影武者転生異常あり!~俺は悪役令嬢の影武者なんだ…誰が何と言おうが影武者なんだ!だから脇役でいさせろや!   作:三流二式

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『インターラプト』

「牛乳は……クソ! キャップ型だ!」

「何だと!? そんな馬鹿な!」

 

 

 水滴を拭きとり、着替えを終えた俺たちは脱衣所の前の自販機横で牛乳を飲みながら駄弁っていた。

 

 

「どっちだっていーじゃねーか。飲めりゃあキャップだろうが紙パックだろうがどうでも良くね?」

「何てこと言うんだこのガキ! 風呂上りっていやあ紙の蓋の牛乳を飲むもんなんだよ! これだから現代っ子は駄目だ!」

「ていうか何でコーヒー牛乳なんだよこの邪道め! 牛乳を飲め牛乳を!」

「うるせー知らねー! 俺は飲みたいものを飲みたい時に飲むんだよー!」

「……」

 

 

 うぎゃーぐわー。

 

 

 取っ組み合って言い争うアホ3匹を目尻に、エイティーンアイスの自販機から買ったソーダフロートアイスを食う。

 

 

 気分はコロッセオを見下ろすローマ市民。許されざる怠惰を貪りながら、取るに足らない連中を漠然と眺めるのは、なるほど。彼らが溺れる訳だ。

 

 

 あまりにも心が安らぐ。無限に眺めていられる。ベンチに座りながら2つ目のアイスを口につけ、何も考えずにボーっとしていると、自分と世界の境界線があやふやになり、意識が解けるように空気に溶けてゆく。このままいけば俺も彼等と同じように怠惰の末に壊死してしまうだろう。

 

 

「おーっす出ましたぁ~」

「何やってんだ爺さんたち」

「あ、アイス!」

 

 

 あと少し声が掛けられるのが遅かったら、俺の意識は完全に世界と同化し、二度と戻ってこれなくなっていたかもしれない。

 

 

「おや、でましたか?」

「いやぁたまの温泉ってのもいいもんすね。魂が潤うって感じです」

 

 

 チワワ達に続き、暖簾をくぐって女子組が続々と集まってきた。それから当然のように牛乳に対してひと悶着あり、我関せずにアイスを買う千歳ともまたもめにもめた。

 

 

 それに端を欲する言い争いは長々と続き、しまいには殴り合いにまで発展する有様であった。

 

 

 うちの犬たちと三本槍の、特にチワワとポメラニアン、千鶴と鵠、こいつらは駄目だ。萌もかなり危うい。

 

 

 意外なのは千歳がそれ程噛みつかなかったことなのだが、よく考えてみれば千歳は誰に対しても噛みついて来るから、案外こんなものなのかもしれない。また新しい発見があった。長らく一緒にやって来たが、分からない事はまだまだたくさんある。

 

 

「で、何でお前がここにいるんだ? お前の事だ。こんな所で油を売っている暇など無いはずだが?」

 

 

 フルーツ牛乳片手にアイスを食いながら、千歳が睨みつけてきた。

 

 

 全くもってその通りだ。俺はこんな事をしている場合じゃない。が、しかし、暗夜たちに教団からの接触の有無と警戒の深度の確認や、犬たちと三本槍を交えたブリーフィングもしたかったという理由もあった。

 

 

 これから否が応でも忙しくなる。その前の最終休憩みたいなのもかねて、一度ここに立ち寄ったのであった。

 

 

「どんな鳥も永遠に羽ばたくことはできません。元気一杯な犬だってずっと走り回れるわけではありません。私だって()()です。休める時に休まなければ、すぐに限界が来てしまいますからね」

「「……」」

 

 

 何だろう。この生暖かい視線は。俺の行動の全てに深い意味があるとでも思っているのか。ある訳が無いだろう。こんな薄っぺらい人間の行動に意味などと。

 

 

 全く嘆かわしい。暗夜たちガキンチョ組はまだいい。三本槍共も、まあいいだろう。だが3犬と高齢者組。お前らは何なんだ。どうしてそこでフォローに回らずガキと同じ目で俺を見る? 

 

 

 千歳だけだぞ。こいつだけが信じがたい馬鹿を見るかのような渋面で俺を睨んでいる。彼女はきっと俺の言った事が嘘ではないと分かっている。千歳ほどじゃないが、お前らも長い付き合いだろう? どうしてそんな事も分からないんだ? 

