影武者転生異常あり!~俺は悪役令嬢の影武者なんだ…誰が何と言おうが影武者なんだ!だから脇役でいさせろや!   作:三流二式

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『chapter8 京都ネオン街炎上』⑥

 空を駆ける。天を駆ける。

 

 

 人の身では決して許されぬ領域を、人の身のまま人を超えて。駆ける、駆ける。()く駆ける。

 

 

 紅を振り切り月が照らす雲の上。鋼鉄の鎧を纏い、2.5トンの翼を羽ばたかせて、悪魔は夜空を切り裂く一陣の風となる。

 

 

 と、そこで遥彼方が突如として白と黒に分かたれた。

 

 

 顔を向ける。まるで宇宙(そら)で光る星のように白と黒の光が何度も何度も、途切れることなく閃いた。超自然の風が吹き、悪魔の青空の如き髪をたなびかせた。

 

 

((成程、何処にも姿を見せねーと思ったらそういう事か。そりゃ今の段階じゃお前以外押さえ切れんわ))

 

 

 一人合点し、前へと顔を戻す。そうすれば、紅色に染まる雲がすぐ目の前に広がる。

 

 

 悪魔は征伐の弩を向ける。500キログラムの聖なる大弩は不条理を振りまく災厄に怒り狂い、猛烈な唸り声と共に鉄槌を打ち出した。

 

 

 神の眼差しの如く鮮烈な閃光(ひかり)が走る。夜空を染め上げ、綺羅星の如く高らかに。

 

 

 周囲の雲が道を開け、征伐の矢を避けた。光は瞬く間に地表へとたどり着き、戒めの中心へ真っすぐに突き立った。

 

 

 妖狐は咆哮した。悪魔は悠々と降下を始めた。

 

 

 そして、呆然と見上げる民草の前に降り立つ。審判を告げる天使の如く。

 

 

 轟々と滾る妖狐の瞳とは対照的に、悪魔の瞳は黒と白の冷たい光に満たされていた。その心は凪いでいた。

 

 

「イ、イィ……」

 

 

 厄災はぶるぶると震え、そして火山の噴火の如く猛り吠えた。

 

 

「イィイイイイイイイイミィイイイイイイイイイテェエエエエエエエエエショォオオオオオオオオオオンンンンンンンンンン!!!」

 

 

 

 

 ■

 

 

 

 

「死ね裏切り者!」

「爆ぜて花火になるとギャッ―――」

「えぇい邪魔だ邪魔だ屑共め」

 

 

 時は遡り、悪魔が光を解き放つしばし前、エミリーたちと別れた千歳は一人焔部隊の増援を抑え込んでいた。そのすぐ後ろには負傷した子供とそれを抱く女がへたり込んでいた。

 

 

 こうなった経緯はレトリバーたちがプードルの付与が掛けられた戦車を召喚し、いざ総力戦へと参戦せんがために駆け付けようとした矢先、何処からか悲鳴が聞こえた。

 

 

 反射的に目を向けた千歳が見たのは、今まさに負傷した子供を庇う母親ごと自爆しようとしていたレギオンの群れであった。

 

 

「──────」

 

 

 気が付けば間に飛び込み、膨大な破壊を持って死徒の群れを薙いでいた。

 

 

 咄嗟だった。自分でも分からなかった。どうして捨て置かなかったのだろう。

 

 

 おかげで面倒に巻き込まれた。置いてきぼりも食らって散々である。

 

 

 こんな小さく大した価値もない命など捨て置いてしまえ。それよりも総力戦に参加しろ。そっちの方が遥かに価値のある時間の使い方である。こんな仕事(こと)は騎士団の雑兵どもの役目であろう。

 

 

 なのになぜ、私はこんな所でこうも下らぬ花火遊びに付き合っているというのか? 

 

 

(何故? 何故? 何故?)

