影武者転生異常あり!~俺は悪役令嬢の影武者なんだ…誰が何と言おうが影武者なんだ!だから脇役でいさせろや!   作:三流二式

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『ネオン街地下施設群掃討』③

「そこだ! やれ! いけ! うおー!」

「おいおいおい死んだわあいつ」

 

 

 場所は変わって○○旅館210番室。そこは保健所の作戦指令室と化していた。テーブルの上には資料、空の湯飲み、茶菓子などが置かれており、モニターを睨みながらトサケンとニンゲンドックが怒鳴り合っていた。

 

 

「くそ、分かっちゃいたが凄い忙しいな!」

「だからやりたく無かったってんだ畜生め!」

 

 

 ほんの一時の小休憩。入れた茶を流し込みながら、二人は凝った体をほぐす為にストレッチしたり、スマホで18禁サイトの動画を漁ったりした。

 

 

「お前こんな時になんちゅうアホなことしとんじゃ」

「魂の潤いに欲望の発露は必須デース。てかこういう事でもしなきゃやってらんねーし」

 

 

 食い入るようにスマホを見つめながらふてぶてしく言い放つニンゲンドックへ、救いがたい愚か者を見る様な眼で見つめながら、トサケンは首を振った。

 

 

「おい小僧、休憩もそろそろ終わりだ。席につけ」

「はあ!? まだ5分も経ってねえじゃねえか! 俺はやらねぇぞ!」

「馬鹿抜かしてねえでさっさとやりやがれこの、馬鹿」

「くそ」

 

 

 ぶー垂れていたニンゲンドックだが、トサケンの殺気すらおびた鋭い眼光に睨まれれば、渋々とだが腰を下ろし、嫌々ながらもオペレーションを再開した。

 

 

 途端に様々な音が流れ出し、それらを押しのけるようにしてポメラニアンの怒鳴り声がニンゲンドックを貫いた。

 

 

『おいコラこの包茎短小野郎! 状況を説明しろ! この施設は終わったぞ! 次何処だ次!』

「ざけんじゃねえ!」

 

 

 ニンゲンドックは机を殴りつけた。

 

 

「いいかこら! 俺は短小でもねえし包茎でもねえ! 次寝ぼけたこと抜かしたらてめえ。ぶっ殺すぞこら!」

『下らねえことで怒ってんじゃねえぞ! さっさと指示出せってんだよ! 豚野郎!』

「あぁ!?」

 

 

 罵詈雑言を喉元で押し留め、血走った目でモニターに映る地図と騎士団から齎される情報、そして作戦の進行具合を試みて、ニンゲンドックは指示を出す。

 

 

「イミテーションとゴスペルの奴が初日大暴れしやがったおかげで残り26地点。で、お前ら()()がヒーヒー言いながら頑張ったおかげでようやく半分だ」

『喧嘩売ってんのかこら!』

 

 

 ニンゲンドックは無視した。

 

 

「L行けL! 騎士団共が不甲斐ないからまだ終わってねえんだよ!」

『初めからそう言いやがれ! このノロマ!』

「怒!」

『怒!』

「はぁ~……」

『ど、どうしたの急にため息なんか吐いちゃったりして? 平気?』

 

 

 そのやり取りを聞きながらうんざりとため息を吐いたトサケンを心配して、シバイヌがそのように聞いてきたのだが、トサケンは誤魔化すように咳ばらいを一つすると、シバイヌに状況の説明を求め、告げられる情報とモニター上の状況を鑑みて、何処へ送るか思案した。

 

 

「ふぅ……」

 

 

 つい今しがた休憩を挟んだというのに、もう喉がカラカラだった。喉を湿らす為に、トサケンは茶を飲んだ。すっかり冷め切って風味の抜けた茶が喉を通過した。

 

 