 

 

 何だか話が非常に拗れる気配がしたので、取り合えず場所を移動する事となった。

 

 

 途中で旅行組と別れたのだが何故か千歳は残り、あまりにも頑なだったから、渋々そのまま連れてくることにした。みみ子と萌は来ない。二人には暗夜たちにつくようにあらかじめ言ってあるからだ。

 

 

 そして導かれるまま俺たちはチワワ達の部屋、ホテルで言うとスイートに当たる松の部屋へと入ってゆく。

 

 

 部屋の間取りは精神の安らぎと熟考の間と似ていたが、段違いに広い。あの部屋と違ってこの部屋には障子戸で遮られた大窓があり、その向こうにはネオン輝く街並みが一望できた。

 

 

「ふん、予約しようとしたら既に埋まっているとかぬかしていたからどんな奴が止まっている思ったら、お前達だったか」

 

 

 眉間に青筋を浮かべて怒る千歳に、チワワは鼻を鳴らした。

 

 

「こういうのは早いもん勝ちだぜガキ」

「最近妙に経費の()()()がいいもんだからな。使える時に使っておかないとな」

 

 

 ポメラニアンはケラケラと笑い、千歳の頭をぐしぐしと撫でた。当然千歳は反発したが、ポメラニアンは慣れたもので飄々とかわしてゆく。

 

 

「良いなぁ~。私達も経費で泊まれるけど、さすがに梅以上はねぇ~」

「んふふ~良いでしょ~?」

 

 

 シバイヌと雉花が姦しくはしゃぎ合った。こうしてみると極々普通の女子二人にしか見えないが、片や秘密結社の構成員。片や聖光教の上級騎士だ。

 

 

 世の中みてくれだけではその者が何者なのか判別がつかない物だが、こいつらの放つ後ろ暗い雰囲気は可憐さでは到底隠しきれるものではない。まともな人間ならばそういう雰囲気を感じ取った瞬間、回れ右して立ち去るものだ。

 

 

「ふんっ金に物を言って贅沢三昧か。泣く子も黙る保健所も、案外大したものでは無いな」

「ずるいぞ!」

「お、嫉妬か?」

「雑魚め」

「「あ?」」

「くわばらくわばら」

「君子危うきに近寄らずとはよくいったもんだぜ」

 

 

 殴り合う鳥と犬を茶をすすって眺めながら、ニンゲンドックとトサケンはしみじみ呟いた。

 

 

「おい! 茶が渋いぞ!」

 

 

 いつの間にか千歳もトサケンの入れた茶を飲みながら茶菓子をぱくついており、その傍らで啜った茶の渋さに文句を垂れた。

 

 

 思い思いに寛ぐ犬と鳥を目尻に、俺はみみ子特製の巾着袋からホワイトボードとプロジェクターを取り出し、せっせとブリーフィングの準備をする。

 

 

「はい、ではカーテンを閉めて電気を消してください」

 

 

 ぱんぱんと手を叩いてそう言えば、訓練された犬たちは直ちに手を止め、掴んでいた鳥を放り出しててきぱきと動いてゆく。

 

 

 そして準備が終われば部屋の真ん中の長机に座布団を引き、すとんと座った。遅れて三本槍も恐る恐るといった感じで座っていく。

 

 

「はい、ではブリーフィングを開始します」

 

 

 宣言し、プロジェクターが投影する映像を切り替えてゆく。そこには鳳凰院社長にねだってもらったこの街の3Dモデルだった。

 

 

「この街は知っての通り、鳳凰院コーポレーションが主導の下とで作られました。そして、その際に教団が暗躍できるように秘密裏に地下施設が作られているのです」

 

 

 キーを操作して赤いマーカーを表示してゆく。

 

 

「多いな……」

 

 

 千鶴が端的に言った。

 

 

「えぇその通り。とても多いです。ですが、場所が分かっているのでしたら対処は容易です」

 

 

 頷き、更にキーを操作する。表示されたマーカーのうち、おおよそ十分の一が消えた。

 

 

「本日私とゴスペル様の協力のもと、その秘密施設への強襲作戦を実行しました」

「今日一日で十分の一っすか。よくやりますよ全く……」

 

 

 呆れ顔のポメラニアンがぼそりと呟く。

 

 

「明日からは騎士団も投入して施設へ攻め入りどんどん施設を潰していき、この街に潜伏しているであろうグレンキュウビを燻し出します」

「それに参加すればいいんですね?」

 

 

 とシバイヌ。

 

 

「私たちはどうすればいい?」

 

 

 鵠が聞いて来た。

 

 

「貴女達はそのまま騎士団と共同して殲滅に当たってください。そしてその都度情報を我々に最優先で届けてください」

「……分かり、ました」

 

 

 苦い顔をした雉花が、渋々といった感じで頷いた。今の上司はこの俺だ。文句なんか言わせない。

 

 

「おう、新しいスーツも出来てるぜ」

 

 

 トサケンが頷き、部屋の端にあるアタッシュケースを目を向けた。

 

 

「俺は騎士団の医療班と合流して怪我人の治療ね。メンドくせ」

 

 

 ぶー垂れたニンゲンドックを、トサケンが小突いた。ニンゲンドックは睨みつけたが、トサケンはどこ吹く風だった。

 

 

「教団の狙いはこの街の破壊。そして視察に来る閣下の命です」

 

 

 映像を切り替え、この町一番の高さを誇るビル。『鳳凰院コーポレーション京都支部ビル』を映す。千歳は露骨に顔を顰めた。

 

 

「閣下がこちらに来るのは今より2日後。教団が本格的に動き出すのは間違いなくそこです。故に我々は」

「余計なお世話だ愚か者め」

 

 

 声のした方向へ全員の顔が向く。

 

 

「……」

 

 

 深い皺の刻まれた顔。深い隈の浮かぶ険しい目つき。鳳凰院敏明が、そこにいた。

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