影武者転生異常あり!~俺は悪役令嬢の影武者なんだ…誰が何と言おうが影武者なんだ!だから脇役でいさせろや!   作:三流二式

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『chapter8 京都ネオン街炎上』⑤

 ネオン街上空で、一台の武装ヘリが街から離脱するために全速力で遠ざかっていた。

 

 

 その中で、武装した光の者と白い者に守られた鳳凰院社長が彼らの静止も振り切って身を乗り出し、開け放たれたドアから頭を出して見下ろしていた。

 

 

「──────」

 

 

 街が、燃えている。

 

 

 眼下で、唯一信頼できる(もの)を湯水のごとく注いで築き上げた摩天楼が四散し、紙屑の如く打ち上げられてゆく。

 

 

 ヘリのローターすらもかき消す爆音が、何度も何度も響き渡る。しかし、あれほどの爆音が、やけに遠い。

 

 

 恐らく耳が馬鹿になっているのだろう。しかし、例えそうでなかったとしても今の鳳凰院社長には、きっと届かない。

 

 

 一際大きな爆発が起きたかと思えば、街の中心に赤熱した6本尾の妖狐が轟き吠えながら顕現した。

 

 

 妖狐を中心に付近の物が炎上爆発した。ネオン煌く街並みが、その中心に玉座の如く鎮座していた鳳凰院コーポレーション京都支部ビルが、蜃気楼に映る幻影のように消えてゆく。

 

 

 しかし、鳳凰院社長に動揺は無かった。寧ろほっとしていた。

 

 

 人は衝撃的な出来事を前にすると、人が変わってしまう事がある。

 

 

 変わる事。変化は恐ろしい事だ。無辜の人々は変化を恐れる。つまり()()()()()()

 

 

 太古の昔、状況が変わるという事は死を意味していた。この怖れはその時の名残が発露したもので、自分が変化を恐れる事は何も間違っていない事の証明でもある。

 

 

(つまり私は何も変わってはいない)

 

 

 化け狐が嘲笑うかのように咆哮する。恐るべき圧力。恐れはしたが、その心境に何ら変化と呼べるものはない。

 

 

 安堵が胸に満ちる。

 

 

「──────」

 

 

 鳳凰院社長は薄く笑い、目を閉じ、気絶した。

 

 

 その瞬間、ほんの刹那、彼の意識が消える瞬間に()()()()()()()()()()姿()が映ったような気がしたが、それが誰なのか確かめるよりも早く、暗い闇が全てを覆い隠した。

 

 

 

 

 ■

 

 

 

 

「点滴急げ!」

「くそ、包帯はまだか!」

「担架持ってこい! 怪我人を運べ!」

 

 

 ネオン街に有事が起きた際の避難場所の一つである、学校の校庭にいくつも建てられた医療テントの中は怪我人と救急隊と聖光教の医療部隊でごった返していた。

 

 

「畜生畜生畜生ー!」

 

 

 呻き声、怒号がひっきりなしに飛び交うテントの中、その中でも一際うるさく喚いている男が一人。彼のコードネームはニンゲンドック。保健所の構成員である。

 

 

 彼は医療部隊より運び込まれた一人の男の治療に当たっていた。

 

 

 どう見ても黒焦げ死体にしか見えなかったそれは、しかし今ではその名残すら見せない程に真っ白な肌を覗かせていた。

 

 

「表面上はなくそったれめ!」

 

 

 誰に言うまでも無く吐き捨て、うるさいと怒鳴りつけてきた救急隊員に血走った目で睨み、怒鳴り返して殴り飛ばしながら思う。

 

 

(このクソバカ無理しすぎでダメージの回復が全然追いついてねえ! 無理の積み重ねが祟ってんだってんだ糞アホ! 合間合間で休憩しないからこうなるんだよダボが! 突き詰めればいいってもんじゃねーだろ!)

