影武者転生異常あり!~俺は悪役令嬢の影武者なんだ…誰が何と言おうが影武者なんだ!だから脇役でいさせろや! 作:三流二式
「クソが―! 雑兵だらけかこの街は―!」
時間は紅蓮に燃える化け狐が現れるよりも少々遡り、町の中心にほど近い通りで、チワワは絶叫していた。
「いやどっから出てきた!? 何だこの数は!?」
わらわらと通りを占拠するキツネ面をつけた焔部隊の下位戦闘員をケルベロスで叩き切り、飛来したグレネードを掴んで投げ返す。
ぼんっと腹に響く爆音と共に肉片が四散した。チワワは顔を顰めた。
「地図作った後に秘密裏に作った拠点からだろ! つべこべ言ってねーで手を動かせ!」
嘆き喚くチワワへ、ポメラニアンは向かい来る死兵どもをバラバラに切り刻みながら負けじと声を張り上げて叱責する。
「
『増援多数出現! 迎撃しろ!』
「クソが―!」
トサケンからの報告に、チワワは絶叫した。
『こちらシバイヌ! このエリアの避難は完全に終了したよ!』
「おし、ならすぐ合流しろ! この数はさばき切れん! お前の火力が必要だ!」
『オーケー! すぐ行くよ!』
ブツンと音をたててシバイヌからの通信が切れた。
『シバイヌ移動開始! この速度ならすぐに合流できるぜ! それと、騎士共の避難誘導もほぼ完了だそうだ! これで戦闘に専念できるな!』
「嬉しいけど嬉しくないー!」
「だ! ま! れ! っつってんだろーが!!!」
凄まじい剣幕で怒鳴り散らすポメラニアンに、さしものチワワも口を閉じた。
『チクショー! 何だこの怪我人共はー! 野戦病棟かここはー!』
しかしチワワが黙ったと思えば、今度はニンゲンドックの叫びが聞こえてきた。どうやら通信をオープン回線にしたまま作業をしているようで、喧騒と共に彼の嘆きが途切れることなく垂れ流しにされていた。
『ふざけんじゃねえぞ! どうしてこう教団共っていうのは俺の平穏を崩す事に長けれてるんだ!? おかしいぞこれはおかしい! これは奴等の陰謀に違いないいやそうに決まっている! まさか……監視されてる!? メンインブラック!? アァー!』
『うるせー! 黙って仕事しやがれこのクソガキ!』
チワワとポメラニアンの口論の次はトサケンとニンゲンドック言い争いである。しかしニンゲンドックはチワワほど聞き訳が良くない! 年長者同士の言い争いは長々と続く!
「うるせーぞジジイ共!」
「高齢者共黙って仕事しやがれ!」
チワワとポメラニアンは耳に垂れ流されるしょうもない言い争いに耐えながら敵を葬り続けていたのだが、ついには耐えかね、怒り叫んだ。
『ホレ見ろ言われちまったじゃねえか!』
『知るかクソ知るかクソ知るかクソが―!』
叱責をされてもなおニンゲンドックは止まらない、口汚く罵りながら、しかしそれでも仕事自体はしているようで、次第に忙しさからかクソ、クソと言う以外に罵倒は聞こえなくなった。
「二人とも―! おーい!」
そうこうしている内にシバイヌも合流を果たし、3人は津波の如く押し寄せるレギオンや黒い者率いる一般兵士を押し返すべく奮戦した。
「いけいけいけシバイヌ、押し返せ!」
「うん、このままいくよ!」
シバイヌはどっしりとイヌガミを構え、3連装バルカンを、グレネードを、小型ミサイルを一斉に解き放った。
戦車並みの破壊力を持つイヌガミの火器のフルバーストは実際凄まじく、雲霞の如き教団の尖兵たちを薙ぎ払い、着弾点を中心に空白地帯を作り出した。
「よっしゃ! このまま一気に」
「待て一二! 何だこのふざけた──―」
『膨大な熱源反応出現! 衝撃に備えろ!』
ポメラニアンがチワワを静止した矢先、遥か後方で爆炎が立ち昇った。それと同時に凄まじい衝撃が起き、彼女たちはたたらを踏んだ。
「な、に、が──―」
「うわわ!」
「嘘だ……嘘だ嘘だ嘘だ! ふざけんな!」
