影武者転生異常あり!~俺は悪役令嬢の影武者なんだ…誰が何と言おうが影武者なんだ!だから脇役でいさせろや! 作:三流二式
『嬢ちゃん敵増援だ! 数は12! うち一つは黒い者だ!』
「つまり雑魚だな!」
「ずわーっ!?」
手榴弾をお手玉の様に投げ、手当たり次第に爆破していた黒い者が顔面にケルベロスを受け、壮絶な断末魔と共に食い破られる傍ら、トサケンから齎された情報にチワワは獰猛に笑った。
『あんまし無茶すんな! 今回は騎士共との共同の作戦なんだ! ヤバかったら騎士共に丸投げしろ!』
「ざけんじゃねえ!」
洗脳兵士たちのアサルトライフルの斉射を潜り抜けながらチワワは怒鳴った。
「いったいどこの世界に仕事を投げ出す犬がいるってんだよ!」
「「……!」」
怒りに燃える魔獣の顎によって、次々と洗脳兵士たちは物言わぬ肉塊と化していく。
当然チワワとて無傷ではない。紙一重でかわし続けたためにスーツに覆われていない箇所は傷だらけだ。
しかし、血を滴らせながらもチワワは笑みを崩さない。
「このチワワ様を舐めんなこら。まだまだヤッテミンゾー!」
『……分かったよこのじゃじゃ馬め。そら来たぞ』
トサケンの忠告通り、黒い者を先頭にぞろぞろと増援がやって来た。
「貴様ぁ保健所! 我ら紅殺法を見るか!?」
「見ねーよ馬鹿!」
構えられた12丁のグレネードランチャーの銃口を向けられてもなおチワワは怯まず、ケルベロスの切っ先を向け、堂々と迎え撃つ構え。主に応えるように、魔獣は火花を散らし、吠えた。
「斉射開始!」
号令と共に放たれた連射式のグレネードランチャーより放たれた榴弾の雨の中、チワワは果敢に突っ込んでいった。
「おりゃ!」
異能を発動させ、直ちに音速の壁を越えたチワワはゆっくりと迫る榴弾、その後方から放たれる衝撃と爆炎を背に受けながら前進した。
爆風に圧され、より一層加速された速度を留めることなくケルベロスを前方に突き出した。
魔獣はよだれを滴らせるように火花をまき散らし、獲物の顔面に食らい付こうと迫る。
「──────ッ!?」
爆風で眩んでいた視界の中、ようやく目前に迫っていたチワワの存在に気が付いた黒い者は得意満面から一転して恐怖に顔をひきつらせた。
しかし、加速したチワワからすれば、あまりにも遅い。
「ぶっ──────」
黒い者は断末魔すら言い終える間もなく顔面を削り取られ、死んだ。
「「殺害重点」」
洗脳兵士たちは指揮官の死に動揺することなくチワワへとグレネードランチャーを向け、諸共が巻き込まれるのすら厭わず引き金を引いた。
11の榴弾が一斉に爆発し、焦げた肉片があちこちに四散した。
「あっぶねぇ!?」
間一髪、加速の度合いを高めたチワワは部屋の隅へと移動し、どうにか爆発から逃れることに成功していた。
それでも完全に逃げ切る事が出来なかった。煤けた匂いに顔を顰め、ぱんぱんと体を払った。
『チワワ! この施設はもう良い! 残党処理班がそっちに向かってる! お前はC地点に急いでくれ! 黒い者が闇の者に変化したみたいで苦戦しているみたいだ! 踏ん張っちゃいるが厳しいとよ! 合流して叩け!』
「おうおう、どこも大忙しだな!」
合点したチワワは異能をかけ直し、加速した速度で焦げた匂いを振り切って、施設の外へと駆け出していった。
■
「侵入者! 侵入者だ! 探せ! まだ近くにいるはずだ!」
「……」
騒がしくなった廊下を走り回る通常兵士たちを見下ろしながら、ポメラニアンはダクトの中を這い進みながら、施設の中枢を目指していた。
施設へと侵入した彼女はまず初めに入り口付近から中間あたりまであえて堂々と大立ち回りを演じ、頃合いを見てレトリバー謹製のスモークグレネードを叩きつけて目をくらませてダクトへと入り込んだ。そのまま、彼女は誰の目にも映らぬまま、敵エネミーを無視して悠々と這い進むのであった。
『おいコラ犬野郎。進行が遅いぞ。予定よりも30秒も遅れが出てる。ちんたらやってんじゃねーぞ』
「うるせーなこの糞アホ。これが現状ベストなんだ。現場の判断にいちいち口を出すんじゃねぇ。このボケ」
急かすニンゲンドックに、ポメラニアンは口汚い返事を返す。
『チッ、ともかくさっさとリーダー格をぶっ殺せ。その様じゃ見つかるのも時間の問題だぞ』
「言われなくても分かってるってんだよ」
施設中枢の換気口の上で血走った目で見下ろしながら、ポメラニアンは押し殺した声で吐き捨てた。
「おのれ! 侵入者はまだ見つからんのか!」
「はっ! 敵は第3エリアにて忽然と姿を消したまま未だ発見に至っておりません!」
「グヌ―ッ!」
怒り狂い、衝動のまま報告をしていた一般兵士を殴り殺した黒い者は、体に巻いたグレネードをじゃらじゃら鳴らしながら地団駄を踏んだ。
それからせわしなく部屋内を歩き回り、丁度ポメラニアンの真下で止まり、思案するように俯いた。
『今だな』
「言わずもがな!」
ポメラニアンは通気口を力任せに叩きつけた。
「ぐわっ!?」
射出された通気口は黒い者の脳天に直撃し、黒い者は軽いショック状態に陥った。