 

 

 思った所でこの男は止まらない。知っている。だが、今更止められる物か。

 

 

「あ!」

 

 

 そうこうしている内にもうイミテーションは目を覚ました。軽く見積もってみても一週間は起き上がれないはずの重度の疲労を抱えた男は、さも平然と身を起こし、立とうとしたが、立ち眩みを起こしてベットへと腰かけた。

 

 

「うっ──────」

「わあわあ! まだ立っちゃダメです~!」

 

 

 近くにいた医療部隊〝雀の涙〟の構成員の一人が慌てて止めにかかるが、それを押しのけてイミテーションは立ち上がった。ニンゲンドックはため息を吐きながら近づいて行く。

 

 

「あ! あなたも言ってください! 無理ですよこんな体じゃ!」

「だ、そうだが?」

「当然、行きます」

 

 

 そう投げかけるニンゲンドックへ、イミテーションは平然と言ってのけた。

 

 

「言っても聞かんか?」

「愚問を」

 

 

 睨むニンゲンドックを、イミテーションは真っすぐに見つめ返す。一部の隙も無い断固たる意志。光差さぬ奈落の大渦巻の如き瞳孔。

 

 

「はぁ~……」

 

 

 ニンゲンドックは深いため息を吐いた。

 

 

「え? え? しょ、正気ですか!? こんな重傷者を戦地へ行かせるんですか!?」

「正気も正気。こいつは正気のままどうかしてるんだ」

 

 

 狼狽えるスズメに、ニンゲンドックは諦めたように首を振った。イミテーションはふらつく足で一歩踏み出す。

 

 

「受け取れ」

 

 

 ニンゲンドックから投げ渡された小型注射器を見もせずに受け取り、躊躇わずに首筋へと打ち込んだ。

 

 

「──────ッ」

 

 

 途端に全身がかっと熱くなり、筋肉の隅々が脈動した。

 

 

「ちょ!? それ明らかに取り扱い禁止の劇薬じゃないですか! なんて物渡してるんですか!」

「うるせー! そんな常識にとらわれていられるような状況かこの糞ボケ! 戦力になるような奴は死体だって使うんだよー!」

 

 

 背後の言い争いは、新たに担ぎ込まれた患者の登場によってすぐに黙らされた。

 

 

 ここもまた戦場である。しかし彼の戦場はここではない。イミテーションはテントから出た。

 

 

 テントから出れば、そこは避難民でごった返していた。誰も彼もが天変地異の如き火災を前に瞠目して立ち竦んでいた。

 

 

 それらをかき分け、イミテーションは迷いの無い足取りで歩を進める。やがて、彼は一つのコンテナへとたどり着いた。

 

 聖光教が乗って来た装甲車の只中に、さも当然とばかりに置かれてあった。一体どこの誰が運び込んだのか彼らは知る由も無かったが、さりとてそれを探る時間すら惜しかったので、最低限の人員を残して放置されていた。

 

 

「あ! あなたは!」

 

 

 二人の見張りの内の一人が近づいてくるイミテーションの存在に気が付き、相方に知らせるように大仰に声を出して指を指した。

 

 

「なんだと? もう回復したというのか!」

「えぇその通りです。このような状況下でお勤めごくろうさまです。もう守る必要もありません。他の現場へ手伝いに行ってください」

 

 

 と横を通り過ぎて当然のようにコンテナに手をかけたイミテーションへ、慌てて彼等は待ったをかけた。

 

 

「待て! これはお前たちの所有物か!?」

「わ、我々はそれが何なのか知る義務がある!」

 

 

 イミテーションは振り返った。彼らはびくりと身を振るわせた。

 

 

「何てことはありません。もしものための、保険の様なものです」

「もしものための……」

「保険……?」

 

 

 悪魔は微笑んだ。騎士たちの全身の毛が総毛立った。

 

 

「その通り。できればこれは使いたくなかった。まだ未完成なのもそうですが、使い方を誤れば()()()()()()()()()()()()()()()

「「なっ!?」」

 

 

 告げられた事実に騎士たちは恐れ戦く。

 

 

 硬直する騎士達から視線を外し、イミテーションは改めてコンテナへと向き直る。

 

 

((畜生……こいつを運び込ませたのは果たして正解か? それとも誤りか?))