シバイヌの背に隠れていたポメラニアンは激しく狼狽え、後方を仰ぎ見た。そして絶句した。遅れて振り返った二人も同様に固まる。通信越しに見ていたトサケンは信じがたい光景に目を剥いた。
山が、消えていた。無くなった。綺麗さっぱり影も形も無く。赤熱した後を残すばかりで、完全に焼失していた。
「「──────」」
三匹の犬たちは戦場のど真ん中だというのに、しばしのあいだ棒立ちで立ち尽くしていた。それほどまでに信じがたい光景であった。
『──────お嬢ちゃん!』
真っ先に正気付いたのは俯瞰して見ていたトサケンである。熱源が街に物凄い勢いで着弾したのを確認したからだ。
犬たちより離れた地点で再びの爆発。皮肉にもそれが彼女たちを正気付かせた。
「な、何だよあれ……何が起きたんだ? ボスはどうなった!?」
「きっと平気だよ! それよりも!」
「待て! やべこっちに来るぞ!」
『熱源が……シバイヌ! 2人を守れ!』
トサケンがそう叫ぶのと、街に落ちた熱源がここからそう遠くない地点に再び着弾するのはほぼ同時であった。
紅蓮が、焔咲いた。
「うわぁああああああああああ!!!」
視界が白く染まる。耳から音が消し飛び。ブツンと音をたてて完全に何も聞こえなくなった。尋常ならざる熱と衝撃が吹き荒れた。
まるで高熱を孕む嵐の只中に放り出されたかのようだ。気を抜けばバラバラに引き裂かれてしまいそうな莫大な圧力!
何も聞こえない。何も見えない。しかし、シバイヌは耐えた! 奥歯が噛み砕けんばかりに食いしばり、異能で少しでも圧力を弱め、己の力を強め、ひたすら耐え忍んだ。
どれだけの時間が経過しただろうか。何十秒も経ったように思えたが、実際に経過した時間は1秒にも満たなかった。
「──────あう……」
結果を見るまでも無くシバイヌはイヌガミにもたれ掛かり、ずるずると崩れ落ちた。
「リリー!」
「──────」
チワワは素早くシバイヌを助け起こし、ポメラニアンはすぐさま現状を把握しようとして、見上げ、固まった。
それは、この世の全ての熱を集めて捏ね固め、狐の形にしたが如き圧倒的な大理不尽。紅蓮の四肢は力強く大地を踏みしめ、燃やし。爆発した。爆発の音は途切れない。
身の丈は30メートル強! 紅に染まる
放たれる力の圧は闇の者すらも足元にも及ばない。正真正銘の怪物。掛け値無しの最低最悪の災害の一つ。
かつて平安時代末期に現れ、文字通り国を傾かせた『傾国の妖狐』
グレンキュウビは気まぐれに歴史に現れては様々な国を傾かせた。
そのあまりの被害、破壊規模から、現在ではグレンキュウビは闇の者という一個人ではなく災害の一つとして扱われている。
「「──────」」
伝説との対峙に、とうとう犬たちは完全に固まった。トサケンも、状況を共有していたニンゲンドックすらも、それを見ていた人々はただ見上げ、絶句し、神へ祈った。
どうか我ら幸いを、と。
「ギャワアアアアアアアアアン!!!」
妖狐は咆哮した。世界すらも震わせるような凄まじい音圧に、ただそれだけで周囲は熱され、爆発した。
「「うわあああああ!?」」
チワワとポメラニアンは悲鳴を上げて、しかしそれでも耐えた。彼女たちは一人の人間で、目の前の怪物を恐れている。
それはそれとしてイミテーションの犬であるのだ。犬は主人の命令なく後退しない。そういう事だ。
「く、そ、が!」
チワワは震える膝を叩く。叩く。何度も何度も。震えが止まるまで。自分たちはあの人の犬なのだとそう言い聞かせて。
やがて震えは止まり、心に余裕が出できてきた。単に放心でできた心の隙間を認識したというだけではあるが、それでもマシだ。ポメラニアンも、シバイヌも立ち上がった。
そうとも。
妖狐の体表が爆発した。しかしそれは紅色ではなく、青白い冷気を孕んだ極寒の小爆発であった。
「?」
