーションは口を閉じた。浴びせかけた言葉に意味があると思ったのか、それとも早口で捲し立てられたために口を挟めなかったためか。ともかくゴスペルは無言である。

 

 

((頼む。これでどっか行ってくれ……! お願いだから聞き分けてくれ……!))

 

 

 内心でかなり焦っていたイミテーションは祈りにも近い懇願でゴスペルに訴えかけていた。それが通じたのかは分からないが、ともかくゴスペルは荒い息を吐いた。

 

 

 そして、軋み音を発しながらゆっくりと()()()()()()()と、掴んでいた胸倉を放して踵を返し、翼を広げ、頭上に空いた穴へと凄まじい勢いで飛び去って行った。

 

 

「……くそ」

 

 

 空いた穴を睨み、健太郎は吐き捨てた。

 

 

 こんな所で油を売っている場合ではない。時間が遅れている分まだまだやる事は多いのだ。

 

 

 イミテーションは乱れた服を直し、ついた埃を払うと、時間が惜しいとばかりに体を脱力させた。それから力を爆発させ、次の現場へと向かって行くのだった。

 

 

 

 

 ■

 

 

 

 

「いやあ堪能した堪能した……」

「そうだなぁ。また行きたいなぁ」

「何もう終わった雰囲気でいるんですか貴方たちは」

 

 

 暮れなずむ空の下、旅館への帰り道で先行する暗夜と軌陸へ、績はジト目を向けた。

 

 

「まだ二泊三日の一日目ですよ? 始まりも始まり。寧ろ本番は明日からです。その有り様では最終日まで持ちませんよ?」

「勿論分かってるとも! この私がそんな考え無しだとでも?」

「えぇ」

「即答かよ!?」

 

 

 ショックで固まるアホ二人に、績は心底呆れたようにため息を吐いた。旅館へと戻った績はくたびれきった体を引きずって廊下を歩く。暗夜たちも後に続いた。

 

 

「なんだか疲れました。もう早くお風呂入って寝てしまいたい気分です」

「風呂? ……そうか温泉か!」

「俺が一番乗りだぜー!」

「あ!」

 

 

 温泉と聞き、目を輝かせた二人のアホは績を追い越して我先にと走り去った。

 

 

「も~廊下は走ってはいけません~……」

 

 

 最早追いかける気力すら無く、呆れ顔の績は徐々に小さくなってゆく背中に力なく呼びかけるので精一杯であった。

 

 

「「うぉおおおおお!」」

 

 

 当然届きはせず暗夜と軌陸は構わず走り、当然のように曲がり角を曲がってきた小柄な人物と正面衝突した。

 

 

「ぐえっ!?」

「わぶっ!?」

「ぎゃっ!?」

 

 

 衝突した暗夜と小柄な人物、そして暗夜の背にぶつかった軌陸はひっくり返り、互いに呻きながら身を起こした。

 

 

「す、すまねぇ……怪我はねえか?」

「い、いえいえ~大丈夫ですよぉ~」

「うん?」

「え?」

 

 

 両者は目をしばたいた。あまりにも聞き覚えのある声だったからだ。互いに顔を見やり、それから目を見開いて互いを指さし合った。

 

 

「「あっ!」」

 

 

 両者は同時に叫んだ。

 

 

「もう言わんこっちゃない……え?」

「何をやっているんですか貴女は……あ」

 

 

 追いついた績と、ぶつかった相手の連れ、エミリーは互いに見やり、それから目を見開いた。

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