 

 

 自問自答するが、答えなんかでやしない。

 

 

 いつだってそうだ。人生など行き当たりばったりの出たとこ勝負が当たり前。これはまさにまさしくそれを表す決定的な証拠の様なものだ。

 

 

((どうせ俺がしくじった所で暗夜も績もいる。なら精々やって見せるさ。萌からしたら試作品かつ未完成品を持ち出されて憤慨物だろーがな))

 

 

 こりゃ事が済んだら殺されるな。

 

 

 そんな事を思いながらイミテーションはコンテナに腕を突き入れて紙屑のように引き裂くと、その中へと入ってゆく。

 

 

「「……」」

 

 

 二人の騎士は目を見交わし、その様をただ黙って見守る事しかできない。

 

 

 やがて、コンテナの中から空気が流入する甲高い音が聞こえ始めた。

 

 

「なんか」

「嫌な予感が」

 

 

 二人の男は目を見交わし、予感に従ってコンテナから背を向け、脱兎のごとく走り出した。

 

 

 直後! コンテナがバラバラに吹き飛んだ! 

 

 

「「ぎゃあ!?」」

 

 

 莫大な衝撃を背に受け、騎士二人はすっ転び、激しく顔面を打った。

 

 

「なんだなんだ!?」

「見ろなんか飛んでったぞ!」

「カメラ! カメラ!」

 

 

 凄まじい爆音は避難民にも聞こえ、音の出所へ向けて多数の人影が群がった。

 

 

 そして人々は見た。凄まじく噴出する煙が尾を引いて天空へと上ってゆく光景を。煙の中に見えた、恐るべき鋼鉄の威容を。

 

 

 人々は見て、そして予感していた。

 

 

 あれは間違いなく全てを終わらせるであろう、と。

 

 

 それはあの妖狐か、はたまたこの街か。答えられる者は誰もいなかった。

 

 

 紅に染まる空。轟く化け狐の咆哮。それ等に真っ向から挑み、空を切り裂く一条の閃光(ひかり)に、人々はただ祈る。

 

 

 どうかあの怪物へ報復を。

 

 

 

 

 ■

 

 

 

 一方総力戦の最前線。そこでは戦いに変化が訪れようとしていた。

 

 

『増援! 増援を確認!』

 

 

 騎士達の通信回線にオペレーターの絶叫が轟いた。

 

 

「何!? 今この状況でか!」

 

 

 光の翼を背部より生やし、空中からひたすら光球を打ち込んでいた光の者が、もたらされた情報に愕然とした。

 

 

「ゴァアアアアアアアン!!!」

「しまっギャア──────」

 

 

 

 その隙に、グレンキュウビが無数に放った狐火が殺到し、悲鳴すら上げる間もなく消し飛んだ。空中で連瀑の花が乱れ咲いた。

 

 

「くそったれ! こんな中じゃ焔部隊が現れたってどれが誰の爆発かわかりゃしねえな!」

 

 

 チワワがうんざりしたように吐き捨てる。

 

 

「ごほっ、来てる……来てるぞ! 12時の方向より敵接近!」

 

 

 爆風に巻き込まれたポメラニアンが騎士に手を貸されて立ち上がり、呻きながら周囲の者たちへと声を嗄らさんばかりに呼び掛ける。

 

 

「もう! 焔部隊だって爬虫類部隊だってどうでもいいから早くいなくなって!」

 

 

 殺到する狐型爆弾から負傷した騎士を守りながら、シバイヌがもう沢山だとばかりに絶叫する。

 

 

『違います! 焔部隊じゃない! これは、こいつらは!』

『なんだと!? 何故こんな所に!?』

 

 

 空を駆け、街で破壊活動をしていた焔部隊を相手にしていた三本槍が先んじて増援を発見し、驚愕の叫びをあげた。

 