「おらあ!」
「ギッ―――」
眼にもとまらぬ電撃染みた強襲であった。傍にいた一般兵士も洗脳兵士も誰も反応できぬまま、黒い者は落下エネルギーが乗った恐るべき両手鍵爪刺突を脳天に受け、即死した。
「「なっ!?」」
「いきなり、失礼」
鍵爪を引き抜いたポメラニアンはそう言いながら、両手にマシンピストルを持ち、躊躇いなく引き金を引いた。
「ぐわわっ」
「ぐわっほ」
「ぎょあっ」
ぱらぱらぱらぱらぱら。
特徴的な射撃音と共に放たれたレトリバー作の特殊火薬弾頭がばら撒かれ、何が何だかわからぬまま兵士たちを屍へと変えてゆく。
殺戮は瞬く間に終了した。施設の中枢は血の海と化し、立っているのはポメラニアンただ一人のみ。
『雑魚がお前に気が付いたみたいだ。すげえ勢いでそこまで突っ走ってきてる』
「知ってる」
ポメラニアンは平然と返した。彼女の瞳にはターゲットサークルの様な紋様が浮かんでおり、探知の異能により迫り来る脅威を事前に察知していた。
『へーへー探知の異能は便利だな。俺要らねえんじゃね? 休んでいい?』
「下らねーこと言ってねーでさっさと状況を伝えやがれ不摂生野郎!」
『敵、来る、お前、アホ』
「ぶっ殺すぞてめー!」
そうこうしている内に中枢の扉を蹴破って洗脳兵士、通常兵士が雪崩れ込んできた。
「丁度良いや。花火が好きなんだろお前ら。だったらてめえら自身が弾けて見せろ!」
ポメラニアンの手には黒い者が体に巻いていたグレネードの内の一つが握られていた。ポメラニアンは何のためらいもなくグレネードを放った。そしてすぐさま屈み込み、衝撃に備える。
グレネードは放物線を描いて飛んで行き、雪崩れ込む教団の兵士たちのちょうど真ん中、踏みしだかれ、慮られる事の無い黒い者の死体へと落ち、爆ぜた。
「「ぎゃあああ!?」」
ありったけ括りつけられたグレネードが連鎖爆発し、施設全体を揺らすほどの衝撃が放たれた。
「くっ……!」
ポメラニアンは床に指を突き刺して吹き飛ばされないようにどうにか耐えきった。
やがて爆炎が晴れると、室内は見るも無残に焼けこげ、吹き飛び、生きた者は誰もいない地獄のような有様となっていた。
『ホッホー! 凄え! あれだけいた反応が一変に無くなっちまった! 爽快なもんだぜ!』
「くそ、気楽に言いやがって」
息を吐き、体についた煤を払いながらポメラニアンは苦言を呈した。ニンゲンドックは鼻を鳴らした。
『施設の制圧は完了だ。つぎ行けつぎ。時間は限られてる!』
「……言われなくても分かってるってんだよ」
うんざりと首を振り、ポメラニアンは走り出した。
■
だららららら。だららららら。
狂ったように吐き出される空薬莢。途切れる事の無いマズルフラッシュが、薄暗い地下施設を煌々と照らし出す。夜に閃くネオンの如く鮮明に。
場所は地下レギオン量産工場。狂ったように殺到する死徒の群れを、
『こちら消防士部隊! 増援を! 増援を要請する!』
『くそったれ数が多すぎる! 報告と違うぞ!』
『おそらく非活性状態だったから反応がなかったんだ!』
『畜生! 地獄だぞこれは!』
『死にたくない! 死にたくなーい!』
シバイヌは前進する。死徒の群れを蹴散らして。死者の国へと死徒を送り込みながら。聖なる弾丸で祝福をばら撒き、囚われた魂を救済する。
シバイヌは前進する。死の気配を纏いながら、死をばら撒きながら、生まれてはいけなかった者たちを屍へと変えながら。
シバイヌは前進する。シバイヌは辿り着く。中枢にて黒い者を殺し終え、しかし死徒の群れに囲まれ孤立無援の籠城を続ける哀れな騎士達の下へと。
「ウワーモウダメダ―!」
自暴自棄になって泣き叫ぶ若い騎士に、しかし叱るものは誰もいない。誰しもがあきらめの境地に達しかけていた。
四方を完全にレギオンに囲まれ、こちらの物資も体力も底を尽き、今まさにバラバラに引き裂かれようとしていた。
だが、救いというものは突如として訪れた。
彼らの悲鳴も、死徒たちの嘆きもすべて塗りつぶして、福音の如く薙ぎ払われたマズルフラッシュが死徒を死者の国へと帰してゆく。
暗黒の川を引き裂き、屍の濁流を渡り、乙女は現れた。
「「──────」」
闇の中にあってなお鮮烈に煌く金の髪。いたわるように細められた瞳から覗く碧色は慈愛に満ち溢れていた。
彼らに言葉は無い。乙女は頷いた。
「行こう!」
短くも、しかし確かな力が込められた言葉だった。
くたびれきった体に、力が満ち溢れてきた。絶望の中で現れた希望が、彼らに気力をもたらしたのだ。
「生きて、出よう!」
「「はい!」」
騎士達は立ち上がった。力強く。
「総員、構え!」
残り少なくなった弾丸を装填し終え、騎士たちは祝福済みの突撃銃を構えた。シバイヌもイヌガミを構えた。
レギオンたちが我先にと飛び込んで来る。
「えい!」
シバイヌはグレネードを発射した。
轟音。衝撃。
黒い壁に穴が開いた。
「今だ! 突撃しろ! 総員前進開始!」
「「了解!」」
シバイヌのサポートの下、騎士たちは地下施設より脱出を開始した。