影武者転生異常あり!~俺は悪役令嬢の影武者なんだ…誰が何と言おうが影武者なんだ!だから脇役でいさせろや!   作:三流二式

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『湯煙の白 閃くは紅』

「いやなんでいるんだよ!」

「い、いやこれはその……そう訳! 訳があるんだよ訳が!」

「どういう訳だコラー!」

「あわあわあわ!」

 

 

 廊下のど真ん中で、軌陸と暗夜に詰め寄られたみみ子が半泣きになりながらも弁明するが、当然通じることなく詰められ、首を絞められていた。

 

 

「グワーッ!? グワーッ!?」

「落ち着いてくださいほら落ちついてください長谷川軌陸。もやしが締まっています。真っ青ですよ?」

「お前に諭されたくないんだが!?」

「何だ何だ騒がしいぞ。下らん事やってないで早く風呂に……あん?」

「……こうなると思った」

 

 

 声を荒げる軌陸の背後、績は続々と集まる知った顔の集結に、思わず顔を覆っていた。

 

 

「おー案の定こうなったなぁ」

「知ってた知ってた」

「わあ全員集合☆」

「はぁー……」

「軌陸ちゃんごめんねぇ」

「おい光黒暗夜! 軌陸とどこまで行ったんだ! 洗いざらい喋ってもらうぞ!」

「姉さんうるさいぞ! ていうかなんでいるんだ!」

「おー見ろジジイ。修羅場だぜ」

「若いっていいのぉ~」

「おじいちゃん!? 何で!?」

「―――!」

「―――!」

 

 

 遂には保健所や三本槍までが何故か現れ、光績の堪忍袋はそこで完全に底が抜けた。

 

 

「もう、いい加減にしなさぁ~い!」

「「グワーッ!?」」

 

 

 キレた績は全身を発光させ、文字通り爆発した。吹き飛ばされたロクデナシ共は紙屑のように打ち上げられ、どさどさと音をたてて落ち、芋虫の様に悶えた。

 

 

 

 

 ■

 

 

 

 

「で、どうしているのですか?」

 

 

 ネオン煌く街並みが見下ろせる露天風呂の中、績は目の前のエミリーたちに鋭い視線を投げかけた。

 

 

「出歯亀」

「付き添いです……」

「知らん」

「偶々よ」

 

 

 エミリーたち一行は一名を除き悪びれもせずに言ってのけた。

 

 

「仕事の宿泊先さ」

「右に同じく」

「私も一緒だよ~」

「不本意だが、私達もだ」

「決して軌陸ちゃんの恋路が気になったからって訳じゃないのよ~ホントヨ~」

「軌陸! 暗夜とはどこまで行ったんだ!? ヤッたのか!? ヤッてのけたのかぁ~!?」

「しつこいしうるさい! 何でそんな超プライベートな事を教えないといけないんだ!」

「何だこら! それが姉に対する態度か!」

「~~~~~~……」

 

 

 ばしゃばしゃと水を散らして取っ組み合う長谷川姉妹より飛んでくる飛沫をもろに食らった績は震える腕で顔を拭い、天を仰いだ。

 

 

 空には雲一つなく、月が広大な空間にただ一人ぽつんと佇んでいた。さながら海洋を揺蕩う一頭のはぐれた海獣のようだ。その姿にどこか共感を覚えた績は深いため息を吐き、首を振った。

 

 

「何やってるんだお前」

 

 

 隣に移動してきた千歳が持ち込んだアイスをむしゃむしゃ食いながら、どんよりと項垂れた績をつつきまわした。

 

 

「おーい生きてるかー?」

「止めとけよお嬢。そういう時は放っておいてやるのが優しさってもんだぜ?」

「うるさい! 私に命令するな!」

「吐()ー!」

「うるふぁ()いー!」

 

 

 ポメラニアンの腕を払いのけてぷりぷり怒る千歳の傍ら、軌陸と鵠は互いの頬を引っ張り合いながら未だ言い争っていた。

 

 

「ふん、下らん」

「何すまし顔してやがんだ。このボケ」

「あぁ?」

 

 

 喧騒から離れた位置で湯につかっていた千鶴の下へチワワがガン付けながらやって来た。

 

 

「実際下らんだろう。その判断すらつかないとは、所詮は野良犬の寄せ集めか」

「うるせーぞ! この手羽先野郎!」

「て、手羽、手羽先? 貴様今手羽先といったか?」

「あぁ言ったよ! ほんのちょびっと前の事すら覚えられないのかこの鳥頭が!」

「上等だ貴様!」

「やるかオラ―!」

 

 

 ぼかすかと殴り合うアホ二名と、言い争い合う三女と四女に挟まれたエミリー、みみ子、萌の三人は、混沌そのものな状況に巻き込まれないよう縮こまりながら静観を決め込んでいた。

 

 

「なるようにします、だっけ?」

「……何も言わないでください」

 

 

 にやにやと笑いながら、萌はエミリーの肩に手を置いた。エミリーは顔を覆った。

 

 

「で、デカパイ共め~……」

 

 

 みみ子は湯に浮かぶ様々な()を見つめながら、どうして天は人に一物どころか二物三物をおあたえになるのかと、この格差にむせび泣いた。

 

 

「みんな元気だね~」

「ねー」

 

 

 シバイヌと雉花は我関せずにお喋りを続けた。

 

 

 

 

 ■

 

 

 

 

「三人よりゃあ姦しいとは言うがよ。12人揃えやうるせえったらありゃしねぇな」

 