『疲れてる? 休む?』

「なあにまだまだ。……よし。ならN地点へ行ってくれ。そこには三本槍のお嬢ちゃんたちもいるんだが、闇の者が2人も出たせいで苦戦しているみたいだ。行って援護してやってくれ。別の地点からも増援が近づいて来てる。急げ!」

『うん! 了解!』

 

 

 モニターに映るシバイヌのマーカーを目で追いながら、トサケンは画面端に映るエネルギー観測グラフをちらりと見た。

 

 

「はぁ……」

 

 

 0が続くかと思えば、瞬間的に跳ねるように膨れ上がったエネルギーがグラフを突き抜け、また0へと戻ってゆく。あまりにも一瞬過ぎて、放物線すら描かず1本線が刻み込まれている。それが何十何百と続いていた。

 

 

 視線を画面に戻す。丁度イミテーションのマーカーが目を離す前の反対側に移動し、また別の個所に()()()()のが目に映った。グラフにまた一本の線が追加されていた。

 

 

「はあ……」

 

 

 再びため息を吐く。今度のため息は、もっと()()

 

 

『やっぱ休んだ方が良いんじゃねえの?』

 

 

 チワワの戯言とニンゲンドックの喧しい戯言を聞き流しながら、トサケンは凝った体をほぐし、油断なくオペレーションを続けるのであった。

 

 

 

 

 ■

 

 

 

 

「フェザント! 追い込め! 飛翔は控えろ!」

「うん。ッそこ!」

「ヌウ!?」

 

 

 増援の闇の者が引き連れてきた洗脳兵士と一般隊員の銃火器による一斉斉射を翼でガードしながら、雉花へと指示を出す。

 

 

 信じがたい量の弾幕が彼女へと殺到する。しかし〝闇〟で強化されておらず、異能ですらないただの銃弾など、光の者からすれば豆粒鉄砲にも劣る。易々とガードしながら、千鶴は槍を投擲。

 

 

「「ぎゃあ!?」」

 

 

 着弾と同時に炸裂した〝光〟が増援を瞬く間に焼き滅ぼした。

 

 

「よし」

 

 

 一人たりとも逃していない事を確認すると、千鶴は振り返り、闇の者と対峙する妹たちの方へと目を向ける。

 

 

「やあ!」

「チィイ!」

「うりゃああ!」

 

 

 鵠に向けて火球を放とうとしていた闇の者へ、雉花が強襲槍突きを放ち不意打ちを断念させ、防御に専念しているその隙に突貫した鵠が光の槍で切り裂きにかかる。

 

 

「猪口才!」

 

 

 光の槍が闇の者のアーマーに触れた瞬間、その箇所が爆発。ダメージを最小限に抑え込んだ闇の者はカウンターの火炎放射を放った。

 

 

「うわっ!?」

「危ない!」

 

 

 鵠と雉花は上空へ跳ねる事で危うくかわし、そのまま翼を広げて飛ぼうとしたのだが、ここが室内な事を思い出して滑空程度にとどめ、着地しながら歯噛みした。

 

 

 彼女達の基本戦術は上空より隙を見ての一撃離脱戦法、通称『鳥葬殺法』である。しかし、室内であると途端に彼女たちの自慢の機動力が封じられ、大幅に戦闘能力が落ちてしまう。

 

 

 とはいえ彼女たちとて光の者。()()()()()()()()()()()()闇の者とも十分に戦える。

 

 

 闇の者と一対一で戦え、尚且つ勝利できる者はそうはいないのだ。まだ若く、経験も少ないながらこれほど巧く戦えている時点で、彼女たち三本槍は若手の中でも十分な実力者なのだ。

 

 

 しかし、戦場は常に流動的だ。ずっと同じ状況が続く事はありはしない。そして何が起こるかもわからない。

 

 

「イヤッハー!」

「「っ!?」」

 

 

 その奇襲は、あまりにも唐突かつ鮮やかであった。

 

 

 壁を突き破って、大猿が狂笑を上げながら闇の者と死闘を演じる鵠の背中へと飛び掛ってきたのだ。

 