 

 

 自問自答するが、答えなんて出て来やしない。その暇もない。間断なく降り注ぐ豪雨の様に、死徒たちは狂ったように千歳へと殺到する。裏切り者を殺す為に。より大きな悲鳴のために。たくさんの悪意を世に広げんがために。

 

 

 それを抑え込もうとする防波堤を、彼らは破壊するために幾度もぶつかった。

 

 

「鬱陶しい事この上ないな! こんなものに一時でも身を置いていたことに虫唾が走るわ! この羽虫共が!」

 

 

 怒る千歳は大きく腕を振った。巻き起こるは破壊の大竜巻。教団の黒い者も、レギオンも、洗脳兵士も一般隊員も、闇の者も一部の建物もお構いなく全てを薙ぎ払った。

 

 

 後に残るは、静寂……否。

 

 

 背後、縮こまっていた母子が戦闘の終了を本能的に悟り、震えながら立ち上がり、何か、千歳へと声を掛けた。

 

 

「民間人発見!」

 

 

 が、それは天より飛来した3人の聖戦士が降り立つことによってかき消された。

 

 

「さ、三本槍!」

 

 

 途端に母子の顔が安堵に満ちた。

 

 

「確保開始!」

「確保重点!」

「確……うん?」

 

 

 てきぱきと二人を抱え上げ、飛び立った千鶴と雉花。そして鵠は本部へと報告して同じように飛び立とうとしたが、直後に千歳の存在に気が付き、その恰好に目をしばたいた。

 

 

 怪我こそないが、服のあちこちは煤や埃にまみれており、よれよれであった。それが鵠には何よりも驚きであった。あの鳳凰院千歳がこうまで泥臭く戦っていただなんて。

 

 

「……意外だな。お前も人助けは出来るんだな」

「──────は?」

 

 

 千歳は呆けた声を出した。

 

 

『──────!?』

「うるさい今行くよ姉さん」

 

 

 通信からがなり立てられる怒声に返事を返し、千歳に向けて頷くと、鵠は今度こそ飛び立っていった。

 

 

「助けた? 私が?」

 

 

 目を見開き、千歳は自らの両手を見た。白の手袋は血や煤に塗れていた。全然気が付かなかった。どうしてだろうか? 

 

 

『ありがとう、ございました』

『お姉さんありがとう』

 

 

 刹那、脳裏に閃くのはかき消される前の言葉。千歳の耳は捉えられなかったが、その心は確かに聴いていたのだ。

 

 

「──────」

 

 

 千歳の胸に、未だかつてない感情が渦を巻いた。しかし、それが一体何を意味するのか、千歳には理解できなかった。何せ、生まれて初めての出来事だったのだから。

 

 

「なあ、この感情(おもい)は一体なんだ? 分からない、分からないんだ……」

 

 

 千歳は熱に浮かされたかのように曖昧に呟いた。

 

 

 その疑問を撃ち抜くかのように、空から光が落ちてきた。

 

 

「イィイイイイイイイイミィイイイイイイイイイテェエエエエエエエエエショォオオオオオオオオオオンンンンンンンンンン!!!」

 

 

 厄災の咆哮が聞こえる。熱波が駆ける。千歳は長い髪を激しくたなびかせながら、声の方向を見る。

 

 

「私は、一体……?」

 

 

 厄災の向こう側、きっといるであろう半身に向けて、千歳はただ、道に迷った子供のように、呆然と呟いた。

 

 

 

 

 ■

 

 

 

 

 天空(そら)より飛来したそれに、しばしのあいだ全ての者はその動きを止め、呆然となって見上げた。

 

 

 それは鋼の塊であった。明らかに無理をしていると一目で分かるほどに蒸気を吹き出すそれは、狂った妄執が生み出した狂気の産物だった。

 

 

 両腕、下半身、背面部は武器内臓の重厚な装甲で覆われ、一際目を引くのが背面部に装備されたロケットの下半分をそのまま取り付けたかのような武骨なブースターとその横に折りたたまれてある主砲である。

 

 

 突貫工事で備え付けられたブースターは未だ未完成品であることを表しているかのように剥き出しとなったジェネレーターは紅に染まり、龍の髭の如く千切れて暴れるコードが火花を散らす。

 

 

 そして主砲。こちらもブースターに負けず劣らず巨大である。

 

 

 対異能巨大生物絶命必須砲『タイタンキラー』

 