 

 仕切りの向こう、女子たちの上げる姦しい騒がしさにうんざりと言い、ニンゲンドックは頭を振った。

 

 

「神経質な奴」

 

 

 トサケンはせせら笑った。

 

 

「あんたらがいるって事は、やっぱり教団案件か?」

 

 

 チラチラと柵の向こうへと視線を投げる暗夜は、それをごまかすように真面目な口調でトサケン達へと投げかけた。

 

 

「えぇそうですね。しかし、貴方方が気にするほどの事でもないでしょう」

「っ!?」

 

 

 真横から聞こえた鈴のような声に跳び上がる程に驚いた暗夜は反射的に横を向いた。イミテーションがさも当然のようにそこにいた。

 

 

「バッカお前!?」

「おう来たか」

「相変わらず神出鬼没だな。京都だし、お前妖怪の仲間かなんかじゃねぇの?」

「さあてどうでしょうか」

 

 

 にこにこと微笑むイミテーションは湯につかって血行が良くなったためか、頬を上気させていた。白い肌に差した朱の色はいっとう栄え、濡れた肌は月明かりを反射して艶めかしく輝いていた。噎せ返る様な色気であった。

 

 

 暗夜は思わず顔を逸らした。トサケンとニンゲンドックは顔を見合わせ、それから噴き出し、腹を抱えて笑った。

 

 

「わ、笑ってんじゃねえぞジジイ共!」

「「はっはははは!」」

 

 

 笑いこける二人を怒鳴りつけるが、全く堪えた様子もなく構わず笑い続けた。

 

 

「ふふっ」

「お前も笑ってんじゃねーぞ!」

 

 

 釣られたように笑うイミテーションにも顔を向けて怒鳴りつける暗夜だが、やはり直視は出来なかったか、目が泳いでいた。

 

 

「できればあまり見ないでください。あぁ恥ずかしいとかではなく、私を見るという事は千歳様の裸体を見ることと同じ事ですからね」

「あー、そう言われりゃそうだな」

 

 

 とトサケン。

 

 

「壁だな」

 

 

 と暗夜。

 

 

「でも尻がデカいぜ」

 

 

 ニンゲンドックが締めくくった。

 

 

「うん?」

 

 

 その音に気が付いたのはイミテーションが最初であった。それで察しのついた彼はすすすっと暗夜の背後へと回った。

 

 

「あ?」

 

 

 暗夜が疑問の声を上げた直後、その頭部に降ってきた桶が直撃した。

 

 

「グワーッ!?」

 

 

 ばしゃんと音をたてて湯の中に倒れ込んだ暗夜は痛みでのたうち回った。それでまた高齢者二人は大笑いした。

 

 

「にしてもマジで同じなんだな」

「そうですよ~」

 

 

 一頻り悶絶し、また笑い終えた彼らは改めて話を再開した。

 

 

 慣れたのか、それとも振り切れたのか分からないがイミテーションの体をじろじろと眺めながら、暗夜は恐る恐る手を伸ばした。

 

 

「細えなぁ」

「そうですね。でも最近は安心したためでしょうか? すこし肥えてきてるような気がしないでもありませんが」

「話しながら俺を盾にしようとするのを止めろ! ばれてんだよ!」

「おや残念」

 

 

 暗夜は背後に回ろうとしたイミテーションを牽制し、イミテーションは悪びれもせずにそう言い、降ってきた桶を掴み、そっと縁に置いた。

 

 

「でさ、話は戻るけど、やっぱ教団案件な訳?」

「そうです。が、申し上げました通り暗夜さんたちに手を貸してもらうような案件ではありませんね」

 

 

 嘘である。当然彼は暗夜たちを巻き込むつもりでいたが、あまり警戒させると流れ通りに事が運ばない事を危惧したため、このようにはぐらかす事にしたのだ。

 

 

「ならいいか。績と軌陸はあんまり乗り気じゃないけど、俺は別に気にしてないし」

「つっても俺らだって遊びに来てる訳じゃねぇからな。会う事はあんまねえだろ」

「俺は仕事ができるまでふらふらしてるつもりだがな」

「どうせお前が行くのは居酒屋と風俗店巡りだろ? 医者がそれでどうすんだ」

「芳醇な命の水が体に悪い訳あるか。性の解放は健康に良いんだぞ!」

「何事もほどほどにしろってんだよ。このボケ」

「ふ~ん」

 

 

 他愛のない会話をする暗夜たちを目尻に、イミテーションはネオン街へと視線を移す。

 

 

 煌びやかなネオンは夜となり、今やその真の姿を惜しげもなく曝け出していた。遥か上から見下ろしているにも拘らず、その輝きが衰えることは無い。

 

 

 京都の伝統主義へ真っ向から喧嘩を売る様な、そんな挑戦的な輝きは人の欲望を、挑戦を、悲劇を悲しみを全て孕んでおり、この中に果たしてどれだけの物語があるのだろうか、考えるだけでも億劫になった。

 

 

 そして光が強ければまた、闇も大きくなるものだ。

 

 

 イミテーションは見た。全てを飲み込むような欲望の輝きの中に生じた紅を。刹那の悪意を。

 

 

「……そろそろ出ましょうか。長湯はのぼせてしまいますからね」

「そうだな」

「あーメンドくせ」

「腹減ったなぁ」

 

 

 先んじて立ち上がり、それ続いた男集を引き連れて、イミテーションは脱衣所の方へと向かって行くのだった。

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