影武者転生異常あり!~俺は悪役令嬢の影武者なんだ…誰が何と言おうが影武者なんだ!だから脇役でいさせろや!   作:三流二式

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『ネオン街地下施設群掃討』④

 時は進み、早朝。

 

 

 朝陽が眩しく照り付ける鳳凰院コーポレーション京都支部ビル。そのプレジデントルームにて、鳳凰院社長は支社長と対談していた。

 

 

「いやはや、どうもどうも。わざわざこのような()()()()にまでご足労いただき誠にありがとう存じます」

「……」

 

 

 病的なまでに細く、狐を思わせるような糸目の支社長は深く一礼し、鳳凰院社長へとごまをすった。鳳凰院社長は無言である。

 

 

「いやあ本当に今日は素晴らしいお天気ですなあ。こういう良く晴れた日には伏見稲荷大社へよく拝みに行ったものです。私の家は恐れ多くもあそこの神主の遠縁でしてね、それはもう良くしていただきましたなあ」

「……」

 

 

 顔を上げ、支社長はなおも続ける。鳳凰院社長のこめかみがピクリとひくついた。

 

 

「京都は素晴らしい所ですよ。古くから連綿と続く伝統を数多く守り抜いている。京の漆塗りはご存じですかな? 私の家系は代々漆塗り業を営んでおりまして、私めもその技術の一端を受け継いでおるのです。残念ながら私は次男ですので、家業は継げませんでしたが、弟が、父が、祖父が曽祖父が、顔も見た事が無い先祖たちが受け継いできた事業は私の誇り()()()。過去形の理由ですか? そんな難しい理由ではありませんよ。何事も盛者必衰。そういうことです」

「……」

 

 

 

 鳳凰院社長は人形染みた無表情だ。支社長は笑った。

 

 

「忌々しい非京都人の企業が分不相応にも京都に進出してきて、あろうことか土地を寄越せと言い張ってきました」

「……」

 

 

 鳳凰院社長の背後、護衛の護衛である白い者たちが一斉に懐に手を入れた。しかし気にせず支社長はしゃべり続ける。いまやその目は見開かれ、危険な光をぎらつかせて鳳凰院社長を凝視していた。

 

 

「連綿と続く伝統と誇りを汚す非京都人の屑に対し、京都人は当然反発しました。当然です。誇りある京都人は文化的侵略を決して許さないのです。しかし、京都府は、あの恥知らずな、あぁ失礼。あの薄汚い権力にしがみ付く事しかできないぶくぶく太ったタヌキ共は何と非京都人に土地を譲ったのです! 私の家を! 店を! 何の感慨も無く踏みにじりながら! 下品なコンクリートで覆い! 薄汚いネオンで神聖な空気を塗りつぶし! 穢れた排気ガスで清涼な空気を汚し! 俗な非京都人の屑を大勢招き入れ、伝統を汚染し! 嗚呼!」

「……ふん」

 

 

 感極まったように涙を流す支社長に、鳳凰院社長は鼻を鳴らした。くだらないとでも言いたげに。

 

 

「気は済んだか? そろそろ本題に入れ。ワシもお前も暇ではない」

「ええそうでしょう。そうでしょうとも! あなたはそういうお人だ。人の心が分からない。伝統への誇りもお分かりにならない!」

「知らん。どうでもいい。本題に入れ」

 

 

 鳳凰院社長は言い捨てた。支社長は目を見開き、憎しみに燃える瞳で睨みつけた。今や不穏な気配を隠そうともしない。白い者たちは武装を展開し、いつでも動けるように身構えた。

 

 

「薄汚い非京都人の屑が! 我らの誇りを愚弄するだけでは飽き足らず、死の運命すら卑しくも逃げおおせた恥知らずが!」

「話にもならんな。支社長、お前は首だ。早々に立ち去るが良かろう」

 

 

 支社長は激しく罵るが、鳳凰院社長は一切聞く耳を持たず、悉くを冷たく切って捨てた。

 

 

「話にもならないだと!? 同感だ! もはや貴様如きに従ってなどいられるか! カアッ!」

 

 

 支社長が何か禍々しいハンドサインを行ったのと、白い者たちが銃撃を開始したのはほぼ同時であった。

 

 

「がわわわわわ!?」

 

 

 無数の祝福済みの白塗りの神聖突撃銃より放たれた5.56㎜の弾丸が支社長に次々と突き刺さり、支社長は血飛沫を上げながら、たっぷり1分間がくがくと踊るように震えた。

 

 

「射撃、止め!」

 

 

 リーダー格の光の者が命じるや、銃撃はぴたりとやんだ。ちりんちりんと空薬莢が落ちる音が、静寂と化したプレジデントルームに空しく響き渡った。

 

 

 火薬がの匂いとつんとした血の匂いが混ざり合って鼻を突いた。鳳凰院社長は不快げに顔を顰めた。

 

 

「閣下、お下がりを」

「うむ」

「確認重点!」

 

 

 光の者が鳳凰院社長の前に立って下がらせ、部下の白い者の一人が倒れ伏した支社長へと近寄り、残りは鳳凰院社長を囲むように展開した。

 