 

「ホホーウ!」

「うわっ!?」

 

 

 それは突如として戦場のど真ん中に現れた。虚無僧姿の闇の者が、手近のペットショップ所属の少年を切りつけたのだ。

 

 

「エレファント!」

「ギュワーン!」

 

 

 氷の虎を従えた男がエレファントと呼ばれた少年を抱き起こす傍ら、宙より飛来した深紅のワイバーンが虚無僧を捉え、バキバキと噛み殺した。

 

 

 それを皮切りに、ドスや薙刀、刀を持った虚無僧の集団が一斉に現れた。

 

 

「なっ『ぬらりひょん』の(うつろ)部隊だと!? 何でこいつらがここに!」

 

 

 光の者が驚愕して背後へと向き、グレンキュウビに虫けらのように潰し爆破されて死んだ。

 

 

「グワワーン!!!」

 

 

 グレンキュウビは大口を開けて爆破の奔流を吐いた。

 

 

「退避しろ―!」

 

 

 言われるまでも無く兆候が見えた瞬間に全員が左右に散っていた。直後に紅蓮の束が世界を割り、紅の火柱が着弾点の何もかもをも吹き飛ばした。

 

 

「グォオオオオ!!!」

 

 

 妖狐は嘲り笑い、勝ち誇ったように咆哮する。そしてその横っ面に超極低温弾が炸裂し、たたらを踏ませた。

 

 

「あいつ、調子に乗っちゃって!」

 

 

 戦車越しに凄まじく睨みつけてくるグレンキュウビに冷や汗を流しながら、レトリバーはエミリーへと後退を命じた。プードルは言われるまでも無く次弾を装填し、ありったけの付与を籠めた。その額からは滝のような汗が流れている。息は荒く、今にも倒れる寸前である。

 

 

「戦車を守れ! 死守だ! 死守するんだ!」

 

 

 ガラクタ戦車の前に陣取り、虚部隊や飛び交うキツネ型爆弾から守っていたブルドックが極度集中による鼻血を垂れ流しながら叫んだ。

 

 

「「うぉおおおおおおおおお!!!」」

 

 

 騎士達が、ペットショップたちが戦車に殺到する死徒たちと激闘を繰り広げる中、グレンキュウビは尾を束ね、無茶苦茶に振り回して味方諸共敵戦力一掃しようと身構えていた。

 

 

 が、力を解き放つ寸前、凄まじい光の奔流が脇腹に叩き込まれ、堪らず倒れ込んだ。

 

 

「間に合って……全然間に合ってねえ!」

「なんという酷い事を!」

「糞たれ! 私も加勢するぞ!」

「ハスキー戻りました~。これより戦線に復帰しまーす!」

 

 

 様々な妨害を乗り越え、遂に辿り着いた暗夜たち一行が状況を理解するや、四の五の言わずに戦場の只中へと飛び込んでいった。

 

 

「ついに来たか! おせーぞガキ!」

「すまん!」

 

 

 飛来してきた軌陸に、チワワが怒鳴りつける。

 

 

「お前らはあいつを何とかしてくれ!」

「私たちが抑えるから! 君たちはあの怪物を!」

「任せろ!」

「当然です!」

 

 

 ポメラニアンとシバイヌの脇を駆け抜け、勇者と聖女は妖狐へと立ち向かってゆく。

 

 

「おらおらおら! こん畜生め! 俺たちが相手だぜ!」

 

 

 聖剣を高々と掲げ、暗夜はグレンキュウビの前に対峙して啖呵を切った。

 

 

「ここからはもう被害など出させません!」

 

 

 莫大な光を展開し、績は本気の戦闘に備えた。

 

 

「ゴワァアアアアアアアアア!!!」

 

 

 現れた不倶戴天の宿敵に、グレンキュウビはここ一番の咆哮を上げた。

 

 

 そして天上より飛来した一条の光が、妖狐の体を撃ち抜いたのだった。

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