 

 そう名付けられたこの主砲は最大チャージで放てば、計算によればネオン街をまるまる吹き飛ばす事が可能であると見なされていた。そして、この怪物は主砲の軌跡を視認できる。視認できるという事は、力を付与する事も出来るという事だ。そうなった場合、果たしてその破壊力はいか程になろうか? 想像すらつかない。

 

 

 天上より撃ち放ったのは、出力を絞ったこの主砲である。出力を押さえてなおグレンキュウビにたたらを踏ませる威力。恐るべし愛の力。恐るべし田所萌。

 

 

 今は冷却のため折りたたまれているが、すぐに使用可能となるであろう。出力を絞ったのもそうであるが、みみ子が限界まで負荷軽減や冷却の付与をかけたがための短時間冷却である。これもまた並大抵の技量ではなかった。

 

 

 その他四肢の装甲に備え付けられた各種武装、これも負けじと凄まじい破壊力を秘めている。

 

 

 例えば肩部につけられた二門の極冷凍30ミリバルカン砲。例えば脚部につけられた6連装極超低温弾頭ミサイルポット。例えば腕部の冷凍レーザー砲。

 

 

 突貫工事の代物を、更に土壇場で冷凍装備の突貫工事を重ねたこの鋼鉄の魔物は酷く不安定である。

 

 

 怖ろしくマッシヴな四肢と、唯一剥き出しの上半身の華奢な肉体と相まって、その歪さとアンバランスさが浮き彫りとなった。

 

 

「あんのあほ!」

 

 

 戦車から顔を出してレトリバーが憤慨して顔を真っ赤に染めた。

 

 

「土壇場で冷凍兵器に換装してくれとかいうから何の事だと思ったら! バカじゃないの! あほじゃないの!」

「萌、すごっ落ち着いてくださいかっこいい。貴女らしくないですよ」

「ありったけ軽減を掛けさせられたのもそういう意味か~……」

 

 

 イミテーションへ向かって行きそうな勢いのレトリバー抑えながら言い聞かせる間も、エミリーの視線は釘付けであった。プードルは脱力してへたり込んだ。

 

 

 実はこの機体、カオス・スペース3の萌のユニットでその完成品を拝む事が出来た。

 

 

 対巨大異能存在撃滅最終決戦兵器『スクラップ・タイタン』

 

 

 ゲームで作られた理由としては巨大系の敵に対する切り札として製造されたが、この世界ではイミテーションというただ一個人のために作られた。

 

 

 無論、対巨大存在のための切り札という意味も間違っていないし、最終的には自分用にデザインした物も作るつもりではいた。

 

 

 しかしこの試作品は、この機体は人の身では決して扱えないが、しかし人の身でなければ使えないようにデザインされていた。つまりそれは、この男ただ一人のために設計し、作られたことの証左である。萌は重い女なのだ。

 

 

「メカだ! メカだぜ!」

「やべ写真撮っとこ!」

「今そんなことしとる場合かー!」

「男って好きねーああいうの」

「ねー」

 

 

 戦場のあちこちで声が上がる。希望が徐々に伝染し、波紋を広げていた。

 

 

「すげー! チョーカッコいい! スゲーゼ保健所!」

「……」

 

 

 目を輝かせてスクラップ・タイタンを見る暗夜へ、績は心底呆れはてていた。

 

 

「暗夜さん、績さん。始めましょうか」

 

 

 黒と白の瞳が向けられる。

 

 

「あぁ、やるぜ!」

「これで終わりにします!」

 

 

 声は聞こえなかったが、その思いは伝わった。勇者と聖女はグレンキュウビへと向き直り、構えた。

 

 

「イ、イィ……」

 

 

 厄災はぶるぶると震え、そして火山の噴火の如く猛り吠えた。

 

 

「イィイイイイイイイイミィイイイイイイイイイテェエエエエエエエエエショォオオオオオオオオオオンンンンンンンンンン!!!」

 

 

 尋常ならざる爆炎と共に、厄災は爆発を引き連れて飛び掛ってきた。

 

 

 総力戦は、今まさに最終局面を迎えようとしていた!

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