妖狐は訝った。その瞬間、体のあちこちで冷気の爆発が立て続けに起こった。
「うぉおおおお!!! 撃て撃て撃てぇ―!!!」
犬たちの後方から、スーツを着た者たちが、騎士たちが続々と現れ、異能の氷や超低温弾頭を備えたバズーカ、冷凍光線を撃ち放ち、災厄に立ち向かっていった。
「今こそ
「保健所! 我々ペットショップも参戦します!」
そう言ってチワワ達の前に姿を現したのは、身の丈190センチを超える、まるで横綱の如き体躯を窮屈そうにスーツに押し込めた醜男であった。
その顔はまさに醜いと称するに相応しい顔であったが、しかし顔つきは引き締まっており、一つの山を乗り越えた者だけが纏う事の許されるある種の威厳を、男は備えていた。
チワワはその男にどこかシンパシーを覚え、頷いた。男も頷き返した。
「どうも武装警備員派遣会社ペットショップ警備部門星3警備員のブルドックです。お会いできて光栄です」
「おう」
ブルドックは手を差し出した。ポメラニアンは素直に応じた。
大きな手がポメラニアンの小さな手を包む。ごつごつとした巌の如く鍛え上げられた、いい手だった。
『ペットショップ!? ここで出てくるか!?』
「あなた達のボスからの要請です。氷系や防御系をありったけかき集めてくれというね。うちの社長は保健所のボスと深く繋がっているのです。騎士団や我々が使っている冷凍兵器も、そちらのレトリバーが秘密裏に作らせていたものなのです」
ブルドックの視線の先、様々な冷凍兵器が火を噴いている。その兵器を良く見れば、まるでガラクタを継ぎ合わせたかのような形をしており、それはレトリバーの作るガラクタ兵器の一つに違いなかった。
「……まあ分かっちゃいたよ」
「だな」
「とにかく、一緒に戦ってくれるんだね?」
げんなりとため息をつくチワワとレトリバーの傍ら、シバイヌがブルドックの眼を見て真剣に聞いた。
「当然です。一緒に戦いましょう」
ブルドックはそう言うと、両こめかみに親指を立てた。たちまち彼の背後に置かれていたボックスからドローンが起動し、グレンキュウビへ向けて一斉に冷凍砲を撃ち放った。
「念力系か?」
「同調です!」
「保健所! 受け取れ!」
と、そこでペットショップ所属と思わしきスーツ姿の少年が両腕に抱えた冷凍キャノンを投げ渡してきた。
「よっしゃ任せろ!」
「派手に行くぜ!」
「私もいくよ!」
3匹の犬は同時に引き金を引き、災厄の妖狐へと戦いを挑んだ。
更に現れるのは、ガラクタを無茶苦茶に継ぎ合わせたスクラップ戦車である。
「みみ子! 付与は!」
指示を出していたレトリバーが最終確認を行う。
「冷凍、冷却の付与、ありったけよし!」
戦車の中で、プードルは叫ぶように言った。
「狙いよし、いつでもいけます」
エミリーは主砲の狙いをつけ、指示を待つ。
「良し! スクラップキャノン発射!」
レトリバーは号令を出した。
「了解。主砲……
エミリーは興奮で頬を紅潮させ、震える指先で引き金を引いた。
凄まじい霜の煙を吐き出しながら、スクラップ砲が火を噴いた。音の何十倍の速さで発射された超冷凍弾丸は妖狐の胸のど真ん中に着弾し、盛大な冷気の大爆発を巻き起こした。
「グワワーン!」
グレンキュウビは憤怒の雄たけびを上げ、6本の尾を無茶苦茶に振り回した。
「「うわー!?」」
尋常ならざる爆発が立て続けに起き、力の弱い者たちが瓦礫と共に紙屑のように舞いあがった。
「押せ押せ押せ―! ボスのおかげで奴は弱ってる! 9本尾じゃねえなら勝ち目はある!」
「押せー!」
「やー!」
「主砲、再装填、急いで!」
「はいー!」
「く、クール……!」
保健所の面々は周囲に展開するペットショップと騎士団の混成部隊に負けじと奮戦する。
「ゴァアアアアアアアアアン!!!」
妖狐は咆哮した。
現地にいる物たちの総力戦の火ぶたが切って落とされた!