 

「わあ!?」

「鵠!」

 

 

 離れているからこそ反応が辛うじて間に合った千鶴は、咄嗟に光の槍を投げ放つことでこの恐るべき奇襲を防ぐ事が出来た。そのかわりに大猿に闇の者を回収されてしまい、せっかくの有利な状況がひっくり返されてしまった。

 

 

「遅いぞ見え猿!」

「ひひっ待ってたのよォ~。機会をな! いくぞ火付け小僧(イグニス)! バラバラに引き裂いてやれ!」

「ウォーホー!」

 

 

 途端に勢い付いた二人の闇の者の猛攻に、今度は三本槍たちが防戦一方の状況に追い込まれた。

 

 

 片や機動力を封じられた鳥たち。片や閉所での戦闘に慣れ、閉所での機動力に優れた大猿と仲間もお構いなしに炎の異能を炸裂させる闇の者(イグニス)

 

 

 苦戦は当然の事で、派手な破壊行動が出来ない彼女達からすれば、この状況はあまりにも不利と言えた。

 

 

 それでもなお苦戦こそすれ明確なミスをしないのは、流石は若手筆頭株ということか。

 

 

『こちら指令室! 増援です! 黒い者を先頭に計24体の敵性反応が近づいてきています!』

「ぬうっ」

 

 

 迫る灼熱の奔流を宙がえりでかわし、それを狙った見え猿の掌握を身を捻る事でかわしながら着地した千鶴は、どんどん不利な状況に追い込まれていく事をひしひしと感じていた。

 

 

「これ以上時間をかけていられないぞ姉さん!」

「ホッホー! 増援が来るまであと何秒かな?」

「ウキーッ! それまでに殺し切れるか―?」

「やってみせます!」

 

 

 鵠と雉花は果敢に攻め続け、実際確実に闇の者たちにダメージを与えられてはいた。しかし、不死身ともいえる生命力は人間でいう所の致命傷を与えられても全く死ぬ気配を見せない。

 

 

 本当に殺したければ、心臓を破壊するか、さもなくば首を刎ねぬ限り、この暴虐は止まらない。

 

 

『報告! 報告!』

「分かっている!」

 

 

 焦燥に駆られながら、千鶴も本格的に戦闘に参戦する事を決めた。光の槍を握りしめ、大猿目がけて突貫する。

 

 

『違います! 増援が! 増援が!』

「だから分かっていると!」

『消滅しました!』

「「なに?」」

 

 

 切り結ぶ大猿と千鶴は全く同時に言った。それと時を同じくして部屋の壁が吹き飛び、その奥から金切り声を上げる魔獣の咆哮が轟き吠えた。

 

 

「はっは~!」

「ウキャーッ!?」

 

 

 哄笑を挙げながら突っ込んできたチワワがケルベロスを振り下ろし、千鶴を掴もうとしていた左腕を焼き切った。

 

 

「お前!」

「お話は後!」

 

 

 詰め寄ろうとした鵠に、シバイヌがぴしゃりと言った。

 

 

「シバイヌちゃん!」

 

 

 雉花は目を輝かせた。シバイヌは微笑み、それから友達を吹き飛ばした不届き者へ向けて、聖なる盾(イヌガミ)から鉄槌の如き弾幕をばら撒いた。

 

 

「「……」」

 

 

 チワワと千鶴は一時睨み合い、それから無言で隣に立ち、己の得物を構え、手負いの大猿へと対峙した。

 

 

「クソガキ! 不意打ち決めたくらいで調子乗んな!」

「うるせーエテ公! とっととくたばりやがれ!」

「戦闘続行。排除開始!」

 

 

 停滞は一瞬。すぐさま再開された戦いは実に熾烈を極める接戦となった。

 

 

 夕日が暮れなずむ地上。長い戦いは間もなく終わろうとしていた。

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