 

「こりゃ酷い。即死ですね。見るまでも無いです」

「油断するな!」

了解(ラジャー)

 

 

 叱責により直ちに気を引き締めた白い者はアサルトライフルの銃身で血の海に横たわる支社長を小突き回した。支社長はピクリとも動かない。

 

 

「反応なし!」

「脈は!」

「脈無し!」

「心臓は!」

「鼓動無し! 完全に心停止であります!」

「……うむ!」

 

 

 護衛を部下に任せ、自ら近寄った光の者は油断なく確認し、それから頷いた。

 

 

「死亡確認! 総員、警戒態勢を」

 

 

 解け。光の者がそう言った瞬間、支社長の眼がカッと見開き、重力を無視したような不自然な挙動で起き上がり、目を見開いて驚愕する光の者に向けて尾てい骨部分から〝闇〟で構成された3本の〝尾〟を突き出した。

 

 

「ぬわっ!?」

「ぎゃあ!?」

 

 

 光の者は咄嗟に光の剣で叩き落す事に成功したのだが、白い者は反応が間に合わず胸と腹を〝尾〟が貫通し、即死した。

 

 

「馬鹿な!? 闇の者だと!?」

「ははははは! 死ね! 京都人以外みな死んでしまえぇえええ!!!」

 

 

 白い者を放り捨てながら狂笑を上げる支社長に、光の者は目を見開く。

 

 

「教団に魂を売ったか。馬鹿な事を」

「黙れぇえええ! 非京都人の屑が!」

 

 

 激昂した支社長は鬱陶しいとばかりに〝尾〟をぶんと振り、光の者を弾き飛ばした。

 

 

「せ、斉射! こいつを撃ち殺せ!」

「「了解、斉射開始!」」

 

 

 辛うじてガードが間に合ったものの、凄まじい力に吹き飛ばされ、背中から強打した光の者が咳き込みながらも何とか命令を下した。たちまち白い者が持つアサルトライフルが火を噴いた。しかし。

 

 

「非京都人の惰弱な武器など効かぬわ!」

「「うわーっ!?」」

 

 

 闇の者と化したした支社長には豆鉄砲ほども効かず、〝尾〟の一振りで全員が吹き飛ばされ、壁に叩きつけられて失神した。

 

 

「これは!」

「死ねぇ!」

 

 

 鳳凰院社長は目を見開いた。すでに眼前に〝尾〟が迫り来ていた。

 

 

「チッ! 役に立たん護衛だ!」

「何っ!?」

 

 

 〝尾〟は鳳凰院社長の眉間に触れようとした瞬間、その寸前でバチンと音をたてて弾かれてしまった。

 

 

「馬鹿な!? 非京都人風情が神聖京都人の攻撃を防げるわけが!」

「むん」

「ぐはっ!?」

 

 

 驚愕している隙に放たれた鳳凰院社長の腰の入ったみごとな右ストレートが支社長の頬を撃ち抜いた。殴り飛ばされた支社長はひっくり返り、起き上がろうとした瞬間に不可視の力が再び働き、バチンと音が鳴れば支社長を吹き飛ばして壁に叩きつけた。

 

 

「ぐわっ」

「やはり闇の者。即死はせんか」

 

 

 〝拒絶〟によるダメージは程皆無。想像以上の耐久力に、鳳凰院社長は実際かなり焦っていた。

 

 

「おのれ! 貴様如きが! この私を!」

「ぐうっ!?」

 

 

 支社長は再び〝尾〟を伸ばし、鳳凰院社長をバラバラに引き裂かんとする。鳳凰院社長は向かい来る〝尾〟を懸命に〝拒絶〟して叩き落すものの、迎撃は次第に追いつかなくなり、遂に壁際に追い込まれてしまった。

 

 

「──────」

「死ね!」

 

 

 目前に〝尾〟が、死が迫る。

 

 

 死を感じ取り、世界の流れが極端に遅くなった。鳳凰院社長の脳裏に、過去の様々な思い出が駆け巡る。

 

 

 愛を感じ取れぬ日々。金目当てに群がる輩から逃げ続ける日々。理解できない妻。理解できない娘。そして、悪魔! 

 

 

 あぁ悪魔! 恐ろしい悪魔! 憎たらしい悪魔! しかし一度として否定せず! 決して見限らない悪魔! 憎くて、愛おしく(にくく)てしかたのない悪魔! 

 

 

(嗚呼、悪魔よ!)

 

 

 鳳凰院敏明は心の内で慟哭の如く激しくその名を呼ばわった。時間間隔は元に戻り、目前に迫っていた〝尾〟は夢幻の如く雲散した。

 

 

「ギャ──────」

 

 

 支社長は瞠目した。そして、縦に白い線が入ったかと思えば、真っ二つになって崩れ落ちた。

 

 

「ごきげんよう、閣下」

 

 

 その奥から現れた悪魔が、柔らかく微笑んだ。左腕に閃く白炎が、鳳凰院社長の瞳に鮮烈に焼き付いた。

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